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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ


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医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

平成24年7月x日

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Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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ポイント 微生物細胞から生える細い毛を 無傷のまま効率的に切断 回収する新手法を考案しました 新手法では 蛋白質を切断するプロテアーゼという酵素の一種を利用します 特殊なアミノ酸配列だけを認識して切断する特異性の高いプロテアーゼに着目し この酵素の認識 切断部位を毛の根元に導入するために 蛋白質の設

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平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

PRESS RELEASE 2015 年 9 月 24 日理化学研究所東京大学 電気で生きる微生物を初めて特定 微生物が持つ微小電力の利用戦略 要旨理化学研究所環境資源科学研究センター生体機能触媒研究チームの中村龍平チームリーダー 石居拓己研修生 ( 研究当時 ) 東京大学大学院工学系研究科の橋本和

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平成14年度研究報告

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みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

細胞膜由来活性酸素による寿命延長メカニズムを世界で初めて発見 - 新規食品素材 PQQ がもたらす寿命延長のしくみを解明 名古屋大学大学院理学研究科 ( 研究科長 : 杉山直 ) 附属ニューロサイエンス研究セ ンターセンター長の森郁恵 ( もりいくえ ) 教授 笹倉寛之 ( ささくらひろゆき ) 研

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

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生物 第39講~第47講 テキスト

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 20 日 独立行政法人理化学研究所 アルツハイマー病の原因となる アミロイドベータ の産生調節機構を解明 - 新しいアルツハイマー病治療薬の開発に有望戦略 - 高年齢化社会を迎え 認知症に対する対策が社会的な課題となっています 国内では 認知症

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アフリカ睡眠病治療薬の候補化合物と標的タンパク質との複合体構造の解明 1. 発表者 : 北潔 ( 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻生物医化学分野教授 ) 原田繁春 ( 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科応用生物学部門構造生物工学研究室教授 ) 2. 発表のポイント : 成果 : アフリカトリパノソーマが引き起こすアフリカ睡眠病の治療薬候補化合物と その標的タンパク質 ( シアン耐性酸化酵素 TAO) との複合体構造を明らかにしました 新規性 : TAO は アフリカ睡眠病治療薬の標的として格好のタンパク質ですが 立体構造は全く分かっていませんでした この研究では TAO に治療薬候補化合物が結合した構造を初めて明らかにしました 社会的意義 / 将来の展望 : 感染したヤギやマウスを完全に治癒できるこの化合物をリード化合物に 今回得られたタンパク質立体構造情報に基づいて さらに優れた治療薬の設計が加速され 科学先進国である日本の基礎研究の成果を開発途上国の発展に結実させることができます 3. 発表概要 : アフリカ睡眠病は 中枢神経系を侵され最後は昏睡状態になって死に至る致死性の感染症です しかし 顧みられない熱帯病 ( 注 1) と呼ばれているように先進諸国の関心が薄く アフリカの貧困層を中心に蔓延しています ツェツェバエが媒介する寄生性原虫アフリカトリパノソーマの感染によって起こり 年間約 30,000 人もの人々が死亡していると報告されていますが 正確な数字は把握されていません 現在使われている治療薬は 強い毒性や副作用があるので より安全で治療効果の高い薬の開発が求められています アフリカトリパノソーマがヒトなどの哺乳類血液内で生息している時 アフリカトリパノソーマの生存に必要なエネルギーを産み出すためにシアン耐性酸化酵素 (TAO) が重要な役割を担っています TAO は哺乳類にないタンパク質なので格好の薬剤標的になり その働きを阻害する化合物を開発すれば睡眠病治療薬へつながります 1995 年 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻生物医化学分野の北潔教授らは 日本で糸状菌から発見された抗生物質 アスコフラノン ( 注 2) が TAO を強く阻害することを見出しました アスコフラノンをリード化合物にしてドラッグデザインすればもっと優れた睡眠病治療薬に導くことができるはずです しかし ドラッグデザインに不可欠な TAO の立体構造が全く不

明でした そこで京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科応用生物学部門構造生物工学研究室の原田繁春教授と共同研究を開始しました 今回 同研究グループは TAO や TAO にアスコフラノン誘導体が結合した構造を日本が誇る SPring-8 や PF の放射光施設を用いた X 線解析で決定し 両者の間に働いている相互作用を明らかにしました その結果 さらに優れた睡眠病治療薬のドラッグデザインを加速できるようになりました 本研究の内容は 米国科学誌 米国科学アカデミー紀要 ;Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS) 3 月 4 日オンライン版に掲載されました 4. 発表内容 : 研究の背景 アフリカ睡眠病は トリパノソーマ科の寄生性原虫 Trypanosoma brucei( アフリカトリパノソーマ ) の感染によって発症し 毎年 3~5 万人の患者が新たに発生している感染症です アフリカトリパノソーマは ツェツェバエによって媒介され 感染初期は宿主の血流中で増殖します 慢性期になると中枢神経系が侵されて 最終的には昏睡状態に陥って死に至ることから アフリカ睡眠病 あるいは 眠り病 と呼ばれています アフリカトリパノソーマは家畜にも感染し ナガナ病と呼ばれる感染症を引き起こします その結果 人々のタンパク源として重要なウシが年間数十万頭も死に至り 大きな経済的被害を与えています このように アフリカトリパノソーマはアフリカ諸国の人々 特に貧困に苦しむ人々の健康だけでなく経済発展の大きな妨げになっています しかし マラリアとは対照的に アフリカ睡眠病は 顧みられない熱帯病 と呼ばれ 先進諸国は治療薬の開発に積極的ではありませんでした そのため 毒性や重い副作用のある治療薬が今も使われているのが現状で より安全でかつ効果の高い治療薬の開発が急務になっています アフリカトリパノソーマは ツェツェバエの中にいる時と宿主哺乳類の血液中にいる時とでは 全く異なった代謝経路でエネルギーを産み出しています 哺乳類血液中では ミトコンドリア ( 注 3) 中に存在するシアン耐性酸化酵素 (Trypanosome Alternative Oxidase TAO) がエネルギー代謝の末端酸化酵素として働き アミノ酸配列の解析から酵素反応に関わる触媒部位に2 核鉄が結合している膜表在型のタンパク質であると予想されていました また 宿主哺乳類の血液中にいるアフリカトリパノソーマの生存に不可欠で しかも哺乳類には存在しない TAO は アフリカ睡眠病治療薬を開発する上で格好の標的になると考えられてきました 実際 研究グループは糸状菌から単離したプレニルフェノール化合物であるアスコフラノンが TAO の酵素活性を非常に強力に阻害し アフリカトリパノソーマに感染させたマウスやヤギを完全に治癒させることを報告しています しかし TAO の立体構造が分からない状況ではアスコフラノンの阻害機構を解明し タンパク質の立体構造情報に基づく治療薬の設計は不可能でした

