第 85 回島根画像診断研究会 2018 年 11 月 松江テルサ
症例 1 島根大学病院放射線科 提示 第 85 回島根画像診断研究会 _2018 年 11 月 _ 松江テルサ
症例 患者 50歳代女性 現病歴 数日前より鼻出血あり 耳鼻咽喉科受診 顔部造影CT 頭部単純MRIが施行された
顔部単純CT 軸位断/軟部条件
顔部造影CT 軸位断
顔部単純CT 軸位断/骨条件
顔部造影CT 冠状断/軟部条件
T1WI 軸位断
T2WI-SPIR 軸位断
拡散強調像 /ADC
考えられる疾患は?
解説
画像診断のまとめ 〇CT 単純CTでやや高吸収 不均一な造影効果 鼻腔側辺縁でほとんど造 影されない領域もあり 右自然口は開大 鼻中隔 は左側へ圧排 偏位し 鼻中隔や篩骨洞壁骨は菲 薄 不明瞭化 積極的に 悪性腫瘍を示唆するよう な骨破壊とは言えず
画像診断のまとめ 〇MRI T1WI T2WIともに高信 号域 低信号域が混在 出血が主体の信号変化を 疑う DWIでは主に低 等信号 で 一部高信号域 出血 の影響があり 拡散制限 域とは言えず 篩骨洞上部 前頭洞 蝶 形骨洞 左上顎洞はT2WI 高信号 副鼻腔炎
病理診断 海綿状血管腫による器質化血腫 〇病理所見 肉眼的には 上顎洞 右鼻腔腫瘍は灰白色の粘膜様の 部分と黒い充実部分が見られます 組織学的には拡張した血管腔が多数見られ cavernous hemangiomaを考えます それが破綻し血液成分が外に 露出し 血瘤腫を形成しています 粘膜部分は浮腫状で 好酸球が増生しています 上皮は極性が保たれており 悪性の所見はありません
血瘤腫 血瘤腫は臨床上の病名であり 鼻副鼻腔に発生する良性 腫瘤で 出血を伴い血瘤を形成したものである 本体は器質化血腫(organized hematoma)であり 新旧出血 巣の混在や硝子様変性 組織壊死 炎症性肉芽 血管増 生 拡張を認める 上顎洞内の出血が線維化により被包 化され排出路が閉塞または閉鎖腔に血腫を形成 上顎洞血瘤腫12症例の臨床的検討 重田ら 耳鼻科展望 48:2;8 14,2005
血瘤腫 〇分類 ①血管奇形(血管腫)の存在下に発生するもの ②先行する出血性病変や炎症性変化などによる二次性変化 ③両者の混合 〇好発年齢 男女比 20 40歳台であるが 小児例もある 男女比は報告されていない 〇好発部位 上顎洞の自然口周囲から内側壁に好発 上顎洞血瘤腫12症例の臨床的検討 重田ら 耳鼻科展望 48:2;8 14,2005
血瘤腫 〇臨床症状 悪臭を伴う鼻漏 繰り返す鼻出血 鼻閉 頬部腫脹 〇臨床的特徴 鼻出血 鼻腔への圧迫所見 画像での骨破壊像などが あり 悪性腫瘍との鑑別が重要 術前の画像診断は不必要な拡大手術を回避する意味に おいて 重要である 血瘤腫の画像所見と臨床的事項 尾尻ら 耳鼻科展望 56:2;85-86,2013 上顎洞血瘤腫12症例の臨床的検討 重田ら 耳鼻科展望 48:2;8 14,2005
血瘤腫の画像所見 〇CT 上顎洞の膨隆性変化とそれに伴 う骨の圧排性変化 菲薄化 良性疾患ではあるが 骨破壊像 を伴うこともあり 石灰化は15%程度 血瘤腫の画像所見と臨床的事項 尾尻ら 耳鼻科展望 56:2;85-86,2013
血瘤腫の画像所見 〇MRI T1 強調像 繰り返す出血によるメトヘモ グロビンを反映した高信号域の混在 T2 強調像 ヘモジデリン沈着により辺縁 の被膜を示す低信号帯と内部の不均等な低 信号域の混在 造影により不均等な増強効果 腫瘤辺縁 の増強効果が乏しく 内部は不規則に造影 されることが特徴的 周囲正常組織との境界は明瞭 腫瘤と骨 の間の洞粘膜が保たれている 上顎洞血瘤腫症例のMRI所見と組織像 長門ら 耳鼻科臨床 99:11;929-934,2006
