21-23年度厚生労働科学研究報告書.indb

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微小粒子状物質曝露影響調査報告書

平成18年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)

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スライド 1

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研究報告書レイアウト例(当該年度が最終年度ではない研究班の場合)

テイカ製薬株式会社 社内資料

No. 1 愛知学院大学 Ⅰ. 緒言 咀嚼行為による自律神経系への活動は 1 咀嚼筋が活動する時の交感神 経の興奮 2 唾液分泌や消化管刺激を生ずる副交感神経の活動 3 味覚や 匂いによる唾液分泌の条件反射があり その複雑性のために咀嚼行為が自 律神経のどの方向に働くかについては 異なった報告がある

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果


られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

< 方法 > 被験者は心身ともに健康で歯科医療関係者以外の歯科受診経験のある成人男女 15 名 ( 男 6 名 女 9 名 22.67±2.89 歳 ) とした 安静な状態で椅子に腰掛け 歯科治療に関する質問紙への回答により歯科受診経験の有無 実験前のカフェインやアルコールの摂取がないことを確認した

インプラント周囲炎を惹起してから 1 ヶ月毎に 4 ヶ月間 放射線学的周囲骨レベル probing depth clinical attachment level modified gingival index を測定した 実験 2: インプラント周囲炎の進行状況の評価結紮線によってインプラント周囲

ⅱ カフェイン カテキン混合溶液投与実験方法 1 マウスを茶抽出液 2g 3g 4g 相当分の3つの実験群と対照群にわける 各群のマウスは 6 匹ずつとし 合計 24 匹を使用 2 実験前 8 時間絶食させる 3 各マウスの血糖値の初期値を計測する 4 それぞれ茶抽出液 2g 3g 4g 分のカフェ

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調査 統計 歯科心身症患者における自律神経機能の評価 - 心拍変動に対する周波数解析を用いた検討 - 1, 三輪恒幸 * 天神原亮 ) 小笠原岳洋 ) 渡辺信一郎 ) 亀井英志 ) 1) 東京歯科大学臨床検査学研究室 ) 長栄歯科クリニック 抄録目的 : 長栄歯科クリニックでは 歯科心身症が疑われる

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Embody評価実験

< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

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ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

ン投与を組み合わせた膵島移植手術法を新たに樹立しました 移植後の膵島に十分な栄養血管が構築されるまでの間 移植膵島をしっかりと休めることで 生着率が改善することが明らかとなりました ( 図 1) この新規の膵島移植手術法は 極めてシンプルかつ現実的な治療法であり 臨床現場での今後の普及が期待されます

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問


微小粒子状物質曝露影響調査報告書

康度の評価を実施した また リーグ戦日前後を含む 3 日間における栄養調査を思い出し記述法を用いた調査票を回収した ボウリングプレー時の集中度と全身疲労感の主観的評価は 第 1 タームと第 2 ターム リーグ戦ゲーム前後に毎回測定を実施した 各ターム リーグ戦最終日にはプレー前の安静時において 唾液

人にやさしい空間

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

< 方法 > 舌痛症が好発する更年期以降の女性患者を舌痛症群 同年代の健康女性を対照群として 下記のように唾液の性状や成分 血清抗酸化能の測定 ならびに全口腔法による味覚閾値検査を行い 2 群間の比較検討から 舌痛症患者の特徴的変化について検討した 1. 唾液の分泌量 性状と成分濃度の測定 1 唾液

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4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

血糖値 (mg/dl) 血中インスリン濃度 (μu/ml) パラチノースガイドブック Ver.4. また 2 型糖尿病のボランティア 1 名を対象として 健康なボランティアの場合と同様の試験が行われています その結果 図 5 に示すように 摂取後 6 分までの血糖値および摂取後 9 分までのインスリ

() 実験 Ⅱ. 太陽の寿命を計算する 秒あたりに太陽が放出している全エネルギー量を計測データをもとに求める 太陽の放出エネルギーの起源は, 水素の原子核 4 個が核融合しヘリウムになるときのエネルギーと仮定し, 質量とエネルギーの等価性から 回の核融合で放出される全放射エネルギーを求める 3.から

