長谷川 泰久著『愛知県がんセンター 頸部郭清術』サンプルpdf

Similar documents
Microsoft Word - 頭頸部.docx

<4D F736F F D2090E389BA81458A7B89BA8145E8F CC8EBE8AB E646F63>

解剖から見た扁桃周囲膿瘍・深頸部膿瘍

Kiyosue

本研究の目的は, 方形回内筋の浅頭と深頭の形態と両頭への前骨間神経の神経支配のパターンを明らかにすることである < 対象と方法 > 本研究には東京医科歯科大学解剖実習体 26 体 46 側 ( 男性 7 名, 女性 19 名, 平均年齢 76.7 歳 ) を使用した 観察には実体顕微鏡を用いた 方形

かかわらず 軟骨組織や関節包が烏口突起と鎖骨の間に存在したものを烏口鎖骨関節と定義する それらの出現頻度は0.04~30.0% とされ 研究手法によりその頻度には相違がみられる しかしながら 我々は骨の肥厚や軟骨組織が存在しないにも関わらず 烏口突起と鎖骨の間に烏口鎖骨靭帯と筋膜で囲まれた小さな空隙

目次(下部).indd

114 頭頸部 Ⅹ. 舌癌 1. 放射線療法の目的 意義舌癌は口腔領域 ( 舌, 口腔底, 頬粘膜, 歯肉 歯槽, 硬口蓋 ) に発生する癌のうち 約 50% を占める 舌は構音 摂食 嚥下と深く関わる臓器であり, 機能 形態の温存に優れる放射線治療のよい適応領域である 幸い舌組織は粘膜下が筋組織で

02-27(別紙6)甲状腺悪性 山口先生 先進医療評価用紙(第1-1号)

CPP approach Conjoint tendon Preserving Posterior Surgical Technique

1-A-01-胸部X線写真の読影.indd

嚥下防止術と誤嚥防止術

パンフレット

実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

第二回小テスト範囲胸筋 前頚三角 背部筋群 肩甲部 肋間筋と肋間隙 腋窩第三回プレ講義 p23 p25 p175 問題 1 乳房 breast には 皮下組織中の汗腺が変化した( 乳腺 mammary gland) が含まれており 乳汁を産生する 乳房は ( 胸筋筋膜 ) の前方に位置しており 結合


日比弓紀

<4D F736F F D2090B48F C834982DC82C682DF82502E646F63>

Microsoft PowerPoint - 口腔がんの画像診断_170406pr.pptx

cover

第1章-めざせ血管エコー職人.indd

臓器採取マニュアル ~腎~

第1分野 摂食嚥下リハビリテーションの全体像 1 総 論 2 摂食嚥下のリハビリテー 椿原彰夫 ション総論 Lecturer 川崎医療福祉大学学長 学 習目標 Learning Goals Chapter 1 摂食嚥下とその障害の概念が理解できる 摂食嚥下障害の治療目的がわかる 急性期 回復期 生活

A.L.P.S. Total Foot System LC

頭頚部がん1部[ ].indd

Microsoft Word - 学位論文の要約(最終版)Table修正後.docx

口腔底癌を呈した症例 ~動作・姿勢からみる嚥下機能~

腓骨皮弁による下顎再建

Microsoft PowerPoint - 口頭発表_折り畳み自転車


Taro-22.学術論文 第49回超音波

食道癌手術さて 食道は文字どおり口 咽頭から胃まで をつなぐ管状の器官でまさに食物を運ぶ道です そして縦隔と呼ばれる背骨の前方の狭い領域にあり 大動脈 心臓そして気管などと密に接しています さらに 気管とは私たちの身体が構成される過程で同じところから発生し 非常に密な関係にあります さらに発生の当初

であった まず 全ての膝を肉眼解剖による解析を行った さらに 全ての膝の中から 6 膝を選定し 組織学的研究を行った 肉眼解剖学的研究 膝の標本は 8% のホルマリンで固定し 30% のエタノールにて保存した まず 軟部組織を残し 大腿骨遠位 1/3 脛骨近位 1/3 で切り落とした 皮膚と皮下の軟

Ø Ø Ø

Microsoft Word - 眼部腫瘍.doc

立体切断⑹-2回切り

2015/04/06 ( 月 ) 人体解剖学総論 A 基本事項 A-2 医の倫理 *3 生と死に関わる倫理的問題を説明できる C-2-1) 身体の部位と方向用語 *1 身体の部位を解剖学的に区別できる *2 身体の方向用語を正確に用いることができる 近藤信太郎 2015/04/06 ( 月 ) 骨格

