シカゴ連銀シンポジウムによる 2014 年米国経済見通し (1) シカゴ連銀 ( シカゴ地区連邦準備銀行 ) 主催により 2014 年 12 月 5 日に第 28 回年次経済見通しシンポジウムが開催された 同シンポジウムでは 例年 様々な分野の有識者により翌年の経済見通しを取りまとめ 情報共有を行うとともに 各分野の専門家より それぞれの分野 産業の見通しが披露されている 参加者も金融関係や大手メーカー 大学等研究機関 弁護士 コンサル 貿易投資促進機関など多彩な顔ぶれである 今回のシンポジウムに参加した業界関係者や専門家らは 新車販売や住宅着工の伸びに支えられ 2015 年の米国経済は加速し 失業率はさらに低下すると予想した また 消費者動向 自動車 鉄鋼 重機等の今後の見通しについて それぞれ専門家より講演が行われた 2 回にわたって その概要を紹介する なお 図及び表はすべて会議資料から引用または作成したものである 1. 米国経済見通しに関する有識者のコンセンサス William Strauss 氏 ( シカゴ連銀シニアエコノミスト 経済アドバイザー ) 米国実質 GDP 及び主要経済指標について 金融 製造業 自動車 サービス業等の幅広い分野の有識者から 2014~2015 年の見通しが提出され シカゴ連銀で取りまとめた 昨年 12 月に我々が予測した 2014 年の経済指標はかなり正確であり 2014 年の実質 GDP 成長率は予測に近かった 予測との違いを個別に見ていくと 失業率はより速いペースで下落し 民間設備投資はより低調に 在庫の積み上がりペースはより速かった 他方で 工業生産は予想よりも力強さを示し 消費支出は実際の支出額に近い値であった また 新車販売は予想を上回る伸びを示し 住宅着工件数は予想通りであったが 住宅投資の伸びは予想よりもスローペースであった 10 年物米国債に関しては 金利のプラス成長を予想するも 結果は対前年比でマイナスとなった 1 年物米国債は予想通りの低いレートのままである 貿易赤字幅は予想よりもやや規模が大きく インフレ率は予測の範囲内であった 一方 石油価格は予想よりも高いレートとなった 2015 年の各経済指標の見通しを述べると 実質 GDP 成長率は 2.7% と予測しており 高位から低位まで 3% 後半から 1% 後半まで幅がある 失業率は来年末には 5.6% まで改善すると見込んでいる 民間設備投資の伸びは 4.2% となり 前年比 1.5 ポイント減となるだろう 工業生産も前年比 1.1 ポイント減の 3.0% と見込んでいる 一方 個人消費は 2.6% ( 対前年比 +0.6 ポイント ) 新車販売は 16.8 百万台 ( 同 +40 万台 ) 住宅着工は 114.3 万件 ( 同 +14 万件 ) と好調であり 特に住宅投資は 7.5%( 同 +5.1 ポイント ) と大幅な伸びを示すだろう 10 年物米国債利率は 3.0% まで上昇すると見込んでいる 貿易赤字は 2014 年と同規模でさらに拡大すると予測する 石油価格は価格下落傾向が続き 来年末時点ではバレル当たり 83.84 ドルと見込む 24
表 1 GDP 及び主要経済指標の見通し 2013 年 2014 年 2015 年 ( 実績 ) ( 予測 ) ( 予測 ) 実質 GDP * 3.1 2.1 2.7 個人消費支出 * 2.8 2.0 2.6 民間設備投資 * 4.7 5.7 4.2 住宅投資 * 6.9 2.4 7.5 民間在庫変化 ( 十億ドル ) ** 81.8 65.0 50.0 財 サービスの純輸出 ( 十億ドル )** 384.0 415.0 432.9 実質政府支出及び投資 * 1.9 1.2 0.9 工業生産高 * 3.3 4.1 3.0 新車販売 ( 百万台 ) *** 15.5 16.4 16.8 住宅着工件数 ( 百万件 )*** 0.93 1.00 1.14 原油価格 (WTI ドル/ バレル )** 97.39 80.00 83.84 失業率 (%)** 7.0 5.8 5.6 消費者物価指数 * 1.2 1.8 1.7 1 年物国債利率 (%)** 0.12 0.11 0.47 10 年物国債利率 (%)** 2.75 2.36 3.00 * 第 4 四半期の前年同期比 (%) ** 第 4 四半期の値 *** 年間平均 ( 出所 : シカゴ連銀 ) 2. 