1. はじめに 災害列島 と称される我が国は, 自然災害が発生しやすい地形, 地質, 気象などの条件下にある. なかでも, 佐賀県は中山間地, 平地, 低平地を併せ持ち, 特に県南部の有明海沿岸低平地一帯は, 水害の多発地として古くから知られている. 農林水産省は, 防災 減災対策を着実に推進するために 経済財政改革の基本方針 2007 ( 平成 19 年 6 月 ) の中で, 自治体にハザードマップの作成を推奨しているものの, 現在の地震防災マップの整備率が 5.5 %, 津波ハザードマップが 12.8 % であり, 未だに低調な水準にある ( 農林水産省,2007). また, 近年の自然災害では, 災害犠牲者に占める高齢者の割合が高くなっている ( 厚生省,1996). そのため, 地域高齢者のための防災 減災対策の強化を図ることは, 人口の急速な高齢化に直面する我が国における重大な社会的課題である. 本研究は, 平成 19 年度より佐賀大学で開始した地域安全総合研究 1 において実施した, 地方都市における災害時要援護者および介護保険施設利用者の防災に関するアンケート調査をもとに, 地域高齢者の住環境, 防災意識, 地勢に潜む潜在的な災害リスクを検証し, 地域高齢者, 施設管理者, 地域, 団体などの防災意識の覚醒ならびに変革のための方途を示すことを試みる. 2. 研究の視点および方法平成 19 年度に行った佐賀県内の介護保険施設を対象とした防災意識調査 ( 北川ら, 2007) より, 介護保険施設は, 災害被災者の受け入れには積極的であるものの, 施設利用者の避難や災害に対する備えは十分でないことが明らかになった. この結果を踏まえて, 中山間地, 平地, 低平地といった多様な地形を有し, また自主避難時の要援護者名簿登録を行っている佐賀県小城市において, 自立歩行による避難が可能である 65 歳以上の高齢者を対象に,43 項目の防災意識に関するアンケート調査を実施した. なお, 同調査は, 平成 19 年 11 月の同市の民生委員の定例会にて各地区の民生委員に依頼して行ったもので, アンケート用紙の回収率は 97 % (443 件 ) であった. また, 同市の人口動態, 地勢, 土砂災害リスクを地理情報システム (GIS) を利用して評価し, 各地域の潜在的な災害リスクを検討した. 1 平成 19 年度より, 佐賀大学では重点領域研究として 災害弱者のための地域安全生活総合研究プロジェクト が発足し, 平成 20 年度も継続研究が進行中である.
3. 佐賀県の自然災害状況過去 10 年の我が国の自然災害を顧みると,2000 年の東海豪雨,2003 年の九州北部を中心とした梅雨前線豪雨,2004 年の新潟や福井等での梅雨前線豪雨や観測史上最多の台風上陸,2005 年の東京 23 区内の浸水被害,2006 年の中部, 中国, 九州地方における梅雨前線豪雨など, 水害が多発している.2003 年の梅雨前線豪雨による九州北部を中心とした水害, 2006 年の中部, 中国, 九州地方の梅雨前線豪雨発生による水害などの被害状況からも, 最近の九州における自然災害による被害は, 広域化 甚大化の様相を呈するようになってきている ( 内閣府,2007). 自然災害は, 地震災害, 風水害, 火山災害, 雪害, その他 ( 海上災害, 航空災害 ) に分類される ( 内閣府,2007). 有明海を震源地とした 1966 年の地震 (M5.5) を除けば, 佐賀県は地震の発生頻度や被害規模が極端に小さく, 逆に松浦川, 嘉瀬川, 六角川などの河川氾濫に代表される洪水被害の発生頻度が高い. 佐賀県北部を縦断する松浦川では,1967 年に伊万里市で浸水家屋 9335 戸, 死者 19 名の被害,1972 年に唐津市で浸水家屋 2913 戸, 死者 2 名, 伊万里市では浸水家屋 480 戸, 浸水面積 1145 haの被害,1990 年に伊万里市で浸水家屋 480 戸, 浸水面積 1145 haの被害が出ている. 2006 年の9 16 豪雨の際には, 唐津市に家屋全壊 4 戸, 半壊 3 戸, 床上浸水 45 戸の被害があり, 同年 9 月 19 日には唐津市民災害ボランティアセンターが設置された. ボランティアの登録件数は337 人であったが, 実際に出動したボランティア数は, それを上回る383 人に上った. 