現在にいたっております その結果 現在 HPVワクチンは定期接種でありながら 接種対象となる12 歳から16 歳の女子に対する接種がほとんど行われていないのが現状です このような状況は先進国では日本だけで見られていることであり 将来 子宮頸がんの発症が他国に比べて著しく高くなるというような事態が起き

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子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案要綱

る反ワクチン団体は 痛みに苦しむ女子や家族をメデイアに登場させ 因果関係があるかのように不安を募らせました WHO は 2013 年 6 月 13 日 HPV ワクチンに関する安全性声明を発表しました 国内では その翌日の 6 月 14 日に厚労省副反応検討部会が開催され 安全性を説明できる十分なデ

Microsoft Word - 子宮頸がん(中1).doc

●子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案

サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

子宮頸がん予防ワクチンとヘルスリテラシー

マンスリー・ヘルシートピックス(2015年4月号)

避するためには 子宮頸がん検診を定期的に受診することが必要不可欠であること 3 HPV ワクチンの長期成績は未だ確認されていないこと このため 将来的に追加接種が必要となる可能性もあること 4 10 歳未満の小児 妊娠中の女性及び高齢者に対する有効性と安全性は確立されていないこと 5 HPV は性行

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(地Ⅲ  )

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問 4. 接種後 いつもと違う体調の変化はありましたか (1,103 人に対する比 ) 1 はい 289 人 (26.2%) 2 いいえ 796 人 (72.2%) 3 未回答 18 人 ( 1.6%) * 接種後 何らかの症状があったと答えた方は 26.2% であった 未回答 の者の中には よくわ

小児用肺炎球菌ワクチン 対象者 : 生後 2カ月 ~5 歳未満の方接種費用 : 無料ただし 接種開始が2 歳以上の場合は自己負担あり (1100 円 ) 接種回数 : 接種開始年齢によって異なります 接種開始月 年齢接種回数 接種間隔接種費用 生後 2 月から 7 月未満 生後 7 月から 12 月

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子宮頸がん死亡数 国立がん研究センターがん対策情報センターHPより

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平成 26 年度事業計画書 自平成 26 年 4 月 1 日 至平成 27 年 3 月 31 日 公益財団法人性の健康医学財団

JFCI News Letter

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02別添:日本脳炎ワクチン接種に関するQ&A[H28.3月版]

ロタウイルスワクチンは初回接種を1 価で始めた場合は 1 価の2 回接種 5 価で始めた場合は 5 価の3 回接種 となります 母子感染予防の場合のスケジュール案を示す 母子感染予防以外の目的で受ける場合は 4 週間の間隔をあけて2 回接種し 1 回目 の接種から20~24 週あけて3 回目を接種生

78 八戸学院短期大学研究紀要 第 40 巻 中学生 1 年生の間 ( 初回性交前が理想であるため ) に 1 ヶ月の間隔をおいて 2 回接種を行った後 1 回目の接種から 6 ヶ月の間隔をおいて 1 回の接種を行う 2 価ワクチン ( サーバリックス ) と 中学生の間に 2 ヶ月の間隔で 2 回

Microsoft PowerPoint - 【参考資料4】安全性に関する論文Ver.6

危機管理論 リスクとクライシスのマネジメント

<B 型肝炎 (HBV)> ~ 平成 28 年 10 月 1 日から定期の予防接種になりました ~ このワクチンは B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染を予防するためのワクチンです 乳幼児感染すると一過性感染あるいは持続性感染 ( キャリア ) を起こします そのうち約 10~15 パーセントは

最終的に 大きな問題点はこの子どものCRPSが知られてないことと 専門医が少ないことになります 今後この点に関して小生は 先日の委員会に出席された成人の慢性疼痛の専門家に 是非子どものCRPSの専門家の先生を研究班などに加えて頂き 研究 治療体制の拡充をお願いしております これは当然厚労省にお願いし