本文/開催および演題募集のお知らせ

PDF_Œ{Ł¶PDF.pdf

足関節

<4D F736F F D F90D290918D64968C93E08EEEE1872E646F63>

腹腔鏡下前立腺全摘除術について

ティッシュ エキスパンダー サイズ選択 アラガン社のティッシュ エキスパンダー (tissue expnder:te) で あるナトレル のサイズ選択の際に,height( 高さ ) と形態を表す M,F,S,L, 注入可能な projection( 突出度 ) を表す V および X, ~6cm

< 他者評価 > フィードバックコメント確認日サイン 1 年次 2 年次 3 年次 4 年次

心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患



日本臨床麻酔学会 vol.33

Locking Clavicle Plating System

るため各種検査では同定できないような細胞レベルでの転移に対しても効果が期待でき 投与方法が簡単ということです 欠点としては抗癌剤が全身に行きわたることによる全身的な副作用 食欲不振 倦怠感 悪心嘔吐などが起こることです また動脈投与と異なり 一度肝臓で解毒されてから癌細胞に対して攻撃を行いますから本

<303491E592B BC92B08AE02E786C73>

A: 中心光度の 98% の光度となるレンズ 部分 B: 直接光が図面上入射するレンズ部分 照明部の大きさとは 別に定めるもののほか 自動車の前方又は後方に向けて照射又は表示する灯火器又は指示装置にあっては車両中心面に直角な鉛直面への投影面積とし 自動車の側方に向けて照射又は表示する灯火又は指示装置

8. 本カリキュラムに基づいて 一年毎に研修者による研修成果の自己評価 指導体制の 評価 および指導医から見た研修者の評価を行うことが求められる 別途に定めた評 価用紙を使用することを推奨する 頭頸部がん専門医研修カリキュラム 1. 頭頸部がんの診断と進行期の決定一般目標頭頸部がんの診断と病期につい

1. はじめに 腹腔鏡の学び方 ある目的地に行くのに 初めの駅で電車を降りました 案内書には 1 駅を出て 郵便局の角を右に曲がって 100m ほど行くとスーパーマーケットがあり そこを左に曲がってください 2 正面に丸いドーム型の建物がみえます その建物の前を左に曲がって 次の曲がり角 を右に 次

9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

口腔がん はじめに 口腔がんとは 口の中とくちびるにできる がん のことです 口腔がんには舌や歯肉や頬のように口の中の表面を覆っている粘膜に発生するものと口の中に唾液を分泌している唾液腺 ( 耳下腺を除く ) に発生するものが含まれます いずれの場合でも口の中に できもの や しばらく治らない傷や荒

1)表紙14年v0

腹腔鏡下前立腺全摘除術について

頭頸部 95 原発部および画像的リンパ節転移陽性部には根治線量を加えるCTV1とする 術後照射では組織学的残存部 GTVが頭蓋底や上縦隔リンパ節領域に進展している場合には, 緩和医療としての照射になるので, 患者状態ごとに患者負担が大きくなり過ぎないように症状に合わせてCTVを設定する PTV: 上

採択演題一覧

2002 年 9 月 30 日 129 ー (77) 原著論文 各肺葉の解剖学的特徴を応用した切除肺葉の CT 診断法 尾辻秀章夫 1 甲川佳代子夫 1 西本優子女 2 大阪府済生会吹田病院放射線科 H 奈良県立医科大学放射線科 d Koukawa 刈 Yuuko Nishimoto 叫 はじめに肺

画像診断で頸部リンパ節転移を強く疑ったが組織学的に否定された舌癌の1例

<4D F736F F D2091E68E6C94C F096558A7782CC8CA9926E82A982E7817A>

<924A814092BC8EF72E656339>

Microsoft PowerPoint - 014新倉 仁

Microsoft PowerPoint - 印刷用 K-net dr身原(2014).pptx

Microsoft PowerPoint - 口腔がんの画像診断_180413pr.pptx

国土技術政策総合研究所研究資料

三角巾は 救急処置における包帯処置として 止血に必要な 圧迫 創傷部を空気に触れないようにする 被覆 打撲や骨折箇所を安静に保つための 固定 に使われます Ⅰ. 三角巾の名称 Ⅱ. 三角巾の形態三角巾の使用時の形態により主に3 種に区分されます 1. 全巾体表面を被覆 ( ガーゼ等の支持も含む )

< F31312D926E88E68E DAA8EBA82CC834A8145>

PowerPoint プレゼンテーション

第 447 回東京医科大学臨床懇話会 403 話 大 大 大 大 大 大 回 大 大 大 大 大 大 大 話 大 大 話 41 5 B 大 A B B A A 大 大 大 大 大 2 回 回 1 話 大 A B A 大 B 大 A B A CT 2009 大 A 大 大 大 1 大

