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凡例 温度 通気層内 * 温度 表面 温度 裏面 風速 温度 野地板見上げ面 間柱防湿紙通気胴縁外装材 3 27 3 15 3 * 柱 45 18 225 45 ⑴ 横断面図 実験 No.1 から7 基本設定 測定位置 右側中央左側 棟側 ⑵ 裏面温度裏面温度左上部右上部 6 列 5 列 4 列 3 列 2 列 1 列 6a 5a 2a 1a 6b 5b 3b2b 1b 6c 5c 4c 3c2c 1c 6d 5d 石膏ボード厚さ 25mm 充填断熱厚さ 15mm 通気層奥行き 2mm 垂木 野地板見上げ面測定位置 3d 2d 1d 6e 5e 4e 3e2e 1e 25 25 2 2 2 6f 5f 3f2f 1f 防湿紙縦張り通気胴縁 * 7 加熱位置風速 ( 表面 裏面 ) ⑶ 実験 No.1 から7 縦断面図基本設定測定位置 図 2 縦断面切断位置 中間部 軒側野地板 45 36 9 18 18 45 充填断熱 ⑷ 実験 No.8 横断面図 充填断熱 厚さ 3mm ⑸ 実験 No.9 横断面図 外張断熱 厚さ 66mm ⑹ 実験 No.1 横断面図 充填断熱 外張断熱 厚さ 15mm 厚さ 66mm ⑺ 実験 No.11 横断面図 ⑻ 実験 No.12 横断面図通気層なし 25 縦張り通気胴縁 155 厚さ 75mm 85 熱気止め材 縦張り通気胴縁 防湿紙 45 36 9 36 45 ⑽ 実験 No.14 縦断面図熱気止め材 各測定項目の測定位置と各仕様の概要図 ( 各寸法の単位は mm) 45 ⑼ 実験 No.13 横断面図 枠組工法 ⑿ 実験 No.16 横断面図縦目地なし ⒁ 実験 No.18 19 横断面図防火構造 9 337.5 9 337.5 9 e 縦張り通気胴縁 337.5 9 9 337.5 39 構造用合板 モルタル仕上げ木摺下地 石膏ボード厚さ No.18 9.5mm No.19 12.5mm 3 a b c d f 横張り通気胴縁 39 厚さ 9mm 厚さ 2mm ⒀ 実験 No.17 横断面図内装モルタル仕上げ 防湿紙 ⑾ 実験 No.15 縦断面図横張り通気胴縁測定位置 45 22

⑶ 類焼要因発生時間試験体上部の通気層等からの炎の立ち上がりによる試験体上部野地板への着火 もしくは非加熱側への火炎の噴出 非加熱面での発炎 火炎が通る亀裂等の損傷の有無等 類焼の原因となるような現象の発生した時間 ( 以下 類焼要因発生時間とする ) を測定した ⑷ 試験体の設定試験体は 外壁と野地板からなる構成とした 外壁の大きさは 幅 9mm 高さ 18mm とした 野地板の大きさは 幅 9mm 長さ 6mm とした 野地板は 外壁の上端部に設置し 勾配は3/1 とした また 通気層からの火炎による野地板の着火に着目するため 軒の出がない状態に設定した なお 詳細については その1 を参照のこと 3 温度分布による考察 ⑴ 基本設定実験 No.1 2では 外壁内の基本的な延焼メカニズムを確認することを目的とした 仕様の概要を図 2⑴ ⑶に示した ア温度の時間変化 ( ア ) 通気層内柱付近 (3 列 ) の温度変化について 図 3をみると 下部 ( 測定位置 3d 3f) において 時刻約 25 分に約 2 であった その約 25 分後に最大約 7 に上昇した 目視により その時刻前後で外装材の割れや落下等はなかったことから 亀裂から火炎が外壁内に入った可能性は低く 外壁内で急激な燃焼が生じたと考察した また 松山ら 2) は 加熱された石膏ボードを有する外壁内の温度について 石膏ボード内の結晶水の放出が終了するまでは温度上昇は抑えられ 横ばい傾向を示し 結晶水の放出が終われば 外壁内の木構造材に着炎し壁内は急激な温度上昇を示す結果を得た 本検証でも時刻約 25 分までは通気層内の温度は緩やかな上昇傾向であったが それ以降急激な温度上昇を示したことから 同様の結果が得られたと考察した 柱間付近 (5 列 ) の温度変化について 図 4をみると 下部 ( 測定位置 5d 5f) の温度は時刻約 15 分以降から上昇し 5 以上になった それに対し 上部 ( 測定位置 5a 5b) の温度は 2 以下であった これは 下部は火源の火熱により加熱される一方 上部では火源からの火炎が上方向に伝播するための柱等の可燃物がないため 上部の温度が高くならなかったと考察した 間柱付近 (6 列 ) の温度変化について 図 5をみると 上部 ( 測定位置 6f) の温度が 5 を超えた 図 3に示した柱付近の温度と比較してやや低く 急激な温度上昇はみられなかった これは 火源から離れていたためだと考察した ( イ ) 裏面加熱位置の温度変化について 図 6をみると 小屋裏に着火した時の時刻約 45 分に約 6 であった また 右上部は時刻約 45 分に約 4 であり 大きな変化はなかった ( ウ ) 野地板見上げ面軒側の温度変化について 図 7をみると 当初温度上昇は緩やかであったが 時刻約 45 分に右側が約 6 になり急上昇した これは 外壁上端部の発炎により 野地板に着火したことによるものである 12 1 8 6 4 2 12 1 8 6 4 2 12 3 6 9 1 2 図 3 通気層内 3 列の温度変化実験 No.1 基本設定 時刻 5 分野地板着火 5a 5b 5d 5f 3 6 9 1 2 図 4 通気層内 5 列の温度変化実験 No.1 基本設定 1 8 6 4 2 1 時刻 5 分野地板着火 時刻 5 分野地板着火 3b 3d 3f 6a 6b 6d 6f 3 6 9 1 2 図 5 通気層内 6 列の温度変化実験 No.1 基本設定 8 6 4 2 時刻 5 分野地板着火 右上部火源位置左上部 3 6 9 1 2 図 6 裏面の温度変化 実験 No.1 基本設定 23

