実務家の条文の読み方=六法の使い方の基礎

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実務家の条文の読み方 = 六法の使い方の基礎弁護士柏谷周希第 1 実務家にとっての条文とは 1 実務家は法律を使って事件処理をするのが仕事 2 六法を使いこなす 条文を覚えることではない 六法は手元にあるし いつでも調べられる 求められるのは法的思考能力 法的思考能力とは1 法解釈能力と2 事実認定 ( あてはめ ) 能力 条文を解釈 適用でき 事件を処理できるということが六法を使いこなすということ 3 法的思考能力は事件処理の中で磨いていくしかない 第 2 事件処理の例 ( 貸金返還請求事件 ) 1 法律相談 (30 分 5250 円 ) で相談者の事情の聴き取り 相談メモ法律相談日 : 平成 23 年 4 月 5 日お名前 :Xさん年齢 :50 歳性別 : 男性相談内容 : 知人 Yに2 年前に500 万円を貸したが返してくれない 証拠等 : 借用書 1 通あり 借用書 1 私は X から本日 金 500 万円を借りました 2 このお金は 2 年後には必ず返します 平成 21 年 4 月 1 日 Y 印 1

2 相談者の目的を把握する 500 万円を Y から返してもらうこと 3 相談者の目的を達成する法律効果をもった法律の条文をさがす * 民法 587 条 ( 消費貸借 ) 消費貸借は 当事者の一方が種類 品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって その効力を生ずる その効力を生ずる とあいまいな書き方を条文はしているが 返還を約する とある以上 その効力には返還をする義務が含まれることになる 4 条文の法律要件に該当する具体的事実 ( 要件事実 ) があるかを検討する 当事者の一方が Yが 種類 品質及び数量の同じ物をもって 500 万円の現金を 返還をすることを約して 返すと約束して 相手方から金銭その他の物を受け取ることによって 500 万円の現金を受け取った Q. 返還の時期の約束は必要? A 返済の時期の約束は不要とする法解釈 ( 条文の文言を重視 ) 民法 587 条には書いていない 民法 591 条には 当事者が返還の時期を定めなかったときは 貸主は 相当の期間を定めて返還の催告をすることができる とあり 返還の時期を定めない場合を前提とした規定の仕方をしている B 返済の時期の約束は必要とする法解釈 ( 制度の本質を重視 ) 消費貸借契約は物を人に貸して利用させる契約 貸してすぐ返せというのは消費貸借とはいわない 返還の約束は消費貸借契約の本質的要素と考えるべき 判例 実務 民法 591 条も 相当の期間を定めて返還の催告をする とあり 一定の期間は利用させることを前提としている 民法 591 条の 返還の時期を定めなかったとき とは 返還の催告をしたときを返済の時期とする合意があったとき と読み替 2

えるべき 返還時期の約束 平成 23 年 4 月 1 日に返還するという約束をした Q. 返還の時期の到来は必要? 返還の時期が要件として必要だとした場合 返還の時期の到来を主張しなければ 返還を請求できないはずなので 必要と解釈すべき 返還時期の到来 平成 23 年 4 月 1 日は到来した 5 裁判に備えて要件事実を立証するための証拠の有無をチェックする Yが500 万円の現金を返すと約束して500 万円の現金を受け取り 平成 22 年 4 月 1 日に返済するという約束をした 借用書で証明する 平成 22 年 4 月 1 日が到来した 証明不要 顕著な事実 * 民訴 179 条 ( 証明することを要しない事実 ) 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は 証明することを要しない 6 相談者に処理の方針 ( 見通し ) と費用を伝える 1 内容証明で様子をみて ダメなら訴訟へ 2 弁護士費用は着手金 50 万円 報酬は回収した額の10% ただし 訴えを提起せずに回収できた場合には報酬は回収した額の5% 7 事件を受任 Ⅹと弁護士 Bが委任契約書をかわす * 民法 643 条 ( 委任 ) 委任は 当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し 相手方がこれを承諾することによって その効力を生ずる 当事者の一方が Ⅹが 法律行為をすることを相手方に委託し 貸金の返還請求に関する法律行為 ( 訴え 和解等 ) をBに委託し 相手方がこれを承諾することによって Bが承諾することによって その効力を生ずる 善管注意義務 ( 民法 644 条 ) を負いつつ委任事務である貸金の回収行為に関する法律行為をⅩに代理して行う * 民法 656 条 ( 準委任 ) この節の規定は 法律行為でない事務の委託について準用する この節の規定は 第 10 節委任の規定は 3

