表 1 1) 航空機の機体構造材料重量構成比推定 アルミ スチール チタン 複合材 その他 合計 運用開始年 B747( 実績 ) 81% 13% 4% 1% 1% 100% 1970 年 B757( 実績 ) 78% 12% 6% 3% 1% 100% 1983 年 B767( 実績 ) 76%

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航空機と製造技術 * 航空機用工具と適用事例 Cutting Tool for Aircraft and Applications ** 長谷川良栄 Ryoei HASEGAWA Key words cutting tool, aircraft, composite, CFRP, titanium alloy, superalloy 1. はじめに 石油価格の高騰により燃費の良い航空機の需要がさらに強まり, 革新的な素材の生産 加工技術の向上と相まって航空機の低燃費化に直結する機体軽量化, ジェットエンジン軽量化の傾向が著しい. その航空機の軽量化には機体とジェットエンジン共に複合材やチタン合金を大幅に多用することによって軽量化を実現している. しかし, 複合材, チタン合金, および超耐熱合金はそれぞれ切削加工が困難な難削材であり, 切削加工技術の向上が急務である. 本稿では航空機部品で重要な被削材別に最新航空機用工具とその適用事例について解説する. 2.1 機体構造材料と切削工具航空機の機体構造材料の重量構成比の推移を表 1に示す. ボーイング 747 に代表される従来の機体では複合材とチタン合金の使用量はそれぞれ 1% と 4% であったのに対して, 比較的最近開発されたボーイング 777 では複合材とチタン合金の使用量はそれぞれ 11% と 7% に増えている. さらに 2010 年就航予定のボーイング 787 では複合材とチタン合金の使用量がそれぞれ 50% と 15% と大幅に増加している. 図 1にボーイング 787 の構造材料とその使用箇所を示す. 従来アルミ合金が使用されていた胴体, 主翼の主要部品が複合材 ( 特に CFRP) に置き換わっている. ただし, 機体の内部補強部品には多くのアルミ合金材が使用されており, その加工能率向上は日本の航空機産業発展にとっても重要である. * 原稿受付平成 21 年 6 月 8 日 ** 三菱マテリアル ( 株 ) 加工事業カンパニー超硬製品事業部商品戦略部 ( 東京都墨田区横網 1 丁目 6 番 1 号 ) 長谷川良栄 1983 年東北大学工学部機械工学科卒業.1983 年三菱金属 ( 株 )( 現三菱マテリアル ) 入社. 現在, 航空機産業向工具の企画, マーケティングを担当. 図 2はボーイング 787 の日本メーカ製造担当部位を示す. 日本メーカの製造シェアは全体の 35% に達している. 図 3に航空機の機体で重要な構造材料である, アルミ合金, チタン合金, 複合材 (CFRP) の材料別に適用する代表的な切削工具を示す. 2.2 アルミ合金と切削工具従来の航空機の胴体には耐腐食性に優れた,2024 アルミ合金に代表される 2000 系, 超ジュラルミンが使用されてきたが, 前述の通りボーイング 787 でより軽量で耐腐食性の優れた CFRP に置き換わった. しかし, 一方で欧州エアバス社の最新の機体には第 3 世代アルミ合金と呼ばれるアルミリチウム合金 (2098 等 ) が使用され, 機体の軽量化がなされている 8). 一般に重量比で 1% リチウムを添加すると 6% 剛性が上がるといわれ, 被削性も良好である. また, 主翼内部にはリブと呼ばれる多数の補強部品があり ( 図 3 左上参照 ), 耐腐食性よりも強度に優れた,7075 アルミ合金に代表される 7000 系, 超々ジュラルミンが使用される.Si 含有量が 0.4% 以下と少ない 7075 アルミ合金の被削性は, 自動車部品で使用される AC4B アルミ合金 (Si 含有量約 9%) 等に比べてはるかに良好で, 工具寿命は超硬合金の工具材種で 100 時間以上も期待できる. さらにリブ部品の切削加工の場合, アルミ合金素材の 90 95% は切りくずとして排出されるため, いかに高能率に切削するかが重要である. 工作機械の主軸動力は従来 50 kw 程度であった機械が, 現在では主軸動力 75 kw や 100 kw, 主軸回転速度 20000 30000 min 1, テーブル送りも 10 m/min 以上で加工できる高性能な工作機械が開発されている. 上記機械仕様に対応する工具を図 4に示す. 超硬合金の切れ刃交換式工具で切りくず排出量 (Metal Removal Rate, M.R.R.)10 リットル /min が可能である. その際, 単位時間当たりに大量の切りくずが排出されるため, 工作機械ではその切りくず処理も重要な機械要素の一つとなっている. 精密工学会誌 Vol.75, No.8, 2009 953