中間部の温度変化について 図 8をみると 右側が時刻約 45 分から温度が上昇し約 45 になった これは 野地板の軒側に着火後 野地板の中間部にまで火炎が広がって高温になったためであった イ検証後の試験体検証後の試験体の様子について 写真 1をみると 加熱位置を中心に同心円状に変色していた 外装材を取り外した状態について 写真 2をみると 加熱位置を中心にグラスウールが溶融していた また 間柱付近 通気層上部付近にはグラスウールが変色していない部分があった さらにグラスウールを取り外した状態について 写真 3をみると 加熱位置付近の柱が最も炭化していた また 柱側面から上枠に沿って炭化していた このことから 通気層内で 火源からの熱伝導により通気胴縁が発火し 火炎は通気層に面する柱側面を中心に その他縦張り通気胴縁側面等の可燃物に沿って上方向に伝播し 上枠に着火後 小屋裏に立ち上がり 野地板に着火したと考察した ウ実験の再現性実験 No.2 実験 No.1 と同一条件で2 回目を行い 実験の再現性について着目した 実験 No.2 の柱付近 (3 列 ) の温度変化について 図 9をみると 時刻約 2 分に測定位置 3b 3d 3fが約 2 から最大約 6 になった 実験 No1の結果の図 3と比較すると ほぼ同様の傾向であった このことから 本検証方法の再現性は低くないと考察した ⑵ 加熱距離と加熱高さの影響実験 No.3 から 7では 基本設定よりも加熱位置を上げた場合や遠ざけた場合の燃焼性状の変化を確認することを目的とした ア加熱高さの影響加熱高さが 7mm である実験 No.3 の柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 1 をみると 時刻約 2 分に温度が急激に上昇していた 基本設定の図 3と比較して 時刻約 25 分以降の加熱位置から高さ 4mm 離れた測定位置 と 85mm 離れた測定位置 の温度上昇が大きかった 加熱高さが 11mm である実験 No.4 の柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 11 をみると 実験 No.3 のときと同様の傾向で 時刻約 25 分で温度が急激に上昇していた 基本設定の図 3と比較して 特に加熱位置から高さ方向に 45mm 離れた測定位置 7mm 離れた測定位置 の上昇が大きかった また 加熱位置から下部に位置する測定位置 の温度変化は少なかった 6 4 2 時刻 5 分野地板着火 右中央左 3 6 9 1 2 図 7 野地板見上げ面軒側の温度変化 実験 No.1 基本設定 6 4 2 12 1 8 6 4 2 12 3 6 9 1 2 図 8 野地板見上げ面中間部の温度変化実験 No.1 基本設定 3 6 9 1 2 図 9 通気層内 3 列の温度変化実験 No.2 基本設定 1 8 6 4 2 12 時刻 23 分野地板着火 時刻 5 分野地板着火 右中央左 時刻 59 分野地板着火 3b 3d 3f 3 6 9 1 2 図 1 通気層内 4 列の温度変化実験 No.3 加熱高さ 7mm 1 8 6 4 2 時刻 26 分野地板着火 3 6 9 1 2 図 11 通気層内 4 列の温度変化実験 No.4 加熱高さ 11mm 24

このことから 加熱高さにかかわらず 外壁から小屋裏へ着火したが 加熱高さが高いほど 類焼要因発生時間が短くなる傾向であった イ加熱距離の影響加熱位置での外壁の表面温度は 加熱距離が 4mm の実験 No.1 では約 1 加熱距離が 8mm の実験 No. 5では約 5 であった 加熱距離が 8mm の実験 No.5 の柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 12 をみると 温度上昇は緩やかであった 基本設定の図 3と比較して 類焼要因発生時間が長かった 加熱距離が 8mm 加熱高さが 7mm である実験 No. 6の柱付近 (3 列 ) の温度変化について 図 13 をみると 時刻約 69 分に急激な温度の上昇が生じた 基本設定の図 3と比較して 類焼要因発生時間が長かった 基本設定の図 3と比較して 外壁の表面温度が低くなったため 類焼要因発生時間が長くなったと考察した ウ風速の変化特徴的な結果が得られた実験 No.3 の通気層下部の風速について 図 14 をみると 加熱開始前後に 風速がほぼ無風の状態から約.4m/sec に上昇した また 出火直前では さらに風速が約 1.5m/sec に上昇した また 実験 No.7 の通気層下部の風速について 図 15 をみると 前述の結果と同様で加熱開始時前後 出火直前のタイミングで風速が増加した このことから 燃焼に必要な酸素は 通気層から供給され 火源の火熱により通気層内がドラフト効果により通気層内の換気が促進され 酸素の供給が進み 燃焼が促されたと考察した ⑶ 断熱材の厚さと位置の影響実験 No.8 9では 充填断熱材の厚さを変化させたときの燃焼性状の変化を確認することを目的とした また 実験 No.1 では断熱材を外装材側に設置した外張断熱 実験 No.11 では充填断熱に加えて外張断熱を設置した充填外張断熱の違いについても確認した ア充填断熱厚さ 75mm 実験 No.8 仕様の概要を図 2⑷に示した 柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 16 をみると 時刻約 25 分に測定位置 において急激に温度が上昇し約 5 になった 基準設定の図 3と比較して 温度が時刻約 25 分以降約 15 分間で最大 7 になり 短時間で温度上昇した 12 1 8 6 4 2 風速 (m/sec) 2. 