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第 20 講 病理と病証 Ⅰ 教科書 P.68~70 総論 象 症 病 証の違い 病理と病証を学ぶにあたり まずは東洋医学特有の観念である 象 症 病 証 それぞれの定義を理解することが必要である 1. 象と症 * 象 とは臓腑機能の状態が外 ( 外から確認できる ) に現れたもの 例 :[ 顔色がよい 目に輝きがある 頭髪に艶がある ] 等 * 症 とは 症状 のことである 臓腑の機能失調に伴い外に現れる [ 不良 ] な表現 例 :[ 咳嗽 腹痛 下痢 発熱 頭痛 ] 等 臓腑 表現 象 症 2. 病 * 病 とは特定の [ 病因 病機 ( 発病の形式 発展の順序 ) 予後 ] を持つ一連の 過程を指す 例 :[ 感冒 ( 風邪 ) 哮喘 ( 喘息 ) 肺癆 ( 肺結核 ) 消渇 ( 糖尿病 ) ] 等 3. 証 * 証 とは疾病発展過程中のある一段階における病理概括である 病因 病位 病勢 病性等の内容を含むため 疾病の特定段階の病理変化の本質を反映する * 疾病の全過程ではなく また疾病中の一症状を指すものでもない 例 : 表実熱証 熱邪壅肺証 肝腎陰虚証 脾胃湿熱証等 - 61 -

感冒の例 症 病 発病 証 治癒 弁証とは 弁証とは四診で得られた症 ( 象 ) 等の情報を理論と照らし合わせ総合的な病理概括であ る証を推測する過程を指す [ 弁証の種類 ] 弁証には数多くの種類があり 治療段階や疾病の性質などによりこれらを使い分けたり組み合わせて分析する 代表的な弁証には [ 八綱弁証 病因弁証 気血津液弁証 臓腑弁証 六経弁証 衛気営血弁証 三焦弁証 経絡弁証 ] 等がある [ 弁証の手順 ] 内傷雑病 臓腑弁証 気血津液弁証 四診 八綱弁証 六経弁証 外感熱病 衛気営血弁証 三焦弁証 - 62 -

八綱弁証 ( 病証 ) Master Frog's Library - 東洋医学概論 - 四診で得られた情報をもとに 病証を [ 表 裏 寒 熱 虚 実 陰 陽 ] の八綱に帰納し 大まかな証候の分析を行う弁証方法 八綱の意義 1 病位 [ 表 裏 ] 2 病質 ( 性質 ) [ 寒 熱 ] 3 病勢 ( 盛衰 ) [ 虚 実 ] 4 表裏 寒熱 虚実の統括 [ 陰 陽 ] * 4 の陰陽は臨床的な意義は少なく 一般的に表裏 寒熱 虚実の 六綱を用いて弁証を行う * 八綱弁証は他の弁証方法を進めるにあたり大まかな方向性をつかむための非常に重要 な役割を果たす ここで弁証を誤ると治療を施しても効果が無いばかりか場合によっては 症状を悪化或いは新たな不良な症状の発生を引き起こす可能性がある 実際には虚証だった例 : が実証であると判断 瀉法 正気を 更に消耗 虚証 が悪化 症状の悪化 ( 誤治 ) * 八綱のうち陰 陽はその他の六綱の総括であり 臨床上あまり意味を持たないため説 明を省く 臨床でも他の六綱の弁証ができればよい 1. 病位 : 病位 つまり病変の部位 深さを 表 裏 で表わす また 例外的なものとして 半表半裏 と呼ばれるものもある 1) 表 : 身体で最も浅い部位 皮膚や皮下表層の組織を 表 と呼び 表位に外邪等の邪気が 存在している病態を 表証 と呼ぶ * 外邪が身体を犯す場合 まずこの表位を犯す [ 外感表証 ] 代表症状 [ 悪寒発熱 頭痛 腰背痛 関節痛 脈浮等 ] - 63 -

2) 裏 : 身体の ( 最も ) 深い部位 主に臓腑のことを 裏 と呼び 裏位に邪気 ( 病理産物を含む ) や臓腑の失調などが存在している病態を 裏証 と呼ぶ 裏証は外感表証の発展悪化 或いは内因 不内外因 ( 内傷病 ) 等により発生する * 臨床上ほとんどの病証が場合この裏証に当たる 代表症状 [ 症状は多岐に及ぶ ; 但熱但寒 舌苔厚 脈沈等 ] 3) 半表半裏 : 表と裏の中間位を 半表半裏 と呼ぶ 外感病で表位を過ぎて まだ裏位に至らない 段階の病態を 半表半裏証 と呼ぶ * 三陰三陽病証 では [ 少陽病 ] と呼ぶ ( 教科書 p.90/91) 代表症状 [ 往来寒熱 胸脇苦満 口苦 脈弦等 ] 表裏鑑別のポイント 表 証 裏 証 病程 急に発病 病程は短い 久病で病程は長い 寒熱 発熱と悪寒がともに出現 発熱のみ 或いは悪寒のみ 舌象 無変化 多変化 脈象 浮 沈 2. 病勢 : 病の勢い つまり正気や邪気の強さを 虚 実 で表現する 1) 虚 : 正気が不足している状態を指す 1 人体にとって必要な物質 [ 気 血 津液等 ] が不足している状態 2 臓腑を構成する物質 [ 気 血 陰 陽等 ] が不足している状態 a. 先天不足 d. 大病 久病の消耗 形成原因 b. 飲食摂取不足 ( 後天不足 ) e. 過度の瀉法 攻下薬の使用 c. 過労 - 64 -