表 1 1) 航空機の機体構造材料重量構成比推定 アルミ スチール チタン 複合材 その他 合計 運用開始年 B747( 実績 ) 81% 13% 4% 1% 1% 100% 1970 年 B757( 実績 ) 78% 12% 6% 3% 1% 100% 1983 年 B767( 実績 ) 76% 14% 6% 3% 1% 100% 1982 年 B777( 実績 ) 70% 11% 7% 11% 1% 100% 1995 年 B737 B757 と同等 B747ADV 72% 13% 4% 10% 1% 100% 複合材 10% 使用とし, アルミを減らした. B787 20% 10% 15% 50% 5% 100% 2010 年予定 A320/A330 61% 11% 7% 20% 1% 100% A340/A380 文献により, 複合材 20% 使用とし, アルミを減らした. A310 B767 と同等 リージョナルジェット 71% 12% 6% 10% 1% 100% 最近の傾向より, 複合材 10% 使用とし, アルミを減らした. 他は B757 並. 図 1 2) ボーイング 787 と機体構造材料 図 3 機体加工と適応工具 図 2 3) ボーイング 787 と日本メーカー担当部位 2.3 チタン合金と切削工具チタン合金, および各種金属の物性値比較を表 2に示す. チタン合金の他の物性として CFRP とチタン合金が接触した場合に生じる電位差による腐食 ( ガルバニック腐食 ) が生じないのに対して,CFRP とアルミ合金が接触した場合には電位差に起因する腐食が生じることからチタン 図 4 アルミ合金加工用カッタと切りくず排出量 10 リットル /min の切りくず 合金は CFRP と非常に相性の良い合金といえる 9). しかし, 切削加工の観点からは切削加工の能率を妨げる二つの物性値が問題となる. 一つは熱伝導率で, チタン合金の熱伝導率は表 2 中で最も低く, 鉄の約 1/4, 熱伝導率が悪いといわれるステンレス鋼 SUS304 の約 1/2 である. 954 精密工学会誌 Vol.75, No.8, 2009

表 2 各種金属の物性値比較 純アルミニウム アルミニウム合金 A7075 純チタン チタン合金 Ti-6A1-4V 鉄 SUS304 インコネル 718 原子番号 13 22 26 原子量 27 47.9 55.8 比 重 2.7 2.8 4.5 4.4 7.9 8 8.2 溶融点 ( ) 660 476-638 1668 1540-1650 1530 1400-1427 1260-1336 ヤング率 (GPa) 69 71 106 113 192 199 211 熱伝導率 (W/m ) 203 120 17 7.5 62 16 11.4 熱膨張係数 ( 10 6 / ) [0 100 ] 23 23 8.4 8.8 12 17 13 図 5 チタン合金加工用超硬ソリッドエンドミル 図 6 不等リードエンドミルによるチタン合金の切削面 その熱伝導率の低さから切削加工途中の切れ刃切削温度が瞬時に上昇する原因となる. 逆に切れ刃切削温度を低減できれば, チタン合金でも高能率な加工が可能となる. 例えば, 高圧クーラントを用いて切れ刃切削温度を低減する取組みである. 上記取組みは特に欧米で研究, 実用化がなされている.20 MPa,30 MPa の超高圧クーラントの使用で従来能率の 2 倍以上で加工できた事例が報告されている. 切削加工の能率を妨げるもう一つの物性値はヤング率が低いことである.Ti-6Al-4V チタン合金のヤング率は 113 GPa と鉄やステンレス鋼 SUS304 のヤング率の 6 割程度である. ヤング率が低いと被削材や工具のビビリ振動を誘発しやすい. さらにそのビビリ振動の結果, 切削加工中に切れ刃に引っ張り応力が働いて, 切れ刃欠損の原因となる. 図 5にチタン合金による低い切削加工能率を工具の形状から改善するソリッドエンドミルを示す. 工具材種はいずれもコーテッド超硬合金である. 従来の 4 枚刃のエンドミルを刃溝形状の改善で 6 枚刃や 8 枚刃と刃数を増やすことで加工能率を改善できる. さらにチタン合金のビビリ振動しやすい加工物を切れ刃外周刃に波刃形状を適用して工具切れ刃が加工物に食い付く際の衝撃を波刃形状で緩和したり, あるいは不等リード切れ刃で強制振動を回避することができる. さらにクーラントホール付エンドミルで切れ刃近傍から クーラントを噴出させることで切れ刃切削温度の低減に効果があり, より高い切削速度での加工ができ, 特に高圧クーラントとの組み合わせで効果がある. 