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

はじめに 緩和ケア期には四肢や顔面 体幹部に浮腫を発症することがあります また発症していたリンパ浮腫ががんの進行で悪化することもあります がんの進行を抑える抗癌剤の一部には 副作 用で重症の浮腫を来すことがあります 緩和ケア期の浮腫の要因 病態は複雑で 癌性疼痛や神経麻痺 しびれなど 浮腫を治療する

牛枝肉取引規格の概要_表紙.indd

Microsoft PowerPoint - komatsu 2

肺採取術マニュアル

日産婦誌58巻9号研修コーナー

婦人科がんの手術療法

K-method

名称未設定-1

cover

PICC 挿入手順サマリー 詳細は各手順のページで解説されています 1 体位は仰臥位 できるだけ上腕を外転させる この体位で, 消毒をする前に穿刺する静脈をエコーで同定しておく (p.47) 3 ニードルガイドに穿刺用針を装着する (p.51) 消毒して覆布をかけ, エコープローブに

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

口腔がん登録 Q&A Ver /11/21 用語 定義に関する Q&A Q1.本調査に関する各用語の定義を教えてください 下記の図表を参照してください 各用語の定義等について 口腔内 口唇 口腔 顎骨中心性 UICCの Lip & Oral cavity 顎骨中心性) 舌 可動部 上顎

180204がん撲滅VER2資料用

<4D F736F F F696E74202D2088F38DFC B2D6E FA8ECB90FC8EA197C C93E0292E B8CDD8AB B83685D>

解剖学 1

potato voice( 熱いポテトを食べている時のような特徴的な声 ) があります また 同側のリンパ節腫脹を多く認めます 1) 咽後膿瘍 : 小児に多くみられる疾患で 80% が 5 歳以下です 小児の場合はリンパ節炎からの波及であることが多いといわれています 一方で 成人の場合は免疫不全の患

図 1-2 上腕骨の骨形態 a: 右上腕骨を上方からみたところ. b: 右上腕骨を外側よりみたところ. 上腕骨近位外側には大結節ならびに小結節という骨隆起が存在し, 結節間溝によって分けられる. 大結節は, その向きによって上面, 中面, 下面とよばれる 3 面に分けられる. く, 不安定である.

 

.V...z.\

201604_建築総合_2_架橋ポリ-ポリブテン_cs6.indd

U 開腹手術 があります で行う腎部分切除術の際には 側腹部を約 腎部分切除術 でも切除する方法はほぼ同様ですが 腹部に があります これら 開腹手術 ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術を受けられる方へ 腎腫瘍の治療法 腎腫瘍に対する手術療法には 腎臓全体を摘出するU 腎摘除術 Uと腫瘍とその周囲の腎

30

5

untitled

14

Transcription:

7 章 全頸部郭清術 全頸部郭清術は一側の全頸部リンパ組織を網羅的に切除する頸部郭清術 (Comprehensive neck dissection) である. 今日, 全頸部郭清が適用されるのは, 通常臨床的に頸部リンパ節転移が明らかな症例である ( 図 7-1). 切除される非リンパ組織 ( 内頸静脈 (V), 副神経 (N), 胸鎖乳突筋 (M)) により,ND (SJP / VNM) いわゆる根治的頸部郭清術から ND(SJP),ND(SJP / VM),ND(SJP / M) の根治的頸部郭清術変法 ( 保存的または機能的頸部郭清術 ) に大きく分けられる. 切離する面と縁は術式により異なるが, その郭清の手順は これはサンプルです印刷を禁止します 図 7-1 頸部郭清範囲 33

