宇宙の始まりと終わり

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それを矛盾なくこの世の問題として解決できるような知恵が必要となる この世 ( 宇宙 ) のはじまり 1 はじまり より前 : 特異点 はじまりとは 時間の区切りの中で 終わりと共に特異な点となる 宇宙のはじまりにおいても この特異点は問題となっている この世のはじまりも 特異点で ビックバンと呼ばれ

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具合が大きくなり 一般相対性理論 3 に基づく重力の記述が破綻するためである この問題を解決する新しいアプローチとして 1997 年米国プリンストン大のマルダセナ教授は ブラックホールの中心を含めて正しく重力を記述する理論を提唱した この理論によれば ちょうどホログラムが立体図形の情報を平面上に記録

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ひも理論で探る ブラックホールの謎

い その 始まりの段階 が終わったのだ これからますます内容が豊富になり 誕生直後の銀河が見え どんどん肉づけがされていくのだ と述べている 我々の知の領域が増えれば増えるほど 知らなければならないことは増えていくのだ 天文学や宇宙学 物理学者たちの多くは これからの 2 30 年間が自分たちの研究

() 実験 Ⅱ. 太陽の寿命を計算する 秒あたりに太陽が放出している全エネルギー量を計測データをもとに求める 太陽の放出エネルギーの起源は, 水素の原子核 4 個が核融合しヘリウムになるときのエネルギーと仮定し, 質量とエネルギーの等価性から 回の核融合で放出される全放射エネルギーを求める 3.から

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/1 平成 年 1 月 7 日第 9 章膨張宇宙 t» t = 137億年になる (9.3) ハップルの法則がそのままで膨張宇宙を示すわけではない この法則は宇宙の中の極限られた一点 ( 地球 ) で見出されたにすぎない このままなら地球が宇宙の中心だということにもなりうるのだ ここで 宇宙は (

<91BA8E5290C428938C8B9E91E58A778D918DDB8D CA48B868F8A909495A898418C CA48B868B408D5C208B408D5C92B CD967B939682C982D082C682C282C882CC82A C2082B182CC92988ED282C995B782AF207C208CBB91E C8

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: =, >, < π dθ = dφ = K = 1/R 2 rdr + udu = 0 dr 2 + du 2 = dr 2 + r2 1 R 2 r 2 dr2 = 1 r 2 /R 2 = 1 1 Kr 2 (4.3) u iu,r ir K = 1/R 2 r R

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図 宇宙論解析の流れ 次元データの CMB の例 宇宙論ゆらぎ場 F (θ) の測定 左上図 ゆらぎ場のフーリエ波数分解 右上図 右下図は パ ワースペクトル推定の結果 灰色点は各波数ビンでの測定値 エラーバーを伴う青点は 複数の波数ビンで測定値を平均した結果 エラーバーとして 有限数のフーリエモー

また単分子層吸着量は S をすべて加えればよく N m = S (1.5) となる ここで計算を簡単にするために次のような仮定をする 2 層目以上に吸着した分子の吸着エネルギーは潜熱に等しい したがって Q = Q L ( 2) (1.6) また 2 層目以上では吸着に与える表面固体の影響は小さく

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クレジット : UTokyo Online Education 学術俯瞰講義 2016 河野俊丈 ライセンス : 利用者は 本講義資料を 教育的な目的に限ってページ単位で利用することができます 特に記載のない限り 本講義資料はページ単位でクリエイティブ コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止ライセン

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スーパー地球の熱進化と 磁場の寿命 立浪千尋 千秋博紀 井田茂 衛星系形成小研究会 2012 小樽

Transcription:

宇宙の始まりと終わり : I 始まり 日本大学文理学部総合科目 始まりと終わり 2006 年 4 月 10 日 14:40-16:10 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻須藤靖

今回の講義の目的 1. 宇宙に始まりがある と考えられる科学的根拠を理解する 2. 宇宙初期のインフレーション理論を概観する 3. 標準ビッグバン理論とはどのようなものかを理解する 4. 宇宙が誕生してから現在に至る約 137 億年の歴史を振り返る

