図. 各要因による 9.4 年間での日英 ( イングランド ) の生存期間の差 ~ 日英高齢者の生存期間の比較研究から ~ 注 ) 調査開始時点の日英の年齢や健康状態の差を調整した上でも 9.4 年間の間に日本人が女性で319 日 男性で132 日 英国人よりも長生きをしていました グラフの数字は

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健康寿命の指標

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に


平成 21 年循環器疾患登録の年集計について 喫煙習慣の割合は 男性で約 4 割 女性で約 1 割である 週 1~2 回以上の運動習慣のある割合は1 割程度と 男女共に運動習慣のある者の割合が低い 平成 21 年における循環器疾患登録者数 ( 循環器疾患にかかった人のうち届出のあった人 ) について

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フレイルのみかた

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

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生活福祉研レポートの雛形

2. 栄養管理計画のすすめ方 給食施設における栄養管理計画は, 提供する食事を中心とした計画と, 対象者を中心とした計画があります 計画を進める際は, それぞれの施設の種類や目的に応じて,PDCA サイクルに基づき行うことが重要です 1. 食事を提供する対象者の特性の把握 ( 個人のアセスメントと栄

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山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

-3- Ⅰ 市町村国保の状況 1 特定健康診査受診者の状況 平成 23 年度は 市町村国保 (41 保険者 )98,439 人の特定健康診査データの集計を行った 市町村国保の診者数は男性 女性ともに 歳の割合が多く 次いで 歳 歳の順となっている 男性 女性 総数

経済学コース論文要約

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

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す しかし 日本での検討はいまだに少なく 比較的小規模の参加者での検討や 個別の要因との関連を報告したものが殆どでした 本研究では うつ病患者と対照者を含む 1 万人以上の日本人を対象とした大規模ウェブ調査で うつ病と体格 メタボリック症候群 生活習慣の関連について総合的に検討しました 研究の内容

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

宗像市国保医療課 御中


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秋植え花壇の楽しみ方


調査の概要 本調査は 788 組合を対象に平成 24 年度の特定健診の 問診回答 (22 項目 ) の状況について前年度の比較から調査したものです 対象データの概要 ( 全体 ) 年度 被保険区分 加入者 ( 人 ) 健診対象者数 ( 人 ) 健診受診者数 ( 人 ) 健診受診率 (%) 評価対象者

[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

Q1.65 歳での健康寿命に 65 を足せば 0 歳での健康寿命になりますか A1. なりません 別途 健康寿命の算定プログラム 等を用いて 0 歳での健康寿命を算定する必要があります 例えば 健康寿命の算定方法の指針 の図 4-3 の男の算定結果を見ると 健康な期間の平均が 65 歳時点では 17

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した



小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小川瑞己 1 佐藤文佳 1 村山伸子 1 * 目的 小学生のカルシウム摂取の実態を把握し 平日と休日のカルシウム摂取量に寄与する食品を検討する 方法 2013 年に新潟県内 3 小学校の小学 5 年生全数 3

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結果の概要

肥満と栄養cs2-修正戻#20748.indd

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

特定健康診査等実施計画

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PowerPoint プレゼンテーション

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講演

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

「健康寿命」の伸長には若い頃からの健康改善が重要~2012年「健康寿命」の公表について考える

「高齢者の健康に関する意識調査」結果(概要)1

(3) 摂取する上での注意事項 ( 該当するものがあれば記載 ) 機能性関与成分と医薬品との相互作用に関する情報を国立健康 栄養研究所 健康食品 有効性 安全性データベース 城西大学食品 医薬品相互作用データベース CiNii Articles で検索しました その結果 検索した範囲内では 相互作用

目 次 1 平成 29 年愛知県生命表について 1 2 主な年齢の平均余命 2 3 寿命中位数等生命表上の生存状況 5 4 死因分析 5 (1) 死因別死亡確率 5 (2) 特定死因を除去した場合の平均余命の延び 7 平成 29 年愛知県生命表 9

過去の習慣が現在の習慣に与える影響 インターネットの利用習慣の持ち越し 松岡大暉 ( 東北大学教育学部 ) 1 問題関心本研究の目的は, インターネットの利用の習慣について, 過去のインターネットの利用習慣が現在のインターネットの利用の習慣に影響を与えるかを検証することである. まず, 本研究の中心

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特定健診の受診率は毎年上昇しており 平成 28 年度は県平均よりも 7% 高い状況 となっていますが 国が示す目標値 60% を達成するには更なる工夫や PR が必要とな っています 長与町国保の医療費は平成 25 年度から上昇していましたが 平成 28 年度は前年度より約 3 億円減少し 1 人当

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第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

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平成20年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

