Microsoft Word CREST中山(確定版)

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記 者 発 表(予 定)

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

Microsoft Word - 01.doc

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

平成14年度研究報告

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

要旨 グレープフルーツや夏みかんなどに含まれる柑橘類フラボノイドであるナリンゲニンは高脂血症を改善する効果があり 肝臓においてもコレステロールや中性脂肪の蓄積を抑制すると言われている 脂肪肝は肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった状態で 動脈硬化を始めとするさまざまな生活習慣病の原因となる 脂肪肝

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図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

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生物時計の安定性の秘密を解明

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

プレス発表に関する手引き

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

Microsoft Word - プレスリリース最終版

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

PowerPoint プレゼンテーション

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

はじめに 我が国の肝がん死亡者数は,2005 年頃を最多とし, その後はゆっくりと減少しつつあります しかし, いまだに年間死亡者数は 3 万人を超えており, 依然として対策が極めて重要な病気です 原因としては,C 型肝炎,B 型肝炎, 非アルコール性脂肪肝炎 (NASH: ナッシュ ) やアルコー

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

平成16年6月  日

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

スライド 1

遺伝子組み換えを使わない簡便な花粉管の遺伝子制御法の開発-育種や農業分野への応用に期待-

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

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「肥満に伴う脂肪組織の線維化を招く鍵分子を発見」【菅波孝祥 特任教授】

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達


2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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論文の内容の要旨

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

長期/島本1

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc


( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

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細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

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シトリン欠損症説明簡単患者用

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

Powered by TCPDF ( Title 非アルコール性脂肪肝 (NAFLD) 発症に関わる免疫学的検討 Sub Title The role of immune system to non-alcoholic fatty liver disease Author

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平成 22 年 11 月 29 日 科学技術振興機構 (JST) Tel:03-5214-8404( 広報ポータル部 ) 九州大学 Tel:092-642-2106( 広報室 ) 肝臓における脂肪代謝の新たな制御機構を解明 ( メタボリック症候群における脂肪肝に対する治療への応用に期待 ) JST 課題解決型基礎研究の一環として 九州大学生体防御医学研究所の中山敬一教授らは 肝臓における中性脂肪注 1) の合成が ユビキチン化酵素注 2) である Fbxw7 ( エフ ビー エックス ダブリュー セブン ) によって恒常的に制御されていることを明らかにしました Fbxw7 は これまで色々ながん遺伝子たんぱく質注 3) を分解する がん抑制遺伝子注 4) として知られていましたが 一方で 脂肪合成に重要な役割を担っている SREBP というたんぱく質の分解にも関わることが最近の報告で示唆されていました しかし 実際に Fbxw7 が生体内でどのように脂肪代謝に関わっているかを調べた研究はこれまでありませんでした そこで本研究チームは 肝細胞における Fbxw7 の役割について研究を行いました マウスの肝臓から人工的に Fbxw7 を消失させると わずか 3 週間で激しい脂肪肝が発症し その後は脂肪肝炎や肝線維症につながることが分かりました この異常は 人間のメタボリック症候群注 5) の患者で起こる肝臓の病変である非アルコール性脂肪肝炎 (NASH 注 6) ) とよく似ています その原因は Fbxw7 が欠損しているために 中性脂肪の合成を司る SREBP たんぱく質がマウスの肝臓で異常に蓄積していることでした つまり 正常状態では Fbxw7 が SREBP たんぱく質を恒常的に分解することでこれを低いレベルに抑え 肝細胞での過剰な中性脂肪の合成を抑制していたのです また本研究では Fbxw7 は Notch というたんぱく質を分解することで 肝細胞の正常な分化を導く役割を担っていることも明らかにしました 本研究は Fbxw7 が肝臓における中性脂肪の合成を生体内で恒常的に制御していることを示した初めての報告であり 今後 その機能を制御することで脂肪肝や脂肪肝炎に対する治療への応用が期待されます 本研究成果は 2010 年 12 月 1 日 ( 米国東部時間 ) に米国科学雑誌 The Journal of Clinical Investigation のオンライン速報版で公開されます 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 研究領域 : 生命システムの動作原理と基盤技術 ( 研究総括 : 中西重忠 ( 財 ) 大阪バイオサイエンス研究所所長 ) 研究課題名 : ユビキチンシステムの網羅的解析基盤の創出 研究代表者 : 中山敬一 ( 九州大学生体防御医学研究所教授 ) 研究期間 : 平成 19 年 10 月 ~ 平成 25 年 3 月 JST はこの領域で 生命システムの動作原理の解明を目指して 新しい視点に立った解析基盤技術を創出し 生体の多様な機能分子の相互作用と作用機序を統合的に解析して 動的な生体情報の発現における基本原理の理解を目標としています 上記研究課題では 細胞分裂 DNA 修飾 たんぱく質の品質管理など重要な生命現象を調節するユビキチンシステムについて 遺伝学とプロテオミクスを組み合わせた新しい方法によって網羅的に解析し システムの全体像を解明することを目指しています 1

