三建設備工業つくばみらい技術センター汎用機器を用いた潜熱処理システムの運転実績 三建設備工業 技術本部技術研究所佐藤英樹 キーワード / ZEB 潜熱処理システム 汎用機器 1. はじめに 三建設備工業つくばみらい技術センターでは, ゼロエネルギービル (ZEB) をめざして, 地中熱利用の天井放射空調システムを中心とした改修工事を行い 1),2010 年 1 月より運用を開始した 2011 年度は, 再生可能エネルギーのさらなる利用をはかるため, 新たに太陽熱利用システムを導入した 2) また, 快適性を維持しながら省エネルギーも両立する潜熱 顕熱分離空調の改善を実施した 本報では, 導入した主な要素技術のうち, 汎用機器で構成し, かつ, 再生可能エネルギーを最大限活用した潜熱処理システムとその運転実績について紹介する 2. 建物概要 所在地茨城県つくばみらい市建物用途研究施設構造鉄筋コンクリート造階数地上 3 階敷地面積 4,123m2建築面積 1,103m2延床面積 2,258m2 (724m2) 床面積 1 階 1,103m2 (148m2) 2 階 622m2 (318m2) 3 階 533m2 (258m2) ( ) 内は事務室面積を表す 3. システム概要 図 -1に導入した要素技術の概要を, 図 -2に熱源および潜熱 顕熱分離空調システムフローを示す 再生可能エネルギーの利用, 高効率機器の導入, 照明負荷の削減, 躯体断熱強化による負荷削減, 高効率運転制御などが主な技術である 3-1 熱源システム冷房時の放射パネルや外気の予冷に供給する冷水は, 年間約 16 で安定している地下水を揚水井から汲み上げて熱交換器経由で熱のみを利用する 採熱後の井水は, 地盤沈下や空気接触による水質変化などによる環境汚染を考慮し, 直接空気に触れさせずに還元井から地中の帯水層に戻す 負荷が大きい時は, 地下水をカスケード利用した熱源水にて水熱源チラーを追いかけ運転して冷水を生成する 暖房時は太陽熱集熱パネルから得られる温水を利用する 温水は, 供給可能温度に応じて, 天井放 図 -1 要素技術の概要 56
実施例 図 -2 熱源および潜熱 顕熱分離空調システムフロー 射パネルや外気処理に利用する 太陽熱の供給熱量が不足する場合は, 地下水から採熱した水を水熱源チラーの蒸発器側に流すことにより凝縮器側で温水を生成し, 暖房用熱源水として天井放射パネルや外気処理に利用する 放射パネルでは, 冷房時の冷水温度が約 18, 暖房時の温水温度が32 と低エクセルギーの冷温水を利用するため, 熱源機器を高効率で運転することができる 3-2 顕熱処理システム対象エリアの顕熱負荷は天井放射パネルで処理を行う 2 階事務室の天井放射パネルは, ペリメータ2 系統, インテリア2 系統の合計 4ゾーンに分割する 天井放射パネルの床面積に対する敷設率は約 46% である パネルの制御は各系統のPMVが一定となるように行う 室内, 外気, パネル表面の各温度計測値から現在の平均放射温度 MRTを演算し, この演算結果と室内湿度, パラメータ値からPMV 現在値を算出する 次に,PMV 現在値と PMV 設定値から目標 MRTを演算して目標 MRTを満足する放射パネル表面温度設定値を算出し, 送水温度と送水流量を制御する ( 図 -3) 3-3 潜熱処理システム顕熱交換器, 空気熱源ヒートポンプエアコン, 滴下浸透気化式加湿器による構成に, プレ処理として外調機のコイルのみを利用した外気処理を加えたシステムにより潜熱の処理を行う 除湿時は地下水との熱交換で得られる冷水で予冷 除湿した後, 顕熱交換器, エアコンの順に通過して冷却 除湿する エアコンを出た空気は, 再び顕熱交換器を通過することにより再熱し室内に供給する 天井放射空調では結露防止のため, パネル表面温度より低い露点温度の室内環境を安定的に維持する必要がある 加湿時は太陽熱で得られる温水で導入外気を加熱し, 室内の絶対湿度により気化式加湿器をON/OFFさせて加湿を行う 4. システムの運転状況 4-1 運転パターン潜熱処理システムの運転パターンを表 -1に示す 各条件とも顕熱交換器および空気熱源ヒートポンプエアコンは室内の在室人員から算出した500m3 /hで運転する エアコンの設定温度は, 冷房時 20, 暖房時 23 とし, 温調モード時のエアコンのコンプレッサは, 本体サーモにより制御される 冷房時は予冷コイル利用なしを Case1-1, 予冷コイル利用ありをCase1-2とする 暖房時には室内センサから算出した絶対湿度により加湿器の電磁弁のON/OFFを行い, 室内湿度を制御する 図 -3 顕熱処理システムの制御フロー 表 -1 潜熱処理システム運転パターン 57