鑑別診断 〇真菌性副鼻腔炎 粘膜の炎症を反映して腫瘤辺縁の増強効果が強い 〇多発血管炎性肉芽腫症 鼻中隔の破壊を伴うこともあり 周囲骨には肥厚を呈するこ とが多い 腫瘤辺縁粘膜の増強効果が強い 〇悪性腫瘍 扁平上皮癌 悪性黒色腫 横紋筋肉腫など 内部性状は不均一で血瘤腫と近い所見を示すことがある 血瘤腫は腫瘤辺縁が明瞭で洞粘膜が保たれていることが鑑別 点となる 豊田圭子 まるわかり頭頚部領域の画像診断 秀潤社 2015
Take Home Massage 副鼻腔領域の悪性腫瘍と鑑別を要する良性病変として血瘤腫がある 新旧の出血を疑う所見を有する腫瘤は 血瘤腫も鑑別に考慮する必要がある
症例 2 松江赤十字病院放射線科 提示 第 85 回島根画像診断研究会 _2018 年 11 月 _ 松江テルサ
症例 40 歳代 男性主訴左下腹部痛現病歴 2-3 日前より左下腹部痛出現 痛みは大きくは変わらない 既往歴特になし家族歴特記所見なし身体所見左下腹部圧痛あり 血液データ白血球 7100 CRP 0.39
Coronal image Sagittal image
考えられる疾患は?
解説
画像所見のまとめ 下行結腸周囲に脂肪濃度上昇域あり 中心部に内部点状構造を伴った脂肪濃度域あり 大腸壁外に存在 被膜様構造を伴っている
その後の経過 鎮痛剤の処方にて 経過観察を行った それ以降 来院なし その後 他の理由で来院され 当時の状況を聞くと鎮痛剤で痛みは治まり 数日後には何ともなくなったとのことであった
診断 腹膜垂炎 Epiploic Appendagitis
腹膜垂 ; 結腸漿膜下組織と連続し 腹膜腔に突出する漿膜に覆われた脂肪体結腸紐に沿って存在内部に 1 本の動脈と 2 本の静脈を伴う
腹膜垂炎 原発性腹膜垂炎 ( 血行障害型 ) 腹膜垂の捻転 流出静脈の閉塞により 生じる 12-82 歳で報告が認められる 多くは肥満男性 ( 文献によっては女性 ) に生じる S 状結腸 下行結腸 上行結腸 盲腸の順に多く 横行結腸は稀である 臨床的には急激な発症の下腹部痛が多く 微熱が生じることが多い 白血球は変化ないかわずかに上昇する 2 次性腹膜垂炎 ( 非血行障害型 ) 憩室炎 虫垂炎 脂肪織炎 胆嚢炎などからの炎症波及
腹膜垂炎の CT 所見 1-4 cm大の脂肪を含む病変として認められ 周囲にリング状の脂肪濃度上昇域を認める Hyperattenuating ring sign 内部に点状もしくは線状の構造が見られ 閉塞した静脈 出血 線維化を示している Central dot sign 卵殻状石灰化が見られることがある 遊離体として骨盤内などに落ち込むことある 稀に周囲腹膜肥厚を伴う 極稀に周囲大腸壁肥厚を伴うこともある 腹膜垂炎の鑑別診断 憩室炎 腸間膜梗塞 虫垂炎 脂肪織炎 播種など
Hyperattenuating sign Dot sign
症例 3 島根県立中央病院放射線科 提示 第 85 回島根画像診断研究会 _2018 年 11 月 _ 松江テルサ
症例 :80 歳代女性主訴 : 特になし現病歴 : 経過観察中にPET/CTで異常を指摘された既往歴 :10 年前右下葉肺癌手術 ( 胸腔鏡下右下葉切除術 s-stage IA ) 1 年前胸腺癌手術
6 か月前今回 SUVmax 1.97 SUVmax 2.63
T1 強調像 T2 強調像 拡散強調像 脂肪抑制 T2 強調像
考えられる疾患は?