1.5 1..5 風速 (m/sec) 2. 時刻 23 分野地板着火 右左 3 6 9 1 2 図 14 通気層下部の風速変化 実験 No.3 加熱高さ 7mm 1.5 1..5 時刻 89 分野地板着火 3b 3d 3f 時刻 69 分野地板着火 3 6 9 1 2 図 13 通気層内 3 列の温度変化 実験 No.6 加熱高さ 7mm 加熱距離 8mm 右左 3 6 9 1 2 図 15 通気層下部の風速変化 実験 No.7 加熱高さ 11mm 加熱距離 8mm 12 1 8 6 4 時刻 96 分野地板着火 12 1 8 6 4 時刻 38 分野地板着火 2 2 3 6 9 1 2 図 12 通気層内 4 列の温度変化実験 No.5 加熱距離 8mm 3 6 9 1 2 図 16 通気層内 4 列の温度変化実験 No.8 充填断熱厚さ 75mm 25

間柱付近 (1 列 ) の温度変化について 図 17 をみると 測定位置 1f の温度が約 6 であった 基本設定の図 5 と比較して時刻約 3 分までは全体で 2 を超えなかった 外装材を取り外した状態について 写真 4 をみると 柱の側面に沿って炭化していた グラスウールは上部で溶融していなかった 断熱材厚さ 15mm の試験体と比較し 短時間で試験体上部まで延焼が進んだ原因としては 単に断熱材が薄くなったことにより 通気空間が増加したため 通気層内の燃え上がり速度が速くなり 野地板に着火する時間が短くなったと考察した 通気層内の燃え上がり速度が速くなった原因として 次の 2 点が挙げられた 断熱材が薄くなったことで 断熱材を溶融することなく 通気層に面した柱側面が延焼できたこと 柱側面の燃焼に必要な通気層内の空気の循環がより促進されたこと なお 断熱材の断熱性能は 通気空間の増加の影響と比較し 試験体内部の炎症促進にあまり関係しないと考えられた イ充填断熱厚さ 3mm 実験 No.9 仕様の概要を図 2⑸ に示した 柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 18 をみると 時刻約 25 分に全体で急激に温度が上昇した 基準設定の図 3 と比較して 測定位置 において時刻 25 分以降約 1 分後に約 7 を超え 短時間で温度上昇した 間柱付近 (6 列 ) の温度変化について 図 19 をみると 時刻約 2 分に全体で急激な温度上昇が生じた 基本設定の図 5 と比較して 時刻約 2 分以降の温度上昇が大きかった 外装材を取り外した状態について 写真 5 をみると グラスウールのほとんどが溶融していた また 柱の側面が炭化していた 断熱材厚さ 75mm の試験体と比較し さらに短時間で試験体上部まで延焼が進んだ原因としては 実験 No.8 の考察と同様の原因で 断熱材がさらに薄くなったことで 通気空間がより増加し 通気層内の燃え上がり速度が速くなったと考察した ウ外張断熱厚さ 66mm 実験 No.1 仕様の概要を図 2⑹ に示した 柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 2 をみると 測定位置 では時刻約 1 分以降から急激な温度上昇が生じ 9 を超えた 基本設定の図 3 と比較して 下部 ( 測定位置 ) は高温になったが 上部 ( 測定位置 ) は時刻 5 分の時点で 3 を超えず 野地板に着火していなかった 検証後の外装材を取り外した状態の試験体について 写真 6 をみると 外張断熱材が通気層上部で膨張し通気層を塞いでいた 12 1 8 6 4 2 時刻 38 分野地板着火 1a 1b 1d 1f 3 6 9 1 2 図 17 通気層内 1 列の温度変化 実験 No.8 充填断熱 厚さ 75mm 12 1 8 6 4 2 12 時刻 26 分野地板着火 3 6 9 1 2 図 18 通気層内 4 列の温度変化 実験 No.9 充填断熱 厚さ 3mm 1 8 6 4 2 時刻 26 分野地板着火 6a 6b 6d 6f 3 6 9 1 2 図 19 通気層内 6 列の温度変化 実験 No.9 充填断熱 厚さ 3mm 12 1 8 6 4 2 時刻 69 分野地板着火 3 6 9 1 2 図 2 通気層内 4 列の温度変化 実験 No.1 外張断熱 26