第3章「疾病の発症予防及び重症化予防 1がん」

2 11. 脂肪 蓄 必 12. 競技 引退 食事 気 使 13. 日 練習内容 食事内容 量 気 使 14. 競技 目標 達成 多少身体 無理 食事 仕方 15. 摂取 16. 以外 摂取 17. 自身 一日 摂取 量 把握 18. 一般男性 ( 性. 一日 必要 摂取 把握 19. 既往歴 図

(別紙様式1)

(3) 生活習慣を改善するために

特定健康診査等実施計画 ( 第二期 ) 三重交通健康保険組合 平成 25 年 7 月

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

クラウド型健康支援サービス「はらすまダイエット」のラインアップに企業の健康保険組合などが行う特定保健指導を日立が代行する「はらすまダイエット/遠隔保健指導」を追加

1 基本健康診査基本健康診査は 青年期 壮年期から受診者自身が自分の健康に関心を持ち 健康づくりに取り組むきっかけとなることを目的に実施しています 心臓病や脳卒中等の生活習慣病を予防するために糖尿病 高血圧 高脂血症 高尿酸血症 内臓脂肪症候群などの基礎疾患の早期発見 生活習慣改善指導 受診指導を実

超高齢社会における共生を考える健康長寿の要因の探求 40 神出 楽木 健康長寿の要因の探求 41 未来共生学第 4 号 論文 高齢者疫学研究からの知見 Reich et al i, ii 神出計 ii 楽木宏実 大阪大学大学院医学系研究科 i 保健学専攻総合ヘルスプロモーション科学講座

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

協会けんぽ加入者における ICT を用いた特定保健指導による体重減少に及ぼす効果に関する研究広島支部保健グループ山田啓介保健グループ大和昌代企画総務グループ今井信孝 会津宏幸広島大学大学院医歯薬保健学研究院疫学 疾病制御学教授田中純子 概要 背景 目的 全国健康保険協会広島支部 ( 以下 広島支部

特定健康診査等実施計画

平成30年版高齢社会白書(全体版)

日本のプロ野球に対する関心を示した表 3.1 および図 3.1 をみると スポーツニュース で見る (52.9) に対する回答が最く テレビで観戦する (39.0) 新聞で結果を確 認する (32.8) がこれに続く また 特に何もしていない (30.8) も目立った 2) 性別とのクロス集計の結果

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 庄司仁孝 論文審査担当者 主査深山治久副査倉林亨, 鈴木哲也 論文題目 The prognosis of dysphagia patients over 100 years old ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 日本人の平均寿命は世界で最も高い水準であり

1. 背景ながはまコホート事業は 京都大学と滋賀県長浜市が共同して行っている 市民の健康づくりと最先端の医学研究を目的として実施されている事業です 5 年ごとに一般の特定健診項目に加えて 遺伝子解析を含む血液検査や睡眠検査などの様々な検査が行われています 私たちはこのコホート事業において 睡眠呼吸障

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厚生労働科学研究費補助金 (地域健康危機管理研究事業)

高齢者の筋肉内への脂肪蓄積はサルコペニアと運動機能低下に関係する ポイント 高齢者の筋肉内に霜降り状に蓄積する脂肪 ( 筋内脂肪 ) を超音波画像を使って計測し, 高齢者の運動機能や体組成などの因子と関係するのかについて検討しました 高齢男性の筋内脂肪は,1) 筋肉の量,2) 脚の筋力指標となる椅子

RESEARCH IN EXERCISE EPIDEMIOLOGY―運動疫学研究―

平成27年版高齢社会白書(全体版)

背景及び趣旨 我が国は国民皆保険のもと世界最長の平均寿命や高い保健医療水準を達成してきた しかし 急速な少子高齢化や国民の意識変化などにより大きな環境変化に直面しており 医療制度を持続可能なものにするために その構造改革が急務となっている このような状況に対応するため 高齢者の医療の確保に関する法律

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

第1章評価にあたって

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カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

参考資料1_学術研究関連データ集

JATMA タイヤの空気圧点検についての意識調査 リリース構成案


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日本の今を知る: 身体活動・運動に関わる現状と課 ―授業・現場で活かせる身体活動・運動の最新情報―

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特定健康診査等実施計画 ( 第 2 期 ) ベルシステム 24 健康保険組合 平成 25 年 3 月 1 日

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計画改訂の趣旨 社会構造が大きく変化し 少子高齢化が進む中 生活環境の改善や医療の進歩などにより 平均寿命が延びている一方で 肥満や糖尿病などの生活習慣病が増加しており 健康づくりや疾病予防の重要性はますます高まっています 子どもから高齢者まで すべての県民が 健やかな生活をおくるために ヘルスプロ

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

Transcription:

