目次 第 Ⅰ 編本編 第 1 章調査の目的 Ⅰ-1 第 2 章検討体制 Ⅰ-2 第 3 章自然 社会状況 Ⅰ-3 第 4 章想定地震 津波の選定条件等 Ⅰ-26 第 5 章被害想定の実施概要 Ⅰ-37 第 6 章被害想定結果の概要 Ⅰ-48 第 7 章防災 減災効果の評価 Ⅰ-151 第 8 章留意

Similar documents
2

目 次 1. 想定する巨大地震 強震断層モデルと震度分布... 2 (1) 推計の考え方... 2 (2) 震度分布の推計結果 津波断層モデルと津波高 浸水域等... 8 (1) 推計の考え方... 8 (2) 津波高等の推計結果 時間差を持って地震が

基本

Microsoft Word - 概要版(案)_ docx

<4D F736F F D F977091A390698C7689E E88F4390B3816A2E646F63>

<4D F736F F F696E74202D AD482C682E882DC82C682DF90E096BE8E9197BF C C C816A2E B93C782DD8EE682E890EA97705D>

<4D F736F F D E9197BF31817A975C91AA907D C4816A82C982C282A282C491CE8FDB926E906B82CC90E096BE2E646F63>

報告書

Microsoft Word - Ⅰ編_本編.doc

促進計画(案)最終  :促進計画/実施計画/3.5

<GK クルマの保険 ( 車両保険 )> ( 自動車によるあて逃げに限ります ) お客さまのおクルマは 車両保険 に加入していますか? 自動車保険の車両保険では 一般車両 もしくは 10 補償限定 のいずれでも 台風や集中豪雨による洪水の事故が対象となります 地震 噴火またはこれらによる津波 によっ

Hazard_ pptx

平成 30 年 4 月 9 日 01 時 32 分頃の島根県西部の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

Microsoft PowerPoint - 資料4-1.ppt [互換モード]

地震の将来予測への取組 -地震調査研究の成果を防災に活かすために-

1 想定地震の概要南海トラフで発生する地震は 多様な地震発生のパターンが考えられることから 次の地震の震源域の広がりを正確に予測することは 現時点の科学的知見では困難です そのため 本市では 南海トラフで発生する地震として 次の2つの地震を想定して被害予測調査を行いました (1) 過去の地震を考慮し

H19年度

はじめに 地震調査研究推進本部 ( 以下 推本 という ) は 平成 11 年 4 月に 地震調査研究の推進について- 地震に関する観測 測量 調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策 - ( 地震調査研究推進本部,1999)( 以下 総合基本施策 という ) をとりまとめた この中で 当

<4D F736F F F696E74202D E9197BF C A8B9091E5926E906B82D682CC91CE899E82CC95FB8CFC90AB2E B8CDD8AB B83685D>

保険学会報告要旨

地震動推計の考え方 最新の科学的知見や過去の被害地震を踏まえ 5 つの想定地震を設定し 検証 首都圏に甚大な被害が想定される東京湾北部地震について 震源深さが従来の想定より浅いという最新の知見を反映した再検証の実施 1703 年に発生した巨大地震 ( 元禄型関東地震 ) を想定し 本県への影響を新た

津波の怖さを知っていますか? 平成 5 年 (1993 年 ) 北海道南西沖地震では地震発生から 5 分と経たないうちに大津波が押し寄せ 死者 202 人 行方不明者 28 人などの被害が生じました ( 写真は函館海洋気象台職員撮影 ) 宮崎地方気象台

2018 年の山形県とその周辺の地震活動 1. 地震活動の概況 2018 年に 山形県とその周辺 ( 図 1の範囲内 ) で観測した地震は 2,250 回 (2017 年 :2,447 回 ) であった 山形県内で震度 1 以上を観測した地震は 図の範囲外で発生した地震を含めて 47 回 (2017

図 東北地方太平洋沖地震以降の震源分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 ) 図 3 東北地方太平洋沖地震前後の主ひずみ分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 )

