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異物の落下事故発生時の対応として あわてて体位を起すことは消化管 肺内への落下を助長する危険性があるため 横臥位にして咳を促すとともに 背中を殴打する背部殴打法を行い 反射を促す 誤嚥 誤飲時の臨床症状としては食道 胃内への誤飲の場合には特に症状はなく 咽頭部を通過する際の違和感がある程度であるが 咽頭 喉頭部への落下の場合には嗄声 喘鳴がみられ 異物の大きさによっては窒息の危険性がある 気管 気管支の場合も咳 喘鳴 呼吸困難 チアノーゼなどの症状がみられるが 異物が小さい場合には気管支内では時に症状が全く認められないこともある 症状がないからといって肺内ではないと判断することは危険であり 異物の落下事故の発生時には 咽頭部に異物が確認でない場合には必ずエックス線撮影を行い 異物の確認を行う 異物が小さい場合には脊椎や胸骨と重なると判断が困難なこともあり 正面 側面の 2 方向の撮影を依頼することが望ましい ( 図 1) また CRインレーや印象材などはエックス線透過性であるため 医療機関に落下物と同じものを持参すことが重要表 3 誤嚥 誤飲の発生頻度 で エックス線透過性のものではCT 検査で確認することが必要になる場合もある いずれにしても落下異物の部位を診断することが重要である 肺内にあれば 内視鏡的あるいは外科的に取り除く必要がある 消化管内では自然排出されることがほとんどであるが ( 図 2) リーマーなど先端が鋭利なものでは内視鏡的に除去可能な上部消化管であれば取り除くことが望ましい 自然排出までの期間は翌日が31% 2 日までが54% 7 日までが92% で 平均では3.4 日であったと報告されている 4) が 必ずエックス線写真にて排出を確認しなければならない 万一 5 日以上同部位に停滞する場合は外科的摘出が安全と言われている 誤嚥 誤飲に対するリスクマネージメント 1) 口腔内での装着操作やリーマーなどの小器具使用時には落下事故が起こる可能性があることを意識する 2) 落下事故は水平位診療が最も多いことを認識する 3) 注射針 洗浄用シリンジ タービンバーなどの緩みを術前に確認する 4) 発生時には必ずエックス線写真で確認し 最終排出まで確認する 100 90 80 70 60 50 40 30 20 98 2. 術中 術後の異常出血術中 術後の異常出血が起こる原因として 全身的な要因と局所的な要因が考えられる 全身的な要因としては再生不良性貧血 血小板減少性紫斑病 血友病や白血病などの出血性素因疾患 肝硬変による血小板減少 腎透析時のヘパリンの使用 糖尿病 ワルファリンや抗血小板薬の抗凝固療法を受けている場合などがある 局所的要因と 10 0 11 図 1 金属冠の誤嚥 ( 正面 側方胸部 X 線写真 ) 図 2 金属冠の誤飲 ( 正面腹部 X 線写真 ) 27

しては術中の血管損傷 根尖病巣などの不良肉芽の残存 急性炎症巣への外科的操作 歯槽骨 顎骨骨折 局所の線溶亢進などがある 全身的要因に対してはまず問診により十分に病状を把握することが重要であり 特に外科的処置を行う場合には怠ってはならない そして術前に担当医科に照会して 病状の確認を行うとともに病状に応じて外科的処置の可否を判断しなければならない 近年 抗凝固療法を受けている患者さんが増加傾向にある 抗凝固療法中の抜歯に関して 2004 年の循環器疾患ガイドラインでは抗凝固薬および抗血小板薬の中断無く INRの維持量投与下で抜歯することが望ましいと記載されている 5) また INR 維持量下では確実に局所の止血処置を行えば術後の出血のリスクは低いと言われている 6) 局所的要因に関しては口腔領域の局所解剖を熟知し 丁寧な手術操作を行い 血管を損傷しないように心がける 出血の処置としてはまずあわてずに圧迫を行い