また,Case2-2では, コンプレッサを停止する送風モードで運転する 4-2 予冷コイル利用の効果図 -4に夏季の予冷コイルの有無による絶対湿度変化を示す 予冷コイルを利用しない場合, 予冷コイル出口の絶対湿度は外気絶対湿度とほぼ等しく, 顕熱交換器にて12g/kg まで除湿される その後, 空気熱源ヒートポンプエアコンにより除湿され, 吹出絶対湿度は7g/kg になる 予冷コイルを利用した場合, 外気絶対湿度によらずコイル出口の絶対湿度は14g/kg 定となる これは地下水が一定温度で供給されているためである エアコン入口は予冷コイルの効果により10g/kg で除湿された 図 -4 予冷コイルの有無による絶対湿度変化 空気となる 最終的な吹出絶対湿度は, コイル利用の有無にかかわらず7g/kg 一定となる 地下水利用の予冷コイルはプレ処理としての除湿効果は十分にあると考えられる 図 -5に外気絶対湿度とシステム除湿能力の関係を示す 外気絶対湿度と除湿能力には正の相関が見られ, 外気絶対湿度が高いほど除湿効果が大きい つまり, 外気が多湿でも安定した除湿能力が確保できるシステムであるといえる 図 -5 外気絶対湿度とシステム除湿能力 図 -6 対象室の空調システム 58
図 -7 各運転パターン時の空気熱源ヒートポンプエアコン消費電力量 5. 運転実績 5-1 夏季 冬季運転例潜熱処理システムの空気状態点を図 -6に, 空気熱源ヒートポンプエアコンの消費電力量を図 -7に示す 図 -4でも示すように, 本システムでは外気状況によらず 7g/kg 前後の除湿空気を安定して供給でき, 室内で約 10g/kg 状態を維持することができる エアコンと顕熱交換器を組み合わせることで, エアコンで処理する熱量を全処理熱量の1/2 程度に削減し, さらに, 予冷コイルを利用することで1/3 程度まで削減が可能となる また, 顕熱交換器で再熱することにより吹出温度が上昇するため, ドラフトが抑制される 冬季加湿時では, 加熱コイルを利用するCase2-1の場合, エアコンの出口温度が若干高くなるが, 加熱コイルの効果により38 程度に抑えられる 全処理熱量に対してエアコンの処理熱量は1/5 程度と少ない 加熱コイルのみで加湿前の状態をコントロールするCase2-2では, エアコンでの処理熱量はコンプレッサを停止させるため0となり, 省エネ効果の大きい運転となる 気化式加湿器により吹出絶対湿度は室内条件よりも若干高くなるが, 室内のセンサにより加湿器の電磁弁をON/OFFさせるため, 室内の相対湿度が上昇するなどの影響は見られない Case1-1の空気熱源ヒートポンプエアコンの消費電力は1.4 1.8kW, 平均消費電力量で1.7kWh, 予冷コイルありのCase1-2では1.4 1.8kW, 平均消費電力量で1.5kWh 程度である 予冷により約 10% のエネルギー削減効果がある 冬季では, エアコンで加熱すべき熱量は全処理熱量に対して10 32%, 消費電力は0.5 1.2kW となり, 入口条件により大きく異なる 消費電力量は 0.9kWh 程度である Case2-2では, エアコンの消費電力は送風機のみとなり, 平均電力量で0.3 0.4kWhとなる 加熱コイルのみで目標温度に達する場合は, 消費電力量を約 1/2に削減できる 図 -8 夏季代表日の室内環境経時変化 (₂₀₁₁ 9 ₁₅) 図 -9 冬季代表日の室内環境経時変化 (₂₀₁₁ ₁₂ ₂₇) 5-2 システムの空調運転時の室内環境図 -8に夏季代表日の室内環境の経時変化を示す 空調運転時における外気最高気温は32, その時の相対湿 59
度は約 45% である 最高絶対湿度は17g/kg である この日の運転は,PMV 設定値を+0.5としている 地下水温度は約 16 で安定しており, パネル送水温度は17 20, パネル表面温度は23 27 である 室内温度は約 27, 相対湿度は約 45% と安定している PMV 値は立ち上げ時を除き+0.5を満足する 図 -9に冬季代表日の室内環境の経時変化を示す 空調運転時における外気最低気温は0.9, その時の相対湿度は56% である この日は,PMV 設定値 -0.3で運転を行っている 井水温度は夏季同様約 16 で安定しており, パネル送水温度は33 42, パネル表面温度は30 35 である 室内温度は約 21, 相対湿度は約 45% である PMV 値は立ち上げ時を除き, 目標 PMVの-0.3を維持している 6. おわりに ZEB 実現のための重要な技術となり得る潜熱 顕熱分離空調を実物件に導入し運転検証を行った 再生可能エネルギーである地中熱 太陽熱を利用した潜熱処理システムの各状態を示し, 導入したシステムが夏季 冬季とも安定した運転ができ, 消費電力の少ないシステムであることを明らかにした また, 顕熱処理システムとして放射パネルと組み合わせることで, 快適性も維持できるシステムであることを確認した 潜熱処理, 顕熱処理の両方で再生可能エネルギーを有効に利用している本空調システムは, 潜熱 顕熱分離空調としての省エネ効果だけでなく, さらにエネルギー削減効果の高い有用なシステムであると考えられる < 参考文献 > 1) 桑原亮一 : 三建設備工業つくばみらい技術センターネットゼロエネルギービルの導入実施例,, 2011.3 2) 桑原亮一 : 三建設備工業つくばみらい技術センターゼロエネルギービルの年間運転実績,, 2011.10 60