1. 宇宙に始まりがある と考えられる理由

旧約聖書創世記天地創造 初めに 神は天地を創造 された カリフォルニア大学バークレー校のロゴ 地は混沌であって 闇が深淵の面にあり 神の霊が水の面を動いていた 神は言われた 光あ れ (let there be light) こうして 光があった http://www.is.seisen-u.ac.jp/~zkohta/bible/old_t/index.html

宇宙に始まりはあるか? 全く自明ではない基本的な問いかけ 始まりがあるとすると なぜ始まったのかと聞きたくなる その前は何だったのかと聞きたくなる 神様なしで このような禅問答を避けるには 始まりも終わりもなくずっと同じ状態のまま 無限に輪廻転生を繰り返すのどちらかだと考えたほうがずっとすっきりする つまり 哲学的 宗教的には 宇宙に始まりはない あるいは 創造主がいる ことにしないと面倒 しかし 科学的には 始まりはある とされる

天文観測 : 宇宙膨張の発見 エドウィンハッブル (1889-1953) 遠方の銀河はその距離に比例した速度で遠ざかっていることを発見 (1929 年 ) http://www.mtwilson.edu/history

ハッブルの法則の非民主的解釈 我々は宇宙の中心である! すべての銀河が我々の銀河系を中心にして かつその後退速度が距離に比例するような特殊な関係を満たしながら運動している

ハッブルの法則の民主的解釈 ハッブルの法則は 我々の銀河系を中心とした場合に限らず宇宙のどこでも成り立つこの法則は 単に個々の銀河の運動ではなく 宇宙があらゆる場所で全体として一様等方に膨張している結果

ハッブルの法則と宇宙年齢 ハッブル定数の逆数は宇宙年齢の目安 ) 1/(100 km/s/mpc 100 1 0 億年 = h h H 後退速度が一定ならば d/v だけ過去に遡れば宇宙全体が一点に集まる後退速度が一定ならば d/v だけ過去に遡れば宇宙全体が一点に集まる億年の場合億年 140 0.71 100 1 v 1 0 0 = = = = H H t h h H d H d d t d v 宇宙には始まりがある! 進化する!

一般相対論と進化する宇宙 アルバート アインシュタイン (1879-1955) 一般相対論の完成 (1916 年 ) 自然な帰結である 始まりがある 宇宙を避けるため 理論を修正し宇宙項を導入 アインシュタインの静的宇宙モデル (1917 年 ) ハッブルの発見によりこの修正を撤回 自ら 人生最大の失敗 と評す (1929 年 )

特異点定理 英国のロジャー ペンローズとスティーブン ホーキングによって 一般相対論によれば初期特異点 ( 宇宙の始まり ) が必然的に存在することが証明された (1970 年 ) 強いエネルギー条件 (ρ+3p>0) が満たされている限り過去に R(t)=0 となる点が存在する あくまで古典論の結果であり 量子論を考慮すれば物理的には厳密な特異点は存在しないだろうと期待されている

2. 宇宙のインフレーション

宇宙に関する 2 つの謎 なぜこんなに大きい?( 平坦性問題 ) 物理法則から決まる自然な宇宙のサイズは 10-33 cm ( プランク長さ ) 現在観測できる宇宙の大きさは137 億光年 10 28 cm ( ハッブル半径 ) 60 桁以上も大きいのは極めて不自然! なぜどこもほとんど同じ姿?( 地平線問題 ) 宇宙誕生 137 億年後に初めて地球で遭遇した光でみる正反対側の宇宙の姿が全く同じ 因果律と矛盾? ( 宇宙の談合?)

宇宙のインフレーション 誕生直後の宇宙がほぼ瞬間的に何十桁も膨張したとすればこれらの問題は解決できる! 1981 年 アメリカのアラン グースと日本の佐藤勝彦が独立に提案 当時の素粒子の統一理論からの自然な帰結 グースにより インフレーション 理論と命名される インフレーション理論の完成へ 提案後 4 半世紀経った今でもあらゆる観測と矛盾しない優れた仮説 しかし 最近の統一理論からは必ずしも自然に導かれる結果ではなくなった 理論を具体的に完成させることが重要な課題