Seismological Society of Japan - NAIFURU No.99 October, 2014 Report 1 02

2019 年1月3日熊本県熊本地方の地震の評価(平成31年2月12日公表)

<8BFA98488E7391CF906B89FC8F4391A390698C7689E C4816A82C991CE82B782E988D38CA995E58F5782CC8F4997B982C982C282A282C42D332E706466>

山県市地域防災計画【 改訂版】

別添資料 3 南海トラフ沿いの大規模地震の 予測可能性に関する調査部会 ( 報告 ) 南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性について 平成 25 年 5 月 -0-

Microsoft PowerPoint _FPCJ_hirata?v3.pptx

Microsoft PowerPoint - 西村先生【30枚】 公開講座.pptx

地震の概要 検知時刻 : 1 月 3 日 18 時分 10 発生時刻 : 1 月 3 日 18 時 10 分 マグニチュード: 5.1( 暫定値 ; 速報値 5.0から更新 ) 場所および深さ: 熊本県熊本地方 深さ10km( 暫定値 ) 発震機構 : 南北方向に張力軸を持つ横ずれ断層型 ( 速報

Microsoft PowerPoint - 科学ワインバー#6

基本

【資料_総60-(5)】活断層長期評価の表記見直しについて(案)

利用規程

<30325F8A C55F91E D22E786477>

活断層長期評価の表記見直しについて

Microsoft PowerPoint - 平成23年度ANET取組2

本ワーキンググループにおけるこれまでの検討事項

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF A957A8E9197BF816A205B8CDD8AB B83685D>

家族みんなの防災ハンドブック 保存版

全国地震動予測地図 技術報告書

2

2 1 2

2018年11月の地震活動の評価(平成30年12月11日)

自然地理学概説

日本海溝海底地震津波観測網の整備と緊急津波速報 ( 仮称 ) システムの現状と将来像 < 日本海溝海底地震津波観測網の整備 > 地震情報 津波情報 その他 ( 研究活動に必要な情報等 ) 海底観測網の整備及び活用の現状 陸域と比べ海域の観測点 ( 地震計 ) は少ない ( 陸上 : 1378 点海域

平成 30 年 6 月 18 日 07 時 58 分頃の大阪府北部の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

九州地方とその周辺の地震活動(2016年5月~10月)

この資料は速報値であり 後日の調査で変更されることがあります 時間帯 最大震度別回数 震度 1 以上を観測した回数 弱 5 強 6 弱 6 強 7 回数 累計 4/14 21 時 -24 時 /15 00 時 -24 時 30

国立大学法人三重大学 報告書-3

スライド 1

日向灘 佐伯市で震度 2 を観測 8 日 08 時 33 分に日向灘で発生した M3.9 の地震 ( 深さ 31km) により 佐伯市 愛媛県西予市 高知県宿毛市などで震度 2 を観測したほか 大分県 宮崎県 愛媛県および高知県で震度 1 を観測しました ( 図 1) 今回の地震の震源付近 ( 図

資料2 森田科学官による12月30日提供資料

Microsoft Word - 和歌山県の地震1712( 決裁).doc

伊方発電所において 原子炉容器や原子炉の運転を制御する制御棒などの原子炉を 止める 機能や燃料を 冷やす 機能 放射性物質を 閉じ込める 機能などの安全上重要な機能をもつ施設については 想定される最大の揺れの地震である 基準地震動 650 ガルにも耐えられるよう 必要な個所には耐震性向上工事を実施し

第1章 災害予防計画

文部科学省事業評価書(平成19年度新規・拡充事業等)政策目標4 71 首都直下地震防0災・減災特別プロジェクト

新潟県中越沖地震を踏まえた地下構造特性調査結果および駿河湾の地震で敷地内の揺れに違いが生じた要因の分析状況について

三原市津波避難対策ガイドライン(平成25年11月修正)