研究内容 本研究では 大腸菌で大量発現した TAO を高純度に精製して結晶化し X 線結晶構造解析によって膜表在型の2 核鉄タンパク質として初めての立体構造を明らかにしました TAO は 逆平行に並んだ6 本の長いヘリックスからできており そのうちの 4 本が束ねられてできた構造の中に酵素反応の中心的役割を担う2 核鉄が独特の配位様式で結合していました ( 図 1) また 二量体の形成やそれが膜に結合している様式も明らかにできました ( 図 2) さらに アスコフラノン誘導体との複合体構造も決定し その阻害機構を詳細に明らかにしました アスコフラノン誘導体は 二核鉄の近くにある疎水性ポケットに結合して TAO のアミノ酸残基と水素結合やファン デル ワールス相互作用を形成して TAO に結合していました ( 図 3) 社会的意義 わが国では戦後 公衆衛生の発達によってほとんどの寄生虫感染症は制圧されました しかし 世界に目を向けると多くの発展途上国 特に熱帯地域の国々では様々な寄生虫感染症に苦しんでいます 本研究で着目したアフリカ睡眠病や中南米のシャーガス病は トリパノソーマ類によって引き起こされる感染症で 顧みられない熱帯病 としてようやく WHO などがその制圧に力を入れはじめました 研究グループは 日本で発見された抗生物質アスコフラノンやその誘導体化合物が TAO に対する強力な阻害剤であり ヤギやマウスを使った動物実験で治癒効果のあることを既に確かめています 本研究で明らかにした TAO や TAO にアスコフラノン誘導体が結合した複合体構造は アフリカの流行地でも使いやすい 優れた睡眠病治療薬のドラッグデザインを加速させ 科学先進国である日本の基礎研究の成果を開発途上国の発展に結実させることができます 5. 発表雑誌 : 雑誌名 :Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS) (3 月 4 日オンライン版 ) 論文タイトル : Structure of the trypanosome cyanide-insensitive alternative oxidase 著者 : Tomoo Shiba, Yasutoshi Kido, Kimitoshi Sakamoto, Daniel Ken Inaoka, Chiaki Tsuge, Ryoko Tatsumi, Gen Takahashi, Emmanuel Oluwadare Balogun, Takeshi Nara, Takashi Aoki, Teruki Honma, Akiko Tanaka, Masayuki Inoue,Shigeru Matsuoka, Hiroyuki Saimoto, Anthony L. Moore, Shigeharu Harada, Kiyoshi Kita

6. 問い合わせ先 : 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻生物医化学分野 教授北潔 電話 :03-5841-3526 FAX:03-5841-3444 E-mail:kitak@m.u-tokyo.ac.jp HP:http://www.biomedchem.m.u-tokyo.ac.jp/ 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科応用生物学部門 構造生物工学研究室 教授原田繁春 電話 :075-724-7541 FAX:075-724-7541 E-mail:harada@kit.ac.jp 7. 用語解説 : 注 1: 顧みられない熱帯病 (Neglected Tropical Diseases NTDs) 顧みられない熱帯病 ( アフリカ睡眠病やシャーガス病 ) には 現在 世界で約 10 億人が感染し 毎年 50 万人が死亡している 身体に長期間にわたる重大な障害を起こすため 労働力低下を起こし その国の経済発展を妨げている 途上国の貧困層を中心に感染が広がっているにもかかわらず 新たな治療薬の開発が行われていないために 顧みられない熱帯病 と呼ばれている この感染症の制圧に向け 世界の製薬大手 13 社と米英政府 世界保健機関 (WHO) などが2012 年 1 月末 治療薬の提供や新薬開発で協力し合うことで合意した 注 2: アスコフラノン糸状菌から単離されたプレニルフェノール化合物であり 抗腫瘍および抗ウイルス活性を示すことから見いだされた アフリカ睡眠病やナガナ病を引き起こすトリパノソーマに対する薬剤開発のリード化合物である この化合物は in vitro の培養原虫を極めて短時間で殺滅し 感染マウスおよびヤギに高い治療効果を示す 注 3: ミトコンドリアほとんど全ての真核生物の細胞に含まれる細胞内小器官である 食物 ( 糖 ) を酸化してエネルギーを取り出し 生体内の主なエネルギー源であるアデノシン三リン酸 (ATP) を合成する場である 細胞のエネルギー工場 とも呼ばれる

8. 添付資料 : 図 1. TAO の二量体の結晶構造 図 2. TAO の膜結合領域 赤色は疎水性が高い領域を示している 図 3. TAO と阻害剤の結合様式 阻害剤は 二核鉄の近くの疎水的なポケットに結合している