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1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとされ 公平 中立 簡素 という税制の基本原則の例外措置として設けられている 平成 22 年度税制改正大綱では 特別措置をゼロベースから見直して 整理合理化を進めることが必要とされた 見直しに際しては 適用実態等からみて国民の納得できる必要最小限の措置となっているかなどといった指針により実施することとされている また 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律 ( 平成 22 年法律第 8 号 ) により 税負担の軽減等を行う相続税関係の特別措置 ( 以下 相続税関係特別措置 という ) について 財務大臣は適用実態を調査する必要があると認めるときは その必要の限度において 税務署長に提出される調書等を利用することなどができることとされているが これまでに同法に基づき適用実態の調査を実施したことはない (2) 関係省庁及び財務省における特別措置の検証相続税関係特別措置のうち 特定の行政目的の実現のために税負担の軽減等を行うもの ( 以下 相続税軽減措置 という ) については 政策評価に関する基本方針等に基づき 新設又は内容の拡充若しくは期限の延長等の際に 積極的かつ自主的に事前評価を実施するよう努め また 事後評価の対象とするよう努めるものとされた そして 租税特別措置等に係る政策評価の実施に関するガイドラインによれば 税制上の措置を特定の政策目的を実現するための手段として位置付けている行政機関 ( 以下 関係省庁 という ) は 適用数や適用額 減収額等を把握することに努めるなどとされている このほかに 税制改正要望の際に財務省に提出される税制改正要望書において 関係省庁及び財務省により 特別措置の効果等の検証が行われることになっている 2 検査の状況 会計検査院は 1 相続税関係特別措置の適用状況はどのようになっているか 2 相続 税軽減措置に係る関係省庁及び財務省による検証状況等はどのようになっているか 3-1 -

減収見込額が多額に上っている相続税軽減措置について 指針等により検証が適切に行われているかなどに着眼して検査した (1) 相続税関係特別措置の適用状況 27 年 4 月 1 日現在で施行されている相続税関係特別措置は24 措置となっていた (2) 関係省庁及び財務省における相続税軽減措置に係る検証状況及び適用実績の把握状況上記の24 措置について 関係省庁である11 府省庁が自ら所管する政策と関係付けていることから特定の行政目的の実現のための手段とされていると認められる特別措置を特定したところ21 措置となっており これに対応する政策等の単位 ( 関係省庁が所管している特別措置に係る政策等の単位をいう ) の件数 45 件を対象として11 府省庁における政策評価の実施状況等についてみたところ 22 年度から28 年度までの間に政策評価を実施した実績がない政策等は41 件となっていた 適用始期から29 年 4 月 1 日までの期間が10 年を超えている政策等は32 件あり このうち政策評価を実施した実績がない政策等は31 件となっていた 国税庁は 前記 24 措置のうち22 措置の適用実績を把握しているが 関係省庁が当該適用実績を必ずしも容易に活用することのできない状況となっていた (3) 減収見込額が多額に上っている相続税軽減措置の適用状況及び検証状況 ( ア ) 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例 ( 小規模宅地等の特例 ) 小規模宅地等の特例は 事業用又は居住用宅地等の相続税の課税価格を軽減することで相続人の事業又は居住の継続等に配慮することを目的として創設された制度である 相続により取得した土地等の財産を相続税の申告期限 ( 相続開始日の翌日から10 か月 ) の翌日以後 3 年を経過する日までに譲渡していた2,907 人について適用状況をみると 243 人が小規模宅地等の特例を適用していた そして 当該 243 人が譲渡した土地等 273 件の申告期限の翌日から譲渡までの期間を確認したところ 相続人が相続税の申告期限の翌日から1 年以内に譲渡していたものが163 件 ( うち貸付事業用宅地等は110 件 ) 1か月以内に譲渡していたものも22 件 ( 同 13 件 ) 見受けられた 関係省庁は28 年度に事後評価を実施していたが このように 事業又は居住の継続への配慮という政策目的に沿ったものとなっていないと思料される状況となっていた ( イ ) 農地等についての相続税の納税猶予及び免除等 ( 農地等の相続税の納税猶予 ) - 2 -