米国消費支出の動向について Carl Tannenbaum 氏 ( ノーザントラストカンパニー副チーフエコノミスト ) 米国 GDP の約 7 割を占める消費支出は米国経済において重要な要素であり 一方で米国は 幾つかの輸出国 地域の消費者であることに依拠している また 小売売上高 (= 消費量 ) は年平均 4% で成長し続けており インフレ ( ここ 5 年間で年率 2~2.5%) に転換されている GDP に占める消費支出の割合 GDP に占める純輸出の割合 25
米国小売売上高の成長率 ( 自動車除く ) 米国自動車販売台数の推移 (%) ( 百万台 ) ( 出所 : ハーバー アナリティクス ) 図 2 各国 GDP に占める消費支出 純輸出の比較および米国小売 新車販売の動向 米国の失業率に関して見ると アナリストの予想を超えて急速に減少しており 直近の数字では 5.8% まで回復している 一方で 時給は対前年比で 2.1% 増となっており 賃金に関しては目立った好転的な反応は感じられない インフレ率を考慮すると 消費に貢献できるほどの賃金上昇には至っていないということである 景気回復局面において労働賃金を上昇させるには時間を要するとされている 一つの理由は 企業が賃下げを断行することは非常に稀なケースであり 先行きが不透明な中で固定費を上昇させたくないという経営判断が働くことである また フルタイムの働き口が見つかりにくいため パートタイム労働の比率は依然として高止まりしており そこから得られる収入は 彼ら自身が期待しているものよりも少ない 米国失業率の推移 通常の失業率広義の失業率 (U6) 米国労働報酬の変化 平均時給 失業者 + 縁辺労働者 + 経済的理由によるパートタイム従事者 U6= 労働力人口 + 縁辺労働者 雇用コスト指数 26
米国パートタイム従事者の比率 就職を希望する非労働力人口の比率 ( 出所 : 米国労働局 ブルームバーグ ハーバー アナリティクス ) 図 3 米国失業率及び労働市場動向 3. 自動車産業の動向について Haig Stoddard 氏 ( ワーズオートグループ産業アナリスト ) 米国乗用車販売は 2014 年に 1,640 万台と予測されている 2015 年は 1,680 万台まで増加し 2016 年にピークを迎え 1,720 万台に達すると見込まれている 2018 年には循環的な景気後退を迎え その後 2020 年に向けて好転サイクルに入るだろう ( 百万台 ) ( 確定 ) ( 予想 ) ( 予想 ) ( 予想 ) ( 予想 ) 通年 ( 予想 ) 図 4 米国新車販売台数見通し ( 年率換算台数 季節調整済み ) 27
現在の米国車両登録台数は 米国民の運転年齢人口よりもわずかに規模が小さい この関係は リセッション以降は顕著であり 恐らく 2020 年頃まで続くと予想されている 販売台数の伸びは 人口増加と買替サイクルによって牽引されている 平均車齢は 歴史的に見ても年齢を重ねており 2014 年時点では 11.5 歳である 米国では約 13% の世帯が 2020 年まで各年に亘り新車を購入すると予測される これらの予測は 米国経済成長が 2020 年までに 2~3% の増加を毎年維持することを前提としている 中古車市場は長期的に見ればやや縮小する可能性があるが 当面の間は 新車販売を促進するため下取り価格が維持されると見込む 不況以降も自動車リース業界は順調であり 2018~2019 年頃まで同様の傾向が続くであろう 新車販売を牽引するもう一つの要因は 自動車販売に占める低価格車の増加である 一方 高級車には エアバックのような安全性を高めるデバイスだけでなく GPS ガイダンスや衛星ラジオ インターネットアプリケーションといった情報への接続性を高める多くの機能や新しい技術が搭載されている 現在 多くの車両は購入価格に大幅に影響を与えることなく 2016 年の燃費基準を満たしている 今年販売されている新車は 昨年よりもガロンあたり 1 マイルも平均燃費効率は良い その効果にあまり注目されないかもしれないが 