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TheShoulderJoint,2005;Vol.29,No.3: はじめに a 転位骨片を伴う関節窩骨折に対しては直視下に整復, 内固定を施行した報告が多いが, 鏡視下での整復固定の報告は比較的稀である. 今回我々は転位骨片を伴う関節窩骨折に腋窩神経麻痺を合併した1 例に対し,

骨・関節を“診る”サブノート

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46 図L 受傷時の肩関節の外観 肩甲上腕関節部に陥凹がみられる 矢印 a b C 図2 受傷時の単純X線像 a 正面像 肩甲上腕関節裂隙の開大 vacant glenoid sign 上腕骨頭の内旋 light bulb 肩甲骨 前縁と上腕骨頭距離の開大 rim sign がみられた b 軸写像

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膝関節鏡

肩関節第35巻第3号

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5 月 22 日 2 手関節の疾患と外傷 GIO: 手関節の疾患と外傷について学ぶ SBO: 1. 手関節の診察法を説明できる 手関節の機能解剖を説明できる 前腕遠位部骨折について説明できる 4. 手根管症候群について説明できる 5 月 29 日 2 肘関節の疾患と外傷 GIO: 肘関節の構成と外側

Ⅰ はじめに 柔道整復師が取り扱う骨折や脱臼などの外傷の治療の基本原則は非観血的療法である その中で通常は 観血的療法の適応となる外傷でも非観血的療法を行なう場合がある 今回は 観血的療法を選択すること が多い中手指節関節 以下 MCP関節 脱臼を伴った示指基節骨骨折に対し非観血的療法を行った症例を

遷延癒合した鎖骨骨折の保存的治療 田村哲也 1), 荻野英紀 2) 2), 長嶋竜太 1) 了德寺大学 健康科学部整復医療 トレーナー学科 2) 医療法人社団了德寺会 高洲整形外科 要旨鎖骨骨折は臨床上多く経験する骨折の一つであり, 保存的治療が原則とされている. 今回は遷延癒合した鎖骨骨折に対し保

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手指中節骨頚部骨折に対する治療経験 桐林俊彰 1), 下小野田一騎 1,2) 3), 大澤裕行 1) 了德寺大学 附属船堀整形外科 了德寺大学 健康科学部医学教育センター 2) 3) 了德寺大学 健康科学部整復医療 トレーナー学科 要旨今回, 我々は初回整復後に再転位を生じた右小指中節骨頚部骨折に対

CPP approach Conjoint tendon Preserving Posterior Surgical Technique

運動器検診マニュアル(表紙~本文)

2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

6 腰椎用エクササイズパッケージ a. スポーツ選手の筋々膜性腰痛症 ワイパー運動 ワイパー運動 では 股関節の内外旋を繰り返すことにより 大腿骨頭の前後方向への可動範囲を拡大します 1. 基本姿勢から両下肢を伸展します 2. 踵を支店に 両股関節の内旋 外旋を繰り返します 3. 大腿骨頭の前後の移

はじめに 転位の大きな大腿骨頚部骨折は, 高エネルギー外傷によっておこることや, 合併症の多い人におこることが多く, 治療も難しい

札幌鉄道病院 地域医療連携室だより           (1)

10035 I-O1-6 一般 1 体外衝撃波 2 月 8 日 ( 金 ) 09:00 ~ 09:49 第 2 会場 I-M1-7 主題 1 基礎 (fresh cadaver を用いた肘関節の教育と研究 ) 2 月 8 日 ( 金 ) 9:00 ~ 10:12 第 1 会場 10037

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リハビリテーション歩行訓練 片麻痺で歩行困難となった場合 麻痺側の足にしっかりと体重をかけて 適切な刺激を外から与えることで麻痺の回復を促進させていく必要があります 麻痺が重度の場合は体重をかけようとしても膝折れしてしまうため そのままでは適切な荷重訓練ができませんが 膝と足首を固定する長下肢装具を