調査手法編

東日本大震災 鳴らされていた警鐘

白紙のページ

地震被害想定調査における 強震動・津波浸水予測の進捗状況

今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧(平成30年2月9日現在)

資料 総25-(8) 総合部会委員提出資料

Q. 断層帯の発生確率をおしえてください A. 地震調査委員会が発表した 立川断層帯の長期評価について ( 平成 15 年 8 月 7 日 ) によりますと 下記のような発生確率がでています 今後 30 年以内の地震発生確率 : 0.5%~2%( 1, 2) 今後 50 年以内の地震発生確率 : 0

奈良県ライフライン 情報共有発信マニュアル 第 3.3 版 平成 24 年 7 月 奈良県ライフライン防災対策連絡会

3 甑島列島東方沖 県北西部直下 熊本県南部 南海トラフ ( 地震動 : 西側ケース 津波 :CASE11 ) 種子島東方沖 トカラ列島太平洋沖 奄美群島太平洋沖 ( 北部 )

<4D F736F F D F4390B3817A5F959489EF8CE38F4390B388C4328C8E323793FA8CF6955C5F D325F92C A A92E882C982C282A282C481698CA794C589F090E0816A2E646F6378>

PowerPoint プレゼンテーション

報道発表 平成 30 年 9 月 6 日 05 時 10 分地震火山部 平成 30 年 9 月 6 日 03 時 08 分頃の胆振地方中東部の地震について 地震の概要検知時刻 : 9 月 6 日 03 時 08 分 ( 最初に地震を検知した時刻 ) 発生時刻 : 9 月 6 日 03 時 07 分

Microsoft PowerPoint - 3_hirata.pptx

01.eps

(3) 土砂災害土砂災害の想定は 急傾斜地崩壊危険箇所 地すべり危険箇所 山腹崩壊危険地区のうち 保全人家 ( 公共施設を含む ) を有し かつ 対策工事の実施されていない箇所などを対象に 各危険箇所などの耐震ランクと震度から危険度ランク (A B C) を判定した ここでいう危険度は 相対的なラン

地震のおきる仕組み

<4D F736F F D D91926E95FB82CC8D C982A882AF82E9926E906B92C CE8DF482CC95EF8A8795FB906A816995BD90AC E348C8E816A2E646F6378>

津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

基本方針


平成 28 年 4 月 16 日 01 時 25 分頃の熊本県熊本地方の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

2016年10月21日鳥取県中部の地震の評価(平成28年10月22日)


H19年度

Earthquakes 101

2011 年 12 月 15 日発行 東日本大震災リスク レポート ( 第 5 号 ) 次の大地震 大津波への対応 : 防災計画の見直しと企業に求められる対応 発行 : 三菱商事インシュアランス株式会社リスクコンサルティング室 はじめに 1 本年 3 月 11 日 ( 金 ) の東日本大震災の発生か

長崎県の活断層

日本の地震活動第9章 九州地方の地震活動の特徴

Taro-●Ⅰ山口県の自然災害(P1-P5


津波に対する水門 陸閘等の操作指針について 1. 目的 本指針は, 水門 陸閘等に関して, 海岸, 河川, 港湾, 漁港等の管理者 ( 以下 施設管理者 という ) と現場操作員が平常時及び津波発生時に実施すべき事項や, 施設に関する閉鎖基準等及び配備体制などの基本的な方針を定め, 本県沿岸に襲来す

(Microsoft Word - 02 \216\221\227\277-2.doc)

日本の地震活動 -被害地震から見た地域別の特徴- <第2版>

スライド 1

佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

(2/ 8) 4 月の地震活動概要 4 月に内の震度観測点で震度 1 以上を観測した地震は5 回 (3 月は1 回 ) でした 平成 28 年 (2016 年 ) 熊本地震続報 28 日 14 時 08 分に熊本県熊本地方で発生した M3.6 の地震 ( 深さ 12km) により 熊本県の八代市 宇