7 章全頸部郭清術 図 7-2 ND(SJP) 郭清横断図 図 7-3 外面アプローチ横断図 4 章の頸部郭清術の概念に基づいており, 基本的に同様である. 郭清は 4 つの面と 2 つの縁を順次切離するように行う.ND(SJP / VNM) の手順と要領は次のごとくである.1 外面 ( 深頸筋膜浅葉 ) を切離する,2 上面 ( 下顎骨下縁 - 乳様突起 ), 3 下面 ( 鎖骨上縁 ) に続いて4 後縁 ( 僧帽筋前縁 ) を切離し, 郭清組織を前方へ持ち上げながら5 内面 ( 深頸筋膜 ) を鋭的に切離する. 頸動脈鞘を開き必要な血管, 神経を残し,6 前縁 ( 前頸筋外側面 ) を切離する 59, 60). 他の非リンパ組織温存術式では, 手技が多少前後するため面と縁の順にも繰り返しが起きる. また, 原発巣切除を行う時は上面か前縁に原発巣が連なる. この章では筆者が行っている頸部郭清の実際について記すが, この方法が唯一無二ということではなく, 術者によりさまざまなやり方があると考える. 大切なことは解剖を理解し, 術前に術式のシミュレーションを行い, 想定した切離線, 切離面を正確に進むことである. そして, 切離線に対しては術者と助手で適切なカウンタートラクションを与えることである. 術者は助手に適切な指示を与え, 助手は次に術者が 次に何を行おうとしているかを先読みする必要がある. そのためには, 術者のみならず助手も郭清術を十分に理解していることが必要である. 1 ND(SJP) 頸部郭清術変法 この術式では非リンパ組織 VNM は全て温存される ( 図 7-2). 体位はヘッドダウンが可能な枕板を付けた手術台にて頸部を軽度進展させ, さらに頭頸部が水平になる程度に縦転位にさせて行う. 手術枕にて頭部を固定し回転を防ぐ. 頭部は健側に軽度回転させ, 必要に応じ手術台を横転位にする. 1 外面 : 深頸筋膜浅葉 A) 皮膚切開 ( 図 7-3) 原発部位と両側性かにより皮切が異なるが, 通常は Y(T) 字,J(U) 字皮膚切開を行う. 症例により横切開, 平行横切開を行う. 皮切で大切なことは, 皮膚面に垂直にメスを当てることと, カウンタートラクションを掛けて, 真皮, 皮下組織, 広頸筋と各組織を確認しながら切開を行うことである.U(J) 字皮切 34

1 ND(SJP) 頸部郭清術変法 図 7-4 皮膚切開図 7-5 皮切カウンタートラクション の縦切開で後頸三角部の縦切開ではメスが斜めに入りやすいのでメスを立てることに意識して切開を行う ( 図 7-4, 5). B) 皮弁挙上皮弁を広頸筋下で切離し挙上する. 皮膚鉤で十分に牽引し, 広頸筋面露出し, 浅頸筋膜が切 除側に付くようにこの間で剥離する. 皮弁作成の範囲は上下面と前後縁が十分に確認できる範囲である. 皮膚鉤は皮弁挙上の初めには皮下に掛けるが, その後に広頸筋に掛け直す. こうすることにより広頸筋面と筋膜とのカウンタートラクションが掛けやすくなる ( 図 7-6, 7, 8). 図 7-6 下顎骨下縁に向かう皮弁挙上 *1: 広頸筋 図 7-7 僧帽筋前縁の確認 *1: 僧帽筋前縁 35 図中は頭部方向を示す.

7 章全頸部郭清術 図 7-8 皮弁挙上後 2 上面 : 下顎骨下縁 - 顎二腹筋後腹 ( 図 7-9) 顎下部で顔面神経下顎縁枝を確認し, これを耳下腺部まで追求する. 顔面神経の確認は顔面動静脈と交差する位置で, 浅頸筋膜下に透見できる糸状の組織を探すと確認しやすい. 中枢側へ神経を追い求めながら耳下腺下極を切離し, 頸枝を確認して切離する. 多くの場合, 下顎後静脈に接するように上行してゆくので, そのあたりまで同定する. 下顎後静脈は浅側頭静脈と顎静脈とが合して形成される. 耳下腺内を下行して, 前枝と後枝に分かれる. 前枝は顔面静脈と舌静脈が合流する共通幹に流入して, 共通幹を介して内頸静脈に注ぐ. 後枝は, 後耳介静脈を受け, 外頸静脈となる. 外頸静脈を温存する場合にできれば下顎後静脈も温存するが, 多くの場合耳下腺下極とともに切離してもよい. 次に下顎下縁で顔面動静脈を切断し, 結紮糸とともに上方へ撥ね上げておく. こうすると, 下顎縁枝も挙上される. 下顎骨下縁に沿って, 結合織を切離し, 耳下腺部下極後方を切除し, 顎二腹筋後腹に達する ( 図 7-10 14, 37 39 頁 ). 頤下では対側の顎二腹筋前腹を直上にてこれに直角に筋膜 結合組織 脂肪組織を切離する. 下縁は舌骨上にてこれらを剥離する. 舌骨直上を底辺とし患側 対側顎二腹筋前腹を二辺とする二等辺三角形の組織を郭清する. 患側顎舌骨筋の方向へこの直上を郭清するが, 筋体を貫く頤下動脈の枝に遭遇することがありこれを結紮切離する. 顎舌骨筋辺縁に筋鈎を架けこれを牽引し, 顎下腺を下方に牽引しながら, 舌神経と顎下神経節, 舌下腺の一部と顎下腺管を確認し舌神経を残してこれらを切離する. この直下には舌下神経が舌骨舌筋外面に接して前上方に走行するので, 集簇結紮の際はこれを巻き込まないように舌下神経を確認しておく ( 図 7-15, 16, 17, 40, 41 頁 ). 顎下腺を外側に飜転して, 下顎骨下縁に沿って結合織を切離し, 耳下腺部下極を切除し, 顎二腹筋後腹に達する. 顎二腹筋後腹下縁にて顔面動脈を 2 重に結紮する ( 図 7-18, 41 頁 ). 胸鎖乳突筋と顎二腹筋後腹を乳様突起付着部近くまで確認しておく. 顎二腹筋後腹下縁を切離しこれに筋鈎をかけ挙上し, 結合組織下にあ 36