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

学生による授業評価のCS分析

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ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

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Powered by TCPDF ( Title Sub Title Author 喫煙による涙腺 眼表面ダメージのメカニズム解明 Assessment of the lacrimal and ocular surface damage mechanism related

第2章マウスを用いた動物モデルに関する研究

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

C. 研究結果 考察 1, 全国統計にみた自殺の次推移 ( 表 1 図 1) 1899~23 以降の全国人口動態統計からの推移をみてみると 第二次世界大戦前の自殺死亡率は 12~22 前後で大戦後よりも低値であった 一方 毎の全 人当たりのについても大戦前は 6~13 と大戦後に比較して低かった 全

横浜市環境科学研究所

要旨健常者では何事もなく日常行われる体位変換動作が 脳血管障害や頸髄損傷においては起立性低血圧などの調節異常を引き起こす 血圧変動を評価するだけではなく簡便かつ有効な手段で自律神経機能を評価することができれば起立性低血圧のリスクをより管理できるのはないかと考えられる 本研究は 立位訓練時の起立性低血

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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エラー動作 スピンドル動作 スピンドルエラーの計測は 通常 複数の軸にあるセンサーによって行われる これらの計測の仕組みを理解するために これらのセンサーの 1つを検討する シングル非接触式センサーは 回転する対象物がセンサー方向またはセンサー反対方向に移動する1 軸上の対象物の変位を測定する 計測

上原記念生命科学財団研究報告集, 31 (2017)

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

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あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

の略語で, 隣り合う RR 間隔の差を 2 乗し, 合計したものを平均し, 平方根化したもので, 隣り合う RR 間隔の差が大きいほど数値は大きくなる 心電図の短時間解析 (shortterm analysis; 5 min) では, SDNN の低下と RMSSD の低下は, 副交感神経活性の低下

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

「タンパク質・アミノ酸栄養学の過去・現在・未来」 講演1

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シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

核医学分科会誌

平成14年度研究報告

高齢者の筋肉内への脂肪蓄積はサルコペニアと運動機能低下に関係する ポイント 高齢者の筋肉内に霜降り状に蓄積する脂肪 ( 筋内脂肪 ) を超音波画像を使って計測し, 高齢者の運動機能や体組成などの因子と関係するのかについて検討しました 高齢男性の筋内脂肪は,1) 筋肉の量,2) 脚の筋力指標となる椅子

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博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

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1. はじめに近年の計算機パワーおよび数理的な解析手法の向上を背景に, 生命現象について, 数理モデルを用いて明らかにする研究の重要性は増している. そのような研究は今後, 医療, 健康管理などにおいてますます必要になると考えられる. そこで, 筆者はこれまでに生体計測 信号処理等工学技術の生活支援

RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

生物時計の安定性の秘密を解明

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

実験題吊  「加速度センサーを作ってみよう《

, 2008 * Measurements of Sleep-Related Hormones * 1. * 1 2.

微小粒子状物質曝露影響調査報告書

研究の背景近年 睡眠 覚醒リズムの異常を訴える患者さんが増加しています 自分が望む時刻に寝つき 朝に起床することが困難であるため 学校や会社でも遅刻を繰り返し 欠席や休職などで引きこもりがちな生活になると さらに睡眠リズムが不規則になる悪循環に陥ります 不眠症とは異なり自分の寝やすい時間帯では良眠で

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

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説明書

疲労負荷作業には, 単純な足し算作業である内田クレペリン検査, および視覚探索作業である Advanced Trail Making Test(ATMT) を交互に 30 分ずつ, 合計 4 時間実施した また回復期には試験室にベッドを設置し,1 時間ベッド上にて安静をとることとした なおその際,

リーなどアブラナ科野菜の摂取と癌発症率は逆相関し さらに癌病巣の拡大をも抑制する という報告がみられる ブロッコリー発芽早期のスプラウトから抽出されたスルフォラフ ァン (sulforaphane, 1-isothiocyanato-4-methylsulfinylbutane) は強力な抗酸化作用