地震保険と当社31 経社会活動資料編保険金の支払 1-1 保険 日 の 1-2 保険 日 の 保険の の 保険 保険の の 保険 保険 の 100% 保険 の 60% の 60% 保険 の 30% の 30% 保険 の 100% 保険 の 50% の 50%

<4D F736F F D208C46967B926E906B82CC96C6906B8C9A95A8899E939A89F090CD>

報告書

Transcription:

広島県地震被害想定調査 報告書 平成 25 年 10 月 広島県

目次 第 Ⅰ 編本編 第 1 章調査の目的 Ⅰ-1 第 2 章検討体制 Ⅰ-2 第 3 章自然 社会状況 Ⅰ-3 第 4 章想定地震 津波の選定条件等 Ⅰ-26 第 5 章被害想定の実施概要 Ⅰ-37 第 6 章被害想定結果の概要 Ⅰ-48 第 7 章防災 減災効果の評価 Ⅰ-151 第 8 章留意事項 Ⅰ-158 第 Ⅱ 編結果編 第 1 章既に明らかとなっている断層等を震源とする地震 Ⅱ-1 第 2 章どこでも起こりうる直下の地震 Ⅱ-136 第 Ⅲ 編資料編 第 1 章既に明らかとなっている断層等を震源とする地震 Ⅲ-1 第 2 章どこでも起こりうる直下の地震 Ⅲ-170 第 Ⅳ 編手法編 ( 手法と基礎資料 ) 第 1 章被害想定手法の概要 IV-1 第 2 章地震動等の予測 IV-4 第 3 章被害の想定 IV-65 巻末資料用語集

第 4 章想定地震 津波の選定条件等 1 想定地震 津波の選定 広島県の地震 津波対策において被害想定を行うべき地震として, 既に明らかとなっている断層等を震源とする地震及びどこでも起こりうる直下の地震を選定した (1) 既に明らかとなっている断層等を震源とする地震 津波過去の被害地震や活断層調査結果を踏まえ, 次の1,2,3を基準とし, 既に明らかとなっている断層等を震源とする地震 を 11 ケース選定した 1 歴史的に繰返し発生し, 将来発生する可能性が高い地震 2 地震調査研究推進本部が長期評価を行っている 主要活断層帯 による地震 3 地震規模及び本県と震源との距離から, 発生した際に本県に及ぼす被害が甚大となる可能性が高い地震 なお, 選定した想定地震のうち, 震源が海域に位置するものについては, 津波についても併せて被害想定を行うこととした (2) どこでも起こりうる直下の地震選定した既に明らかとなっている断層等を震源とする地震により地震被害想定を行う場合, 震源から離れた自治体では比較的軽微な被害にしかならないことがある しかしながら, 平成 12 年 (2000 年 ) 鳥取県西部地震のように, 活断層が確認されていない地域においても地震は発生しており, 今後, どの地域においても直下の地震が発生する可能性は否定できない このため, 前回調査と同様に, 既に明らかとなっている断層等を震源とする地震の影響が小さい地域において防災対策を行う上での基礎資料として役立てることを目的として, 県内 23 の各市町役場の所在地に震源位置を仮定した どこでも起こりうる直下の地震 を選定した Ⅰ-26