解説
背部弾性線維腫と考えられていたが比較的短期間に増大 形も変化し胸腔内へ膨隆してきたことから 線維性の腫瘍病変を否定できず 病理組織診断のために CT ガイド下針生検が施行された 生検時に撮影された腹臥位 CT では胸壁内にとどまり 凸レンズ状であった
病理組織学的診断 細胞成分に乏しく膠原線維豊富な線維性組織が採取されており内部に脂肪織が 混在しています 悪性所見はみられません EVG染色にて変性した弾性線維の断片を認めます 弾性線維腫に矛盾しない所見です HE染色 EVG染色
最終診断 背部弾性線維腫 10 年前の胸腔鏡下右肺下葉切除術の手術記録を参照すると 右聴診三角で第 5 肋間に沿って 7 cm開胸したとの記録があり 今回 胸腔内進展を疑った部分と一致していた Inverted intercostal hernia を生じたと思われる
弾性線維腫 1961 年に最初に報告された 緩徐発育性の良性線維性腫瘍 線維性偽腫瘍とされる 好発部位 99% は肩甲骨と肋骨の間に発生 25% で両側発生 まれに肘頭 大腿 皮下組織など 多発例の報告あり 有病率 55 歳以上で 24% 男女比 1:5 比較的高齢の女性に多いが小児例あり 症状 50% 以上は無症状 硬直 まれに疼痛 病因 不明だが 3 つの説が提唱されている 1 最初の報告が肉体労働者であったことから 肩甲骨と胸壁の繰り返す機械的な刺激により膠原線維の変性と膠原線維性結合組織の過剰生産が誘発され 弾性間質と脂肪の増生を引き起こしたもの 2 血流障害に続発して反応性線維腫や弾性線維の変性を生じたもの 3 結合組織代謝に関与する酵素異常 遺伝性素因 ( 沖縄県で家族発生の報告あり ) 治療と予後 経過観察 症状あれば外科的切除術 悪性化の報告なし
弾性線維腫 病理組織学的所見 細胞成分に乏しい膠原線維性結合組織に多数の弾性線維が混在する所見 少量の粘液 性間質と成熟脂肪細胞が介在する 弾性線維は大きく粗雑で 好酸性が強く 細かく 断片化した成分が線状 球状あるいは数珠状に融合する像がしばしばみられる HE染色 EVG染色 変性した弾性線維の断片を認める
背部弾性線維腫 画像所見 肩甲骨と肋骨の間に発生 CT: 被膜はなく 周囲筋肉との境界不明瞭 筋肉とほぼ等吸収の軟部組織濃度を示し 低濃度域 ( 脂肪 ) が混在する内部不均一な 楕円形 円形 凸レンズ状の腫瘤 MRI: 基本的に線維組織を反映し T1WI T2WI で低信号を示すが 介在する脂肪組織の量によって高信号が目立つ 凸レンズ状の境界明瞭な腫瘤 造影後 中等度の造影効果を示す FDG-PET/CT: しばしば FDG 集積を示す 報告例で mean SUVmax 1.4-3.2 2.0±0.63(range0-5.1) 2.31±0.61(range1.0-4.3) 胸壁多発例の case report で SUVmax 3.2-4.7
背部弾性線維腫 鑑別診断 fibromatosis, fibrolipoma, fibroma, desmoid tumors, sarcoma MRI で特徴的 典型的な画像所見を呈すれば 診断可能 非典型的な場合は生検が必要になる場合がある
考察 胸腔鏡下手術と弾性線維腫の関連については 調べた範囲では 肺癌に対する胸腔鏡下手術後 6 年に緩徐に増大する軟部腫瘤を認め 再発疑いで摘出術が施行され 背部弾性線維腫と診断された 1 例報告あり 胸腔鏡下手術が背部弾性線維腫の発生に関連した可能性が指摘されている (Yoshida C, et al. Surgical Case Reports 2017) 胸腔鏡下手術後胸壁に生じた背部弾性線維腫の 1 例が学会で報告されている 胸腔内へ進展してみえた部分は 10 年前の右下葉肺腺癌に対する胸腔鏡下手術での開胸部に一致しており 胸壁脆弱部から膨隆したものと考えられる 外傷後や術後 特発性に まれに 肋間から肺などが胸壁に脱出する intercostal hernia の報告が散見されるが 胸壁の軟部組織が胸膜腔内に脱出した Inverted intercostal hernia は非常に稀で 過去の報告では胸部手術後の 1 例報告を 2 例認めるのみであった
