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The TRC News, 272-4 (December 27) ) 高周波誘電率測定からわかること 材料物性研究部 河出直哉 古島圭智 要旨本稿では誘電緩和と呼ばれる現象について説明するとともに いくつかの物質 ( 食品 医療用高分子材料 電解質膜 絶縁材料 ) について 数百 MHz~ 数十 GHz の周波数域での測定事例を紹介する 誘電緩和を調べることにより 材料中の分子の動きやすさや電波に対する応答を定量的に知ることができ 材料の評価 選定の指針や品質管理に利用することができる. はじめに ( 身近な現象 ) 2. 誘電緩和現象と測定法 レーダー研究の副産物として生まれた電子レンジは 今や生活必需品となり 人々の食生活をより豊かにしてくれている 電子レンジの優れている点は ポリ容器や陶器の皿は温まらず 食品のみを温めることができることである これは 電子レンジから照射される電波 (2.45 GHz: 日本における規格値 ) によって食品中の水分子が揺れ動き 熱エネルギーが生じる仕組みを利用している 一方 ポリ容器などではこの現象が起こらず 電子レンジで温めることはできない これら現象は物質中に生じた分極が時間とともに緩和する 誘電緩和 で説明される 誘電緩和は材料を構成する分子の動きやすさを反映するため 材料の電波や電場に対する応答性 ( 誘電率 ) の評価に留まらず 材料開発における分子構造の設計 選定の指針や製品の品質管理に利用することができる 本稿では誘電緩和について簡潔に説明すると共に 数百 MHz~ 数十 GHz の周波数域における誘電率測定に基づく誘電緩和挙動の解析事例を紹介する 2. 誘電緩和とは電場に対する分子の応答を図 に模式的に示す 図 電場に対する分子の応答分子内に電荷の偏り ( 双極子 ) がある誘電体において 電場が印加されていない状態では 図中 に示すように分子はバラバラの方向を向いており 分極は生じていない この状態から 誘電体に電場を印加すると図中 2に示すように 自由な方向を向いていた分子は電場から遅れて向きが揃い始める この分子配向の遅れは分極の遅れとして観測される ( 分極は指数関数的に変化する ) さらに 分子の向きが揃った状態 ( 図中 3)

The TRC News, 272-4 (December27) から電場を取り去ると 熱運動等により図中 4に示すように 分子の向きが元の自由な状態に戻っていく この現象を誘電緩和と呼ぶ また 電場を取り去った後に分極の大きさが /e (e はネイピア数 ) になるまでにかかる時間を緩和時間と呼び ( 図 参照 ) 分子の運動性の指標として用いられる 次に 誘電体に対して周期的に電場を反転させた ( 交流電場を印加する ) 場合を考える このとき 誘電率は周波数の関数として表され 式 () に示すような複素数表示となる e* = e' -ie '' ここで e * を複素誘電率 e を誘電率 ( 分極の大きさを表す成分 ) e を誘電損率 ( 分極の遅れを表す成分 ) といい i は i 2 = -である なお e およびe も周波数の関数として表される また 誘電体内において電気エネルギーの一部が熱エネルギーとして失われる度合いは誘電正接 tand (=e /e ) で表される 誘電体に交流電場を印加する場合 電場を低周波数でゆっくりと反転させると 分子は電場の動きに完全に追従し 分極の遅れは見られない ところが 周波数が高くなると 電場の反転に分子の動きが追従できなくなり分極も遅れる ( 周波数の増大に伴い e は小さくなり e はピークを示す ) 周波数が更に高くなると 分子はもはや電場の反転に完全に追従できなくなり分極は起こらない 周波数を変えて e およびe を調べることで 分子が電場に追従できなくなる過程がわかる この情報をもとに 分子の動きやすさ ( 緩和時間 ) や誘電緩和を起こす分子の量を定量することができる 測定例として 室温における純水の e e - 周波数曲線を図 2 に示す 周波数の増大に伴い 2 GHz 付近からe が減少し 2 GHz 付近でe がピークを示す e のピーク周波数の逆数は緩和時間 (t = /2p f t: 緩和時間 f : ピーク周波数 ) に相当し純水の緩和時間は 8 ps となる () 誘電率 ε ' 純水 ε' 5 t = 8 ps ε''. 図 2 純水のe e - 周波数曲線なお 純水の e * は式 (2) に示すようなデバイ型緩和という式でよく記述される ) De e* = + e ここで f は周波数 Deは緩和強度 ( 成分量に対応 ) t は緩和時間であり e は瞬時に分極するとみなせる成分の誘電率である 2.2 測定法高周波誘電率測定について 本稿では数百 MHz~ 数十 GHz の周波数に着目して説明する 測定には 3 種類 ( 容量法 反射伝送法 共振法 ) の手法があり 試料の形状 測定周波数範囲 検出下限などにより使い分けられる 図 3 には各手法の数百 MHz~ 数十 GHz での検出可能な tand を示す (2) 図 3 数百 MHz~ 数十 GHz における各手法の検出可 能な tand 2) 2