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および 26 歳以上の女性にお

ヒブ ( インフルエンザ菌 b 型 ) 対象者 : 生後 2ヶ月から5 歳未満までのお子さん標準的な接種開始期間は 生後 2ヶ月から7ヶ月未満です 生後 2ヶ月を過ぎたら 早目に接種しましょう 接種方法 : 接種開始時の年齢により接種方法が異なります 接種開始が生後 2ヶ月から7ヶ月未満の場合 (

B 型肝炎 予防接種予診票 * 接種希望の方へ : 太ワク内にご記入ください * お子さんの場合には 健康状態をよく把握している保護者がご記入ください 記入日年月日 男 ふ り が な 住 所 ける人の氏名女受 保護者の氏名 生年月日 大正昭和平成 年月日生 ( 満歳ヵ月 ) 診察前の体温度分 電話

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール 014 年 10 月 1 日版日本小児科学会 乳児期幼児期学童期 / 思春期 ワクチン 種類 直後 6 週 以上 インフルエンザ菌 b 型 ( ヒブ )

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スライド 1

B 型肝炎 予防接種予診票 * 接種希望の方へ : 太ワク内にご記入ください * お子さんの場合には 健康状態をよく把握している保護者がご記入ください 記入日年月日 男 ふ り が な 住 所 ける人の氏名女受 保護者の氏名 生年月日 大正昭和平成 年月日生 ( 満歳ヵ月 ) 診察前の体温度分 電話

スライド 1

鎌倉市子宮頸がん予防ワクチン接種後の体調の変化に関する状況調査結果 実施期間 : 平成 25 年 10 月 3 日から 11 月 22 日着分まで 1 対象者 3,060 人 2 回収者 1,795 人 3 未回収 1,265 人 4 回収率 58.7% 回収率 未回収, 1,265 人, 41.3

報告風しん

子宮頸がん予防ワクチン及びヒブ・小児用肺炎球菌ワクチンの接種助成事業スタート

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PowerPoint プレゼンテーション

H30_業務の概要18.予防接種

僕が見た21世紀の 産婦人科医療

Microsoft Word - 婦人科がん特に子宮頸癌治療の最近の話題ver.4.docx

医療従事者の方へ 平成 30 年 12 月 21 日 一般社団法人日本プライマリ ケア連合学会 理事長丸山泉 ヒトパピローマウイルスワクチンに関する日本プライマリ ケア連合学会の考え方 ( この内容は本学会の HPV に関する特別委員会で協議され 理事会で承認されたもの です ) 平成 25 年 4

方法について教えてください A 妊娠中の接種に関する有効性および安全性が確立されていないため 3 回接種を完了する前に妊娠していることがわかった場合には一旦接種を中断し 出産後に残りの接種を行うようにしてください 接種が中断しても 最初から接種し直す必要はありません 具体的には 1 回目接種後に妊娠

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

なお, 世間では HPV ワクチンのことを 子宮頸がんワクチン と呼んでいるが, ワクチンの性格上, 本稿では HPV ワクチン ( 正確には HPV 感染症予防ワクチン ) と表現する HPV 感染と子宮頸がんとの関係子宮頸がんの原因のひとつとして,HPV 感染による細胞の癌化が証明されている H

このリーフレットに書かれていた内容について もう一度チェックしてみてください HPV ワクチンの接種を検討している お子様と保護者の方へ CHECK! しきゅう 接種前に確認を 子宮けいがんの一部 ( H P V 1 6 型と18 型によるもの ) は H P V ワクチン接種により予防できると考え

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日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

都道府県単位での肝炎対策を推進するための計画を策定するなど 地域の実情に応じた肝炎対策を推進することが明記された さらに 近年の状況等を踏まえ 平成 28 年 6 月に基本指針の改正を行い 肝炎対策の全体的な施策目標を設定すること等が追記された 都は 肝炎をめぐる都内の状況や基本指針の改正を踏まえ

( 注意 ) 1 用紙の規格は 日本工業規格 A 列 4 番とする 2 1~3 の欄は 申請に係る疾病について医療を受けた者の氏名 性別 生 現住所及び電話番号を記入する 3 4~11 の欄は PMDA( 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 ) から障害児養育年金 障害年金の認定において疾病に係る医