佐賀市内を横切る嘉瀬川では,1953 年には浸水家屋 31032 戸, 堤防決壊が78 箇所,1963 年には全壊流失家屋 25 戸, 浸水家屋 219 戸,1980 年には床上浸水 1775 戸, 床下浸水 10854 戸の洪水被害が出ている. 南部の六角川では,1990 年に近年で最大規模の洪水が発生し, 堤防決壊 9 箇所, 浸水家屋 8676 戸の被害が出た. 佐賀県の65 歳以上人口の割合, すなわち高齢化率は 22.1%(2004 年 ) であり, 全国平均を4 年先行していることから, 高齢者のための防災 減災対策の拡充が急がれている. 4. 自然災害に関する意識調査結果 4. 1 小城市の地勢および気候小城市は, 県土の 3.93 % に相当する 95.85 km 2 の面積を占め, 佐賀平野の西端に位置する地方都市である. 同市は, 県庁所在地 佐賀市の市街地まで約 10 km, 福岡市まで 70 km, 長崎市まで 100 km の位置にある. 同市北部には天山山系, 中央の平野部には肥沃な平野部,
中南部の広大な低平地にはクリーク水田地帯, 南岸の有明海には日本最大面積の干潟が広 がり, また市内には天山山系を水源とする祇園川, 晴気川, 牛津川が縦断する, 地形の多様 性に富む地域である. 夏は高温多湿で, 冬には乾燥した北西の季節風 ( 天山おろし ) が吹く. 4. 2 高齢者の生活環境小城市の人口は約 4 万 6 千人 ( 約 14,600 世帯 ) であり, 近年, 佐賀市への通勤者のベッドタウンとして増加傾向にある. そのため, 高齢化率は 20.9% であり, 佐賀県の高齢化率 (22.6 %) を下回る水準にある ( 図 1). 同市には 3 箇所の介護保険施設が立地している. 小城市 : 45,852 人 神崎市 鳥栖市 唐津市 佐賀市 伊万里市多久市武雄市嬉野市鹿島市 0 10km ( 人 ) 200000 150000 100000 80000 60000 40000 20000 10000 人口総数 (( 人 )) 小城市 : 20.9 % 神崎市 鳥栖市 唐津市 伊万里市多久市武雄市大町町 :30 % 嬉野市鹿島市太良町 : 28.1 % 佐賀市 0 10km (%) 30 28 26 24 22 20 65 歳以上人口高齢化率 (%) (%)
図 -1 佐賀県内の市町村の人口および高齢化率. 図中の数値は e-stat( 統計センター, http://www.e-stat.go.jp/sg1/estat/estattopportal.do) から抜粋した 2005 年のもの. また, 市町村の 区分は, 国土数値情報 ( 国土交通省,2007 年 4 月 1 日発行 ) に準拠した. 調査対象となった高齢者の居住地域の大部分が平地 (81.5 %) であり ( 表 1), 農村地域の居住者の割合が 62.3 % と最も高い ( 表 2). また, 単身世帯は 18.7 %,2 世代以上の家族との同居世帯が 50.7 % を占め ( 表 3), 要介護者の持つ世帯は 15.6 % であった ( 表は省略 ). 高齢者が居住する家屋の 69.5 % は木造 2 階建て等, 約 23.3 % は木造平屋建てである ( 表 4). 家屋の築年数は,20 年未満が 33.3 %,20 30 年が 21.7 %,30 年以上が 41.2 % であり ( 表 5), 老朽化が進行していることが伺われる. 表 - 1 居住地域の地形 居住地 数 割合 (%) 山間地 46 10.4 平地 361 81.5 低平地 28 6.3 無回答 8 1.8 表 - 2 自宅所在地 居住地 数 割合 (%) 市街地 121 27.3 農村地域 276 62.3 漁村地域 4 0.9 山間地域 33 7.4 無回答 9 2.0 表 - 3 世帯構成人員数 構成人数 数 割合 (%) 1 人 83 18.7 2 人 129 29.1 3 人 83 18.7 4 人 48 10.8 5 人以上 94 21.2 無回答 6 1.4 表 - 4 家屋の形態家屋 数 割合 (%) 木造平屋 103 23.3 木造 2 階建以上 308 69.5 鉄骨平屋 1 0.2 鉄骨 2 階建以上 22 5.0 鉄筋コンクリート平屋 0 0.0 鉄筋コンクリート2 階建以上 3 0.7 無回答 6 1.4 表 - 5 家屋の築年数 家屋 数 割合 (%) 10 年以下 58 13.1 11 年 ~20 年 94 21.2 21 年 ~30 年 96 21.7 31 年 ~40 年 84 19.0 41 年 ~50 年 45 10.2 51 年 ~60 年 19 4.3 61 年以上 34 7.7 無回答 13 2.9