The TRC News, 272-4 (December 27) 容量法 ( 図中青点線枠 ) や反射伝送法 ( 赤実線枠 ) は周波数を連続的に変化させる測定が可能である 共振法 ( 緑点線枠 ) は比較的低い tand ( 約.~.) の測定に適しており 一つの共振器に対して一つの周波数のみ測定が可能である 3. 測定例本稿では 反射伝送法に分類される同軸終端開放型プローブ法を用いて行った測定事例について紹介する 同手法は 一般的に数百 MHz~ 数十 GHz の広い周波数で測定が可能であり 液体試料の測定にも適している 3. 食品 ( タンパク質 ) タンパク質の安定性や溶解性は タンパク質周辺の水の状態などと関係していることが知られており 水の量や運動性などはタンパク質の状態を特徴づける指標とされている 3) ここでは タンパク質の一例として 卵黄および卵白に対する測定結果を紹介する 図 4 に卵黄および卵白の e - 周波数曲線を示す 図中 Ⅰに示すように約 5 MHz~ GHz にかけてe の急激な減少がみられる これは 卵の中に含まれる Na + イオン等の伝導に起因すると推察される また 図中 Ⅱに示すように 2 GHz 付近には卵黄および卵白中に含まれる水の緩和による e のピークがみられる 同ピークは純水に比べて僅かに低周波数側にみられる 卵白 3 卵黄 5 Ⅰ Ⅱ 純水.. 図 4 卵黄および卵白の e - 周波数曲線 電気伝導によるe の周波数依存性は式 (3) のように表され 図中 Ⅰの周波数域についてフィッティングを行うことにより試料の電気伝導率 s を求めることができる s e '' = 2pe f ここで e は真空の誘電率である 次に 式 (2) (3) より求めた緩和時間 電気伝導率を表 に示す 表 卵黄 卵白 純水の緩和時間 電気伝導率緩和時間電気伝導率試料 t (ps) s (S/m) 卵黄.32 卵白 9.87 純水 8 <. 表 によると 卵黄の緩和時間は卵白や純水に比べて僅かに大きく 卵黄に含まれるタンパク質が水の運動性を低下させていることが推察される また 卵黄の方が卵白よりも電気伝導率は小さい 卵黄と卵白では含まれているイオンの種類や量が異なっており 4) 電気伝導率の違いはこれを反映している 誘電率測定により 組成の違いに起因した水の運動性や電気伝導率の違いを定量することができた これらの値から 食品 ( タンパク質 ) の変性等を推定できる可能性も見込まれる 3.2 医療用高分子材料体内に埋め込まれて使用される医療機器は 血液等に触れた環境で使用されるため 生体からの異物反応を示さない性質 ( 生体適合性 ) を持つ高分子材料が使われている 生体中での高分子材料表面には低温で凍らない不凍水や 以下で結晶化する水 ( 中間水 ) が存在していることが知られており これらの水が生体適合性発現に関係しているという報告もある 5) さらに 前項で述べたようにタンパク質の安定性や溶解性には周囲に存在する水の状態が関係していることが知られており 3) 生体適合性発現メカニズム解明において水の状態を調べることは重要といえる ここでは 生体適合性が良い材料の測定例として 医療機器や化粧品等に使用されているポリビニルピロリドン (PVP) 水溶液のe e - 周波数曲線を図 5 に示す (3) 3

The TRC News, 272-4 (December27) PVP 水溶液 ( 濃度 2 wt%) フィッティング結果は測定値をよく再現する 表 2 には フィッティングにより得られた各種水の緩和時間と含有率をまとめる 誘電損率 ε ' 5 ( 中間水 ) 表 2 PVP 水溶液 ( 濃度 2wt%) の緩和時間 含有率 水の種類 緩和時間 (ps) 含有率 (wt%) ( 不凍水 ) 22 2 ( 中間水 ) 8 59 図 5. 4 3 2 ( 不凍水 ) その他の成分 PVP 水溶液 ( 濃度 2 wt%) その他の成分 ( 中間水 ) ( 不凍水 ). PVP 水溶液 ( 濃度 2 wt%) の e e - 周波数曲線 PVP 水溶液 ( 濃度 2 wt%) の e は周波数の増大に伴い減 少し e には GHz 付近にピークが見られるが 本 試料の誘電緩和は純水のように単一のデバイ型緩和で は説明できない 6) 本稿では 測定値に対し 低周波 成分 を仮定し 式 (4) に示すように 3 つのデバイ型緩和の和でフィッティングを行った 表 2 によると は純水よりも運動性が低下した状態 (t = 22 ps) にあることがわかり PVP 分子に強く束縛されていることが推察される また は純水と同程度の運動性 (t = 8 ps) を有する なお DSC(Differential Scanning Calorimetry: 示差走査熱量測定 ) による検証の結果 誘電緩和より算出したは中間水 ( 以下で結晶化する水 ) が不凍水 ( 低温で凍らない水 ) に対応する可能性が示唆されている 7) 今後 同様の方法で 生体タンパク質や生体適合性の異なる高分子材料の周囲の水の状態を調べ 生体適合性発現との関係性を調べる予定である 3.3 電解質膜パーフルオロカーボン材料である Nafion は耐久性 化学的安定性に優れており 燃料電池に利用されている Nafion の電気伝導成分は H 3 O + イオンに起因しており 膜中の水の状態によって電解質膜としての性能が大きく異なることが知られている 8) ここでは 電気伝導率と水の状態を調べた 図 6 には 洗浄前後の Nafion のe - 周波数曲線を示す 洗浄には沸騰した 3 % 過酸化水素水.5 M 硫酸を用いた D D De * e l e s f e = + + + e (4) l 低周波数成分 s f 4