法律行為でない事務の委託について 法律行為を含まない内容証明を送る行為やYとの話し合い等の事実行為の委託について 準用する たとえば 民法 643 条等の 委任 の文言を 準委任 に読み替えて適用する * 弁護士費用 ( 着手金と報酬 ) 民法 648 条 1 項 ( 受任者と報酬 ) 受任者は 特約がなければ 委任者に対して報酬を請求することができない 委任契約書で特約条項を設ける 仮に 特約がなくても相当の支払義務あり 本条は受任者 ( 医師や弁護士や宗教家等 ) が無償で委任事務を処理するのが普通であった時代の名残り 現代社会では 医師や弁護士の場合 職業としてやっているのが普通 適用を排除 or 黙示の特約という構成 民法 648 条 2 項本文 受任者は 報酬を受けるべき場合には 委任事務を履行した後でなければ これを請求することができない Q. 着手金は? * 民法 656 条で準委任にも準用 8 相手方と交渉 1 内容証明 ( 平成 23 年 4 月 7 日到達 ) 2Yと交渉 ( 平成 23 年 4 月 11 日 ) Yは当初 贈与だと主張 but 借用書を示すとあきらめた 3 毎月 10 万円の50 回払いで和解契約を締結 ( 平成 23 年 4 月 20 日 ) 4

和解契約書 1 YはⅩに対し XY 間の平成 21 年 4 月 1 日に締結した金銭消費貸借契約に基づく貸金債務として金 500 万円の支払義務があることを認める 2 Yは Ⅹに対して 上記債務について 50 回に分割したうえで 平成 23 年 5 月末日から毎月末日に金 10 万円ずつ支払うものとする 3 2 の支払は Y が Ⅹ の自宅に持参して支払う方法によるものとする 4 Ⅹ 及びYは和解書に記載されてある債務のほかは なんらの債権債務もないことを確認する 5 Ⅹ 及びYは本和解契約を立証するため 本和解書を2 通作成し 各々 1 通を保管する 平成 23 年 4 月 20 日 Ⅹ 上記代理人弁護士 B 印 Y 印 5

* 民法 695 条 ( 和解 ) 和解は 当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって その効力を生ずる 当事者が ⅩとYが 互いに譲歩をして Ⅹは一括払いを分割払いに譲歩 Yは全面的に争う姿勢から分割で支払うという譲歩 その間に存する争いをやめることを約する 500 万円の紛争をやめることを約束 その効力 民法 696 条 ( 和解の効力 ) 当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ 又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは その権利は 和解によってその当事者の一方に移転し 又は消滅したものとする * 仮に 実は本件の借用書はXが偽造したものであり 真実は贈与契約で贈与契約書が発見されたとしても 当事者の一方が Xが 和解によって 平成 23 年 4 月 20 日の和解契約によって 争いの目的である権利 500 万円の貸金債権 を有するものと認められ た場合において を有すると認められた場合において その当事者の一方が Ⅹが 従来その権利を有していなかっ 貸金債権を有していなかったことが贈与た旨の確証 が得られたときは 契約書の発見によって確実に証明されたときは その権利は 和解によってその当事者の一方に移転し したものとする 貸金債権は和解によってⅩに発生したものとする 9 事件解決 報酬の清算 報酬 25 万円 6

第 3 新司法試験の学修の仕方 1 本試験は事件処理を求めている 司法試験は実務家登用試験択一は法曹としての基礎知識を試している 論文は法曹としての事件処理能力を試している 2 事件処理を通じて条文の要件 効果を押さえる学修が最適 例 ) 判例百選や事例演習の教材を使った学修答案練習会の活用 3 文言のみにとらわれることなく その制度趣旨を押さえる 当該制度で 得られる利益 とはなにか 失われた利益とはなにか (= 必要性 ) (= 許容性 相当性 ) 答案ではただ文言にあてはめるというのではなく 趣旨からしても妥当であることまで言及する 4 楽しむ 以上 7