研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

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と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

1 背景 物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ 通常反粒子が別の粒子として存在します 例えば 電 子の反粒子は陽電子であり 異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます 一方で 粒子と反 粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が 素粒子の一つとして 1937 年に予言

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

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素粒子物理学2 素粒子物理学序論B 2010年度講義第4回

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平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

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スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課


放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

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配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

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             論文の内容の要旨

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

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研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

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平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

平成 28 年 6 月 3 日 報道機関各位 東京工業大学広報センター長 岡田 清 カラー画像と近赤外線画像を同時に撮影可能なイメージングシステムを開発 - 次世代画像センシングに向けオリンパスと共同開発 - 要点 可視光と近赤外光を同時に撮像可能な撮像素子の開発 撮像データをリアルタイムで処理する

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多次元レーザー分光で探る凝縮分子系の超高速動力学

: (a) ( ) A (b) B ( ) A B 11.: (a) x,y (b) r,θ (c) A (x) V A B (x + dx) ( ) ( 11.(a)) dv dt = 0 (11.6) r= θ =

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ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

第2回 星の一生 星は生まれてから死ぬまでに元素を造りばらまく

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

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ハートレー近似(Hartree aproximation)

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

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共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

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研究の背景これまで, アルペンスキー競技の競技者にかかる空気抵抗 ( 抗力 ) に関する研究では, 実際のレーサーを対象に実験風洞 (Wind tunnel) を用いて, 滑走フォームと空気抵抗の関係や, スーツを含むスキー用具のデザインが検討されてきました. しかし, 風洞を用いた実験では, レー

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磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

+ 量子操作と量子測定がひらく量子情報処理 一般物理分野 (A5 サブコース ) 村尾美緒

記者発表資料

Transcription:

平成 28 年 7 月 1 日 報道機関各位 東京工業大学東京大学 幻の マヨラナ粒子 の創発を磁性絶縁体中で捉える - 電子スピンの分数化が室温まで生じていることを国際共同研究で実証 - 要点 量子スピン液体を示す理論模型を大規模数値計算によって解析 磁気ラマン散乱強度の温度変化を調べた結果 広い温度範囲において幻の マヨラナ粒子 の創発を発見 本研究で得られた計算結果が実験結果と非常に良い一致 これまでとは一線を画した新しい量子スピン液体の検証方法を提案 概要 東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求 ( もとめ ) 幸年教授は ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 マックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授とともに 量子スピン液体 ( 用語 1) を示す理論模型に対して大規模数値計算を駆使することで 磁気ラマン散乱 ( 用語 2) 強度の温度変化が 幻の マヨラナ粒子 ( 用語 3) を色濃く反映することを見出した この結果は 磁性絶縁体の基本構成要素である電子スピンがより小さな単位へと分裂する 分数化 という現象が 広い温度領域にわたって生じていることを意味する さらに この理論計算の結果が カナダと米国の共同研究によって得られていた磁性絶縁体の塩化ルテニウム ( 用語 4) に対する実験結果と非常に良い一致を示すことを見出した このことは 電子スピンの分数化によって創発 ( 用語 5) されたマヨラナ粒子が 現実の物質中で室温程度まで存在することを強く示唆するものである 本研究で提案する創発マヨラナ粒子による量子スピン液体の実証方法は 低温極限にのみ着目してきた従来のものとは一線を画すものであり 他の量子スピン液体への応用が期待される また この幻の粒子を追い求めてきた素粒子物理学や量子情報などの周辺分野にも大きな波及効果をもたらすものである 本研究成果は 7 月 4 日発行の英国の科学雑誌 ネイチャー フィジクス (Nature Physics) 電子版に掲載される