The TRC News, 272-4 (December 27) 図 6 洗浄前後の Nafion の e - 周波数曲線 洗浄前後の測定値に対し 低周波数側から電気伝導 ( 純水よりも緩和時間が長い水 ) ( 純水と 同じ緩和時間を持つ水 ) と仮定してフィッティングに よるピーク分離を行った 8) フィッティングにより得 られた電気伝導率 各種水の緩和時間を表 3 にまとめ る 表 3.. 処理 伝導 伝導 洗浄前後の Nafion の電気伝導率 緩和時間 電気伝導率 s (S/m) Nafion ( 洗浄前 ).. 緩和時間 t (ps) Nafion ( 洗浄後 ) 洗浄前.4 99 8 洗浄後.29 5 8 って Nafion 中のスルホン基に付着していた不純物イオンが除去されたためと推察される また 洗浄によっての運動性が上昇したことから 洗浄前では不純物イオンが水を強く束縛していた可能性も示唆される 3.4 絶縁材料レーダーやスマートフォン等の無線通信では数百 MHz~ 数十 GHz の周波数を持つ電波が利用される 例えば 無線 LAN は 2.4 GHz や 5 GHz 車載用衝突防止レーダーは 76 GHz などが使われている 2) 使用される周波数において レーダーのセンサー部材に用いられる材料には電波を透過する特性が求められる 電波の減衰は tand 材料厚みにおおよそ比例するため ) 実際に使用する周波数における e および tandを測定することで電波の透過性を調べることができる 図 7 にポリイミドフィルムの e tand- 周波数曲線を示す 誘電率 ε ' 誘電正接 tanδ ε'.. tanδ ポリイミドフィルム.. 図 7 ポリイミドフィルムの e tand- 周波数曲線約 3 MHz~4 GHz では e は約 3 tand は約.~.2であり 明瞭な緩和ピークは見られない 一般的に高周波用基板材料に用いられているガラスエポキシ (e は約 4 tandは約.2) 9) と比較すると e はポリイミドフィルムの方が小さく tandは同程度の値である このことから 本測定で使用したポリイミドフィルムの 3 MHz~4 GHz の電波における透過性は比較的良好であると推察される 表 3 によると 洗浄後試料は電気伝導率が高くなり の運動性も高くなっている これは 洗浄によ 5

The TRC News, 272-4 (December27) 4. おわりに 本稿では 誘電緩和の説明およびいくつかの物質に対する測定事例を紹介した 数百 MHz~ 数十 GHz の測定では 電気伝導率および水やメタノールなどの極性分子の緩和時間 ( 運動性 ) や量を定量することができる さらに 電子レンジやレーダーなど実際に使用される周波数に対する応答も調べることができる なお 弊社では 本稿で紹介した同軸終端開放型プローブ法以外にも容量法による誘電率測定装置も導入しており 約 Hz~4 GHz での測定が可能である 測定をご希望の際は お気軽にご相談いただけると幸いである 引用文献 ) 花井哲也, 不均質構造と誘電率, 吉岡書店 (2). 2) 戸高嘉彦, 小林禧夫, 福永香, エレクトロニクス実装学会誌, (3), 9 (27). 3) K. Aoki, Jurnal of the Spectroscopical Society of Japan, 66(2), 4 (27). 4) 文部科学省日本食品標準成分表 25 年版 ( 七訂 ). 5) 田中賢, 化学と教育, 6(6), 25 (22). 6) N. Shinyashiki, S. Yagihara, J. Phys Chem. B, 3, 448 (999). 7) 河出直哉, 古島圭智, 石田宏之, 中田克, 高橋秀明, 第 66 回高分子討論会予稿, No.2, 42 (27). 8) Z. Lu, G. Polizos, D. D. Macdonald, and E. Manias, Journal of The Electrochemical Society, 55(2), B63 (28). 9) 漆谷正義, トランジスタ技術 6 月号, CQ 出版 (27). 河出直哉 ( かわでなおや ) 材料物性研究部材料物性研第 研究室趣味 : カラオケ古島圭智 ( ふるしまよしとも ) 材料物性研究部材料物性研第 研究室研究員趣味 : レコード屋巡り 6