< 研究の背景と経緯 > ユビキチン化酵素 Fbxw7はこれまで 色々ながん遺伝子たんぱく質を分解することによって 生体内でがんを抑える がん抑制遺伝子 として重要な機能を果たしていることが知られていました 実際 多くのヒト悪性腫瘍でFbxw7の変異が報告されており また 胸腺や骨髄でFbxw7を持たないマウスを作製すると 胸腺リンパ腫や白血病などの悪性腫瘍を引き起こします 一方で最近の研究から 脂肪の合成に重要なSREBPというたんぱく質をFbxw7 が分解することが示されました しかし 生体内で主に脂肪合成を担っている肝臓では SREBP 以外にもさまざまなたんぱく質が複雑に脂肪合成に関わっており Fbxw7 が肝細胞における脂肪合成にどのような役割を果たしているのかは全く分かっていませんでした そこで本研究はFbxw7が生体の肝臓における脂質代謝にどのような役割を果たしているのかを明らかにする目的で実験が始まりました < 研究の内容 > 本研究チームは Fbxw7を肝臓特異的に欠損したマウス注 7) を作製して解析を行いました その結果 肝臓からFbxw7がなくなるとわずか3 週間で肝臓に中性脂肪が顕著に蓄積し 脂肪肝を発症することが分かりました ( 図 1) さらに このマウスを長期的に観察するとやがて脂肪肝炎が起こり ついには肝線維化へとつながることが明らかとなりました この状態は人間のメタボリック症候群の患者に見られる異常 (NASH) とよく似ています 脂肪肝発症のメカニズムを探るため 肝臓で脂質代謝に関わる種々のたんぱく質の発現量を調べたところ SREBPというたんぱく質がFbxw7を欠損した肝臓で異常に蓄積していました つまり上記の実験結果は 正常な状態ではFbxw7が肝臓において恒常的に SREBPたんぱく質を分解し このたんぱく質の量を低く抑えることによって 過剰な脂肪合成を抑制する役割を担っていることを示しています 8) また 肝臓では肝芽細胞注と呼ばれる未分化な細胞から肝細胞と胆管細胞が作り出され 肝臓の恒常性維持に寄与していますが Fbxw7を欠損した肝臓では 肝芽細胞の分化が胆管細胞へと大きく歪められてしまい 胆管領域が異常に増生した肝過誤腫という良性腫瘍が発生します ( 図 2) この現象について詳しく調べてみると Fbxw7がなくなることで さまざまな臓器において細胞の分化に重要な役割を持つNotchというたんぱく質を分解できなくなり これが異常に蓄積してしまうことが原因であることが分かりました 以上のように 本研究ではFbxw7が肝臓において SREBPたんぱく質の分解を介した脂肪合成の制御 ( 図 3) と Notchたんぱく質の分解を介した肝芽細胞の分化制御に極めて深く関わっていることを見いだしました このことはFbxw7が肝臓の恒常性維持に非常に重要な役割を果たしていることを示しています これまでFbxw7というたんぱく質はがん抑制遺伝子としての機能ばかりが注目されてきましたが 本研究ではこの分子が生体内において脂質代謝や細胞分化の制御に関わっていることを明らかにしており 今後さらなる研究の進展が注目されます 2

< 今後の展開 > 今回 肝臓においてFbxw7による中性脂肪合成と細胞分化の制御機構が解明され どのような生理学的役割を担っているのかを明らかにしました 肝臓においてユビキチンシステムが非常に重要であることはさまざまな実験データから示されており ユビキチン化酵素と分解の標的たんぱく質との関係 を解明するために 本研究成果は非常に有用な指標となります また 脂肪合成制御に関して Fbxw7は短時間で強い影響を示すことから 今後は Fbxw7の機能を制御することで人間のメタボリック症候群の肝臓における中心的な病変である脂肪肝や脂肪肝炎に対する治療への応用が期待されます 3