アレルギー疾患対策基本法 ( 平成二十六年六月二十七日法律第九十八号 ) 最終改正 : 平成二六年六月一三日法律第六七号 第一章総則 ( 第一条 第十条 ) 第二章アレルギー疾患対策基本指針等 ( 第十一条 第十三条 ) 第三章基本的施策第一節アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減 ( 第十四条

婦人科がん検診Q&A

9 予防接種

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールの主な変更点 2014 年 1 月 12 日 1)13 価結合型肺炎球菌ワクチンの追加接種についての記載を訂正 追加しました 2)B 型肝炎母子感染予防のためのワクチン接種時期が 生後 か月 から 生直後 1 6 か月 に変更と なりました (

り感染し 麻薬注射や刺青なども原因になります 輸血の安全性や医療環境の改善によって 医原性の感染は例外的な場合になりました 日本では約 100 万人の B 型肝炎ウイルスキャリアがいます その大部分は成人で, 昔の母子感染を含む小児期の感染に由来します 1986 年から B 型肝炎ウイルスキャリアの

( イ ) 受診率推移 ( 国民生活基礎調査 ) H % H % H % H % 平成 21 年度より無料クーポン券施策を開始 ( ウ ) 平成 30 年度受診勧奨事業 年齢は平成 30 年 4 月 1 日時点 1 無料クーポン券の送付検診対象年齢の初

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DPT, MR等混合ワクチンの推進に関する要望書

4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

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第1 入間市の概要

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

1. 今回の変更に関する整理 効能 効果及び用法 用量 ( 添付文書より転載 ) 従来製剤 ( バイアル製剤 ) と製法変更製剤 ( シリンジ製剤 ) で変更はない 効能 効果 用法 容量 B 型肝炎の予防通常 0.5mL ずつ4 週間隔で2 回 更に 20~24 週を経過した後に1 回 0.5mL

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健康だより Vol.71(夏号)

平成 24 年 7 月改定版 すべての予防接種につきましては 次のページに記載してあります 平成 24 年度予防接種日程表 ( 国の通知により 内容が変わる場合があります 毎月の 広報みなみちた でご確認ください 新 麻しん風しん混合 3 期 4 期 ( 個別 ) 対象 :3 期 ( 中学 1 年生

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2

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

子宮頸部細胞診陰性症例における高度子宮頸部病変のリスクの層別化に関するHPV16/18型判定の有用性に関する研究 [全文の要約]

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平成13年度税制改正(租税特別措置)要望事項(新設・拡充・延長)

インフルエンザ(成人)

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とが知られています 神経合併症としては水痘脳炎 (1/50,000) 急性小脳失調症 (1/4,000) などがあり さらにインフルエンザ同様 ライ症候群への関与も指摘されています さらに 母体が妊娠 20 週までの初期に水痘に罹患しますと 生まれた子供の約 2% が 皮膚瘢痕 骨と筋肉の低形成 白

石綿による健康被害の救済に関する法律の解説

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別紙

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日本脳炎ワクチン接種についてQ&A(改定案)

H22母性保健に関する研究

特定健康診査等実施計画 ( 第二期 ) 三重交通健康保険組合 平成 25 年 7 月

スライド 1

Transcription:

2016 年 10 月 5 日放送 HPV ワクチン 最近の動向 慶應義塾大学感染症学教授岩田敏はじめにわが国の子宮頸がん患者数は年間約 1 万人 死亡者数は約 3 千人と言われており 国内では 子宮頸がんによる死亡率の増加傾向がみられています また 若年女性に多い子宮頸がんの発生頻度のピークは 出産年齢のピークと重なっており 子宮頸がんに罹患した女性は 死亡するリスクだけではなく 妊娠 出産を諦めなければならなくなるというリスクを負うことになります 子宮頸がんはその原因の多くがヒトパピローマウイルス ( 以下 HPV) の感染によるものとされており HPV ワクチンは 子宮頸がんを起こすリスクの高いタイプのHPVの感染を防ぎます したがって 子宮頸がんに対しては 定期検診による早期発見に努めることも必要ですが がんの発症を予防するという観点からは HPVワクチンを接種し 子宮頸がんの原因となるHP Vの感染を予防することが重要になります 平成 25 年 4 月に定期接種化されたHPVワクチンは 接種後に広範な慢性の疼痛などの多様な症状がみられたため 2か月後の平成 25 年 6 月に積極的勧奨の差し控えが実施され