結語 胸腔鏡下手術後に開胸部付近に発生し 10 年後に比較的短期間に増大 胸腔内進展に類似する Inverted intercostal hernia を伴った背部弾性線維腫の 1 例を経験した
症例 4 大田市立病院放射線科 提示 第 85 回島根画像診断研究会 _2018 年 11 月 _ 松江テルサ
症例 :90 歳代 女性 主訴 : 右大腿前面の皮下腫瘤 現病歴 :2 年前に右大腿部前面に腫瘤を自覚するも大きさに消長あり 3ヶ月前は小さかったが 急速に増大したため受診した 経過中 疼痛などはなかった
T1WI 脂肪抑制 T2WI
T1WI 脂肪抑制 T2WI
考えられる疾患は?
解説
脂肪組織を巻き込む紡錘形細胞の増殖
多くの分岐する血管が見られる
病理診断 : 粘液型脂肪肉腫 現病歴 : 2 年前に右大腿部前面に腫瘤を自覚するも大きさに消長あり 3 ヶ月前は小さかったが 急速に増大 この経過は???
脱分化脂肪肉腫異型脂肪腫様腫瘍 ( 以前は高分化脂肪肉腫と呼ばれていた ) に脱分化が生じたもの 異型脂肪腫様腫瘍は giant marker chromosome や ring chromosome を有し 12 番染色体長腕上の MDM2 遺伝子や CDK4 遺伝子の増幅を特徴としており 脱分化が生じてもこれらの遺伝子変異は脱分化腫瘍細胞にも引き継がれる 粘液性脂肪肉腫 DDTIT3 遺伝子を含むキメラ遺伝子を特徴とし 脱分化を生じることはない 多形型脂肪肉腫脂肪芽細胞とともに多形性の細胞や多核巨細胞が存在する
症例 5 松江市立病院放射線科 提示 第 85 回島根画像診断研究会 _2018 年 11 月 _ 松江テルサ
40 歳代女性 : 過多月経 2 年前より月経不順 過多月経あり前医受診 右付属器に腫瘤を認め 当科紹介となる CA125:26.7 Hb:12.3
T2WI
T2WI
T1WI
T1WI
T2WI
DWI
ADC map
T1WI
造影 T1WI
考えられる疾患は?
解説
Mature cystic teratoma of the right ovary 組織学的に 多くの嚢胞が甲状腺濾胞そのものですが 他に線毛円柱上皮が覆う嚢胞や 毛髪 皮脂が充満する上皮の被覆がみられない嚢胞もあります また 線維性隔壁には甲状腺組織のほか 脂肪組織や汗腺などの皮膚付属器組織 神経組織などを認めます
卵巣甲状腺腫の特徴的画像所見 モダリティ 頻度 画像所見 腫瘍全体の形態 MRI/CT 6(/11) 分葉状 嚢胞内容 MRI 8(/10) T2WI 低信号 CT 6(/8) 80HU 以上 嚢胞壁の性状 CT 壁に沿った曲線状高吸収 充実部分の造影効果 MRI/CT 4(/4) 高度 - 中等度 合併腫瘍 MRI/CT 7(/11) 脂肪成分 拡散強調画像 ADC 低下なし MRI 3(/3) 元島成信 熊谷晴介 河村京子ほか : 卵巣甲状腺腫の画像所見 - 小倉医療センターにおける 11 例の検討 IRYO 72 巻 4 号 (162-168)2018
卵巣甲状腺腫 struma ovarii 奇形腫の所見のみならず 充実部分の造影程度と比較して ADC 低下のアンバランスを確認することが肝要である