4. 3 高齢者の防災意識 2004 年および2006 年に台風が佐賀県を直撃し, 県全域で多大な被害が出た. 小城市においても,2004 年には 60 %,2006 年には 41.1 % の高齢者が, 台風の被害を被ったと回答している ( 表 6, 表 7). 自然災害の発生を予め知るための情報源の一つに, 気象情報がある. 本調査においても, 8 割を超える高齢者が気象情報や市役所からの災害情報を日常的に気にかけていると回答したことから, 災害予知に対する関心の高さを伺うことができる ( 表 8). また, 浸水被害には 50.6 %, 地震被害には 74.5 %, 風害には 89.4 %, 火災には 90.5 % の高齢者が気にかけていると回答した. その一方で, 土砂災害や高波 津波を気にかけていると回答した高齢者はそれぞれ 26.2 %,19.6 % であり ( 表は省略 ), 他の災害の場合と比較して少ない. 最近では台風や竜巻, また中南部の平地 低平地では古くから度々水害にみまわれてきた地域であることから, こうした高齢者の災害に対する意識には, 過去の被災経験が大きく関与していると考えられる. 本調査は, 小城市在住の全高齢者を対象に行ったものではないが, 調査は市全域の広範な地域の高齢者を対象に行ったものであることから, 以上の結果は, 同市在住の高齢者の防災意識を反映したものと考えられる. 表 - 6 2004 年に発生した台風の被害 回答 数 割合 (%) はい 266 60.0 いいえ 160 36.1 無回答 17 3.8 表 - 7 2006 年に発生した台風の被害 回答 数 割合 (%) はい 182 41.1 いいえ 246 55.5 無回答 15 3.4 表 - 8 気象情報の注意状況 回答 数 割合 (%) 気にしていない 14 3.2 やや気にしている 57 12.9 気にしている 178 40.2 かなり気にしている 191 43.1 無回答 3 0.7
5. 地図で見る小城市の災害リスク特別な支援を必要とする災害時要援護者にとって, 実効性の高い防災体制を構築することは, 生命に関わる重大な課題である ( 我澤,2006). ところが, 被災の恐れがある自然災害の種類や, 発生した災害に対して必要となる対策は, 居住地の地理的条件や人口動態によって異なると考えられる. 小城市では, 避難連絡, 避難所の運営管理, 要援護者への対応に関する市職員向けの自主避難マニュアル ( 別添 ) を作成しているが, 実効性の高い防災体制を構築するためには, 居住地に潜む自然災害リスクを適切に把握することが必要である. GIS を利用して, 市内 4 町 ( 小城町, 三日月町, 牛津町, 芦刈町 ) の人口形態を評価した結果, 人口は北西部に位置する小城町が最大であるが, 各内の人口密度には地域によって大きなばらつきがあること, また三日月町や牛津町の市街地に人口が密集していることが分かる ( 図 -2).4.2 節で述べたように, 小城市住民の高齢化率は 20.9 % であり, 現行の市町村区分に基づいた数値からは, 著しい高齢化の様相は見られない ( 図 -1). しかし,4 町の高齢化率を比較すると, 最大で 8.6 % の差異が見られた ( 図 -3). さらに, 同市内の高齢化率の分布から, 小城町南部および東部, そして三日月町の西部に, 高齢化率が 30 % を超える地区が存在することが確認できる ( 図 -3). 小城町 小城町 17,669 人 三日月町 三日月町 12,492 人 牛津町 10,538 人 0 2km 芦刈町 6,255 人 ( 人 /km ) 2 ) 16000 14000 12000 10000 8000 芦刈町 0 2km 牛津町 (( 人 /km /km2 2 ) 3200 1600 800 400 200 100 人口 人口密度 図 -2 小城市内の人口および人口密度の分布. 人口と人口密度は 地図 Info( 日本地図センター, http://info.jmc.or.jp/index.html) より抜粋して集計した 2006 年の数値を掲載.