a. 正気虚損 病機特徴 b. 邪気は弱い或いは除かれている c. 正邪の闘争は激しくない 代表症状 臓腑経絡の生理機能減退 気血津液消耗と機能衰弱 [ 顔面蒼白 痿黄 倦怠 無力感 自汗 盗汗 脈虚 無力等 ] 2) 実 : 邪気が亢盛である状態を指す 1 外邪等が亢盛である状態 2 人体にとって不要な病理産物 [ 気滞 痰飲 瘀血 食滞等 ] が体内に存在している状態 3 臓腑を構成する物質の高まり 例 : 肝陽の高まり a. 外感六淫疫癘 d. 外傷 形成原因 b. 七情内傷 e. 痰飲 瘀血の存在 c. 暴飲暴食 f. 過度の補法 補益薬の使用 a. 邪気亢盛 病機特徴 b. 正気は衰えていない c. 正邪の闘争は激しい 代表症状 亢盛な邪気と衰えていない正気の激しい闘争による一連の邪気亢盛の症状 [ 声が高く息が粗い 拒按 脈実 有力等 ] 正気の不足 虚実の模式図 邪気 上限 正常範囲 下限 正常虚実 - 65 -

3. 病性 ( 病質 ) : 病の性質 病の持つ寒熱の性質を指す 1) 寒 : 人体陰陽のバランスにおいて [ 陰 ] が強い病態 寒証には 2 種類ある 1 絶対的に陰が強い状態 [ 実寒証 ]( 陰実証 ) と呼ぶ 2 陰の力は正常だが陽が弱いために相対的に陰が強くなっている状態 [ 虚寒証 ]( 陽虚証 ) と呼ぶ 絶対的に陰が強い 寒証の模式図 相対的に陰が強い 上限 陽 陰 正常範囲 下限 正常 実寒 虚寒 形成原因 a. 寒邪を感受 ( 外感病 )[ 実寒証 ] b. 久病で陽気を損傷 ( 内傷病 )[ 虚寒証 ] 代表症状 [ 悪寒 畏寒 顔面蒼白 四肢の冷え 口渇せず 尿清長 舌淡苔白 脈遅 緊等 ] 実寒証 = 陰実証 症状 :( 強い寒気の症状 ) 悪寒 畏寒 各種の冷え 顔面蒼白 舌淡 脈緊 ( 遅 ) 虚寒証 = 陽虚証 症状 : 気虚証 + 虚寒症状 ( 弱い寒気の症状 ) * 虚寒証状 : 寒がる 冷える 喜温喜按等の症状 顔色が白っぽい 多尿透明 舌胖大 ( 歯痕 ) 脈遅 - 66 -

2) 熱 : 人体陰陽のバランスにおいて [ 陽 ] が強い病態 熱証には 2 種類ある 1 絶対的に陽が強い状態 [ 実熱証 ]( 陽実証 ) と呼ぶ 2 陽の力は正常だが陰が弱いために相対的に陽が強くなっている状態 [ 虚熱証 ]( 陰虚証 ) と呼ぶ 絶対的に陽が強い 熱証の模式図 相対的に陽が強い 上限 陽 陰 正常範囲 下限 正常 実熱 虚熱 a. 熱邪を感受 ( 外感病 )[ 実熱証 ] 形成原因 b. 気滞 食滞 痰飲等の化熱 ( 内傷病 )[ 実熱証 ] c.( 腎 ) 精 血 津液消耗 陰虚内熱 ( 内傷病 )[ 虚熱証 ] 代表症状 [ 発熱 顔面紅潮或いは頬紅 口渇 発汗 尿短赤 舌紅 絳 苔黄 脈数等 ] 実熱証 = 陽実証 症状 :( 強い熱の症状 ) 壮熱等 顔面紅潮 目赤 煩燥口渇 喜冷飲 尿少色黄 大便乾燥 津液損傷舌紅 ( 或いは舌絳 紅絳 ) 苔黄 ( 乾燥 ) 脈数 洪 虚熱証 = 陰虚証 症状 : 津液不足症状 + 虚熱症状 ( 弱い熱の症状 ) 各種乾燥症状 微熱 潮熱 五心煩熱 盗汗 舌紅少津 脈細数 *( 虚熱症状 ) - 67 -

寒熱鑑別のポイント 寒 証 熱 証 寒熱 悪寒畏寒 ( 温暖を好む ) 発熱 ( 寒冷を好む ) 顔色 蒼白 紅潮 手足 冷たい 熱い 口渇 口渇せず 口渇 ( 喜冷飲 ) 尿 透明 多量 色が濃く 少量 大便 正常 或いは泥状便 大便乾燥 舌質 淡 或いは正常 紅 舌苔 白 黄 脈象 遅 ( 緊 ) 数 ( 細数 ) 3) 平 : 人体陰陽のバランスにおいて [ 陰 ] [ 陽 ] が平衡を保っている状態 代表症状 [ 発熱 ( 熱症状 ) や寒気 ( 寒症状 ) は現れない ] 練習問題 次の文で示す症例を八綱 ( 六綱 ) 弁証で分析せよ 問 1. 心悸 精神疲労 不眠で夢を良く見る 活動 ( 運動 ) 後諸症状が悪化する 寒がりで 四肢の冷えが見られる 顔色は白っぽく自汗がある 脈は虚 病位 _ 裏 _ 病性 _ 寒 _ 病勢 _ 虚 _ 問 2. 主訴は目眩 顔面紅潮 口が苦い 怒りっぽい 便秘などの症状がある 肩の張った ようなこり 胸脇苦満がみられる 脈は弦で数 病位 _ 裏 _ 病性 _ 熱 _ 病勢 _ 実 _ - 68 -