表 Ⅰ.4.1-1 選定した想定地震 想定地震 選定基準 想定対象 参考 1 2 3 地震津波広島県に被害を及ぼした主な地震 1 プレート間の地震 南海トラフ巨大地震 昭和 21 年 (1946 年 ) 南海地震安政元年 (1854 年 ) 安政南海地震宝永 4 年 (1707 年 ) 宝永地震 1) 南海トラフ巨大地震 2 プレート内の地震日向灘及び南西諸島海溝周辺 2) 安芸灘 ~ 伊予灘 ~ 豊後水道 3 地殻内の地震 中央構造線断層帯 平成 13 年 (2001 年 ) 芸予地震昭和 24 年 (1949 年 ) 安芸灘明治 38 年 (1905 年 ) 芸予地震安政 4 年 (1857 年 ) 芸予地震平成 12 年 (2000 年 ) 鳥取県西部地震明治 5 年 (1872 年 ) 浜田地震 3) 讃岐山脈南縁 - 石鎚山脈北縁東部 4) 石鎚山脈北縁 - 5) 石鎚山脈北縁西部 - 伊予灘 五日市断層帯 6) 五日市断層 7) 己斐 - 広島西縁断層帯 岩国断層帯 8) 岩国断層帯 - 安芸灘断層群 9) 主部 10) 広島湾 - 岩国沖断層帯 長者ヶ原断層帯 11) 長者ヶ原断層 - 芳井断層 - - - どこでも起こりうる直下の地震 どこでも起こりうる直下の地震 - - - (23 市町役場直下に震源を配置 ) 選定基準 1 歴史的に繰返し発生し, 将来発生する可能性が高い地震 2 地震調査研究推進本部が長期評価を行っている 主要活断層帯 による地震 3 地震規模及び本県と震源との距離から, 発生した際に本県に及ぼす被害が甚大となる可能性が高い地震 Ⅰ-27

27 内閣府 (2012): 南海トラフの巨大地震モデル検討会資料. Ⅰ-28 凡例 : プレート間の地震 : 市町界 : 県界 図 Ⅰ.4.1-1 想定地震位置図 ( 南海トラフ巨大地震 ) 27 27

28 活断層研究会 (1991): 新編日本の活断層, 東京大学出版会. Ⅰ-29 図 Ⅰ.4.1-2 想定地震位置図 ( 既に明らかとなっている断層等を震源とする地震 ) 11,28 28 活断層研究会 (1991): 新編日本の活断層, 東京大学出版会.

Ⅰ-30 図 Ⅰ.4.1-3 想定地震位置図 ( どこでも起こりうる直下の地震 )

2 想定地震の諸元 (1) 既に明らかとなっている断層等を震源とする地震ア南海トラフ ( 南海トラフ巨大地震 ) 南海トラフは, 日本列島が位置する陸のプレート ( ユーラシアプレート ) の下に, 海のプレート ( フィリピン海プレート ) が南側から年間数cmの割合で沈み込んでいる場所である この沈み込みに伴い,2つのプレートの境界には, 徐々にひずみが蓄積されており, このひずみが限界に達したときに蓄積されたひずみを解放する大地震が発生している 過去 1,400 年間を見ると, 南海トラフでは約 100 200 年の間隔で大地震が発生しており, 近年発生した地震では, 昭和東南海地震 (1944 年 ), 昭和南海地震 (1946 年 ) がこれに当たる 昭和東南海地震及び昭和南海地震が起きてから 70 年近くが経過しており, 日本列島の広い範囲に強い揺れと大きな津波による災害を引き起こすことが懸念されている 内閣府に設置された 南海トラフの巨大地震モデル検討会 では, 同じプレート間の地震である東北地方太平洋沖地震 ( 東日本大震災 ) の教訓を踏まえ, 南海トラフで発生しうる巨大な地震 津波 として南海トラフ巨大地震 ( モーメントマグニチュード 9.0) を設定した 本調査においては, 南海トラフを震源域とした地震が発生した場合には, 県域に影響を及ぼす恐れのあることから想定地震として選定した 想定の規模は, 南海トラフの巨大地震モデル検討会 の検討結果を踏まえ, モーメントマグニチュード 9.0 とした モーメントマグニチュード : 気象庁マグニチュード ( 以後 マグニチュード という ) が, 周期 5 秒までの地震波形の最大振幅の値を用いて計算した値を示しているのに対し, 断層運動の規模そのものを表す地震発生時の岩盤のずれの規模 ( ずれ動いた部分の面積 ずれた量 岩石の硬さ ) をもとにして計算したマグニチュードをいう イ日向灘及び南西諸島海溝周辺 ( 安芸灘 ~ 伊予灘 ~ 豊後水道 ) の地震安芸灘 ~ 伊予灘 ~ 豊後水道では, 南海トラフから西北西に沈み込むフィリピン海プレート ( 深さ 40~60km) においてプレート内部の破壊 ( ずれ ) によるプレート内の地震が発生している 近年では芸予地震 (2001 年 : マグニチュード 6.7) が記憶に新しく, それ以前にも死者 11 名の被害となった芸予地震 (1905 年 : マグニチュード 6.7) など, マグニチュード 6.7 の地震が江戸時代以降 (17 世紀以降 ) だけでも 6 回発生している また, 地震調査研究推進本部では, 当該地域における地震活動の長期評価を行っており, 今後 30 年以内に当該領域のどこかで地震が発生する確率を 40% 程度, 地震の規模はマグニチュード 6.7~7.4 と推定している 本調査においては, 当該地域が広島県域に近く, 過去に何度も地震が発生してい Ⅰ-31