資料3  農薬の気中濃度評価値の設定について(案)

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臨床試験の実施計画書作成の手引き

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研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

研究成果報告書

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厚生労働科学研究費補助金 ( 障害者対策総合研究事業 )( 神経 筋疾患分野 ) ( 分担 ) 研究年度終了報告書 自律神経機能異常を伴い慢性的な疲労を訴える患者に対する 客観的な疲労診断法の確立と慢性疲労診断指針の作成 ストレス負荷による自律神経機能および抗酸化能の変化に関する研究 研究分担者局博一 ( 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 ) 研究要旨 肉体的 精神的ストレスは自律神経機能や抗酸化能に影響をもたらすことが考えられる 本研究は 22~23 年度にわたって ラットへのⅠ. 水浸ストレス ( 深度 2cm 水温 22 ) 負荷 Ⅱ. 環境温度ストレス (24 12 ) およびⅢ. 馬への運動ストレス負荷において心拍変動 体温 活動量 血液の活性酸素 フリーラジカル 抗酸化能にいかなる影響が生じるかについて明らかにする目的で行われた 上記のⅠおよびⅡの研究では生体反応をテレメトリー法によってリアルタイムに測定した Ⅲでは トレッドミルなどを用いて一定の運動負荷を与え運動前後の血液中活性酸素 心拍数などの変化を測定した その結果 Ⅰの実験では 水浸負荷時の心拍数は水浸刺激負荷前日およびシャム負荷 ( 水浸なしの条件 ) の同じ時間帯における心拍数に比べて明瞭に高い値を示した また体温は 水浸刺激負荷時に上昇傾向 ( ストレス性体温上昇 ) を示し 上昇は2 日目 3 日目で明瞭であった 一方 活動量には明瞭な差異が観察されなかった 心拍変動解析では 自律神経機能のバランス状態を示すLFパワー /HFパワーの比率が水浸負荷時に上昇傾向を示した Ⅱでは 寒冷 (12 ) 刺激中は寒冷刺激前 (24 ) に比べて 心拍数の明瞭な増加 (P<0.001) 心拍変動解析ではトータルパワーの明瞭な低下 (P<0.001) が観察された LF/HF 比はやや低下傾向があったが有意な変化は示されなかった Ⅲでは 115%VO 2 max 2 分間のトレッドミル運動 ( 全力疾走 ) によって 運動直後にはd-ROMs 値 ( 酸化ストレス指標 ) および BAP 値 ( 抗酸化能 ) が有意 (P<0.05) に上昇したが 運動終了 30 分目ではBAP 値がやや高いもののほぼ運動前のレベルに戻ることが明らかになった 上記の研究から 水浸ストレスや寒冷ストレスは自律神経活動に明瞭な変化をもたらすが ストレスが比較的強い場合にはトータルパワー (LF HF VLFのすべての帯域を含む周波数領域 ) が低下する傾向が共通して生じること 運動負荷によって酸化ストレスと抗酸化能が変化し それらが疲労度や疲労回復の指標になりうることなどが明らかになった A. 研究目的慢性疲労研究では 生体のストレス反応を様々な指標を用いて明らかにすることが求められている それらのうち心拍変動解析は自律神経機能を比較的簡便に測定する上で有用性が高い方法として注目されている 実験動物においても生体内部情報をテレメトリーシステムによって計測し データを自動的に取得できる方法が以 前から開発されており 医薬品や食品の安全性試験や効果判定などに広く用いられている 本研究では 心電図 体温 活動量を同時記録することが可能なテレメトリー送信機を用いて ラットにおける短時間のストレス負荷に対する反応性を調べることを目的とした また 運動負荷が生体の抗酸化能や自律神経機能にいかなる影響を及ぼすかについて 運動能力が高いこ 99