Key words: 肩腱板損傷 / 肩関節周囲炎 / リハビリテーション / 疼痛誘発テスト / 超音波検査要旨Jpn J Rehabil Med 2017;54: 特集 運動器リハビリテーションに必須の評価法と活用法 û 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 The

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リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

復習問題

m A, m w T w m m W w m m w K w m m Ⅰはじめに 中手指節関節 以下 MP関節屈曲位でギプス固定を行い その直後から固定下で積極的に手指遠位指 節間関節 以下 DI P関節 近位指節間関節 以下 PI P関節の自動屈伸運動を行う早期運動療法 以下 ナックルキャストは

2012 年度リハビリテーション科勉強会 4/5 ACL 術後 症例検討 高田 5/10 肩関節前方脱臼 症例検討 梅本 5/17 右鼠径部痛症候群 右足関節不安定症 左変形性膝関節症 症例検討 北田 月田 新井 6/7 第 47 回日本理学療法学術大会 運動器シンポジウム投球動作からみ肩関節機能

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関節リウマチ関節症関節炎 ( 肘機能スコア参考 参照 ) カルテNo. I. 疼痛 (3 ) 患者名 : 男女 歳 疾患名 ( 右左 ) 3 25 合併症 : 軽度 2 術 名 : 中等度 高度 手術年月日 年 月 日 利き手 : 右左 II. 機能 (2 ) [A]+[B] 日常作に

(4) 最小侵襲の手術手技である関節鏡視下手術の技術を活かし 加齢に伴う変性疾患に も対応 前述したようにスポーツ整形外科のスタッフは 日頃より関節鏡手技のトレーニングを積み重ねおります その為 スポーツ外傷 障害以外でも鏡視下手術の適応になる疾患 ( 加齢変性に伴う膝の半月板損傷や肩の腱板断裂など

Surgical Treatment of Fracture-dislocation of the Ankle by Tomoyuki NODA, Kinzo YASUDA, Hiroshi NAGANO, Taketo KUROZUMI, Shuji HAZAKI and Kyuen OTANI

保発第 号

日本職業・災害医学会会誌第54巻第6号

の内外幅は考慮されず 側面像での高さのみで分類されているため正確な評価ができない O Driscoll は CT 画像を用いて骨片の解剖学的な位置に基づいた新しい鉤状突起骨折の分類を提案した この中で鉤状突起骨折は 先端骨折 前内側関節骨折 基部骨折 の 3 型に分類され 先端骨折はさらに 2mm

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特集 障害別アプローチの理論 関西理学 14: 17 25, 2014 拘縮肩へのアプローチに対する理論的背景 福島秀晃三浦雄一郎 An Evidence-based Approach to Contracture of the Shoulder Hideaki FUKUSHIMA, RPT, Yu

ピッチング ( 投球 ) のバイオメカニクス ピッチングに関連する傷害は オーバーユースに起因していると考えられています 1 オーバーユースに伴う筋肉疲労により 運動で発生したエネルギー ( 負荷 ) を吸収する能力が低下します 2 つまり本来吸収されるべきエネルギーは 関節や他の軟部組織 ( 筋肉

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Robinson 分類 ( 鎖骨遠位端の Neer 分類も含む ) 鎖骨近位端骨折の治療 通常保存治療で成績がよい しかし 2004 Robinson 8) の報告では受傷後 24 週の時点での偽関節率は 8,3% であった 転位が高度のもの (type1b) では 14.3% 転位のないもの (t

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Ⅰはじめに 中節骨基部掌側骨折掌側板付着部裂離骨折 はPI P関節の過伸展によって生じる外傷で 日常でしばし ばみられるPI P関節背側脱臼に合併して発生することや単なる捻挫と判断されるなど 見逃されること が多く 骨癒合不全による掌側不安定性 運動痛および関節拘縮を起こすことがあるこの骨折に対する

