ViewPoint 営 法人の自己株式の取得等に係る財務 税務上の影響 米澤潤平部東京室 昨今 ROE など資本効率の観点から 上場企業を中心に増加している自己株式の取引が新聞などで報道されることが多くなっていますが 中堅 中小企業においても 経営上の必要性から自己株式を取得する場面は十分に想定されます 今回は 株式の発行法人における自己株式の取得 処分 消却時の会計 税務処理について整理します また 平成 27 年度税制改正により 自己株式を取得した企業では 事業税資本割等の税負担が大きくなる可能性があることから その影響について解説します 1. 自己株式の取得等に関する重要論点 [1] 経営上の意義 昨今 上場企業を中心に これまで以上に株主還元や資本効率を重視した経営が求められるようになり 株主への利益還元やROE(Return On Equity( 注 )) を高めるための手法の一つとして 自己株式を取得する企業が増加しています 一方 中堅 中小企業においても資本効率を意識した経営を行っていくことは重要ですが 加えて下表のような経営上の必要性から 自己株式の取得が行われることがあります 取得理由 株主構成の是正 事業承継対策 備考 自己株式には議決権がないため 自己株式の取得により既存の株主構成の是正が図れる 事業承継にあたり後継者に株式の相続に伴う相続税が課された際 企業が後継者から自己株式を買い取ることで納税資金を確保できる 注 : 自己資本利益率とも呼ばれ 投資家 ( 株主 ) の立場から見た総合的な収益性を表し 企業が自己資本をどれだけ効率的に活用して利益を上げているか ( 資本効率 ) を図る指標となる ROE は 企業の当期純利益を自己資本 ( 純資産 ) で除して求める 1
[2] 財務上の影響 自己株式を 取得 した場合には 通常の有価証券の Ⅰ. 株主資本 ように資産に計上することはせず 株主との間の資本取 1. 資本金 引と考え その取得原価をもって純資産の部の株主資本 2. 資本剰余金 (1) 資本準備金 から控除します そのため 貸借対照表上の表示は金額 (2) その他資本剰余金 の前に を付します( 右図 ) 3. 利益剰余金 取得した自己株式は その後は自社でそのまま保有し (1) 利益準備金 (2) その他利益剰余金 ておくほか 自己株式を資金調達のため売却するなどの 4. 自己株式 処分 や 自己株式の効力を消滅させる 消却 があ ります 自己株式の取得は 自己資本の減少要因となるため 結果として前項 [1] で述べたように RO Eを高めることとなります ROE= 当期純利益自己資本 (%) 自己株式の取得により 分母の自己資本 ( 純資産 ) が圧縮され 結果として ROE が高まる また 注記事項である1 株当たり当期純利益の計算においても ROEと同様に自己株式は分母の株式数から除かれるため 自己株式の取得は1 株当たり当期純利益の増加につながります なお 自己株式の取得は 株主に対して資産を受け渡すという点で配当と同様の性格を有するため 一定の計算式に基づき算出された 分配可能額 の範囲内でのみ取得することができます また 自己株式を特定の株主との相対取引により取得する場合は 株主総会の特別決議が必要となります [3] 税務 ( ) 上の取扱い 企業が自己株式を取得する場合に これに応じて企業から現金等の支払いを受けた株主について では 当該企業に対する投資資金の回収をしたと同時に利益の分配 ( 配当 ) を受けたものと考えます ( 右図 ) 具体的には 企業 (A 社 ) の株主 (A 社株主 ) が自己株式の売却対価として受け取った現金等の合計額のうち 当該企業の資本金等の額に対応する部分を超える部分の金額 ( 利益積立金を財源として支払われたと考えられる部分の金額 ) については 株主は配当を受け取ったものとみなす という規定が設けられています これを一般に みなし配当 と呼び 企業が自己株式を取得する際 ( 自己株式の取得が証券取引所における購入による場合等を除く ) みなし配当が発生する場合は 自己株式を取得した企業は株主に対しみなし配当の額を通知する義務を負い また このみなし配当に係る源泉所得税の徴収を行わなければなりません 2
2. 会計 税務処理の事例解説 ここでは 自己株式の 取得 処分 消却 時の株式発行法人の会計 税務処理について 順を追って説明します [1] 事例の前提 A 社は設立時に 1 株 10,000 円の株式を 50,000 株発行し 払込資本 500 百万円で設立 ( 内訳は 百万円 百万円 ) された法人であり 現在まで資本の部に関する変動はない A 社の会計上の資本金 資本剰余金の状況と 上の資本金等の額 ( では 資本金と資本準備金を区別せず資本金等の額として取り扱う ) の状況は右図のとおり なお A 社は非上場企業である 単位 : 百万円 ( 以下同 ) 会計 資本金等の額 500 [2] 自己株式の取得 その後 A 社はA 社株主から自己株式 (A 社株式 ) を1 株 15,000 円で 10,000 株 ( 総額 150 百万円 ) 取得した なお みなし配当に係る源泉所得税率は便宜上 20% とする 自己株式 150( 注 1) / 現金預金 140 預り金 10( 注 2) 注 1: 会計上は 取得原価をもって自己株式の名称で株主資本の控除項目とする 注 2: 預り金 は源泉所得税によるもので 計算は下記税務仕訳の注 5 を参照 取引後の資本に関する状況会計 自己株式 150 資本金等の額 100( 注 3) / 現金預金 140 利益積立金 50( 注 4) / 預り金 10( 注 5) 資本金等の額 400 注 3: では 取得した自己株式に対応する 資本金等の額 を減額する 500 百万円 50,000 株 10,000 株 =100 百万円注 4: 株主に交付した現金総額 150 百万円のうち 資本金等の額 100 百万円を超える部分の金額 50 百万円は 利益積立金を財源とした配当の額とみなされる ( 株主において課税関係が発生する ) 逆に 株主に交付した現金総額が対応する 資本金等の額 に満たない場合には みなし配当は生じない 注 5: みなし配当に係る源泉所得税 50 百万円 20%=10 百万円 [3] 自己株式の処分 A 社は [2] で取得した自己株式 10,000 株をB 社に対し1 株 18,000 円 ( 総額 180 百万円 ) で売却した 3