図 6は不等リードエンドミルと従来エンドミルの切削面の比較を示す. 不等リードエンドミルでビビリ振動が解消されていることがわかる. 2.4 CFRP と切削工具航空機の炭素繊維強化プラスティック (CFRP) 部品の切削加工では部品を固定するための穴あけ加工が圧倒的に多い. ところが, この CFRP は材料自体が大変な難削材で, 従来の超硬合金製ドリルの穴あけでは工具寿命が極端に短く,25 mm 程度の板厚の CFRP の穴あけでは1 本のドリルで 10 穴もあけると CFRP の層間剥離 ( デラミネーション ) が生じてしまうため, 量産加工には向かない. そこで, 切れ刃に多結晶ダイヤモンド (PCD) を用いた PCD ドリル, あるいは人工ダイヤモンドを超硬合金に薄被膜したダイヤモンドコーティングドリルを使用することで CFRP 加工時の工具寿命が大幅に改善される. 図 7はダイヤモンドコーティングドリルを用いて板厚 20 mm の CFRP 材を穴あけした事例である.1 本のドリルで 240 穴をあけても良好な穴性状である. 3.1 ジェットエンジン材料と切削工具図 8は代表的なロールスロイス社製旅客機用エンジンを構成材料別に示している. 特にファンやコンプレッサー 精密工学会誌 Vol.75, No.8, 2009 955

図 7 ダイヤモンドコーティングドリルによる CIFR 材の穴あけ 図 10 ジェットエンジン ケース旋削加工用工具 図 11 チタン合金と切削温度シミュレーション 図 8 4) ジェットエンジン材料 図 9 5) 比強度と温度の関係 のエンジンの入り口から空気圧縮部にチタン合金が多く使用されるのに対して, 燃焼器前後の空気が高温になる部位でニッケル基超耐熱合金が多用される. しかも最近ではジェットエンジンをさらに軽量化するため, ジェットエンジンの最初の空気入口部のファンやファンケースは CFRP による構造材料になりつつある. 図 9には各種金属の比強度 ( 引っ張り強さ / 比重 ) と温度の関係を示す. 温度が 500 程度まではチタン合金が最も比強度が高い ( 除 CFRP) ことがわかる. しかし, 一般のチタン合金の場合,500 600 程度で比強度が急激に低 下するためにそれ以上の温度では使用できない. さらに雰囲気温度が 600 を超えるとニッケル基超耐熱合金が使用され, 高温時でもなお強度を維持する. ただし, 600 700 に耐えるチタンアルミ合金が開発 実用化され, 今後ジェットエンジン軽量化にさらに期待される. 図 10にジェットエンジンケース部品等の旋削加工用工具を示す. 切れ刃には切れ刃交換式チップ ( インサート ) が使用される. 工具材種には (Al,Ti)N を物理凝着法 (P.V.D.) で被膜したコーテッド超硬合金や,Al 2O 3 や TiCN を化学凝着法 (C.V.D.) で膜厚を最適化して多層被膜したコーテッド超硬合金が適用される. さらに高能率でチタン合金を加工する場合には CBN 工具材種が適用される. また, 被削材が超耐熱合金の場合にはCBN 工具材種やセラミック工具材種が適用される. 3.2 チタン合金と旋削加工図 11でチタン合金 Ti-6Al-4V を切削速度 60m/min で湿式切削した場合の切削温度シミュレーション結果を示す. 切削速度 60m/min とステンレス鋼切削の場合の 1/4 程度の切削速度と低いにも関わらず, 旋削加工開始後 4/1000 秒程度で切れ刃の刃先温度は 800 以上に急激に上昇している. 切削温度が 800 から 900 を超えるとチタン合金は活性な金属であるため, 超硬合金自体と急激に化学反応が始まることを確認しており, 今後その検証とチタン合金と反応し難いコーティング膜, 超硬合金の開発が望まれる. また, チタン合金の旋削加工でも切りくず処理と工具寿 956 精密工学会誌 Vol.75, No.8, 2009

図 12 インコネル 718 およびワスパロイの引っ張り強さ 6) 図 13 WC-10% Co 超硬合金およびコーティング超硬合金の高温抗折力 ( 林, 鈴木, 土井 ) 7) 図 14 超耐熱合金と切削温度シミュレーション 4. 結言 命延長効果をねらって高圧クーラントを用いた研究がなされている 10). 3.3 インコネル 718 と旋削加工図 12ではインコネル 718, ワスパロイおよびステンレス鋼の高温引っ張り強さ比較を示す. インコネル 718 やワスパロイ等の Ni 基超耐熱合金の高温強度が高く, 雰囲気温度が 900 1000 の範囲でも使用される. 図 13では WC-10%Co 超硬合金およびコーテッド超硬合金の温度と抗折力の関係を示す. 