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原著論文 肩関節屈曲による交互滑車運動器使用時における肩甲骨の動きからみた肩甲上腕リズムの検討 寒川貴雄 (RPT) 1) 成末友祐 (RPT) 2) 新枝誠人 (RPT) 1) 原田貴志 (RPT) 1) 澤近知代 (RPT) 3) Key Word 交互滑車運動器 肩関節屈曲 肩甲骨の動き 肩甲

教育実践研究第3巻第1号

選考会実施種目 強化指定標準記録 ( 女子 / 肢体不自由 視覚障がい ) 選考会実施種目 ( 選考会参加標準記録あり ) トラック 100m 200m 400m 800m 1500m T T T T33/34 24

358 理学療法科学第 23 巻 3 号 I. はじめに今回は, 特にスポーツ外傷 障害の多い肩関節と膝関節について, 各疾患の診断を行ううえで重要な整形外科徒手検査法と徴候を中心に述べるので, 疾患については特に説明を加えないので, 成書を参照すること 1. 非外傷性肩関節不安定症 1 sulcu

明海大学歯学雑誌 37‐2/1.秦泉寺

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Vol 夏号 最先端の腹腔鏡下手術を本格導入 東海中央病院では 平成25年1月から 胃癌 大腸癌に対する腹腔鏡下手術を本格導入しており 術後の合併症もなく 早期の退院が可能となっています 4月からは 内視鏡外科技術認定資格を有する 日比健志消化器外科部長が赴任し 通常の腹腔 鏡下手術に

理学療法科学 25(4): ,2010 原著 凍結肩に対する肩関節の臨床解剖学に基づく運動療法の試み A Clinical Anatomical Physical Therapy Approach for Frozen Shoulder Joint Patients 大槻桂右 1,2)

本研究の目的は, 方形回内筋の浅頭と深頭の形態と両頭への前骨間神経の神経支配のパターンを明らかにすることである < 対象と方法 > 本研究には東京医科歯科大学解剖実習体 26 体 46 側 ( 男性 7 名, 女性 19 名, 平均年齢 76.7 歳 ) を使用した 観察には実体顕微鏡を用いた 方形


健康た?よりNo106_健康た?より

明海大学歯学雑誌 43‐1☆/目次(43‐1)

県医会報0608

症例報告 関西理学 11: , 2011 肩関節屈曲動作時に painful arc sign を認める 棘上筋不全断裂の一症例 棘下筋の機能に着目して 江藤寿明 1) 福島秀晃 1) 三浦雄一郎 1) 森原徹 2) A Case of an Incomplete Supraspina

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596 Dementia Japan 29 : , 2015 原著 1,2 1,2 1,3 1,4 1,4 1,5 1,5 1,6 1,7 1,8 要 旨 Activity of Initial - phase Intensive Support Team for Dementia o

原因は不明ですが 女性に多く 手首の骨折後や重労働を行う人に多く見られます 治療は安静や飲み薬で経過を見ますが しびれが良くならない場合 当科では 小さな傷で神 経の圧迫をとる手術を行っており 傷は 3 ヶ月ぐらい経過するとほとんど目立ちません 手術 時間は約 30 分程度ですが 抜糸するのに約 1

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日本職業・災害医学会会誌第51巻第5号

結果 上記の運動の概念を得た 2010 年 10 月以降に治療を行った PIP 背側脱臼損傷 19 指のうち 6 指に ORIF を施行した 結果 PIP 関節伸展平均 -2 度 屈曲平均 96 度であった 考察 掌側板と側方支持機構や伸筋腱は吊り輪状に連結しており リンクした運動をしている PIP

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NAGOYA EKISAIKAI HOSPITAL 名古屋掖済会病院

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日本肘関節学会雑誌 22(2)2015 肘関節脱臼骨折難渋例に対して人工橈骨頭置換術を施行した 2 例 奥田土肥 1 真義 1 義浩 2 1 伊東勝也 1 塩田悠介 1 医真会八尾総合病院整形外科奈良県立医科大学整形外科教室 1 藤谷良太郎 2 田中康仁 Radial Head Prosthetic