相続税の納税猶予を適用している場合の特定貸付特例及び特定貸付けを行った農地又は採草放牧地についての相続税の課税の特例 ( 特定貸付特例 ) 農地等の相続税の納税猶予は 相続により承継された農地等が農地等として確実に利用されることを確保するために創設された制度である 特定貸付特例は 特定貸付けを行った場合には 農地等の相続税の納税猶予の適用を継続して受けることができる制度である 農業相続人 683 人が相続により取得した特例農地等の種類別の適用状況をみたところ 市街化区域外の農地等に対する適用面積が過半を占めていたが 納税猶予税額は 市街化区域内の農地等に係るものが全体の96.3% となっていた そして 所得税等の確定申告書の提出のあった農業相続人 589 人のうち 農業所得が赤字で不動産所得等と損益通算を行っている農業相続人が299 人おり 農業所得以外の所得を経営の基盤として農業経営を継続している農業相続人が相当数を占めると思料された また 市街化区域外の農地等や都市営農農地等は終身にわたり農業経営を継続した場合等に それぞれ猶予されている相続税が免除されることとなっている一方で 三大都市圏特定市以外の市街化区域内にある農地等のみを相続した農業相続人 195 人については 農業経営を20 年継続すれば猶予されていた相続税が免除されることとなっているが 平成 24 年簡易生命表から平均余命を機械的に試算したところ 20 年 10か月を上回る者が138 人 (70.7%) となっていた これらの者は 相続税を納付することなく特例農地等の譲渡等が可能となることが見込まれる状況となっていた 関係省庁は 税制改正要望の際に効果等の検証を行ったとしていたが このように 検証の際に留意すべき点も見受けられた また 制度全体についての検証は行われていなかった ( ウ ) 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除 ( 事業承継税制 ) 事業承継税制は 中小企業における経営の承継に伴い 当該中小企業の株式等に係る贈与税及び相続税の納付が見込まれることなどにより事業活動の継続に支障が生じていると経済産業大臣が認定する企業の株式等を有する後継者に対して贈与税及び相続税の納税を猶予等し 中小企業の事業承継を円滑化することにより 中小企業の事業活動の継続を実現し 雇用の確保や地域経済の活力維持につなげることなどを目的とする制度である - 3 -

贈与承継会社 153 件及び承継会社 237 件について適用状況をみたところ 事業承継税制の対象となる中小企業者は資本金の額が一定の金額以下であることなどが要件となっているが 資本金の額に対して多額の資本剰余金の額を計上している会社等も見受けられ 最大で資本金の約 885 倍の資本剰余金が計上されていた また 事業実態がなく単に資産を管理している会社を対象外とするなどのために 資産保有型会社等に該当しないことが要件となっているが 66 件の会社については 従業員の数が5 人以上であることなどの要件を満たすことから 事業実態がある資産保有型会社として 事業実態に係る資産のみではなく 全ての資産の価額を対象として納税猶予税額を計算し 事業承継税制が適用されていた 関係省庁は 23 年度に事後評価 25 年度及び29 年度税制改正要望の際に事前評価を実施するなどしていたが このように 事業承継税制の政策目的に照らして 必ずしも必要最小限のものとなっていないと考えられる状況が見受けられた 3 所見 特別措置は 公平 中立 簡素 という税制の基本原則の例外措置として設けられているものであり その効果を不断に検証して真に必要なものに限定すべきであるとされている 相続税関係特別措置について 政策評価や適用実態の調査の実施が義務付けられておらず また 適用実績の把握が困難な場合もあるものの 相続税軽減措置に係る減収見込額が多額に上っていることを踏まえて 前記のような小規模宅地等の特例 農地等の相続税の納税猶予等及び事業承継税制の検証の状況を念頭に置きつつ 関係省庁において 相続税軽減措置について 引き続きその検証等の基礎となる適用実績の把握等に努めるなどして 指針等により政策評価や税制改正要望の際の検証を行い 政策の企画立案作業に活用するとともに 相続税軽減措置の透明性を向上させ その適用に当たって国民に対する説明責任を果たしていくことが望まれる また 財務省において 相続税軽減措置について 今後とも十分に検証していくことが望まれる 会計検査院としては 今後とも相続税関係特別措置の適用状況並びに関係省庁及び財務省による検証状況について 引き続き注視していくこととする - 4 -