現在にいたっております その結果 現在 HPVワクチンは定期接種でありながら 接種対象となる12 歳から16 歳の女子に対する接種がほとんど行われていないのが現状です このような状況は先進国では日本だけで見られていることであり 将来 子宮頸がんの発症が他国に比べて著しく高くなるというような事態が起きる可能性を否定できないような状況にあります しかしながら一方では HPVワクチンの接種を受けた後に痛みを中心とする様々な症状で苦しんでいる方がいらっしゃることも事実であり 現在国及び製薬会社に対する 損害賠償請求訴訟も起こされています このような状況下で 今後このワクチンを 我が国で定期接種として どのようにして普及させていくか ということはきわめて重要な問題となっています HPVワクチンの有効性 2016 年 1 月現在 世界の多くの国 (WHO 加盟国の33.5% にあたる65カ国 ) が HPVワクチンを国の予防接種プログラムとして実施しており HPVワクチンが導入された2007 年からの3~4 年間で 子宮頸がんの前がん病変の発生率が約 5 0% 減少していることが オーストラリア 英国など複数の国々から報告されています オーストラリアのビクトリア州では 2007 年に4 価 HPVワクチンが国の予防接種プログラムとして導入されましたが その後 18 歳未満の女性において 前がん病変である高度子宮頸部病変の発生率が著明に低下しました 英国のスコットランドでは 2008 年 9 月より 12~13 歳の女子を対象に 2 価 HPVワクチンの国家プログラムによる接種が開始され 同時に17 歳までの女子を対象としたキャッチアップ接種が実施されています キャッチアップ世代が20 歳になった2009~2012 年に 2 0~21 歳の女性を対象とした子宮頸がん検診で採取された検体を用いて 24 種類のHPV 型

について ワクチン非接種群とワクチン接種完了群におけるHPV 検出率を比較検討したところ 2 価 HPVワクチンに含まれている16 型と18 型に関して ワクチン接種群の検出率は有意に低い値を示しました このように 前がん病変の抑制 HPV 感染の抑制に対するHPVワクチンの有効性は H PVワクチン導入後のインパクトとして明らかにされており 将来的に子宮頸がんの予防に役立つことは明らかであると考えられます HPVワクチン接種後の有害事象の評価 HPVワクチンの接種後にみられる主な有害事象 ( 副反応 ) としては 発熱や接種した部位の痛みや腫れ 注射による痛み 恐怖 興奮などをきっかけとした失神などが挙げられます またまれな有害事象 ( 副反応 ) として アナフィラキシー ギラン バレー症侯群 急性散在性脳脊髄炎 (ADEM) などがあります これらの有害事象 ( 副反応 ) は他のワクチンにおいても認められるものですが 複合性局所疼痛症候群 (CRPS) などのワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛を伴う事例や 関節痛などの自己免疫疾患様の症状が現れた事例など これまで他のワクチンでは問題にされていなかった多様な事象が報告され 問題となりました これらの有害事象に関して 国内外で再調査が行われました 国内において 約 890 万回接種のうち 副反応疑い報告が2584 人 ( のべ接種回数の0.03%) であり 発症日 転帰などが把握できた1739 人のうち1550 人 (89.1%) が回復または軽快し通院不要となっています 未回復の方は186 人 (10.7%)( のべ接種回数の約 0.002%) で 延べ接種回数から見ると 10 万接種あたり2 人が未回復の症状を残しているということになります 未回復の186 人の内訳は 頭痛 倦怠感 関節痛 接種部位以外の疼痛 筋肉痛 筋力低下などでした ちなみに厚生労働省は これらの有害事象について基質的障害ではなく 機能性身体症状と評価しています 一方 欧州での大規模な安全性プロファイルの再調査によると 複合性局所疼痛症候群 体位性起立性頻拍症候群 自己免疫疾患などの発生率は 本ワクチン接種者と一般集団で差がみられないことが示されています これらの状況から WHOは 複合性局所疼痛症候群や体位性起立性頻拍症候群の診断や症状を完全に特徴付けることはかなり困難であるが HPVワクチンの導入前後のデータの検討においても これらの症状がHP Vワクチン接種に関連していることを示すエビデンスは見られなかった という見解を