運転時間を年間という単位で見れば ガソリン消費に顕著な影響を与えるであろう また 人々はより長く より健康な生活を過ごすようになり 運転する機会や時間も増した そのため 自動車の買替も前世代に比べ 多くの機会を持つようになった 燃料の価格下落傾向は 少なくとも短期的には新車を購入する消費者の意欲に貢献している また 不況により停滞していた買替需要の累積も同様の影響を有するだろう 米国の自動車産業の稼働率は 2013 年に 94% に達した後 2014 年には 98% に達し 2015 年は 100% に迫ると予測されている 2000 年代半ばの自動車工場稼働率は 80% 前後であり 生産レベルもこれに連動し 非常に健全であると認識されていた 現在は 最先端の組立工程が有意に少ない工場が 20~30 か所ほどあり 多くの工場では 3 シフト 24 時間体制で週 5 日間勤務を実行している 28
( 台 ) 米国自動車生産数 ( 台 ) 米国自動車工場稼働率 (%) 図 5 米国自動車生産数および設備稼働率の推移 米国自動車生産は 2013 年に年産 10.9 万台に達した後 2014 年は 11.4 万台と見込まれ 2015 年は 2005 年と同規模の 11.8 万台まで伸長すると予測されている 一方で車両在庫は 2014 年に比べて 2015 年に平均的に高くなることが見込まれる カナダやメキシコの幾つかの工場は 新しい設計の新車生産に向けた段取り替えを行うため 2015 年春先に一時工場をシャットダウンする計画であり これが在庫レベルにも影響を及ぼす また 2015 年 12 月は年間を通して最大の販売量になるだろう 一般的に自動車販売の車種別比率は 2013 年 2014 年と大きな変化はなく 2015 年も傾向は継続し 同様の構成比となることが予想される 興味深いことに多くの車種の比率が減少し 特に大きな比率を占める中小型車種の減少が顕著である 一方で CUV やピックアップトラック バンは構成比率が上昇している ガソリン価格がガロン当たり 3.50 ドルを超えて上昇した場合は 中古型車種の市場シェアは増加するが 短期的にはガソリン価格の上昇は予測されていない また 旧式の大型バンやトラックユーザーの一部は 新型の小型商用バンに移行しつつあり 特に中小企業の間で高い人気となっている 29
( 比率 ) ( 確定 ) ( 推定 ) ( 予想 ) 小型車中型車大型車 高級車 CUV SUV ピックアップ バン 図 6 米国車種別市場シェアの推移 ガソリン価格の低下は ハイブリッド車や電気自動車の市場への浸透を制限していることはデータからも読み取れる 米国における 2012 年時点でのハイブリッド車 電気自動車は 34 モデルであったが 先月末時点では 58 モデルに至っている トヨタプリウスはハイブリッドカーのベストセラー車種であり ユニット当たりの年間販売台数が 1 万 ~1.5 万台と他種に比べて群を抜いている 次期型プリウスは再設計により大幅な軽量化と燃費改善 デザインが修正され ハイブリッド車市場を大きく牽引していくと予想されている 米国自動車市場に占めるハイブリッド 電気自動車の比率 (%) ガソリン価格 (USD) ハイブリッド 電気自動車の車種数 図 7 米国メーカー別市場シェアの推移 30
米国販売シェアをメーカー別にみると 2013 年から 2015 年の間に フォード トヨタ ホンダのシェアは若干減少し GM ヒュンダイ フォルクスワーゲンは平坦である シェアの伸びが期待されるのは フィアットクライスラーとスバルである また 若干のシェアの増加が期待されているのは 日産や BMW メルセデスである ( 比率 ) ( 推定 ) ( 予想 ) 図 8 米国メーカー別市場シェアの推移 その他 今後数年間でガソリン価格が低水準のままである場合 米国政府は 2025 年の燃費基準を 2018 年頃に見直す可能性があるが 大幅な変更には至らないと予想される 米国自動車市場の燃費改善は自然に進んでいくだろう また 景気回復までの間 オートローンの融資基準の緩和は継続されてきたが これは 2016 年または 2017 年まで持続すると見込まれる 31