2012 年 2 月 22 日放送 人工関節感染の治療 近畿大学整形外科講師西坂文章はじめに感染人工関節の治療について解説していきます 人工関節置換術は整形外科領域の治療に於いて 近年めざましい発展を遂げ 普及している分野です 症例数も年々増加の傾向にあります しかし 合併症である術後感染が出現すれ

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

症例報告 関西理学 16: , 2016 肘関節屈曲を伴う肩関節屈曲運動が有効であった右肩腱板広範囲断裂の一症例 鈴木宏宜 長﨑進 1) 1) 三浦雄一郎 上村拓矢 1) 1) 福島秀晃 森原徹 2) 1) Approach for facilitation of middle tra

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[ 骨損傷の分類 (1) 外傷性骨折 正常な骨に外力が作用して骨組織の連続性が完全にまたは部分的に離断されたもの (2) 疲労性骨折 比較的軽度な負荷が繰り返し加わって発生下肢の疲労骨折は 10 代に好発 (16 歳にピークがある ) 中足骨 脛骨 腓骨 肋骨などに発生 (3) 病的骨折 骨に基礎疾

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図 1 緩和ケアチーム情報共有データベースの患者情報画面 1 患者氏名, 生年月日, 性別, 緩和ケアチームへの依頼内容について,2 入退院記録, 3カンファレンス ラウンド実施一覧,4 問題点のリスト,5 介入内容の記録. 図 2 緩和ケアチームカンファレンス ラウンドによる患者評価入力画面 (

Transcription:

症例報告 上腕骨人工骨頭置換術後の理学療法プログラムの変更を余儀なくされた一症例 長岡中央総合病院 リハビリテーション科 ; 理学療法士 1) 整形外科 ; 整形外科医 2) たむら田村 とものりいのつめ友典 1) 猪爪 かずやはせがわじゅん一也 1) 長谷川淳一 いち 2) 背景 : 上腕骨人工骨頭置換術は除痛効果に優れているものの その成績向上のポイントは手術までの期間の短縮 適切な手術手技 早期機能訓練にあるとされている 理学療法においては 大結節と小結節および骨幹部との骨癒合を妨げないように注意しながら 関節可動域の獲得を目指し 早期退院 早期社会復帰が望まれている 今回 上腕骨人工骨頭置換術後の理学療法において 既存のプログラムを変更 実施し 治療成績に影響を及ぼした原因について考察した 症例内容 : 骨頭が粉砕した右上腕骨 4-part 骨折により人工骨頭置換術を施行した症例を担当した 後の理学療法は 当院で参考にしているプログラムに沿って行われる予定であったが 大結節と小結節接合部の離開 ( 転位 ) の防止や下方亜脱臼による腋窩神経麻痺の疑いにより 早期の回旋運動や振り子運動の開始時期の延期や外転枕固定への変更を余儀なくされた 早期から行う機能訓練の開始の遅れと外転枕固定が 結果的に肩関節の可動域制限を招いた 術後 3 ヶ月では挙上 外旋における関節可動域制限が残存したものの 比較的挙上動作が少ない運動から指導できたことにより ADL 上ではかろうじて洗髪が可能となった また 調理や掃除などに対しても 右上肢を使用できるようになり主婦業や在宅生活が自立した 結論 : 上腕骨人工骨頭置換術の理学療法は 骨転位の程度や合併症の有無によって運動制限や開始時期が異なるため 理学療法実施にあたっては 主治医との連絡を密にとり 患者の状態変化や運動内容の確認など その治療方針を十分に理解することが重要である キーワード : 上腕骨近位端骨折 人工骨頭置換術 理学療法プログラム 背景人工肩関節置換術の歴史は 1984 年 Pean の試作にはじまり かなり経過は長いものの 膝や股関節と比べ肩関節の人工関節置換術は非常に少ない 上腕骨人工骨頭置換術を含めた人工肩関節置換術は 全国で 1 年に 1000 例程度と欧米に比較しても非常に少ないとされている しかし 近年 機種の進歩により 手術成績が向上し 症例数も今後増加することが予想されている (1) 上腕骨近位端骨折は 高齢者における四肢骨折のうち 大腿骨頸部骨折 橈骨遠位端骨折についで高い頻度で発生する 本骨折には Neer の 4 分割分類法が一般的に使用されており 非転位型骨折 minimal displacement fracture と転位型骨折 displaced fracture に分類され さらに後者を骨片の数により 2-part 3-part 4-part 骨折に分類したものである ( 表 1) 手術適応としては 転位のある 2-part から観血的療法が選択され 転位の大きい 3-part や 4-part 骨折に対しては人工骨頭置換術が考慮される また 骨頭が陥没した骨折や外傷後骨頭壊死などにも適応がある 人工骨頭置換術は除痛効果に優れているものの その成績向上のポイントは手術までの期間の短縮 適切な手術手技 早期機能訓練にあるとされている 理学療法においては 大結節と小結節および骨幹部の接合部に離開 ( 転位 ) を生じさせないように注意しながら関節可動域の獲得を目指し 早期退院 早期社会復帰が望まれている (2-5) このような現状を示す中 上腕骨近位端骨折により人工骨頭置換術を施行した症例を担当した 術後の理学療法において 既存のプログラムを変更 実施し 治療成績に影響を及ぼした原因について考察したので報告する 症例内容 66 歳 女性 主婦で右利き 自宅の敷居につまずき転倒し受傷 近医を受診され X 線写真と CT で骨頭が粉砕した右上腕骨 4-part 骨折が認められ 他院で三角巾固定後 手術適応のため当院紹介となり