小城町 19.4 % 小城町 三日月町 三日月町 16.4 % 牛津町 19.3 % 芦刈町 25.0 % 0 2km (%) 24 22 20 18 16 牛津町 芦刈町 0 2km (%) 38 36 32 28 24 20 16 図 -3 小城市内の高齢化率の分布. 高齢化率は 地図 Info( 日本地図センター,http://info.jmc.or. jp/index.html) より抜粋して再集計した 2006 年の数値である. ここで, 前述のアンケート調査では, 高齢者の 78.8 % が居住地域に危険な箇所があると感じると回答した ( 表は省略 ). 土砂災害を気にかけている高齢者の割合は, 他の災害の場合と比較して少なかったが, 内閣府の集計 ( 内閣府,2005) によれば, 小城町北部の山間部には, 土砂災害に伴う道路交通網の寸断によって孤立する恐れがある 12 箇所の集落が確認されている ( 図 -4). また, そうした集落の一部は, 高齢化率の高い地域と重なっていることから, 孤立によるライフラインの途絶が, 高齢者の生命活動に多大な影響を及ぼすことが危惧される. そのため, 孤立リスクを抱える高齢化の進んだ集落については, 地域の実態を反映した防災体制の整備が急務であると考える. 6. 避難所としての介護福祉施設の役割要介護高齢者, 障害者, 妊産婦などの特別なニーズを持つ人は, 一般の避難所での共同生活が困難である場合がある. そのため, 生活施設である社会福祉施設は, 地域に居住する災害時要援護者の災害避難所としての役割が期待されている. これまで, 佐賀県は大規模な
川内 本山 寒気 江里山石体清水大塚松本原田焼山小城 孤立リスク + 高齢化 上右原 三日月 下右原 牛津 芦刈 図 -4 土砂災害によって孤立する可能性のある集落の分布. 集落区分は農林業センサス ( 農林水産省,2005) に準拠 したため, 図中の集落名と区分は現在のものと異なる場合がある. 自然災害に襲われなかったという歴史的経緯から, 地域住民の間に 佐賀県は安全な地域である という意識が根強くある. さらに, 日常生活の支援を要する高齢者が多く居住している介護保険施設などの社会福祉施設は安全であり, また避難所として最適であるとの認識が広がっており, 実際に自治体が介護保険施設等を福祉避難所としての指定を進めている. 全市町に福祉避難所が準備されておらず, また受け入れ可能人数にも限りがあるものの, 多くの介護保険施設が, そうした社会の要請に応えることを前向きに検討している. 佐賀県の 92 箇所の介護保険施設のうち, 小城市内には 3 施設ある ( 図 -5). その施設のいずれも平地に位置していることから, 前述の中山間地における土砂災害時には, 避難者の受け入れ施設として, 一般施設にはない特殊な機能が期待される. しかし, 平地や低平地に立地した施設について
は, 洪水時には利用できないことも予測されるため, 災害に対する各避難所の安全性を適切に評価することが必要であると考えられる. また, 介護保険施設の代替避難所として, 一般避難所の利用も考えなければならないが ( 小山,1991), 学校や公民館などの一般避難所は, 福祉避難所のような高い機能を有していない. そのため, 特別なニーズを必要とする高齢者が避難所生活のために,2 次的避難所 ( 県や市町と協定締結して避難所とすることができるゴルフ場関係施設, 公営国民宿舎等, 青少年施設など ) の利用も検討する必要があると考える. 特別養護老人ホーム ( 計 55 箇所 ) 定員 ( 人 ) ( 人 ) 100 90 80 70 60 50 老人保健施設 ( 計 37 箇所 ) 定員 ( 人 ) ( 人 ) 100 90 80 70 60 50 重複した箇所 小城町 三日月町 牛津町 70 人 50 芦刈町 0 2km 定員 ( 人 ) 図 -5 特別養護老人ホームおよび老人保健施設の分布. 合併前の 4 町の区分は, 2007 年 4 月 1 日発行の国土数 値情報 ( 国土交通省,http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/) の行政区分に準拠した.