とが知られている馬を用いた実験を行った B. 研究方法 Ⅰ. 水浸ストレス負荷実験 1) 供試動物 心電図記録法成熟雄ラット (Slc:Wistar;8 週齢 ;9 匹 )(SPF) をペントバルビタール ( ネンブタール ) の30 40mg/kgの腹腔内投与による全身麻酔下を施した上で 心電図 体温 活動量計測用テレメトリー送信機本体 (weight=3.9g volume=1.9cc; TA10ETA-F20 Data Science St. Paul MN) をラットの頚背部皮下に外科的に埋入した 本体に接続された記録電極 ( リード線の先端 ) は + 側を左後肢大腿部の皮下に マイナス側を右肩甲部の皮下に設置し 標準肢 Ⅱ 誘導の心電図が記録できるようにした ラットは1 匹ずつ個別のポリカーボネートケージに収容し 照明および温度の制御が可能なインキュベーションチャンバー内 ( 容積 m 3 ) で 6 匹 (6ケージ) を同時に飼育した チャンバー内の照明条件は L( 明期 )=8:00 12:00 D( 暗期 )=20:00 8:00の12 時間周期とし 温度条件は24 とした 飼育期間中は自由飲水 自由摂餌とした 2) ストレス負荷条件および観察プロトコル供試ラットをテレメーター送信機の埋入手術後 1 週間以上の回復期間を経たのちに 水浸ストレスの負荷実験に供した 水浸刺激は 供試ラットのホームケージと同じ条件のポリカーボネート製容器に水深が底面から2cmになるように摂氏 22 度の水を張り 容器内にラット (1 匹 ) を静かに収容した 水浸刺激は明期の開始から5 時間後の13:00から開始し 15:00までの2 時間とした この水浸刺激を3 日間にわたって同じ時刻に行った また 4 日目には 上記の容器内に水を入れずに他の条件は等しくした条件下でラットを収容した ( シャム ) 3) データ取得 解析方法テレメーター送信機からの心電図信号は受信ボードに無線で伝送され 受信ボードからA D コンバーターを介して PCに内蔵のソフトウェア (ECG processor analyzing system SRV2W Softron SBP2000) を用い解析した 心電図のサンプリングレートは1msecとした Ⅱ. 環境温度ストレス負荷実験心電図 体温 活動量を同時記録することが可能なテレメーター送信機をWistar 系雄ラット (N=6) の皮下に全身麻酔下で埋設し 温度調節プログラムおよび明暗周期調節が施されているチャンバー内で飼育および実験記録を行った 上記のチャンバー内で術後 1 週間以上を経過した後に対照記録 (24 ) および低温負荷 (12 ) 時の記録を行った チャンバー内温度を24 12 (48 時間 ) 24 (24 時間 ) 12 (48 時間 ) 24 (24 時間 ) の順で変化させた Ⅲ. 運動ストレス負荷実験 1) 供試動物 : 馬 ( サラブレッド 成馬 )5 頭を用いた 2) 実験プロトコール : 馬専用のトレッドミル ( 傾斜 6%) を用いて 一定の運動負荷を与えた 10 分間のウォーミングアップ (1.7m/sec 3.5m/sec 1.7m/sec) の後 115%VO 2 max の強度 ( 走速度 11~13.5m/s) で30 秒間および2 分間の強運動 ( キャンター ) を負荷した 強運動の直前 直後と強運動終了 30 分後に頸静脈より採血を行った 3) 血液の活性酸素および抗酸化能測定 上記の採血で得られた血液から血清中の活性酸素 フリーラジカル量 (d-roms 試験 ) および抗酸化能を (BAP 試験 ) をフリーラジカル解析装置 (FREE ウィスマー社) を用いて調べた 4)その他の指標の測定 上記の指標のほかに 心拍数 血液ヘマトクリット値 血糖値 乳酸値 クレアチニンキナーゼおよび酸素消費量を測定した C. 研究結果 Ⅰ. 水浸ストレス負荷実験 1) 心拍数 体温 活動量心拍数 体温 活動量の経時的変化はいずれも明瞭な日周リズムを示した すなわち 心拍数 体温 活動量は暗期に高く 明期に低い変化を示した 心拍数および体温は水浸刺激の期間中 刺激前の対照およびプラセボに比べて明らかに高い値を示した 2) 自律神経機能 ( 心拍変動解析 ) 交感神経と副交感神経の両方の活動を反映す 100