エ充填外張断熱実験 No.11 仕様の概要を図 2⑺ に示した 柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 21 をみると 急激な温度上昇は 時刻約 45 分に起きた 通気層下部 ( 測定位置 ) は最大 9 を超えた 通気層上部 ( 測定位置 ) は 野地板への着火直前の約 75 分前後まで 2 を超えなかった 検証後の外装材を取り外した状態の試験体について 写真 7 をみると 外張断熱材が火熱により膨張していた 実験 No.1 の結果と同様であった よって 外張断熱材が火熱により膨張して 上端部付近の通気層を塞いでいたことにより 通気層内の通気が妨げられ 燃焼による熱気が通気層上方向に伝わらず 延焼に時間を要したと考察した ⑷ 通気層の影響通気層なし実験 No.12 では 通気層の有無の影響を確認することを目的として 通気層のない場合を調査した 仕様の概要を図 2⑻ に示した 外壁上端部の温度変化について 図 22 をみると 全体において最大で約 5 であった 基本設定である実験 No.2 の通気層上端部の温度変化について 図 23 をみると 測定位置 5a において最大 5 であった 基本設定の実験 No.2 と比較すると 通気層なしの実験 No.12 の方が低い温度であった また 検証後の外装材を取り外した状態の試験体について 写真 8 をみると グラスウールは火源の位置を中心として同心円状に溶融し 外壁内上方向に溶融は広がっていなかった このことから 外壁内に通気層による酸素の供給がないため 外壁内では延焼しなかったと考察した また 通気層のある試験体においては 通気層より 燃焼に必要な酸素が供給されたと追認した ⑸ 工法の影響枠組工法実験 No.13 では 外壁の構造材等の影響を調査するため 荷重を柱等で支持する軸組工法と 柱壁一体で支持する枠組工法の違いを確認することを目的とした 仕様の概要を図 2⑼ に示した 柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 24 をみると 時刻約 2 分以降に温度が急上昇し 測定位置 において時刻約 3 分に最高 1 を超えた 基本設定の図 3 と比較すると 時刻約 2 分以降の温度上昇が大きかった 間柱付近 (6 列 ) の温度変化について 図 25 をみると時刻約 3 分に測定位置 6f において 8 を超えた 基本設定の図 5 と比較すると 通気層下部は高温になったが 通気層上部は最大約 3 で変わらなかった 検証後の外装材を取り外した状態の試験体について 写真 9 をみると 通気層全面で炭化していた 木材である構造用合板を 通気層に面して全面に張り付けているため 加熱により通気層全面で燃焼 高温になり 類焼要因発生時間が短くなったと考察した ⑹ 熱気止め材の影響実験 No.14 では 外壁内の通気層の延焼を防ぐために設けた通気役物の熱気止め材の影響を確認することを目的とした 仕様の概要を図 2⑽ に示した 12 1 8 6 4 2 12 1 8 6 4 2 1a 5a 時刻 12 分実験打ち切り 3 6 9 1 2 図 22 通気層上端部の温度変化 実験 No.12 通気層なし 12 1 1a 8 5a 12 3 6 9 1 2 図 21 通気層内 4 列の温度変化 実験 No.11 充填外張断熱 6 4 2 1 8 6 4 2 時刻 4 分野地板着火 時刻 74 分野地板着火 時刻 59 分野地板着火 3 6 9 1 2 図 23 通気層上端部の温度変化 実験 No.2 基本設定 3 6 9 1 2 図 24 通気層内 4 列の温度変化 実験 No.13 枠組工法 27

通気層上端部の温度変化について 図 26 をみると 時刻約 45 分までは 2 以下であったが その後通気層上部 ( 測定位置 2a ) の温度が約 7 まで上昇した 基本設定の図 23 と比較すると 時刻約 4 分までは 2 を超えなかった これは 熱気止め材の効果により 時刻約 4 分までは上方向に延焼せず 上端部で約 2 を超えなかったが 時刻約 45 分以降に急激な燃焼により通気層上部が燃焼したと考察した 検証後の試験体の柱付近について 写真 1 をみると 柱の側面部分が炭化していた このことから 延焼経路になるのは 通気胴縁だけでなく 柱も含まれることを再確認した ⑺ 通気胴縁の張り方向の影響横張り通気胴縁実験 No.15 では 壁体内の通気層内に設けた通気胴縁張り方向について 縦張り通気胴縁と横張り通気胴縁の違いを確認することを目的とした 仕様の概要を図 2⑾ に示した 柱付近の温度変化について 図 27 をみると下部は時刻約 15 分以降に高温になり 9 を超えた また 上部の温度上昇は緩やかであった 基本設定の図 3 と比較すると 下部は高温であったが 上部は 3 を超えなかった これは 火源の火熱により通気層下部の温度は上昇するが 通気胴縁が横張りであるため 火熱の上方向伝播が少なかったと考察した また 通気層上端部の開口について 写真 11 をみると 通気層の上端部の開口面積は 基本設定と比較して小さいことから 壁内の通気層内の熱気の排気が少なく 通気層内が高温になったと考察した さらに 検証後の試験体について 延焼経路と考えられる柱付近の延焼状況について 写真 12 をみると 加熱位置付近の柱は炭化していたが 通気層上部では炭化していなかった このことから 通気胴縁の張り方向を横張りとすると 外壁内から小屋裏へ着火する前に外壁を貫通する炎が出たため 通気層内の上方向への火炎伝播を抑制する施工方法として有効であると考察した ⑻ 目地の影響縦目地なし実験 No.16 では 外装材の縦目地の有無による外壁内部への延焼の影響について確認することを目的として縦目地のない場合を調査した 仕様の概要を図 