その後 生理食塩液などで血餅を取り除き 軟組織からの出血か 硬組織からの出 図 3 局所止血剤右 : 吸収性酸化セルロース ( サージセル R ) 左 : ゼラチンスポンジ ( スポンゼル R ) 図 4 吸収性酸化セルロースの抜歯窩への填塞と縫合による止血 血かどうか 出血点を確認する 軟組織からの出血で 出血血管が確認できれば 止血鉗子を用いて血管結紮を行う 出血点が確認できない場合にはでボスミン液を浸したガーゼなどを用いて圧迫を行う また切開創からの出血では縫合を行うことも効果的である 抜歯窩からの出血では酸化セルロースや吸収性ゼラチンスポンジなどの局所止血薬 ( 図 3) を抜歯窩に填塞し 圧迫や歯肉を縫合して止血する ( 図 4) 出血に対するリスクマネージメント 1) 術前の問診により家族歴 既往歴 服用薬剤など全身的な要因をスクリーニングする 必要に応じてスクリーニング検査を行う 2) 動脈の位置 下顎管の位置など局所解剖を熟知する 3) 丁寧な手術操作を心がける 4) 確実な止血操作を行う 3. 異物の迷入異物の迷入には抜歯時の歯や注射針 メス 靭帯剥離子 スケーラー エキスカ 挺子 バーなどの破折片などが報告されている これらの異物の迷入はアクシデントあるいは医療事故の範疇に入るものもある 歯の迷入で最も多いのは上顎洞への迷入で 他は頻度が少ないが 頬部への迷入 口底側への迷入が起こる ( 図 5) 1) 上顎洞への歯の迷入上顎洞への迷入の種類としては歯が最も多いが 他にインプラント 根充剤などがある 上顎洞の歯の迷入には上顎洞内へ迷入する場合と上顎洞粘膜下に迷入する場合がある 迷入する頻度の高い部位は第 1 大臼歯である 解剖学的に上顎洞への歯根露出率は上顎第 1 大臼歯口蓋根がもっとも高く 次いで第 2 大臼歯口蓋根 大臼歯頬側根 第 2 小臼歯の順で 上顎小臼歯 大臼歯 L 図 5 抜歯時の歯の迷入 ( 右より上顎洞内 頬部 口底部 ) 28

を抜歯する場合には 上顎洞底と歯根尖との関係をエックス線的に確認する 特に 残根抜歯の際 歯根膜腔隙に確実に挺子を操作し 歯根に直接根尖方向への力がかからないように注意することが重要である ( 図 6) 迷入歯に対する対処法はまず エックス線写真にて歯の位置を確認した後 抜歯窩を拡げてアプローチする方法と 犬歯窩を開削してアプローチする方法がある 抜歯窩より確認できない場合には犬歯窩からのアプローチが確実である ( 図 7) 迷入歯を抜去した後は抜歯窩の閉鎖術を施行する ( 図 8) 2) 口底への歯の迷入下顎智歯抜歯の際 舌側の骨膜下や骨膜を破っ て口底側への軟組織内に迷入する場合がある これは下顎智歯舌側の歯槽骨が菲薄なため 破折しやすい解剖学的な形態によるところがある ( 図 9) また 時に下顎智歯部の根尖部に骨の消失がみられるものがあり 歯に押し込むような力がかかると容易に舌側に迷入するので注意する 迷入が生じた場合にはいたずらに抜歯窩からアプローチするのではなく 抜歯窩より迷入歯牙が確認できる場合でも エックス線 ( 必ず2 方向 パノラマと咬合法 ) で迷入歯の位置を確認する 摘出はいたずらに抜歯窩よりアプローチを試みると かえって口底深部に押し込むことになり 舌側の骨膜を剥離し 迷入歯を直視下に摘出する 確認できない場合にはCT 撮影を行い 位置を正 図 6 挺子による歯根の上顎洞内への迷入 ( 野間ら 7) より引用 ) 図 7 左側上顎第 1 大臼歯部のインプラントの上顎洞迷入 ( 犬歯窩より摘出 ) 図 9 下顎智歯部の舌側の形態根尖部にて骨が菲薄となっている ( 矢印 ) 図 8 上顎洞閉鎖術 : 頬側粘膜骨膜弁法 ( 右より切開線 粘膜骨膜弁の移動 終了時 ) 29