報道機関各位 平成 30 年 3 月 2 日 東北大学大学院歯学研究科 やせ過ぎ 家族 友人とのつながりの少なさ 喫煙の多さ が高齢者の寿命を縮めていた 研究概要 東北大学大学院歯学研究科の相田潤准教授らの日英共同研究チームは 65 歳以上の日本人 13,176 人 英国人 ( イングランド在住者 )5,551 人を約 10 年追跡したデータを分析しました その結果 日本人は英国人よりも 男性は 132 日 女性は 319 日 長く生きており 下記のような比較データから高齢者の長寿に寄与する要因が明らかになりました 男性の場合 家族とのつながりが多い日本人が 英国人より 105 日長生きしている 友人とのつながりが多い英国人が 日本人より 45 日長生きしている 喫煙習慣の少ない英国人が 日本人より 47 日長生きしている 低体重 * が少ない英国人が 日本人より 212 日長生きしている 女性の場合 喫煙習慣の少ない日本人が 英国人より 198 日長生きしている 低体重が少ない英国人が 日本人より 129 日長生きしている 日本人で最も改善の余地があるのは 男女ともに やせ過ぎ ( 低体重 ) から脱却することであり 男性では友人との交流を増やし 喫煙を減らすことにより一層の長寿が期待できます 英国 ( 日本 ) で実現できている要因は 日本 ( 英国 ) でも改善しやすい要因であり これらの知見を活かすことで 両国でより効果的な健康政策が立案できると考えられます 本研究成果は 2018 年 1 月 19 日に老年医学の国際科学雑誌 Gerontology に電子版が掲載されました * BMI が 18.5 未満 これは 65 歳以上の日本人男性 ( 平均身長 164 cm ) の場合体重 50kg 未満 日本人女性 ( 平均身長 150 cm ) の場合 42 kg未満となります (2015 年の国民健康栄養調査による ) www.tohoku.ac.jp

図. 各要因による 9.4 年間での日英 ( イングランド ) の生存期間の差 ~ 日英高齢者の生存期間の比較研究から ~ 注 ) 調査開始時点の日英の年齢や健康状態の差を調整した上でも 9.4 年間の間に日本人が女性で319 日 男性で132 日 英国人よりも長生きをしていました グラフの数字は 右側の数字が日本人の長寿に寄与する要因 左側が英国人の長寿に寄与する要因 ( 日英で比較した際の差 ) になります グラフには表していませんが 調査開始時点の健康状態などの差がその他の要因として存在しています 研究の背景 日本人は 特に女性で世界的にも長寿であることが知られています 世界的に高齢化が進んでいますが 高齢者の余命は平均寿命と必ずしも一致するとは限らず これまで高齢者に注目した国際比較研究はあまりありませんでした またこれまでの国際比較研究は欧米が中心で 長寿である日本人を含めた研究もあまりありませんでした そこで日本と英国 ( イングランド在住者 ) の高齢者の生存期間の差に寄与する社会的要因や行動要因を調べる研究を行いました

対象と方法 日本老年学的評価研究プロジェクト (the Japan Gerontological Evaluation Study, JAGES) の2003 年調査および 英国縦断的高齢化調査 (the English Longitudinal Study of Ageing, ELSA) の2002~3 年調査をベースラインとして 65 歳以上の高齢者を9.4 年間 (3,436 日 ) 追跡したコホート研究の分析を実施しました 行動要因として 運動 ( スポーツクラブの参加の有無 ) 喫煙 飲酒 BMI( 肥満度 ) を 社会要因として教育歴 ( 社会経済状況の変数 ) 家族とのつながり( 婚姻状態 ) 友人とのつながり( 友人と会う頻度 ) を用いました ベースライン時点での既往歴 ( がん 心疾患 脳卒中 高血圧 糖尿病 精神疾患 ) や日常生活動作 年齢は共変量として最初に調整をしました 死亡 ( すべての死亡原因を含む ) までの日英の生存期間の差 ( 日英ごとに15% の人が死亡するまでの時間の差 ) をラプラス回帰分析で推定をしました 結果 ELSAの女性は3,083 人 ( 平均年齢 74.7 歳 [SD = 7.3]) 男性は2,468 人 ( 平均年齢 73.7 歳 [SD = 6.7]) JAGESの女性は6,882 人 ( 平均年齢 73.4 歳 [SD = 6.3]) 男性は6,294 人 ( 平均年齢 72.5 歳 [SD = 5.7]) でした 9.4 年間 (3,436 日 ) の追跡期間中に英国の女性の 31.3% 男性の38.6% が死亡した一方 日本では女性の19.3% 男性の31.3% の死亡にとどまりました 追跡開始時点の健康状態や年齢の差などを調整したうえで 日本人の女性は319 日 男性は132 日 英国人よりも生存期間が長いことがわかりました 家族とのつながりは英国人男性よりも日本人男性で多く これは日本人男性が英国人男性よりも105 日間生存期間が長いことにつながっていました 反対に友人とのつながりは英国人男性で多く これは日本人男性と比較して英国人男性の45 日間の長寿につながっていました 英国人女性よりも日本人女性で喫煙者が少なく これは比較して 198 日の長寿につながっていました 男性では日本人よりも英国人で喫煙が少なく 英国人男性の47 日間の長寿につながっていました 日本人男女では やせ過ぎ ( 低体重 ) が多く これは英国人に比べて女性で129 日 男性で212 日間生存期間が短いことにつながっていました 考察 人々のつながりは ソーシャルサポートを増やしたり生活習慣を良くすることなどで ( 悪くすることもありますが ) 健康を良くすることが知られています 本研究では 日英の家族 ( 婚姻状態 ) および友人とのつながりの程度の違いと健康の関係について明らかにしました 結婚をしている人が日本の方が英国よりも多く そのことが特に日本人男性の長寿につながっていました 一方で日本人男性は特に友人と会わない人が多く これが生存期間を短くする方向に働いていました 地域にサロンを設置することや趣味やスポーツの会があることで人々の交流が生まれて健康が良くなる可能性が示されていますので こうした取り組みで人々のつながりを増やすことが重