2⑿ に示した 柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 28 をみると 時刻約 2 分以降の全体の温度が急激に上昇し 6 を超えた 基本設定の図 3 と比較すると 時刻約 2 分以降の温度上昇が大きく 測定位置 では 1 を超えた 目視により時刻約 2 分に外装材の亀裂落下を確認した 検証後の試験体の様子を 写真 13 に示した このことから 約 2 分前後に外壁内で急激な燃焼が生じ 火熱による熱変形が原因で 外装材に亀裂が入り 外装材が外壁から落下し その亀裂部分から酸素が供給され急激な燃焼に至ったと考察した 以上から 目地部分は 防火性能上弱点となるより 外装材の火熱による変形に対して目地幅が変化することにより 亀裂等の発生を最小限に留める役割があると考察した 12 1 8 6 4 2 6 4 2 12 3 6 9 12 図 26 通気層上端部の温度変化実験 No.14 熱気止め材 1 8 6 4 2 時刻 4 分野地板着火 時刻 5 分野地板着火 6a 6b 6d 6f 3 6 9 12 図 25 通気層内 6 列の温度変化 実験 No.13 枠組工法 12 1 8 6a 2a 12 a b d f 時刻 84 分非加熱面への火炎噴出 3 6 9 12 図 27 通気層内柱付近の温度変化実験 No.15 横張り通気胴縁 1 8 6 4 2 時刻 36 分野地板着火 3 6 9 12 図 28 通気層内 4 列の温度変化実験 No.16 縦目地なし 28

⑼ 内装材仕上げの影響モルタル仕上げ実験 No.17 では 内装材を石膏ボードで仕上げた乾式と モルタルで仕上げた湿式の違いを確認することを目的とした 仕様の概要を図 2⒀ に示した 柱付近 (3 列 ) の温度変化について 図 29 をみると 時刻約 2 分に通気層下部 ( 測定位置 3f) で急激に温度が上昇し 7 を超えた また 通気層上部 ( 測定位置 3b) では時刻約 45 分までは 3 以下であった 基本設定の図 3 と比較すると 下部は高温である一方 上部は温度上昇が緩やかであった これは モルタルの防火特性により モルタル内の含有水が蒸発作用により通気層内の温度上昇を抑制させたと考察した 間柱付近 (1 列 ) の温度変化について 図 3 をみると 時刻約 3 分までは全体が 2 以下であった 時刻約 3 分以降 急激に温度上昇し 最高 1 を超えた 基本設定の図 5 と比較すると 時刻約 3 分以降に急激な温度上昇があった また 目視により時刻約 45 分に外装材が亀裂落下したことを確認した さらに 検証後の外装材を取り外した状態の試験体について 写真 14 をみると 外壁内のラスモルタルを固定するため 全面に張り付けた木摺下地が炭化していた このことから 内装材と断熱材の間に張り付けた木摺下地が着火したことにより 外壁内全面が燃焼してより高温になり さらに外装材の熱変形による亀裂により多量の酸素が供給され さらに高温になったと考察した ⑽ 防耐火構造の影響実験 No.18 19 では 防耐火性能が異なる準耐火 (45 分 ) 構造と防火構造の違いを確認することを目的とした 仕様の概要を図 2⒁ に示した 試験体の仕様について 基本設定では内装材の石膏ボードが厚さ 12.5mm2 枚であったのに対し 実験 No.18 は内装材の石膏ボードが厚さ 12.5mm1 枚で 実験 No.19 は石膏ボードが厚さ 9.5mm1 枚とした 実験 No.18 の柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 31 をみると 時刻約 25 分に急激な上昇と同時に着火した 基準実験の図 3 と比較すると 時刻約 25 分以降の上部 ( 測定位置 ) の温度が 8 と高温であった 実験 No.19 の柱付近 (3 列 ) の温度変化について 図 32 をみると 時刻約 2 分以降に全体の温度が 4 以上になり 実験 No.18 と同様の結果であった 石膏ボードの熱抵抗のメカニズム 3) は 石膏ボードに含有する結晶水が火熱による熱分解により水蒸気として放出され 水和熱として外壁内の温度上昇を抑制するもので 防火構造では 準耐火構造と比較して 結晶水の総潜熱量が減少したため 通気層内上部へ早く熱が伝わったと考察した ⑾ 軒の影響軒の出あり実験 No.2 では 火源の火熱により 軒裏に滞留した熱気が延焼を助長する可能性を調査するため 外壁に加えて軒を再現し その影響を確認することを目的とした 12 1 8 6 4 2 12 12 1 8 6 4 2 時刻 27 分野地板着火 3 6 9 1 2 図 31 通気層内 4 列の温度変化 実験 No.18 防火構造 石膏ボード 厚さ 9.5mm 12 1 8 6 4 時刻 49 分野地板着火 時刻 27 分野地板着火 3b 3d 3f 3 6 9 1 2 図 29 通気層内 3 列の温度変化実験 No.17 内装モルタル仕上げ 1 8 6 4 2 時刻 49 分野地板着火 1a 1b 1d 1f 3 6 9 1 2 図 3 通気層内 1 列の温度変化実験 No.17 内装モルタル仕上げ 3b 3d 3f 2 3 6 9 1 2 図 32 通気層内 3 列の温度変化 実験 No.19 防火構造 石膏ボード 厚さ 12.5mm 29