宇宙のインフレーションを起こす機構 実は良くわかっていない 予想されている大まかなシナリオ 宇宙初期には様々な異なる 真空 が存在 不安定な偽の真空状態 は 安定な真の真空状態 へ転移する際に急激な膨張をする この偽の真空状態が持っていた潜熱 ( 真空のエネルギー ) が解放されることによって宇宙を加熱し 標準的ホットビッグバン宇宙に到達する 宇宙の誕生は超高エネルギーにおける素粒子物理によって記述される 宇宙の歴史 = 素粒子の相互作用の歴史 今後解明されるべき研究のフロンティアの一つ

自然界の 4 つの相互作用と相転移 第 1 の真空の相転移 ( 重力の誕生 ) 第 2 の真空の相転移 ( 強い力の誕生 ) 4 つの基本相互作用の分化は 宇宙の歴史に刻印されている 第 3 の真空の相転移 ( 弱い力の誕生 ) 第 4 の真空の相転移 ( 陽子の誕生 ) 佐藤文隆 佐藤勝彦 自然 1978 年 12 月号より

インフレーションシナリオ的宇宙観 インフレーション前 : 空間の異なる領域はそれぞれ異なる初期条件 ( 例えばインフレーションを起こす場の初期値 ) を持つ インフレーション後 : 適切な初期条件を持った領域だけが指数関数的膨張をし 現在の ( 我々の ) 宇宙をつくることができる 現在の宇宙の地平線 ( 因果関係を持ちうる観測可能領域 )

インフレーションシナリオ的多重宇宙像 ( 佐藤勝彦氏提供 )

多重宇宙 並行宇宙 インフレーション理論は我々の宇宙以外の多重宇宙 並行宇宙の存在を予測 各々の宇宙で物理法則が異なっているかも知れない マックス テグマーク 並行宇宙は実在する? 別冊日経サイエンス 149(2005) 98

3. 標準ビッグバン理論宇宙の誕生宇宙の誕生CMB温度ゆらぎCMB温度ゆらぎ宇宙の大構造宇宙の大構造38 万年 137 億年量子ゆらぎの生成宇宙の再電離第一世代天体の誕生銀河の形成銀河団の形成軽元素合成軽元素合成4 億年現在t

ビッグバン宇宙論の観測的証拠 ハッブルの法則 十分遠方にある銀河はすべて我々に対して遠ざかっている 軽元素の起源 現在の宇宙には大量のヘリウムが存在する ( 質量密度にして全元素の約 25% ) 宇宙マイクロ波背景輻射 現在の宇宙は 等方的な強度分布を示す電磁波 ( 絶対温度約 2.7K に対応する熱放射 ) に満たされている

ジョージガモフ (1904-1968) 宇宙の元素の起源を説明するべく ホットビッグバン理論を提唱 その帰結として 宇宙マイクロ波背景輻射の存在を予言 原子核物理 宇宙論 分子生物学等の多岐の分野にわたり 極めて独創的なアイディアを発表するとともに 優れた啓蒙書を著した

ビッグバン元素合成の基礎過程 宇宙誕生最初 の三分間 重水素合成が第一ステップ いったん重水素ができると二体反応の積み重ねによって直ちにヘリウムが合成される 宇宙の温度が一億度以ただし 質量数 5,8をもつ下安定な原子核が存在しない ( 宇宙誕生後約 3 分後 ) ため それ以上の重元素のとなって初めて十分な量合成は起こらないの重水素が生成される

我々は星の子供 : 宇宙の元素循環 ビッグバン後 最初の 3 分間で合成された軽元素から 数億年後に第一世代の星が誕生 星の内部で重元素が合成され それが星の進化の最終段階で宇宙にばらまかれる それを材料として次の世代の天体が誕生 この過程の繰り返しが宇宙での元素循環 我々は かつて宇宙のどこかで生まれた星の内部で合成された重元素 さらには宇宙最初の 3 分間で合成されたヘリウムを材料としている!