ること, さらに芸予地震の例からも再び地震が発生した場合には県域に大きな影響を及ぼす恐れがあることから, 安芸灘 ~ 伊予灘 ~ 豊後水道の地震を対象地震とした 想定の規模は, 記録上最大規模となる 1854 年 12 月 26 日の地震と同程度かつ地震調査研究推進本部による想定規模の最大値であるマグニチュード 7.4 とした なお, 震源が海域に位置するため, 地震に伴う海底変位 (-0.7m~+0.1m 程度 ) が津波を引き起こす可能性を考慮し, 津波による被害想定の対象とした ウ讃岐山脈南縁 - 石鎚山脈北縁東部の地震中央構造線断層帯は, 紀伊半島の金剛山地の東縁から和泉山脈の南縁淡路島南部の海域を経て四国北部をほぼ東西に横断し, 伊予灘に至る長大な断層帯である 地震調査研究推進本部の長期評価では, 中央構造線断層帯を過去の活動時期の違いなどから6つの区間に分けて評価している 讃岐山脈南縁 - 石鎚山脈北縁東部はその一つであり, 鳴門断層, 鳴門南断層, 板野断層, 神田断層, 父尾断層, 井口断層, 三野断層, 箸蔵断層, 佐野断層, 池田断層, 寒川断層, 畑野断層及び石鎚断層からなる この断層の長期評価による地震発生の可能性は, 今後 30 年以内に 0%-0.3% とされ, 日本の活断層の中では発生確率がやや高いグループとなっている また, 想定される地震の規模もマグニチュード 8.0 程度若しくはそれ以上とされ, 県域にも比較的近いため, 地震が発生した場合には県域に影響を及ぼす恐れのある地震として想定地震として選定した 想定の規模は, 同評価による想定規模を参考にマグニチュード 8.0 とした なお, 震源が海域に位置するため, 地震に伴う海底変位 (-1.3m~+0.3m 程度 ) が津波を引き起こす可能性を考慮し, 津波による被害想定の対象とした エ石鎚山脈北縁の地震石鎚山脈北縁も, 地震調査研究推進本部の長期評価による中央構造線断層帯の6 つの区間の一つであり, 岡村断層からなる約 30km の断層である この断層の長期評価による地震発生の可能性は, 今後 30 年以内に 0%-0.3% とされている また, 想定される地震の規模もマグニチュード 7.3~8.0 程度とされ, 県域にも比較的近いため, 地震が発生した場合には県域に影響を及ぼす恐れのある地震として想定地震として選定した 想定の規模は, 地震調査研究推進本部による想定規模を参考に, マグニチュード 8.0 とした オ石鎚山脈北縁西部 - 伊予灘の地震石鎚山脈北縁西部 - 伊予灘も, 地震調査研究推進本部の長期評価による中央構造線断層帯の6つの区間の一つであり, 川上断層, 重信断層, 伊予断層, 米湊断層, Ⅰ-32