通気層上端部の温度変化について 図 33 をみると 全体で 3 を超えなかった 基本設定の図 23 と比較すると 全体的に低かった しかし 野地板見上げ面の中間部の温度変化について 図 34 をみると 時刻約 3 分で最大 2 を超えた 基本設定の図 7と比較すると 時刻約 25 分までは差が少なかったが その後約 5 分間で最大 2 を超えた これにより 火源の火熱により 軒先内の空気が暖められ その熱気と通気層の熱気が野地板を加熱したことにより 類焼要因発生時間が短縮したと考察した 軒の出を有する場合は 外壁から野地板への着火を助長すると推察した ⑿ 軒元の小開口の影響実験 No.21 から 26 では 換気のために設置した軒元の小開口から延焼する可能性を調査することを目的とし 自然換気方式と 24 時間換気方式による違いに着目した ア自然換気方式 ( ア ) 試験体下部加熱実験 No.21 通気層内の柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 35 をみると 時刻約 3 分に温度上昇し 測定位置 において約 9 を超えた 基本設定の図 3と比較して 類焼要因発生時間が増加したものの 大きな差はなかった 換気口裏面側の温度の温度変化について 図 36 をみると 換気口で最大で約 15 であった 換気口裏面側への火炎の燃え抜けはなかった ( イ ) 換気口脇加熱実験 No.22 通気層内の柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 37 をみると 時刻約 15 分で測定位置 が約 5 になった 換気口裏面側への火炎の抜けはなかった ( ウ ) 換気口中心加熱実験 No.23 時刻約 6 秒に換気口裏面側への火炎の抜けたため 実験終了した この実験で想定される隣棟間の外壁相互に近接した小開口を有した場合の 隣棟の小開口からの火炎の火災安 4) 全性について 杉田らの既往研究では 法令基準ではないが一定の安全策が必要と考えられる位置付けである という考察があり 本実験からその現象が起こりうることを確認した 12 1 8 6 4 2 時刻 29 分野地板着火 1a 5a 3 6 9 1 2 図 33 通気層上端部の温度変化実験 No.2 軒の出あり 6 4 2 12 3 6 9 1 2 図 34 野地板見上げ面中間部の温度変化実験 No.2 軒の出あり 1 8 6 4 2 6 12 1 8 6 4 2 時刻 29 分野地板着火 時刻 13 分野地板着火 右中央左 時刻 73 分野地板着火 3 6 9 1 2 図 35 通気層内 4 列の温度変化実験 No.21 自然換気口 4 2 裏面側加熱位置裏面側換気口中心裏面側右上側 時刻 73 分野地板着火 3 6 9 1 2 図 36 裏面の温度変化実験 No.21 自然換気口 3 6 9 1 2 図 37 通気層内 4 列の温度変化 実験 No.22 自然換気口 換気口脇加熱 3

イ 24 時間換気方式 ( ア ) 試験体下部加熱実験 No.24 外壁表面での給気口での中心風速は平均 6.5m/sec 標準偏差は.1m/sec であった 通気層内の柱付近 (3 列 ) の温度変化について 図 38 をみると 時刻約 2 分に急激な温度上昇が生じた 基本設定の図 3と比較すると 大きな差はなかった 給気口から裏面側への火炎の燃え抜けは生じなかった また 給気口裏面側及び給気ファン入口の温度変化について 図 39 をみると 両者はほぼ同じ変化を示し 時刻約 33 分後に約 15 から約 5 に急上昇し その後約 25 まで低下した これは 時刻約 33 分までは給気ファンは作動していたが 火熱により停止したものと考察した 検証後給気ファンは通電しなかった 給気口裏面側への火炎の抜けはなかった ( イ ) 給気口脇加熱実験 No.25 通気層内の柱付近 (4 列 ) の温度変化について 図 4 をみると 時刻約 15 分過ぎに測定位置 において約 5 になった 給気口裏面側及び給気ファン入口の温度変化について 図 41 をみると 両者は時刻約 3 分後に約 3 に急上昇し その後約 2 まで低下した これは 時刻約 5 分までは給気ファンは作動していたが 火熱により停止し 温度が下がったと考察した 検証後給気ファンは通電しなかった 給気口裏面側への火炎の抜けはなかった ( ウ ) 給気口中心加熱実験 No.26 時刻約 72 秒に 断熱ダクトが溶融し 給気口裏面側へ火炎が抜けたため 実験終了した 4 重回帰分析による 類焼要因発生時間に影響を与える試験体の仕様の把握 ⑴ 計算の方法類焼要因発生時間は 試験体の各仕様が外壁内の燃焼にもたらす影響が組み合わされた結果であると仮定し 重回帰分析により重回帰モデルの設定を試みた 重回帰モデルを用いて どのような試験体の仕様が類焼要因発生時間に影響を与えているかについて整理し 考察した 対象試験は 加熱位置が同一である実験 No.1 2 8から 21 24 とした ただし 野地板への着火が生じなかった実験 No.12 15は除いた また 小開口を有する試験体のNo.21 24は 小開口の火炎の貫通に関する検証を主眼としたため除いた 各実験の目的変数及び説明変数のデータを表 2に示した 目的変数は秒単位の類焼要因発生時間とした 独立変数について 充填断熱材の厚さ は mm 単位の量的変数とした 外張断熱 熱気止め材 縦目地 軒の出あり はそれぞれ質的変数であったため それぞれ施工した場合を 