アレルギーの臨床 2010年1月号 (立ち読み)

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アレルギーの臨床 2010年7月号 (立ち読み)

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ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

平成24年7月x日

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2 アトピー性皮膚炎と真菌アレルギー Fungal skin allergy related to atopic dermatitis 横浜市立大学附属市民総合医療センター皮膚科横浜市立大学大学院環境免疫病態皮膚科学 まつくら松倉 せつこいけざわ節子 池澤 ぜんろう善郎 松倉節子 1995 年横浜市立大学医学部卒業 97 年横浜市立大学医学部付属病院皮膚科入局, 98 年より国立相模原病院, 横浜市立港湾病院, 横浜市立脳血管医療センターなどを経て,2006 年より横浜市立大学附属市民総合医療センター皮膚科に勤務,08 年カナダの University of Toronto, Sunnybrook Health Sciences Centre, Division of Dermatology (Dr. Neil H. Shear) に留学,09 年横浜市立大学附属市民総合医療センター皮膚科助教に復職し, 現在にいたる 研究テーマ : 皮膚アレルギー ( アトピー性皮膚炎, 蕁麻疹, 薬疹 ), 自己免疫性水疱症 Key words: アトピー性皮膚炎, 真菌アレルギー, カンジダ, マラセチア, 抗真菌療法 Abstract アトピー性皮膚炎の悪化因子として注目されている真菌として, 腸管常在真菌であるカンジダ, 皮膚常在真菌であるマラセチアが代表的である 白癬菌や空中浮遊真菌としてのアスペルギルスやアルテルナリアなども時に悪化因子となりうる ここでは特にカンジダとマラセチアを取り上げ, アトピー性皮膚炎との関連性について述べる 積極的な治療として, 抗真菌薬内服療法があるが, 我が国と海外のアトピー性皮膚炎治療ガイドラインには記載されておらず標準的な治療法ではない しかし, 標準的な治療で効果不十分な症例の中に抗真菌療法が有効なことがあり, 今後も症例の集積が必要と考えられる はじめにアトピー性皮膚炎の原因および増悪因子として, 環境要因 ( ダニ, ホコリ, ペット, 花 粉抗原 ) および感染 ( 細菌, 真菌, ウィルス ), 食物, 精神的ストレスの関与などが挙げられている 人体常在菌である真菌がアトピー性皮膚炎の悪化因子として注目されるようになったのは 1984 年に Crook らが chronic andidiasis sensitivity syndrome として, アトピー性皮膚炎における腸管カンジダに対するアレルギーの可能性を指摘してからである 消化管に存在するカンジダ, さらに皮膚の常在菌であるマラセチアについても AD のアレルゲンとして臨床研究を中心とした報告が蓄積され, 様々な報告がある 1) 4) その他にも表 1に示すように, 白癬菌をはじめとする真菌の種類で AD に関与するものが数種ある 2) 中でもカンジダやマラセチアのアレルギーに対する積極的な治療として, 抗真菌薬内服療法が紅皮症を呈する重症 AD や顔面頚部の難治性 AD に一定の成果をあげているという報告があるが, 我が国と海外のアトピー性皮膚炎治療ガイドラインにはこれらの真菌アレルギーに対する治療方法は記載されていない 5)6) したがって現時点ではアトピー性皮膚炎にお 24 (24) アレルギーの臨床 30(1), 2010

表 1 抗原解析に用いた血清を提供いただいた患者の症状 Cladosporium,Alternaria,Yeasts,Aspergillus, Penicillium Malassezia Candida albicans Tricophyton rubrum ける抗真菌療法は標準的な治療法ではない しかし, 先に述べたように, 標準的な治療に抵抗性の症例に有効な場合があるのも事実である この項では特にカンジダとマラセチアがアトピー性皮膚炎の悪化因子としてどのように関与しているのかをこれまでの報告を総括して解説する また, 抗真菌薬内服療法の作用機序やその適応について合わせて解説する 1. アトピー性皮膚炎と消化管カンジダ症アトピー性皮膚炎は最近その頻度の増加とともに, 思春期以降の年長児や成人例の増加とその難治化が問題になっている これらの症例に原因食物の除去療法のみを実施しても改善しにくい難治例でカンジダ特異的 IgE 抗体陽性例の AD 患者に対し, 抗真菌薬内服療法が効果を挙げている報告がある 5)6) 人体常在菌である Candida albicans (C.albicans) が消化管内で増殖し,candidatoxin を介して様々な症状, 疾患を引き起こすという概念は Candidiasis, Yeast Connection, chronic candidiasis sensitivity syndrome(ccss) と 報告され, 抗真菌薬の内服が有効であるという 1)5)6) CCSS はカンジダが正常人の消化管細菌叢より増殖しているが発熱をきたすような全身性真菌症ほどには増殖していない中間の状態を指している カンジダ増殖促進因子としては,(1) 糖質やアルコールの過剰摂取,(2)broad spectrum の抗生剤内服による菌交代現象,(3) ステロイド内服,(4) 避妊薬や制酸剤投与などが挙げられ,overgrowth したカンジダから産生される candidatoxin は通常免疫を低下させ, 食物, 吸入物 接触物のアレルギー抗体を誘導しやすくすると解説されている 1)5)6) また, カンジダが抗原性物質をつくる可能性やホストの代謝を変化させる機序を挙げている Crook はカンジダが消化管粘膜に菌糸をのばして消化管粘膜を損傷するため食物の透過性が増し, 多種の食物アレルギーに陥ると仮説を述べている 1) また,CCSS は環境中の真菌類の暴露にも影響されると述べている 2. カンジダに対する抗真菌療法の適応抗真菌療法は CCSS の概念を適用した治療 アレルギーの臨床 30(1), 2010 (25) 25