ビッグバン 天体形成史 元素循環 太陽系 地球 生命

宇宙マイクロ波背景輻射 (CMB) CMB: Cosmic Microwave Background CMB: Cosmic Microwave Background 宇宙の晴れ上がり 誕生後約 38 万年で温度が 3000 度程度に下がった宇宙で 電子と陽子が結合して水素原子となる この宇宙の中性化により 宇宙は電磁波に対して透明となる CMB は 晴れ上がり直後の宇宙を満たしていた電磁波の名残り ( 今から 137 億年前の宇宙の光の化石 ) 宇宙の誕生宇宙の誕生CMB温度ゆらぎCMB温度ゆらぎ宇宙の大構造宇宙の大構造38 万年 137 億年量子ゆらぎの生成宇宙の再電離第一世代天体の誕生銀河の形成銀河団の形成軽元素合成軽元素合成4 億年現在t

初めに光あれ 神は言われた 光あれ (let there be light) こうして 光があった 旧約聖書創世記天地創造はすでに現在のビッグバン理論 (1946 年 ) にかなり迫っていた!

CMB 温度ゆらぎ地図の変遷 CMB の発見 宇宙の等方性 10 万分の 1 の非等方性発見 NASA/WMAP Science Team インフレーション理論の検証

宇宙の構造形成標準理論 宇宙初期の空間ゆらぎ 小さなスケールの構造ほど初期に形成される いったんできた構造が重力的に合体あるいは集団化することで より大きなスケールの構造へと進化する 万有引力 ( 重力 ) によってでこぼこ度合いがどんどん成長する

宇宙構造進化シミュレーションの例 吉川耕司 樽家篤史 景益鵬 須藤靖 (2001) ダークマター分布の進化 X 線で見る現在の高温ガス分布 可視光で見える現在の宇宙の銀河分布

4.137 億年の宇宙史

宇宙の歴史 t~10-40 秒 : インフレーション 量子ゆらぎの生成 t~3 分 : ヘリウム合成 t~38 万年 : 宇宙の中性化 宇宙の晴れ上がり t~4 億年 : 第一世代天体の誕生 t~8 億年 : 宇宙の再電離ほぼ終了 t=8 億年 ~ 137 億年 : 銀河形成 銀河団形成 宇宙の大構造 t~137 億年 : 現在宇宙の誕生宇宙の誕生CMB温度ゆらぎCMB温度ゆらぎ宇宙の大構造宇宙の大構造38 万年 137 億年量子ゆらぎの生成宇宙の再電離宇宙の再電離第一世代第一世代天体の誕生天体の誕生銀河の形成銀河の形成銀河団の形成銀河団の形成軽元素合成軽元素合成4 億年現在t

宇宙を見る 目 の進歩 http://oposite.stsci.edu/pubinfo /PR/96/01.html 地上 5m 5 望遠鏡 + 写真乾板 100 万 人間の眼 地上 4m 望遠鏡 +CCD+ CCD: 100 写真乾板 ハッブル宇宙望遠鏡 +CCD+ CCD:1000 地上望遠鏡

衛星によってさらなる宇宙の果てを見る宇宙で最初の光宇宙で最初に生まれた星古い銀河 最も古い銀河 第一世代の星の誕生 最古の光 38 万年 4 億年 10 億年現在 137 億年 http://lambda.gsfc.nasa.gov ハッブル宇宙望遠鏡 次世代宇宙望遠鏡 WMAP 衛星 ( 電波 ) NASA/WMAP サイエンスチーム提供

38 万歳の宇宙から 137 億歳の現在へ NASA/WMAP サイエンスチーム提供 http://lambda.gsfc.nasa.gov

今回の講義で学んだこと 1. 宇宙には始まりがある ハッブルの法則と特異点定理 2. インフレーションが宇宙を大きく滑らかにした 地平線問題と平坦性問題の解決 多重宇宙の存在? 3. 宇宙最初の 3 分間で合成された軽元素 およびその後約 100 億年にわたって星の内部で合成された重元素が我々の体の材料 我々は星の子供 祖先はビッグバン宇宙とお星様 4. 初めの 光 の時代の後 物質間の重力によって宇宙の階層構造が形成され 137 億年の今に至る 宇宙マイクロ波背景輻射

今回の講義のまとめ この講義ファイルは http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~suto/mypresentation_2006j.html からダウンロード可能 宇宙に始まりはあったか? あった 宇宙はなぜ始まったのか? わからない にもかかわらず 誕生後ナノ秒以降の宇宙の歴史はかなり正確に理解されている インフレーションの起源およびそれ以前の宇宙の進化 歴史の理解はまだまだ発展途上