受傷 2 週間後に人工骨頭置換術を施行した ( 写真 1-3) 手術所見より 上腕ニ頭筋長頭腱の断裂が確認された 人工骨頭の挿入は転位していない大結節側の骨折を剥離せず 小結節を分離 剥離し 小結節側よりステムを挿入し 固定に骨セメントが使用された 大結節と小結節の接合には 高強度の縫合糸が使用され 各結節と骨幹近位部を垂直方向に 両結節を横断方向に締結し 大小結節の観血的整復が図られ 断裂した長頭腱に対しても縫合糸を用い腱固定が行われた 当院での術後の理学療法プログラムは 都立大久保病院整形外科部長の三笠元彦先生が提唱している人工骨頭の後療法を参考に行っている 今回の実施したプログラムとの比較において 本症例では肩の介助外旋運動の開始時期が約 3 週間 振り子運動の開始時期と固定除去の時期および肘の他動伸展運動が約 2 週間遅くなった ( 表 2) その理由として 1 肩の介助外旋運動については 早期の回旋運動によって 大結節と小結節の接合部を離開させる可能性があるため 骨癒合が得られてから開始する必要があった 2 振り子運動については術後 2 週目のレントゲンより骨頭の位置が下がっていたため 腋窩神経麻痺の疑いがかかり 三角筋収縮不全によって肩関節下方脱臼や関節組織の伸張痛を起こす可能性があった ( 写真 4) 3 固定については 三角筋の緊張を緩和させ 関節組織の痛みの軽減を目的に 外転枕固定に変更され 脱臼予防の対応として固定期間が長期化した 腋窩神経麻痺の有無に関しては 骨頭位置の改善がみられ 三角筋の収縮と知覚もあり 麻痺の合併はなかったと判断されたため 術後 4 週目に振り子運動と肩の自動介助運動が開始となり その後外転枕固定も外れた ( 写真 5) 4 肘の他動伸展運動については 腱固定の場合 早期の他動運動は腱に過剰なストレスが加わり 再断裂の危険性があった 以上の理由により前述のプログラムで施行した結果 機能面 ADL 面の変化について術後 1 ヶ月では 外転枕固定中で ADL 上はほとんど非術側使用の状態であった 術後 2 ヶ月では ADL 上は補助手レベルとなり 右手で箸の使用など可能となったが洗髪は困難であった 術後 3 ヶ月では 肩関節の自動屈曲 75 外転 50 下垂位外旋 10 で MMT では屈曲 外転 3 レベル 肘関節はほぼ正常可動域で ADL 上ではかろうじて洗髪が可能となり 調理や掃除などに対しても右上肢を使用できるようになった ( 表 3) 文献によれば 最終的な機能目標は 自動可動域が屈曲 90 以上 下垂位外旋が 20 以上 筋力は MMT で 4 以上と報告されている 本症例を比較すると 少しずつ改善傾向ではあるが 目標可動域までは満たしていない状態となった 考察今回担当した症例は 介助外旋運動の開始の変更や骨頭位置が下がっていたことによる腋窩神経麻痺の疑いによって 振り子運動の開始や外転枕固定の変更など 既存のプログラムをベースに変更が加えられ 症例のリスクに応じたプログラムとなった そのため 骨癒合を妨げることなく順調に得ることができた また 2 週目のレントゲンより骨頭の下方変位がみられた肩関節は 術後 4 週目で骨頭の位置が上方に戻ったが 三角筋の筋力や腱板機能の改善により骨頭が関節窩に引っ張られ 良好なアライメントになったと考える 治療経過においては 骨癒合やアライメントのトラブルを防げたことにより 安全に機能面 ADL 面に向けてアプローチすることができた 本症例の治療成績に影響を及ぼした原因として 1 関節可動域制限については 長期固定により 前方関節包など関節組織の短縮を引き起こしたことで肩甲上腕関節での強い拘縮を招いたと考える 可動域獲得において三笠は 長期の固定になるほど烏甲上腕靭帯が腱板疎部と癒着を起こし 外転と外旋の良好な可動域の獲得が困難としており 可能な限り早期の可動域訓練が重要であると報告している (4) また 外転枕固定により肩関節内旋位を持続したことによって 外旋制限を招いたと考える 2 筋力低下については 固定期間の延長により 肩甲骨周囲筋や上肢の廃用性筋力低下を招いたと考える 3 ADL については 肩甲上腕関節の拘縮により洗濯物干しや結髪 結帯動作など 上肢の挙上 回旋運動が制限されているが 食事動作など比較的挙上動作が少ない運動から指導できたことによ