特集 真菌アレルギー 最近の話題 3 自然免疫 獲得免疫と真菌 Innate immunity and acquired immunity in fungal infection 独 国立病院機構相模原病院 もり 臨床研究センター あ き お 森 森 晶夫 1984 年東京大学医学部卒業 86 年東京大 学医学部物療内科 宮本昭正教授 入局 89 年 Johns Hopkins University, Department of Medicine 石坂公成教授 留学 98 年 国立相模原病院アレルギー 呼吸器科医 員 2001 年臨床研究センター先端技術開 発研究部長 研究テーマは喘息の機序 特に重症喘息の病因 病態 治療に関す る研究 晶夫 Key words innate immunity acquired immunity defencin dectin NK cell NKT cell products)と総称され これに対する受容体を Abstract PRRs (pattern recognition receptors)と呼ぶ 有 気管支 肺における真菌に対する防御免疫 アレルギー反応には 主たる役割を演じる獲 得免疫の抗体 T B 細胞のみならず 自然 免疫の蛋白因子 炎症細胞 リンパ球が関与 する 自然免疫因子としては 液性因子のデ フェンシン コレクチン 補体 Dectin-1 dectin-2 などが 細胞性因子としては マク ロファージ 好中球に加えて 自然免疫リン パ球 NK 細胞 NKT 細胞 γδ T 細胞 Bl-B 細胞がある 決定的な防御免疫は 獲得免疫 が担っており なかでも細胞性免疫が主体で ある 名な toll-like receptors (TLRs)もその一つであ る 自然免疫系は 気道粘膜においてすぐ機 能しうる状態にあり 侵入した異物に対して 速やかに応答することができる 気管支 肺胞を覆う粘液中には デフェン シン コレクチン 補体をはじめ多くの液牲 自然免疫因子が存在する デフェンシンは 膜透過牲を亢進することで広く病原微生物に 対して殺菌活性を示す分子量 2,000 6,000 の 抗菌カチオニックペプチドとして知られ 1 好中球から産生されるαデフェンシン 気道 上皮細胞から産生されるβデフェンシンに分 けられる コレクチンは 多糖体認識ドメイ ンとコラーゲン様ドメインから構成される蛋 白で 病原微生物のマンノース多糖体を認識 1 真菌に対する肺の自然免疫系 する 肺胞にはマンノース結合レクチンに加 え て サ ー フ ァ ク タ ン ト 蛋 白 surfactant 非特異的と考えられてきた自然免疫系も protein SP -A -D が存在する SP-A は 病原体の分子構造を特異的に認識する受容体 マクロファージの貪食作用に対してオプソニ がある 自然免疫系を活性化する微生物成分 ン効果を持たないが C. neoformans へ濃度依存 は PAMPs (pathogen associated microbial 的 に 結 合 す る 2 SP-D は 筴 膜 を 欠 い た C. 30 (30) アレルギーの臨床 30(1), 2010