現金預金 180 / 自己株式 150( 注 6) その他資本余剰金 30( 注 7) 会計 その他資本剰余金 30 注 6: 1 株当たりの取得原価 15,000 円 売却した株式数 10,000 株 注 7: 自己株式に関する取引は資本取引であるため 対価の総額 180 百万円と自己株式 150 百万円との差額 30 百万円は 損益とせずに その他資本剰余金 を増減させる 現金預金 180 / 資本金等の額 180( 注 8) 資本金等の額 580 注 8: においては 自己株式の処分は新株発行と同様に扱うこととされており 受け取った対価の額を全額 資本金等の額 とする [4] 自己株式の消却 A 社は [2] で取得した自己株式 10,000 株をすべて売却した ([3] の取引後に行われたものではない ) なお 消却により発行済み株式数も 10,000 株減少することとなる その他資本余剰金 150( 注 9) / 自己株式 150 注 9: 消却した自己株式と同額を その他資本剰余金 の減額とする なお 期末においても その他資本剰余金 が負の値のままの場合には 払込資本のマイナスは会計上想定されていないため その他資本剰余金 がゼロになるまで繰越利益剰余金の金額を減額させる 会計 その他資本剰余金 150 処理なし ( 注 10) 資本金等の額 400 注 10: 資本金等の額 は [2] の自己株式取得時から変化しない 3. 地方税法改正による影響 [1] 資本金等の額 を基準とする課税 において資本金等の額は寄付金の損金算入限度額の計算等に用いられますが その他に地方税である住民税均等割において税率区分の基準となり 同じく地方税の事業税資本割 ( 外形標準課税対象法人 ( 資本金の額が1 億円超の企業 ( 電気 ガス供給業や保険業を営む企業等を除く ) に課されます ) において課税標準 ( 税額を算定する際の基礎となるもの ) となります 本稿では 住民税均等割については割愛し 事業税資本割 ( 以下 資本割 ) の概要と自己株式の取得等が資本割に与える影響について説明します 資本割は 事業年度末におけるにおける 資本金等の額 ( 一定の場合は所定の調整を加えた金額 ) に一定の税率を乗じて算出しますが その税率は下表のとおり 平成 27 年度 28 年度と税率 4
改正による引き上げが続いています 資本金等の額が5 億円の企業の場合 原則として平成 28 年度は 平成 27 年度よりも資本割の納税額が 100 万円増えることとなります 平成 26 年度 平成 27 年度 平成 28 年度 標準税率 0.2% 0.3% 0.5% [2] 資本割の課税標準等の見直し 上記の税率改正のほか 平成 27 年度税制改正により 資本金等の額が 事業年度末における ( 会計上の ) 資本金と資本準備金の合計額に満たない場合は 資本割 ( および住民税均等割 ) の税額計算に用いる資本金等の額は 資本金と資本準備金の合計額とする改正が行われました 1 資本金等の額 < 2 資本金 + 資本準備金の合計額 2 資本金 + 資本準備金の合計額が資本割の課税標準とされる この改正により 企業が自己株式を取得した場合は 資本割の税額計算に注意を要する必要が出てきました ここで 前述の 2. 会計 税務処理の事例解説 の第 2 項 自己株式の取得 のケースを用いて影響を確認します A 社の 1 資本金等の額 は 400 百万円であるのに対し 2 資本金と資本準備金の合計額 は 250 百万円 +250 百万円 =500 百万円となっています この場合 このまま事業年度末を迎えたとすると 1 < 2 となるため 上記の規定に従い資本割の課税標準は 1 資本金等の額 である 400 百万円ではなく 2 資本金と資本準備金の合計額 である 500 百万円とされます 平成 27 年度税制改正前は 自己株式の取得により資本金等の額が減少し 結果として資本割額や住民税の均等割額について税負担が減少することがありましたが 改正後は上記の例のように これらの税負担が必ずしも減少するとは限りません 自己株式を所有している企業や これから取得しようとする企業は この点について留意すべきといえます 内容は 2016 年 6 月 24 日時点の情報に基づいて作成されたものです 本情報は 法律 会計 税務などの一般的な説明です 個別具体的な法律上 会計上 税務上等の判断や対策などについては専門家 ( 弁護士 公認会計士 税理士など ) にごください また 本情報の全部または一部を無断で複写 複製 ( コピー ) することは著作権法上での例外を除き 禁じられています みずほ総合研究所部東京室 03-3591-7077 / 大阪室 06-6226-1701 http://www.mizuho-ri.co.jp/service/membership/advice/ 5