1 施工しなかった場合を とした また 工法 において 軸組工法 を 1 に 枠組工法 を に変換した 内装仕上げにおいて 乾式石膏ボード仕上げ を 1 に 湿式モルタル仕上げ を に変換した 防耐火構造 において 準耐火構造 を 1 に 防火構造 を に変換した ⑵ 目的変数及び各独立変数の相関係数各独立変数の相関係数について 表 3をみると 各値は高くなかったため 多重共線性の疑いは少ないと判断した 12 1 8 6 4 2 6 図 39 4 2 12 1 3 6 9 1 2 図 4 通気層内 4 列の温度変化 実験 No.25 24 時間換気給気口 給気口脇加熱 6 給気口裏面側 給気ファン入口 4 2 時刻 17 分野地板着火 時刻 46 分野地板着火 3b 3d 3f 3 6 9 1 2 図 38 通気層内 3 列の温度変化実験 No.24 24 時間換気給気口 給気口裏面側給気ファン入口時刻 46 分野地板着火 3 6 9 1 2 給気口裏面側及び給気ファン入口の温度変化実験 No.24 24 時間換気給気口 8 6 4 2 時刻 17 分野地板着火 3 6 9 1 2 図 41 給気口裏面側及び給気ファン入口の温度変化実験 No.25 24 時間換気給気口給気口脇加熱 31

⑶ 重回帰モデルの検定変数減少法により各独立変数を選択しながら 重回帰モデルの検定を行った その結果 独立変数を 充填断熱材の厚さ 外張断熱 防耐火構造 軒の出あり を用いた重回帰モデル式が最も説明力のあるモデルと判断した 採用した重回帰モデル式を式に示した 回帰統計について表 4をみると 目的変数が持つ情報のうち 独立変数の変動を説明できる程度を示した決定係数は.841 で 自由度調整済み決定係数は.761 であった 重回帰モデルの妥当性の検定について 表 5をみると 有意確率 F 値が1% 以下であり 帰無仮説 重回帰モデルは成立しない は棄却でき 重回帰モデルは有意であると判断した 重回帰モデル式の偏回帰係数の妥当性の検定について 表 6をみると 各偏回帰係数の有意確率 P 値が 1% 以下で 帰無仮説 偏回帰係数はである を棄却した また 絶対値の大きさが目的変数を説明する上での影響度を示したt 値は低くなかった 以上から 重回帰モデル式の各偏回帰係数は妥当であると判断した 残差の検定について 図 42 をみると 各残差はを中心に隔たりなくランダムに表れているので 重回帰モデルの残差は妥当だと判断した ⑷ 結果変数減少法により重回帰モデル式の検定を行い 試験体の各仕様のうち 充填断熱材の厚さ 外張断熱 防耐火構造 軒の出あり の仕様は類焼発生要因発生時間に影響を与えると判断した また 工法 熱気止め材 縦目地 内装仕上げ は類焼発生要因発生時間に大きな影響を与えないと判断した ⑸ 解釈得られた重回帰モデル式から 以下のように試験体の各仕様の効果を解釈した ア式により他の目的変数が一定の場合 充填断熱が1 mm 薄くなれば 類焼発生要因発生時間が約 1 秒短くなると解釈できた イ式により他の目的変数が一定の場合 外張断熱により 類焼発生要因発生時間が約 34 分長くなると解釈できた ただし この結果は外張断熱材にフェノールフォームを施工した場合の重回帰モデルの解釈であることに注意が必要である ウ式により他の目的変数が一定の場合 防火構造と比較して 準耐火構造では 類焼発生要因発生時間が約 19 分長くなると解釈できた エ式により他の目的変数が一定の場合 軒の出を有することで 類焼発生要因発生時間が約 17 分短くなると解釈できた 5 まとめ本検証は 外壁内から小屋裏への延焼現象に着目し 住宅の外壁と屋根の一部を再現した外気通気工法を用いた中規模の試験体による 類焼建物の外壁を擬似的に再現した燃焼実験を行ったものである それらから 火熱が加えられた外壁内の温度分布等の性状を把握した また 重回帰分析による要因解析を行い 類焼発生要因発生時間に影響があると判断した試験体の仕様を整理し それらを 以下に列挙した. 軒の出あり 残差 ( 分 ) 2 1-1 Y = 1x X1 + 267x X 2 + 1116x X 3-998 x X 4 + 565 ( 式 ) Y : 類焼要因発生時間 ( 秒 ) X1 : 充填断熱材料の厚さ ( mm) X 2 : 外張断熱あり 1 なし X 3 : 準耐火構造 1 防火構造 X : 軒の出あり 1 なし 表 6 表 2 表 3 4 目的変数及び独立変数のデータ表 目的変数及び各独立変数の相関係数 表 5 表 4 モデルの妥当性の検定 重回帰式の偏回帰係数とその妥当性の検定 軒の出あり 軒の出あり 軒の出あり -2 3 6 9 1 2 延焼要因発生時間 ( 分 ) 図 42 残差の検定 32