り 身辺動作や家事作業もこなせる様になった 今後は いかに拘縮を予防 改善できるかがポイントとなり ホームプログラムの徹底と 外来での継続的な機能訓練が必要な症例であると考えられる 結語上腕骨人工骨頭置換術は年齢 骨折型や骨粗鬆の程度を考慮して選択される 手術はステムの位置決めと 大結節と小結節および骨幹部との締結が重要である 骨粗鬆症を伴うことが多く 最近では 骨片や腱板の状態に応じて非吸収糸を用いて腱板を含めた 大 小結節と骨幹部を縫合 再建される しかし 十分な固定性を得ることがしばしば困難とされており 症例に応じた術後療法が必要である (6) 本症例においても 骨接合部や合併症のリスクに応じて運動開始時期が異なったため 理学療法実施にあたっては 主治医との連絡を密にとり 患者の状態変化や運動内容の確認など その治療方針を十分に理解することが重要であった 文献 1. 磯野波平 磯野船 磯野カツオ 磯野ワカメ フグタマスオ フグタサザエ他. 過食のために部屋から出れなくなった超肥満の 1 症例. サザエさん学研究誌 1999;55:1056-9. 2. 磯野波平 磯野船. 過食. 5 版. 東京 : 医学出版 ; 1999.1056-9 頁. 3. 磯野波平 磯野フネ他. 過食. 長谷川町子 長谷川村子編. 代謝障害. 5 版. 東京 : 海山出版, 1999.1056-9 頁. 4. 磯野波平 磯野船 磯野カツオ 磯野ワカメ フグタマスオ フグタサザエ他. 過食のために部屋から出れなくなった超肥満の 1 症例 ( 抄 ). サザエさん学会 ( 第 48 回総会抄録集 )1999; 55:1056-9. 5. 磯野波平 磯野船 磯野カツオ 磯野ワカメ フグタマスオ フグタサザエ他. 過食のために部屋から出れなくなった超肥満の 1 症例. 第 8 回サザエさん国際シンポジウム議事録 ;1999 年 6 月 17 18 日 ; 神戸市 東京 : サザエさん学会 ;1999.1056-9 頁. 6. 磯野波平 磯野船 磯野カツオ 磯野ワカメ フグタマスオ フグタサザエ他. 過食のために部屋から出れなくなった超肥満の 1 症例. サザエさん学会 [ 定期オンライン ] 1999 年 1 月 -3 月版 [ 引用アクセス 1999 年 6 月 5 日 ];1(1):[24 画面 ]. 入手 :URL: http://www.abc.def.htm. 英文抄録 Case report A case of humeral head replacement forced to a change of the postoperative physiotherapeutic program Nagaoka Central General Hospital, Department of rehabilitation; Physical therapist 1), Orthopedics 2) Tomonori Tamura 1), Kazuya Inotsume 1), Junnichi Hasegawa 2) Background: The postoperative improvement after humeral head replacement depended on a short preoperative waiting time, appropriated operative technique, and early postoperative physiotherapy, which not disturbing the process of bone union for early discharge. We discussed the cause of changing our existing program in postoperative physiotherapy. Case report: 66-year-old female of humeral head replacement because of 4-part bone fracture of humeral head was reviewed carefully. Her postoperative physiotherapy was going to be performed along our usual program, but was forced to postpone both the start time of early rotation exercise and pendulum exercise and the extorsion fixation with pillow because of a