超硬合金でも高温抗折力は低下し, 特に 900 を超えるとコーテッド超硬合金でも抗折力は急激に低下する. したがって, 特に超耐熱合金の切削ではコーテッド超硬合金の切れ刃温度が 900 1000 を超えると工具寿命の低下をもたらす. 図 14でインコネル 718 を切削速度 40m/min で湿式切削した場合の切削温度シミュレーション結果を示す. 旋削加工開始後 4/1000 秒程度で切れ刃の刃先温度は 900 以上に急激に上昇している. 刃先温度が上記温度に達すると通常圧の切削液で冷却しても切れ刃近傍では核沸騰から膜沸騰に遷移し, 熱伝達の大幅低下で切れ刃冷却が困難と予想される. また, 欧州では 40 MPa 以上の超高圧クーラントによる研究もなされている 11). 前述の通り, 工具材種が超硬合金やコーテッド超硬合金の場合に通常のクーラント圧を使用すると超硬合金の特性から超耐熱合金の高速切削には限界がある. そこで超耐熱合金の場合セラミック工具を使用すると高速切削が可能となる. 工具寿命が 5 分以下でも旋削の場合で切削速度 300 m/min, フライス加工の場合 ( ただし乾式切削 ) で 1000 m/min 以上の高能率加工が可能となる. 本稿が少しでも日本の航空機産業の発展に寄与できれば幸いである. 参考文献 1) ( 財 ) 日本航空機開発協会 (JADC), 平成 15 年度民間航空機及び関連産業に関する調査研究,p.66, 2004, http://www.jadc.or.jp/ JADCF04.pdf 2) The Boeing Company, JP Morgan Airline, Aerospace and Airfreight Conference, p.30, February 23, 2006, http :// www. boeing.com/companyoffices/financial/ozimek060223.ppt#756, 1, The Boeing Company JP Morgan Airline, Aerospace and Airfreight Conference. 3) ( 財 ) 日本航空機開発協会 (JADC), 第 8 章航空機産業の現状, p. Ⅷ-29, 2004, http://www.jadc.or.jp/8_industry.pdf 4) J. Blackford : The Engineering of Superalloy from Cervenka, p. 7 Rolls-Royce, 2000, Centre for Materials Science and Engineering, http://www.cmse.ed.ac.uk/advmat45/supereng.pdf 5) 比強度と温度の関係,JAL 航空実用辞典,http:// www. jal.co.jp/jiten/dict/g_page/g108_1.html 6) 狩野勝吉 : データでみる次世代の切削加工技術, 日刊工業新聞社,(2000) 270. 7) 富士原由雄 : コーティング超硬工具, 精密工学会誌,52,9 (1986) 1508. 8) 航空機に於けるアルミリチウム合金の開発動向,( 財 ) 航空機国際共同開発促進基金,2005, http:// www.iadf.or.jp/8361/ LIBRARY/MEDIA/H17_doukochosa/H17-5-7.pdf 9) 汪文学他 : 複合皮膜による耐ガルバニック腐食 CFML の創製, 日本材料学会誌,56,5 (2007) 420-425. http://www.jstage.jst. go.jp/article/jsms/56/5/56_420/_article/-char/ja 10) S. Palanisamy, S.D. McDonald and M.S. Dargusch: Effects of Coolant Pressure on Chip Formation Whil e Turning Ti6Al4V Alloy, International Journalof Machine Tools and Manufacture, 49, 9 (2009) 739-743. 11) A.R.C. Sharman, J.I. Hughes and K. Ridgway:Surface Integrity and Tool Life When Turning Inconel 718 Using Ultra-high Pressure and Flood Coolant Systems, 222, 6 (2008), Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Part B :Journalof Engineering Manufacture. 精密工学会誌 Vol.75, No.8, 2009 957