るLFパワーは 第 1 回目 ~3 回目の水浸刺激を通じて明瞭な変化が認められなかった 副交感神経の活動を反映するHFパワーは 水浸刺激時に低下する傾向が示された 自律神経バランスの指標であるLFパワー /HFパワー(LF/HF 比 ) は 第 1 回目 ~ 第 3 回目の水浸刺激において増大する傾向が示された 一方 トータルパワー (VLF LF HFの全体パワー ) は3 回の水浸刺激のすべてで低下する傾向が示された ( 図 1) Ⅱ. 環境温度ストレス負荷実験皮下温は寒冷刺激中に明瞭に低下した (P<0.01)( 図 2) 心拍数は寒冷刺激中に明瞭に増加した (P<0.001)( 図 3) 心拍変動解析の結果 LF/HF 比は寒冷刺激前では0.74±0.37( 平均 ±SD) 寒冷刺激中は0.63± 0.46で有意差がみられなかった 一方 寒冷刺激中はトータルパワーが顕著に低下した (P<0.001) ( 図 4) Ⅲ. 運動ストレス負荷実験 1) 強運動負荷実験 (30 秒走 2 分走 ) 馬専用のトレッドミル ( 傾斜角 6 ) を用い 30 秒間または2 分間の全力疾走 (115%VO 2 max) をサラブレッド5 頭に負荷させた 30 秒走における最高心拍数 ( 平均値 ± 標準偏差 ) は184.2± 16.7 2 分走における最高心拍数は205.8±14.2であった 30 秒走における酸素消費量 ( 平均値 ± 標準偏差 ml/kg/min) は129.2±14.7 2 分走における酸素消費量は159.1±16.7であった 酸化ストレスを表すd-ROMs 値は30 秒走では運動前後を通じて有意な変化は示されなかったが 抗酸化能を表すBAP 値 ( 平均値 ± 標準偏差 μmol/l) は それぞれ2682±89.4 2876 ±164.2 2596±268.2を示し 運動終了直後は運動終了後 30 分目に比べて有意 (P<0.05) に高い値が示された 一方 2 分走では d-roms 値は 運動前 運動終了直後 運動終了後 30 分目において それぞれ153±34.2 178±39.2 155± 36.4であり 運動直後は運動前および運動終了後 30 分目に比べて有意 (P<0.01) に高い値を示した BAP 値は それぞれ2638±333 3540±258 2949±228を示し 運動直後は運動前および運動終了後 30 分目に比べて有意 (P<0.01) に高い値を示した BAP/d-ROMs 値は運動前 (18.2) に 比べて運動直後 (20.7) および運動終了 30 分目 (20.0) でやや高い値が示されたが 有意差ではなかった 2) 軽運動負荷実験馬場において周回運動 ( 速歩 ) を馬に負荷した d-roms 値は運動負荷 ( 速歩 ) によって軽度に上昇し 運動終了後 30 分目には低下する傾向を示したが これらの変化に有意差はなかった d-roms/bap 値は運動前 運動直後および運動後 30 分目で有意な変化は示されなかった D. 考察本研究において ラットへの短時間の水浸刺激によって引き起こされる生理的反応をテレメトリー法によって観察することが可能であることが示された 水浸刺激によって同時に生じた心拍数の増加は交感神経の活動の上昇あるいは副交感神経の活動低下が考えられる 自律神経バランスを反映する指標であるLF/HF 比が水浸刺激中に増大する傾向があることから 水浸刺激は自律神経バランスを相対的に交感神経側に強める効果があるものと考えられる ヒトの慢性疲労患者では 心拍変動解析によって交感神経の緊張性が健常者にくらべて上昇することが知られている しかしながら 自律神経活動の全体を示すトータルパワーは低下したことから 副交感神経系の活動を中心にして自律神経活動の変動 ( ゆらぎ ) が生じにくくなっていることが示唆された 水浸刺激中には体温の上昇が認められた この反応は交感神経活動の増大による いわゆるストレス性体温上昇と推測される すなわち 交感神経活動が活発になることで筋肉 褐色脂肪組織 肝臓や心臓などの臓器の代謝が亢進し 体温上昇を招いたものと思われる 寒冷ストレスでは 心拍数の増加と一致してトータルパワーの顕著な低下が観察された 心拍数の増加は交感神経緊張の上昇と副交感神経緊張の低下によるものと推測される トータルパワーの低下は通常 心拍変動係数 (CV R-R ) の低下と連動することが多く 心拍間隔のゆらぎが小さくなっている際に現れやすい 本研究においてもそれを裏付ける結果が得られている 前述の水浸ストレスの結果と合わせて考えると ストレス環境下では心拍のゆらぎの低下と自律 101