prevention of both a junctional dissociaton (transposition) and axillary nerve paralysis by downward subluxation. The delayed physiotherapy and fixation caused a excursion restriction of her shoulder joint. On the third postoperative month she managed to wash her hair, cook, and clean on activities of daily living (ADL). Conclusion: Physiotherapeutic program after artificial replacement required a communication with the chief physician because an exercise restriction and an initiation time depended on a degree of bone transposition and a complication. It was important that a conditional change of a patient or a confirmation of exercise contents should be adequately included into a treatment policy. Key words: proximal fracture of humerus, humeral head replacement, physiotherapeutic program 表 1 Neer の分類

写真 1 術前の X 線写真 写真 2 術前の CT 画像 写真 3 術後の X 線写真 表 2 今回の実施したプログラム ( 左 ) と参考にしているプログラム ( 右 ) の比較 1W 2W 3W 4W 今回の実施プログラム 翌日三角巾 チェストバンド固定手指 肘自動運動アイシング ( 病棟にて ) 8 日肩他動挙上運動 10 日外転枕固定に変更 16 日肩他動外転運動 19 日肘他動伸展運動 22 日振り子運動肩自動介助挙上 外転運動 23 日肩介助外旋運動 26 日肩自動運動外転枕固定除去 当院で参考にしているプログラム 翌日 stockinette velpeau 固定 5 日三角巾固定 6 日肩介助内 外旋運動 8 日振り子運動 10 日プーリーでの挙上運動 14 日三角巾固定除去 21 日肩自動介助挙上運動 24 日肩自動運動 5W 37 日筋力増強訓練 35 日筋力増強訓練 ( 一部簡略 )

写真 4 術後 2 週目の骨頭の位置 写真 5 術後 4 週目の骨頭の位置 表 3 経過 肩関節 術後 1ヶ月 術後 2ヶ月 術後 3ヶ月 ROM( 他動 屈曲 90 100 105 外転 50 55 60 下垂位外旋 5 10 15 ( 自動 ) 屈曲 50 75 外転 30 50 下垂位外旋 5 10 MMT 屈曲 1 2+ 3 外転 1 2 3 下垂外旋 1 2-2+ 肘関節 ROM( 自動 屈曲 130 135 140 伸展 30 20 5 ( 他動 ) 屈曲 135 140 145 伸展 20 10 0 ADL 非術側使用 洗髪困難 洗髪かろうじて可能 2008/12/01 受付 (2008-23)