公表しています また欧州医薬品庁 (EMA) も 現在もモニタリングを継続中ではあるが 現在までに得られているエビデンスは HPVワクチンが複合性局所疼痛症候群や体位性起立性頻拍症候群の原因となることを示さないことを確認している と述べております 国内でHPVワクチン接種後の疼痛等の症状の頻度に関して ワクチン接種者と非接種者の間で比較し論文化された成績はございません ただ 中学 3 年生から大学 3 年生相当の年齢の女性約 3 万人について解析した名古屋市の調査では 痛みや身体のだるさ等の 2 4 項目の身体症状について ワクチン接種者に有意に症状のある人が多いという項目は認められなかったようです HPVワクチン接種後の有害事象への対応 HPVワクチン接種後に生じた様々な症状に対しては 各地域に対応する医療機関が設置され 地域で支える診療体制 相談体制が整備されました また地域の体制をバックアップする専門医療機関も設置されました 日本医師会と日本医学会からは HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き が平成 27 年 8 月に発刊され 各医療機関に配布されています さらに 不幸にして健康被害にあわれた方への救済制度についても見直しが行われ 因果関係が証明されなくても 原因が特定できない方に対しては 救済が行われるようになっております HPVワクチンに対する関連学会等の見解と今後の方向性以上のような状況を踏まえて 日本小児科学会 日本感染症学会など予防接種関連の15 学術団体で構成されている予防接種推進専門協議会は 他の2 学術団体と共同で HP Vワクチン接種推進に向けた関連学術団体の見解 を本年 4 月に発出し その中で これ以上のHPVワクチンの積極的接種勧奨の中止は 国内の女性が実質的にワクチンによ

るがん予防という恩恵をうけられないことになり 極めて憂慮すべき事態である がん予防のために本ワクチンの接種を希望する方たちに対して 体制が整ったことを周知し 接種が受けやすい環境を整えるべきである と述べ HPVワクチンの積極的な接種を推奨しています また海外からも WHO( 世界保健機構 ) のワクチンの安全性に関する諮問委員会は 2015 年 12 月に 本ワクチン接種の積極的勧奨が差し控えられている現在の日本の状況に対して 若い女性たちは 本来予防可能であるHPV 関連がんの危険にさらされたままになっている 不十分なエビデンスに基づく政策決定は 安全かつ効果的なワクチン使用の欠如につながり 真の被害をもたらす可能性がある との意見を述べています HPVワクチン接種後の健康被害に関する損害賠償請求訴訟が起こされたことは残念なことではありますが おそらくこれらの健康被害とワクチンの因果関係を証明することは難しいであろうこと ワクチンの接種には必ず一定の割合で有害事象を伴うこと等を考えた場合 ワクチン接種のリスクとベネフィットを踏まえたうえで ベネフィットが優るであろうHPVワクチンの接種を 希望者に対して積極的に推奨していくべきであると考えます もちろん その場合は 安全性に関する国内の疫学データの裏付けは必要になりますし ワクチンの効果と有害事象について これまで以上に詳細に被接種者と保護者に説明し 十分な理解を得たうえで接種すること 不幸にして健康被害が起きた場合の診療や補償を確実に行っていくことが重要であることは言うまでもございません 以上 HPV ワクチンの最近の動向と今後あるべき方向性について 述べさせていただ きました