1 ND(SJP) 頸部郭清術変法 図 7-9 上面アプローチ 図 7-10 顔面神経の剥離 1: 顔面神経下顎縁枝 37

7 章全頸部郭清術 図 7-11 顔面動脈の剥離 図 7-12 耳下腺内顔面神経の剥離 1: 顔面神経下顎縁枝 *2: 耳下腺下極 3: 顔面動脈断端 4: 顔面静脈断端 38

1 ND(SJP) 頸部郭清術変法 図 7-13 耳下腺部下極の切除 図 7-14 顎二腹筋後腹の確認 *1: 顎二腹筋後腹 39

7 章全頸部郭清術 図 7-15 対側顎二腹筋前腹直上での切離 *1: 対側顎二腹筋前腹 図 7-16 顎舌骨筋辺縁での筋鈎による牽引 *1: 顎舌骨筋 *2: 顎二腹筋前腹 40

1 ND(SJP) 頸部郭清術変法 図 7-17 顎下腺を下方に牽引し舌神経と顎下神経節を確認 1: 舌神経 図 7-18 顔面動脈の結紮 41

7 章全頸部郭清術 る内頸静脈, 副神経, 内外頸動脈, 舌下神経を確認する. 副神経は通常この高さでは内頸静脈壁の前面または外側縁に沿って外下方に走るが, 内頸静脈の後面を通る場合や稀ではあるがこれを貫くように走行する場合もある. この部位は転移の好発部位であり, 顎二腹筋後腹と癒着するリンパ節があれば, 茎突舌骨筋との間で剥離し, 顎二腹筋後腹は切除側に付ける. 外頸動脈の枝で後方に向かい走行する後頭動脈も確認されるが, 転移リンパ節との癒着があれば合併切除をするが, なければ敢えて切除の必要はない ( 図 7-19, 20, 21). S 領域 (level Ⅰ) の郭清を行わない場合は顎下腺下縁にて結合組織を切開し, 舌骨から顎二腹筋後腹さらに乳様突起に至る. 3 外面 : 胸鎖乳突筋内面 ( 深頸筋膜浅葉内層 ) ( 図 7-22, 44 頁 ) A) 副神経後頸三角部副神経の温存は後縁 ( 僧帽筋前縁 ) から内面 ( 深頸筋膜 ) の郭清の過程で, 末梢側より中枢側に向かって行われる. 後頸三角部, 胸鎖乳突 筋部, 上内深頸部の 3 部よりなる. 副神経を同定する. 筋膜下の最も浅い位置をえらびモスキートで剥離する. 胸鎖乳突筋や僧帽筋の近くは神経の位置がやや深くなるのでその中間がよい. 胸鎖乳突筋外側縁 1/2 やや上から僧帽筋上部外側縁中下 1/3 にかけて後頸三角を斜走するので, その位置と方向を想定し剥離同定する. 筋膜下に透見されることも多い. 副神経を同定しこれを上下に剥離する. 神経鈎で軽く牽引しメスとモスキートで鋭的に剥離する. 中枢側は一部胸鎖乳突筋内まで追求しておく. 僧帽筋近くではやや深い走路となり筋の裏面に入る. やや下方にある外側鎖骨上神経も副神経とほぼ同様な層を走行するので間違えることがあるが, 胸鎖乳突筋外側縁では筋内へ入らず, これに沿うようにして深層へ向かうので鑑別することができる. 頸神経のいくつかが胸鎖乳突筋後縁と交差するこの部位を Erb's point( 神経点 ) という. この部位でのポイントは一番はじめに行う副神経の同定である. その走行をイメージし, 筋膜下を探すと確認できる ( 図 7-23, 24, 25, 44, 45 頁 ). 図 7-19 顎二腹筋後腹を筋鈎で牽引し内頸静脈と副神経を確認 1: 顎二腹筋中間腱 42