確に確認する ( 図 10,11,12) この場合には専門医に依頼したほうが望ましい 迷入が認められた場合には取り除かなければならない 図 10 左側下顎智歯時の舌側への迷入 ( 矢印 ) 異物の迷入に対するリスクマネージメント 1) 手術操作時に決して無理な力をかけない 2) 根尖と上顎洞との関係や下顎智歯部の形態など局所解剖を熟知する 3) 迷入が疑われた場合にはエックス線検査 ( パノラマ CTなど ) にて確認する 4) 上顎洞に穿孔がみられた場合には 上顎洞閉鎖術を行う 5) 器具の破損 迷入が疑われた場合には 必ずエックス線写真にて確認する L 図 13 下顎智歯抜歯時のバー破折片の口底迷入 ( 矢印 ) 図 11 同症例の CT 写真口底軟組織内への迷入を認める 図 14 術中および摘出物 ( ゼクリアバーの破折片 : 矢印 ) 図 12 術中写真舌側歯肉口底移行部より摘出 3) 異物の迷入異物の迷入には切削バー 注射針 エキスカ スケーラーなど器具の破折片がある 器具の破折が起こる場合には誤った使用や 無理な使用 器具の管理不足などに関係していることが多い ( 図 13,14) 器具の破折が疑われた場合にはエックス線撮影を行い 破折片を必ず確認するとともに 4. 神経麻痺 神経損傷歯科治療に関連する神経麻痺には下歯槽神経麻痺 ( オトガイ神経麻痺 ) と舌神経麻痺の頻度が高い 下歯槽神経麻痺の原因として下顎孔伝達麻酔 下顎の智歯抜歯 インプラントや根尖掻爬など手術に関するものが多い 他にはオトガイ孔部への浸潤麻酔 オトガイ孔部の膿瘍切開 根管治療に伴う薬剤や根充剤の根尖孔外への漏出などがある 舌神経麻痺の原因としては下顎孔伝達麻酔 下顎智歯抜歯時の舌側への侵襲などがある 神経損傷を避けるためには エックス線的に下歯槽神経の走向 位置 オトガイ孔の位置を術前に確認しておくことが基本である また舌神経の走向は下顎智歯の舌側に位置しているため 神経走向部位を熟知しておく ( 図 15) 下歯槽神経麻痺のうち下顎智歯抜歯に関係するものが最も多く その発現頻度は0.4~5.5% と報 30

告されている 8) 下顎智歯抜歯時の神経障害に関しては術者の技術もあるが 術前の診断が最も重要であり パノラマエックス線写真にて智歯根尖部と下顎管との関係を確認する ( 図 16) パノラマX 線写真にて下顎管壁が不明瞭であれば抜歯時の神経露出の頻度が高く 明瞭な症例と術後の神経麻痺の頻度に有意差が認められたと報告されている 8) パノラマエックス線写真にて下顎管壁が不明瞭な症例ではCTや3D-CTにて より詳細な画像診断を行うことが望ましい 神経麻痺の治療としてはできるだけ早期に 薬物療法としてビタミンB12 製剤 ( 商品名メチコバール ) の投与や交感神経ブロック療法 ( 星状神経節ブロック ) を行う 神経麻痺は患者さんにとって精神的に苦痛を与えることになり 医療訴訟につながることも少なくない そのため 術前のインフォームド コンセントがきわめて重要である 神経麻痺に対するリスクマネージメント 1) 下顎管の位置 オトガイ孔の位置 舌神経の走行など局所解剖を熟知する 2) 術前の画像診断にて下歯槽神経と根尖 病巣との関係を十分に確認する 3) 術前のインフォームド コンセントを十分に行う 4) 歯の分割 骨の切削など丁寧かつ慎重な手術 操作を行う 5. 気腫気腫とは大量の気体が皮下や疎性結合組織内に侵入し 貯留することにより生じる 歯科治療に伴う気腫の発生原因は歯の分割時などエアータービン使用に関連するもの ( 図 17,18) とエアーシリンジ使用時が多い 他に根管治療時のH 2 O 2 の発泡や呼気圧の変化などにより発生している 部位別頻度では上顎では犬歯の根管治療に関連して発現し 下顎では智歯の抜歯に関して多く報告されている 気腫発生時の症状としては突然の顔面 頸部の腫脹 腫脹部皮膚の捻髪音 疼痛がみられる 気腫の範囲が広く 気管周囲や縦隔部に波及すると呼吸困難を訴えることもある