要だと考えられます また 低体重の人々で生存期間が短く 英国に比べて日本人高齢者に低体重の人が多いことが日本人の生存期間を縮めていました 体重は重すぎても軽すぎても死亡率が高くなることが示されていますが 若い人に比べて高齢者では死亡率の低い体重が高めにシフトするため 低体重の悪影響が比較的大きいです 英国に比べ日本では肥満が少ない反面 低体重が高齢者の死亡を増やしていると考えられます ( 本研究での低体重の人の割合は (BMI18.5 未満 ) 英国では女性で1.7% 男性で0.8% でした 日本では女性で8.8% 男性で7.5% でした ) 喫煙に関しては 高齢者においても有害であることが知られています 英国では男女の喫煙率は同じくらい ( 女性の現在喫煙習慣がある人が13.1% 男性で12.0%) でしたが 日本では女性が2.5% で男性が24.0% でした 日本人男性の喫煙率が英国人男性程度に下がれば また英国人女性の喫煙率が日本人女性程度に下がれば 生存期間の改善に大きく寄与することでしょう 結論 日本人男性で友人との 英国人男性で家族との つながりを増やすこと 日本人男性と英国人女性で 喫煙を減らすこと 日本人男女の やせ過ぎ ( 低体重 ) を改善すること が一層の長寿の達成に必要で なおかつ改善が比較的しやすい要因だと考えられます 本研究の意義 一方の国で実現できていることは 他方の国でも実現が不可能ではないと考えられます 高齢化社会において高齢者を対象に国際比較研究でこうした要因を明確化し どの程度の生存期間の違いに現れているかを生存期間で明示した研究は存在しませんでした より健康的な社会の実現に示唆が得られる研究となります 出版論文 Aida J, Cable N, Zaninotto P, Tsuboya T, Tsakos G, Matsuyama Y, Ito K, Osaka K, Kondo K, Marmot M, Watt R : Social and behavioural determinants of the difference in survival among older adults in Japan and England. Gerontology, (In press). 謝辞 本研究は 日本福祉大学健康社会研究センターによる日本老年学的評価研究 (the Japan Gerontological Evaluation Study, JAGES) プロジェクトのデータを使用し 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 ( 文部科学省 ) 並びに 科学研究費補助金 ( 22330172, 22390400, 22390400, 22592327, 23243070, 23590786, 23790710, 24390469, 24530698, 24653150, 24683018, 25253052, 25870573, 25870881,

26285138, 26882010, 15H04781, 15H01972, 16H05556, 16K19267) 厚生老科学研究費補助金 ( 長寿科学総合研究事業,H22- 長寿 - 指定 -008 H24- 循環器等 ( 生習 )- 一般 -007 H24- 地球規模 - 一般 -009 H24- 長寿 - 若手 -009 H25- 健危 - 若手 -015 H26- 医療 - 指定 -003( 復興 ) H26- 長寿 - 一般 -006 H27- 認知症 - 一般 -001 H28- 長寿 - 一般 -002) 国立研究開発法人日本医療開発機構 (AMED) 長寿科学研究開発事業, 長寿科学振興財団長寿科学研究者支援事業 長寿医療研究開発費などの助成を受けて実施されました 記して深謝します 問い合わせ先 ( 研究に関すること ) 東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野准教授相田潤 ( あいだじゅん ) 電話 :022-717-7639 E-mail:j-aida@umin.ac.jp ( 報道に関すること ) 東北大学大学院歯学研究科総務係堀田さつき ( ほりたさつき ) 電話 :022-717-8244 E-mail:den-syom@grp.tohoku.ac.jp