neoformans に結合し, これを凝集させることで気道上皮細胞の繊毛運動による排除を促進する 3) また,C. neoformans は別経路によって直接補体を活性化し, 生じた C3 断片が筴膜表面に蓄積する C3,C5 欠損マウスではクリプトコッカス感染が悪化することから, 補体が防御免疫において重要な役割を担うものと考えられている Dectin-1 と dectin-2 は, 抗原提示細胞に発現する C-type レクチンで,Dectin-1 は, 真菌細胞壁 βグルカンに結合し, マクロファージ, 樹状細胞を活性化し, 活性酸素, サイトカイン (IL-6, IL-19, IL-12, TNF-αなど ) 産生に関与する Dectin-2 は,II 型膜糖タンパクで, 細胞内に ITAM motif を持ち,FcRγ 鎖と複合体を形成し,NF-κ B 活性化,TNF-α,IL-1ra 産生に関与する DC-SIGN は, マンノースを認識する C-type レクチンで, カンジダと結合する Galectin-3 は, マンナン構造のうちβ 1, 2 残基を認識する C-type レクチンで, カンジダに対し細胞障害性を有する 自然免疫の細胞性因子としては, マクロファージ, 好中球, 自然免疫リンパ球などがある 肺胞マクロファージは, 外来異物の貪食やサイトカイン産生による免疫調節作用を通して, 肺内における感染防御の第一線を担う 炎症が起きた際には, 好中球, マクロファージ, 自然免疫リンパ球等, 種々の免疫細胞が集積する 肺胞マクロファージはオプソニン化された C. neoformans を効率よく貪食するとともに, 各種炎症性サイトカインを産生する CD4 + T 細胞に対して抗原を提示し, 増殖応答やINF-γ 産生を誘導する 好中球は気道内に常在はせず, 病原微生物の侵入などに際して, 局所に集積する 補体 が活性化され, マクロファージ等から炎症性サイトカイン IL-1,TNF やケモカイン IL-8 などが産生された場合, 速やかに血管内から遊走する 好中球は貪食細胞である一方で, サイトカイン産生を介して免疫調節作用も発揮すると報告されている 4) 5) NK 細胞,NKT 細胞,γδ T 細胞,Bl-B 細胞は, 獲得免疫より早期の自然免疫の時期に機能するという意味で, 自然免疫リンパ球と呼ばれ, 非常に速やかに活性化される特徴がある これらのリンパ球は,Th1/Th2 バランスの調節など, 獲得免疫の性質に影響を及ぼす NK 細胞はあらかじめ感作される必要なく, 標的細胞を傷害する 活性化 NK 細胞は, 直接真菌を傷害し 6), また, マクロファージの殺真菌活性を高める 7) NKT 細胞は,NK 細胞とT 細胞の特徴をあわせもつユニークな細胞で, 樹状細胞 (dendritic cell: DC) 上の MHC class 様分子 CD1dに結合した糖脂質抗原 ( α- galactosylceramide: α-gal-cer) を認識する 抗 CD3 抗体やα-Gal-Cer によって活性化されると, きわめて速やかに, 大量の INF-γや IL-4 を産生し免疫調節機能を発揮する NKT 細胞欠損マウスでは, 肺における真菌の排除が遅延し, 真菌抗原に対する遅延型過敏反応および Th1 細胞の分化誘導が低下する αβ T 細胞がリンパ節や脾臓に分布するのに対して,γδ 型の抗原受容体を発現する T 細胞 (γδ T 細胞 ) は, 皮膚粘膜組織に多く分布する 真菌感染 3 6 日目をピークに γδ T 細胞の増加が観察される γδ T 細胞はNKT 細胞によって方向付けられる Th1 依存性免疫応答を調節することで, 過剰な炎症反応の発生を抑えていると推測されている 8) アレルギーの臨床 30(1), 2010 (31) 31

5 真菌抗原 アレルギー研究の最近の話題 The recent findings of fungal allergens 1) 国立病院機構相模原病院アレルギー 呼吸器科 2) 国立病院機構相模原病院臨床研究センター おしかた 押方 やすえだ 安枝 ちやこさいとう智也子 1) 齋藤 浩 あけみ 2) 明美 ひろし Key words : 真菌アレルゲン,pan-allergen, 標準化, 2) 組換アレルゲン Abstract 真菌は自然環境中に広く生息する巨大な微生物群であり, アレルゲンを産生することが知られている真菌に限ってもその種類は約 80 種と多い また, 菌種ごとの構成アレルゲンには多様性や交差反応性があり, 複雑である 標準化されたアレルゲンエキスは実用化されておらず, 原因真菌の特定も困難な状況ではあるが, 遺伝子クローニング技術で調製された組換アレルゲンのいくつかは市販品として入手可能となっている 今後, 真菌アレルゲンの分子生物学的解析の発展により, 真菌アレルギー疾患の診断や治療へ臨床応用されることが期待される はじめに真菌は, 未知の菌種を含めるとその総数は 150 万にも及ぶと推定される巨大な微生物群である その大部分は, 腐生菌として土 壌中, 水中, 空中, 動植物生死体等の自然環境中に広く生息し, 自然界における有機物分解者として物質循環と環境保全に重要な役割を果たしている ヒトにおいては口腔粘膜や消化管内には Candida 属が, 皮膚には Malassezia 属が, 常在真菌として生息している 人類は古くから真菌の発酵力を利用してアルコール飲料, 味噌, 醤油, パン, チーズなどの多様な食品を作り, 最近では抗生物質をはじめとする人類に有用な化学物質の産生に大きく寄与している 一方で, 真菌の寄生による植物の病害, 腐食による食品の変質 腐敗, 建造物などの劣化等が引き起こされることがあり, さらには, その強く複雑な抗原性によって, ヒトの免疫応答を介して感染症やアレルギー疾患といった健康障害をもたらすことがある 真菌は, ハウスダスト, ダニ, ペット毛垢, 花粉などに並ぶ代表的アレルゲンの一つとして知られている かつては真菌がアレルゲンとして働くのは空中に浮遊する分生子 ( 胞子 ) と考えられてきたが, 近年の研究において胞子をはるかに上回る高濃度の菌糸の短い断片 40 (40) アレルギーの臨床 30(1), 2010