また 症状が急激に発現するため 患者に心理的動揺をもたらす 気腫が認められた場合には はじめに気腫が発現したことに対して十分な説明を行う その後 CT (mm) (mm) (mm) S.D. H V 2.06 0.00 3.20 ±1.10 3.01 1.70 4.40 ±0.42 図 17 左側上顎中切歯髄腔開放時に発現した気腫左側上眼瞼 頬部および頸部に腫脹を認める ( 矢印 ) 図 15 下顎智歯部での舌神経の位置 図 16 下顎智歯根尖と下顎管壁との関係 ( 右 : 下顎管壁明瞭 左 : 不明瞭 ) 図 18 同症例の CT 像左側側頭部 頬部および頸部に気腫を認める ( 矢印 ) 31

検査を行い 気腫の範囲を確認する 治療は感染予防として抗菌薬の投与を 5 日 ~1 週間行い 安静を指示する 予後としては約 1 週間程度で腫脹はほぼ消失する の承諾を得る 4) 対処法 予後を説明する 5) 説明内容をカルテに記載する 6) 十分な経過観察を行う などの基本的態度を忘れずに対応することが重要である 気腫に対するリスクマネージメント 1) 創部に圧縮空気が排出されるエアータービンの使用は避ける 2) エアータービンの方向や深さに注意する 3) 粘膜弁の作成は必要最小限とする ( 特に智歯抜歯の際 内斜線より舌側を超えない ) 4) 不用意なエアーシリンジの使用は避ける 5) できるだけ過酸化水素水の使用は避ける 6) 処置後の咳やくしゃみ 楽器の演奏などは避けるように指示する 7)CTにて気腫の範囲を確認する 日常臨床の中で頻度の高い偶発症について述べたが 共通していることは 日常の歯科臨床の中で 医療事故と同じように偶発症をゼロにすることは不可能である 従って 1) 起こりうる偶発症を理解する 2) 偶発症の起こりやすい状況を熟知する 3) 患者の体位や術者の姿勢 正しい器具の取り扱いなどの基本を遵守する 4) 起こりうる偶発症について術前に十分に説明を行う 5) 発生時の対応策について熟知する ことを常に念頭においておく必要がある また 偶発症の発生は患者さんに余分な身体的 精神的苦痛を与えることになるため 万一 偶発症が発生したとしても 医療訴訟に至ることがないよう 私たちは責任を持った対応が望まれる そのために 偶発症発生時には1) 丁寧な説明と誠意ある対応を行う 2) 起こった出来事の内容を十分に説明する 3) エックス線写真などによる確認すること 稿を終えるにあたり 大阪歯科大学同窓会報に発表の機会を与えていただきました関係の先生方に心より感謝申し上げます 文献 1) 角田哲 佐藤弘ほか : 宮城県における歯科治療時の偶発症についてのアンケート調査結果 みちのく歯学誌 19 54-55 1988 2) 笹尾真美 野口いずみほか : 歯科治療時の異物事故についての検討歯科麻酔誌 25(5) 723-730 1997 3) 菅原千恵子 高橋章ほか : 徳島大学歯科診療部門における誤飲 誤嚥の実態調査四国歯誌 19(2) 225-262 2007 4) 牧浦倫子 : 抗血栓療法中の抜歯後出血の管理 総合臨床 54:2278-2285 2005 5) 循環器疾患における抗凝固 抗血小板療法に関するガイドライン : 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2002 2003 年度合同研究班報告 ) 2004 6) 立木孝 斉藤達雄ほか : 胃に落下した異物の転帰について. 耳喉 53:57-60 1981 7) 野間弘康 金子譲 : カラーアトラス抜歯の臨床 医歯薬出版東京 1991 野間弘康 佐々木賢一監修 : カラーグラフィックス下歯槽神経麻痺 第 1 版 医歯薬出版東京 2001 8) 田中俊憲 伊東隆利 : 下歯槽神経麻痺の予防策について 日本歯科評論 671:91-102.1998 32