⑴ 外壁内から小屋裏への延焼メカニズムの把握酸素 着火源及び可燃物が揃えば延焼拡大するとされている この観点に着目すれば 次のように考察した ア酸素の供給通気層がない実験では 野地板への着火は起きなかった また 通気層下部の風速は 加熱後及び野地板の着火後に増加した このことから 酸素は通気層から供給されたと考察した イ発火源外装材は準不燃材で 亀裂等が生じなかった実験でも 外壁から小屋裏への延焼が起こった 火源により加熱された外装材から通気胴縁に伝導により熱が伝わり 通気層からの酸素の供給により 通気胴縁が発火に至ったと考察した ウ着火源及び延焼経路通気層に面する縦張り通気胴縁側面で発火し その燃焼によって生じる熱や火源の火熱によりグラスウールを溶融することで 通気空間が増加するとともに 柱側面がより通気層に表出し 柱側面を燃焼しながら 急激な温度上昇を伴って通気層内を燃焼拡大したと考察した 延焼経路について 火炎は 通気層に面する柱側面を中心とし その他縦張り通気胴縁側面及び構造用合板等の可燃物に沿って上方向に伝播し 上枠に着火後火炎が小屋裏に立ち上がり 野地板に着火したと考察した ⑵ 試験体の仕様における類焼要因発生時間に与える影響類焼要因発生時間がより短時間又は長時間となる試験体の仕様は その延焼メカニズムの影響度が大きいという前提のもと 加熱位置が同一で外壁から小屋裏へ着火した実験について 重回帰分析による要因解析を行った結果は以下のとおりである ア重回帰分析による要因解析から 充填断熱材の厚さ 外張断熱 防耐火構造 軒の出あり の仕様が 類焼要因発生時間に影響を与えると判断した イ重回帰分析による要因解析から 工法 熱気止め材 縦目地 内装仕上げ の仕様が 類焼発生要因発生時間に大きな影響を与えないと判断した ⑶ 影響を与えると判断した試験体の仕様と延焼メカニズムの関係類焼要因発生時間に影響を与えると判断した試験体の仕様について 延焼メカニズムに以下の作用があると考察した ア 充填断熱材の厚さ について 断熱材が薄くなることで 通気空間が増えたため 通気層内の延焼を促進し 類焼要因発生時間が短くなったと考察した イ 外張断熱 について 外張断熱材として使用したフェノールフォームが火源の火熱により膨張し通気層を塞いだため 通気層内の延焼を抑制し 類焼要因発生時間が長くなったと考察した ウ 防耐火構造 について 防火構造と比較して準耐火構造は石膏ボードが厚く 石膏ボードに含有する結晶水の総潜熱量が増加したため 結晶水による水和熱により外壁内の温度上昇を抑制し 類焼要因発生時間が長くなったと考察した エ 軒の出あり について 軒の出を有する外壁は 類焼要因発生時間が短くなった このことから 本検証ではほとんどが軒の出がない仕様で検証を行ったが 実際の住宅は軒の出を有するものが多いと推察されることから 本検証で得られた類焼要因発生時間を 実際の火災にそのまま適用するのではなく より短時間で外壁内から小屋裏へ着火すると考察した 6 おわりに以上から実験で得られた消防活動上の留意事項は 以下のとおりである ⑴ 盛期火災に至った火災室の開口からの噴出火炎により 隣棟の住宅の外壁が煽られた場合には たとえ 非加熱側の室内に変化がなくても 原則どおり隣棟にも筒先を配置するとともに 軒の出を有する外壁には 優先的に警戒筒先を配置する必要があると考えられる さらに 小屋裏等に重点的に警戒し 煙等の発生状況から延焼状況を確認する必要があると考えられる ⑵ 外観からの判断は困難であるが 準耐火構造より防火構造の方が また断熱材が薄い傾向にあるより古い住宅の方が より短時間で外壁内から小屋裏へと延焼することを念頭に置いて 活動する必要があると考えられる ⑶ 外壁内の延焼状況の確認について 延焼経路が主に柱及び通気胴縁になることから 消防活動においてそれらを重点的に確認する必要がある 柱の位置が外観上特定困難な場合は 柱上に外装材の目地を設けることから 目地の位置が目安になる可能性があると考えられる ⑷ 外壁破壊により外壁内の火災の延焼状況を確認することは 外壁内で火炎が発生していた場合通気層内に多量の酸素を供給することになり 外壁内の延焼を促進し 小屋裏等へ延焼拡大する可能性があることから 小屋裏等へ警戒筒先を配置した後に行う方が安全であると考えられる ⑸ 大規模の建売住宅でみられるような隣棟間で左右対称の平面形態では 換気口等の小開口が相対することになる そのような 隣棟間の外壁相互に小開口を有した場合 隣棟の小開口からの火炎が数秒で外壁小開口を貫通する恐れがあることから 早期に筒先を配置し警戒する必要があると考えられる [ 参考文献 ] 1) 大宮喜文 : 木質外装材の火災安全性 自主防災 No229 P16 ~17 212 年 9 月 2) 松山知生他 3 名 : 壁内通気層を有する木質系建築物の延焼阻止工法に関する研究 日本建築学会関東支部研究報告集 P39~312 25 年 3) 小野博宣他 1 名 : 建築材料 P274 理工図書 21 年 4 月 4) 杉田敏之他 1 名 : 木質系住宅の防火性能コンプライアンス検討 ( その2 検討項目の詳細と取組優先順位 ) 日本建築学会大会講演梗概集 P91~92 29 年 8 月 33

写真 5 外装材取り外し実験 No.9 充填断熱厚さ 3mm 写真 1 試験体の様子実験 No.1 基本設定 写真 2 外装材取り外し実験 No.1 基本設定 写真 3 グラスウール取り外し実験 No.1 基本設定 写真 6 外装材取り外し実験 No.1 外張断熱 写真 7 外装材取り外し実験 No.11 充填外張断熱 写真 4 外装材取り外し実験 No.8 充填断熱厚さ 75mm 写真 8 外装材取り外し実験 No.12 通気層なし 写真 9 外装材取り外し実験 No.13 枠組工法 熱気止め材設定位置 写真 1 外装材及びグラスウール取り外し実験 No.14 熱気止め材 写真 12 外装材取り外し実験 No.15 横張り通気胴縁 写真 13 試験体の様子実験 No.16 縦目地なし 写真 14 外装材取り外し実験 No.17 内装モルタル仕上げ 写真 11 通気層上部の開口実験 No.15 横張り通気胴縁 34