< 参考図 > 図 1 Fbxw7 欠損 3 週間後の肝臓マウスの肝臓からFbxw7がなくなると わずか3 週間で激しい脂肪肝が引き起こされます Fbxw7を欠損した肝臓の外観は 脂肪が蓄積するために正常マウスの肝臓より色が薄くなり また顕微鏡で調べるとH&E 染色で白く抜けて見える部分 ( 脂肪が蓄積している ) が著しく増えています ( 上 ) このことは 脂肪染色( 脂肪を赤く染める ) によってよりはっきりと分かります ( 下 ) 図 2 Fbxw7 欠損 50 週間後の肝臓マウスの肝臓からFbxw7をなくして1 年近く経過すると 脂肪肝炎による肝線維化の進行とともに Notchたんぱく質の異常蓄積に起因する肝芽細胞の分化異常のため肝過誤腫が発生します 4

図 3 Fbxw7による脂肪合成の制御今回の研究で 肝臓においてFbxw7がSREBPという脂肪合成の指令を出すたんぱく質を分解して脂肪合成の量を制御していることが明らかとなりました Fbxw7の機能をコントロールすることで脂肪合成の量を調節できる可能性が高く 将来的には脂肪肝や脂肪肝炎に対する治療への応用が期待されます 5

< 用語解説 > 注 1) 中性脂肪中性脂肪は生体内でエネルギーを貯蔵する物質であると考えられています 適度な量の中性脂肪は生命活動に必要ですが 食べ過ぎ 飲み過ぎの状態が続くと肝臓で中性脂肪が過剰に作られ 脂肪肝や高脂血症へとつながり 最終的には動脈硬化の一因となることが知られています 注 2) ユビキチン化酵素ある特定の機能を持つたんぱく質がその役目を終えた後も細胞内に留まると その細胞にとって有害となることがあります そこで そのようなたんぱく質にはユビキチンという小さな分子を付加して 不要であることの目印とします ユビキチンを付加されたたんぱく質は分解されてしまいます この不要なたんぱく質にユビキチンを付加する役目を担うたんぱく質がユビキチン化酵素です Fbxw7もこのユビキチン化酵素の1つです 注 3) がん遺伝子たんぱく質がんの発生 進展に関わる遺伝子から作られるたんぱく質のことです 多くのがん遺伝子は元来 正常細胞が増殖するための手助けをしていますが その機能が過剰になってしまうと細胞が無秩序に増殖して がん となります 注 4) がん抑制遺伝子がん抑制遺伝子から作られるたんぱく質の多くは 細胞が増殖するのを抑制したり 遺伝子が傷ついた時にそれを修復する役割を担っています がん抑制遺伝子が正常に働かなくなると 無制限に細胞が増殖したり 遺伝子が傷ついたままとなり がんが発生します 注 5) メタボリック症候群内臓脂肪型肥満 ( 内臓肥満 腹部肥満 ) に高血糖 高血圧 高脂血症のうち2つ以上を合併した状態を言います 特に肝臓では中性脂肪が過剰に蓄積し 肝細胞の30% 以上が脂肪細胞で占められたものを脂肪肝と呼びます それが進むと 非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) になると言われています 注 6) 非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) 飲酒が原因でない脂肪肝の一部に 肝実質に壊死 炎症 線維化が起こった病態のことで 肝硬変 肝細胞がんに進展する例があります 注 7) 肝臓特異的に欠損したマウス近年 マウスに対する遺伝子操作の技術が進歩し ある特定の臓器の細胞でのみ ( 特異的に ) 目的の遺伝子の機能を欠損させることができます 今回の研究では肝臓の細胞でのみFbxw7の機能を欠損させています 注 8) 肝芽細胞肝臓を構成している肝細胞と胆管細胞は 肝芽細胞という未分化な細胞から作られます 肝芽細胞から新たに作られた肝細胞と胆管細胞は少しずつ 古い細胞と入れ替わり 肝臓の恒常性維持に貢献しています 6

< 論文名 > Fbxw7 regulates lipid metabolism and cell fate decisions in the mouse liver (Fbxw7 はマウスの肝臓において脂質代謝と細胞分化決定を制御する ) <お問い合わせ先 > < 研究内容に関すること> 中山敬一 ( ナカヤマケイイチ ) 九州大学生体防御医学研究所分子医科学分野教授 812-8582 福岡県福岡市東区馬出 3-1-1 Tel:092-642-6815 Fax:092-642-6819 E-mail:nakayak1@bioreg.kyushu-u.ac.jp <JSTの事業に関すること> 長田直樹 ( ナガタナオキ ) 科学技術振興機構イノベーション推進本部研究領域総合運営部 102-0075 東京都千代田区三番町 5 三番町ビル Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064 E-mail:crest@jst.go.jp 7