神経活動の偏りが生じているものと考えられる 正常な範囲でのゆらぎが存在することは生体の恒常性 ( ホメオスタシス ) が保たれていることの証であり 脳機能の健全性を示すバイタルサインであることから 自律神経活動のパワーの低下や交感神経緊張と副交感神経緊張のアンバランスが長時間にわたって持続することは生体にとって望ましくない状況と思われる 適度な運動負荷は自律神経機能や血液成分に変化を与えることで 生体機能を高める方向に作用する 本研究では馬を使った実験で運動中の明瞭な自律神経活動の増加と心拍数の増加が認められ 運動終了後は速やかに元のレベルに戻ることが示された 一方 過度な運動負荷やオーバートレーニングは肉体的な慢性疲労状態をもたらし 安静時心拍数の増加や安静時の持続的な交感神経緊張亢進状態をもたらすことが知られている 本研究ではこのような状態のモデル動物を用いて実証することはできなかったが 心拍数や心拍変動解析は有益な指標になりうると思われる また 生体内に活性酸素やフリーラジカルが増加した状態が長期間にわたって持続することは炎症のような組織傷害 抗病性の低下 慢性疲労 老化の促進など生体に対して好ましくない影響を与えることが示唆されている 本研究では 馬を用いた実験で超最大運動負荷を与えた場合でも 酸化ストレスの増大と同時に抗酸化能が上昇することや 抗酸化能の上昇は運動終了後もしばらく持続することが示されたことから 健康な動物では運動による酸化ストレスが生じても速やかに消去する機能が存在することが明らかになった 価に役立つことが示唆された F. 健康危険情報なし F. 研究業績 1. 論文発表なし H. 知的所有権の取得状況 1. 特許所得なし 2. 実用新案登録なし 3. その他なし E. 結論本研究で行われた水浸刺激および寒冷刺激に対する生体反応は急性のストレス反応として捉えることができた ラットのストレス反応を心電図 体温 活動量を同時記録するテレメトリー法によって追跡することが可能であり 慢性疲労モデル動物への応用の可能性が示唆された とくに心拍変動解析におけるトータルパワーの低下は生体のストレス評価に有用である可能性が示唆された さらに 血液の酸化ストレス度を簡便な方法でモニターすることは 神経系の評価と合わせて疲労度 恒常性の維持などの評 102

図 1. 水浸刺激によるトータルパワーの変化ラットを深さ2cmの水 (22 ) を敷いたケージ内に2 時間 (13:00 15:00) 入れる刺激を3 回行った 図 2. 体温 ( 皮下温 ) の変化室温 (24 ) で飼育されているラットに48 時間の寒冷刺激 (12 ) を2 回与えた 103

図3 心拍数の変化 室温 24 で飼育されているラットに48時間の寒冷刺激 12 を2回与えた 図4 心拍数 上図 およびトータルパワー 下図 の変化 室温 24 で飼育されているラットに48時間の寒冷刺激 12 を2回与えた 104