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示すことが知られているキタエフ模型 ( 用語 6) と呼ばれる理論模型に対して量子モンテカルロ法 ( 用語 7) による大規模数値計算を適用し 磁気ラマン散乱強度の温度変化を詳細に調べた その結果 幻の粒子といわれる マヨラナ粒子 の創発を示すフェルミ粒子性を反映した振る舞いが広い温度範囲にわたって現れることを発見した このマヨラナ粒子は 磁性絶縁体の基本構成要素である電子スピンが分裂する 分数化 と呼ばれる量子スピン液体特有の現象によって創発されるものである 通常の磁性絶縁体における磁気ラマン散乱強度の温度変化はボース粒子としての性質を反映することが知られていたが 本発見はこれまでにない全く新しい現象である 本研究の最大の成果は この数値計算の結果を実験結果と詳細に比較することで 電子スピンの分数化による創発マヨラナ粒子が 現実の物質中で 約 -250 から室温にわたる非常に広い温度範囲に存在することを示した点にある この比較は キタエフ模型で良く記述される磁性絶縁体のひとつとされる塩化ルテニウムに対して昨年 4 月にカナダと米国のグループによって報告された実験結果を用いて行われた ( 図 1) この比較を通じて 理論と実験が非常に良い一致を示すことだけでなく この幅広い温度領域の磁気ラマン散乱が 光によるマヨラナ粒子の生成 消滅という単純な散乱プロセスによって理解できることを明らかにした ( 図 2) この結果は 塩化ルテニウムの磁性を担う基本構成要素は電子スピンそのものではなく それらが量子力学的な相互作用によって分数化し創発されたマヨラナ粒子であること強く示唆するものである 従来の量子スピン液体の探求のほとんどは 絶対零度 (-273.15 ) およびそのごく近傍に現れる特異な性質を追い求めるものであった 本研究が示した 室温までの非常に幅広い温度領域に存在する創発マヨラナ粒子を通じた量子スピン液体の実証法は これまでの研究とは一線を画すものである また マヨラナ粒子は 長年にわたって素粒子物理学の分野で注目され 最近では量子情報の分野でも盛んに研究されている幻の粒子である 本研究は 磁性絶縁体がこの幻の粒子の性質を研究する格好の舞台であることを示した点で これらの周辺分野に大きな波及効果をもたらすものである

背景磁性絶縁体中の電子は原子核の周りに局在しており 電子が持つスピンの自由度に由来した磁気モーメントが磁性を支配している すなわち 磁性絶縁体の基本構成要素は電子スピンである 一方 この世に存在するすべての基本粒子は ボース粒子とフェルミ粒子 ( 用語 8) のどちらかに分類される 磁性絶縁体中の電子スピン集団の性質は これまでボース粒子として記述されると考えられてきた しかし 量子スピン液体という特殊な量子状態が実現した場合には 電子スピンが量子力学的な相互作用効果によって複数のフェルミ粒子に分裂する 分数化 と呼ばれる創発現象が起きることが理論的に予想されていた 特に キタエフ模型と呼ばれる理論模型では 絶対零度において 電子スピンがフェルミ粒子である 2 種類のマヨラナ粒子に分数化することが知られていた こうした創発フェルミ粒子の存在を実験的に検証するために これまで温度が非常に低いときの性質が精力的に調べられてきた しかしながら 極低温では 物質中に内在する乱れの効果や原子核スピンの影響といった電子スピン以外の寄与が顕在化してしまう そのため 電子スピンの分数化による創発現象を捉えるためには これまでとは全く異なる視点からの研究が必要とされてきた 研究の経緯本研究は 日本 英国 ドイツの研究グループ間の共同研究である 元々日本の理論研究グループでは 量子スピン液体を示すキタエフ模型におけるさまざまな物理量の温度変化を研究してきた 一方 ヨーロッパの理論研究グループでは 絶対零度における磁気ラマン散乱の研究を行っていた 本研究成果は これら 2 つの研究を融合して磁気ラマン散乱の温度変化の計算を行い さらに実験との詳細な比較や創発マヨラナ粒子の新しい実証方法の提案へと発展させた画期的な国際共同研究によるものである 今後の展開 1973 年のフィリップ アンダーソン ( 用語 9) による量子スピン液体の理論的な提案以来 その実現可能性がおよそ半世紀にわたり現在まで精力的に議論されてきた 本研究は 量子スピン液体の検証方法として画期的な提案を行うものである 極低温から室温にわたる広い温度領域で創発マヨラナ粒子を捉えるという本研究の提案は さまざまな物質や理論模型に応用が可能であるため 今後量子スピン液体の実証方法のひとつとして広く用いられていくことが期待される また 本研究が明らかにした創発マヨラナ粒子が室温まで存在するという可能性は これまでボース粒子に基づいて議論されてきた磁性の常識を覆すものである この発見は フェルミ粒子の創発による新しい高温量子磁気現象の開拓につながる