7. 今後の課題本研究の調査対象地である小城市は, 佐賀県の中で数少ない人口微増地域である. しかし, 小城市全域を俯瞰すると, 高齢化や過疎化が急速に進行する地域もあり, 全市的に人口が増加しているわけではない. また, 佐賀県全体で人口減少と高齢化が同時進行中である状況から, 将来は個々の地域で災害対策を講じるのに十分な人手を確保することが困難になることが懸念される. このような地域では, 自治体あるいは集落同士の広域連携体制の強化を図ることが, 災害時要援護者の救助, 支援, 生活復帰, 減災のために必要であると考えられる. 本研究では, 地方都市在住の高齢者を取り巻く防災に関する社会科学的課題を, 自然科学分野の研究技術を取り入れることによって, 総合的に検討することを試みた. 防災に関するパイロット調査であること, また自然災害リスク分析に必要となるデータベースが十分に整備されていないことなどから, 本研究では, 地域の潜在的な災害リスクの一端を垣間見たに過ぎない. しかし,GIS を利用することにより, 身近な生活環境に潜む災害リスクを可視化できることを示した意義は大きい. 今後は, 高齢者の防災意識, 地勢, 道路交通体系, 情報通信インフラ, 生活 医療物資や防災資機材の備蓄状況などについて地域あるいは集落単位で調査し, それらの情報に基づいてリスク分析を行うことにより, 各地域の固有事情や地勢を鑑みた防災体制を構築することが望ましい. 8. 要約佐賀県小城市は, 人口が約 4 万 6 千人 ( 約 14,600 世帯 ), 高齢化率が 20.6 % の地方都市であり, 北部には中山間地, 中南部には平野が広がる地域である. 自然災害に対する高齢者の防災意識を調べるために, 自立生活が可能である 65 歳以上の同市在住の高齢者を対象に, 質問紙による 43 項目のアンケート調査を実施するとともに, 地理情報システム (GIS) を利用して, 同市の人口形態および地勢の特徴を調べた. 大半の高齢者が気象情報や市役所等からの災害情報を気にする習慣があり, なかでも風害, 地震, 浸水被害への関心が高い一方で, 高波 津波や土砂崩れへの警戒意識は低かった.2004 年と 2006 年に, 台風および竜巻の被害を受けた同市の高齢者はそれぞれ 6 割と 4 割であったこと, また同市南部に広がる低平地では古くから水害にみまわれてきた地域であることなどから, こうした高齢者の防災意識は, 過去の被災体験に強く起因するものと考えられた. 多くの高齢者が居住する地域に災害危険箇所の存在を感じていると回答したことを受け, 本研究では高齢者の関心が低かった土砂災害リスクの判別を実施した結果, 土砂災害によって孤立するリスクを抱える農業集落が中山間地に数多く存在すること, またそうした集落では高齢化率が 30 % を超える集落も多く, 防災基盤の弱体化が懸念された. 正確な災害リスク分析にはさらなる検討が必要であるものの, 本研究を通じて, 地域生活環境に応じた適切な防災対策の整備と, 防災に対する住民意識の啓発が必要であると考えられた.
参考文献厚生省. 人口動態統計からみた阪神 淡路大震災による死亡の状況,1996. 我澤賢之, 山根耕平, 川村宏. 障害者 高齢者のための防災活動における GIS の活用, 信学技報 WIT2006-37,2006 北川慶子ほか. 平成 19 年度佐賀大学災害弱者のための地域安全生活総合研究,2007. 国土交通省. 国土数値情報,http://nlftp.mlit.go.jp/ksj,2007. 小山剛. 大規模災害時における福祉施設の果たす役割と課題, 介護福祉, 社会福祉振興 試験 センター,1991. 統計センター.e-stat,http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/eStatTopPortal.do,2005. 内閣府. 平成 19 年度防災白書,2007. 内閣府. 中山間地等の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会提言,2005. 農林水産省.2005 年農林業センサス,2005. 農林水産省. 中山間地域における喫緊の課題をめぐる情勢と対策の方向について,2007. 日本地図センター. 地図 info,http://info.jmc.or.jp/index.html,2006.