さらに 本研究で扱ったキタエフ模型は 元々はトポロジカルに保護された 堅牢な 量子計算 ( 用語 10) を実現するため提案された画期的な模型である この量子計算では キタエフ模型で実現する量子スピン液体の創発マヨラナ粒子が重要となるため 本研究の成果は 量子情報の分野にも大きなインパクトを与える 用語説明 (1) 量子スピン液体 : 磁性絶縁体の示す磁気状態のひとつ 通常の磁性体は温度を下げるとある温度以下で電子スピンが整列するが 強い量子効果が存在するとこれが妨げられ 極低温まで電子スピンが整列しない新しい磁気状態が実現する これが量子スピン液体である (2) ラマン散乱 : 物質に光を照射しその散乱光を調べることによって 物質の性質を調べる手法 物理学のみならず 化学 生物学 薬学等の分野においても広く用いられている 磁気ラマン散乱は 磁性体中の電子スピンの状態を調べるために用いるラマン散乱である (3) マヨラナ粒子 : 自身がその反粒子と同一な電気的に中性なフェルミ粒子 エットレ マヨラナによって 1937 年に素粒子のひとつとして理論的に提案された 長年にわたる研究にもかかわらず 未だにその存在の確固たる証拠が見つかっていない幻の粒子である 素粒子物理学においてはニュートリノがマヨラナ粒子の候補と考えられ 精力的な研究が続けられている (4) 塩化ルテニウム (α-rucl 3 ): 磁性を支配するルテニウムイオンが蜂の巣構造を形成する磁性絶縁体 ルテニウムイオンがもつ磁気モーメント間の相互作用は 相対論的な効果であるスピン軌道相互作用を反映した特殊な形をとり キタエフ模型で良く記述されると考えられている (5) 創発 (emergence): 構成要素の持つ性質から単純に期待される性質を超えた新しい現象が系全体として現れること 構成要素間の相互作用が複雑な組織化を促すことで このような単純な総和としては理解できない振る舞いを生み出す (6) キタエフ模型 : 基底状態が厳密に量子スピン液体状態を与える理論模型 2006 年にアレクセイ キタエフによって 乱れに強いトポロジカル量子計算を実現しうる模型として提案された その後の理論研究によって 現実に存在するある種の磁性絶縁体のよいモデルとなりうることが指摘された (7) 量子モンテカルロ法 : 膨大な数の計算を それに主に寄与するものだけを確率的に抽出して行う効率的な計算方法 強い量子効果が存在する系では この確率が負になることで計算が破綻する負符号問題がしばしば発生するが キタエフ模型における計算では 負符号問題が生じないため高精度の計算が

可能である (8) ボース粒子とフェルミ粒子 : この世の中を構成するすべての基本粒子は その統計的な性質の違いにより これら 2 種類の粒子に分類される 同じ量子力学的な状態にいくつでも入ることができる粒子をボース粒子と呼び ひとつの量子状態にひとつしか入ることができない粒子をフェルミ粒子と呼ぶ これら 2 種類の粒子の違いは 特に存在確率のエネルギー 温度依存性に顕著に現れる (9) フィリップ アンダーソン : 理論物理学者 量子スピン液体の提唱をはじめとして 磁性不純物の理論 磁性体中のスピンの相互作用及び素励起の理論 アンダーソン局在 スピングラスの理論 アンダーソン ヒッグス機構の提唱等 数多くの先駆的な理論提案を行っている 1977 年に磁性体と無秩序系の電子構造の基礎理論的研究に対してノーベル物理学賞を受賞 (10) トポロジカル量子計算 : 系が持つトポロジカルな性質を用いた誤りに強い ( フォールトトレラント ) という性質を持つ量子計算 キタエフ模型は この計算を可能にする理論模型のひとつである 論文情報 掲載誌 : Nature Physics 論文タイトル : Fermionic response from fractionalization in an insulating two-dimensional magnet 著者 : J. Nasu, J. Knolle, D. L. Kovrizhin, Y. Motome, and R. Moessner DOI: 10.1038/nphys3809

問い合わせ先 東京工業大学理学院物理学系助教那須譲治 E-mail: nasu@phys.titech.ac.jp TEL: 03-5734-2724 FAX: 03-5734-2739 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授求幸年 E-mail: motome@ap.t.u-tokyo.ac.jp TEL: 03-5841-6815 FAX: 03-5841-8897 取材申し込み先 東京工業大学広報センター Email: media@jim.titech.ac.jp TEL: 03-5734-2975 FAX: 03-5734-3661 東京大学大学院工学系研究科広報室 Email: kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp TEL: 03-5841-1790 FAX: 03-5841-0529