教育実践総合センター 研究紀要 第36号

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l. 職業以外の幅広い知識 教養を身につけたいから m. 転職したいから n. 国際的な研究をしたかったから o. その他 ( 具体的に : ) 6.( 修士課程の学生への設問 ) 修士課程進学を決めた時期はいつですか a. 大学入学前 b. 学部 1 年 c. 学部 2 年 d. 学部 3 年 e

3-1. 新学習指導要領実施後の変化 新学習指導要領の実施により で言語活動が増加 新学習指導要領の実施によるでの教育活動の変化についてたずねた 新学習指導要領で提唱されている活動の中でも 増えた ( かなり増えた + 少し増えた ) との回答が最も多かったのは 言語活動 の 64.8% であった

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山口大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要第 36 号 (2013.9) 大学生の学業意欲の変化について 上田佳苗 * 恒吉徹三 On University Students' Motivation to Study and Its Vicissitudes UEDA Kanae *,TSUNEYOSHI Tetsuzo (Received August 5,2013) キーワード : 大学生 学業意欲 やる気曲線 はじめに 改めて言うまでもないが 大学教育は高校までの教育と異なっている 菱谷 (2012) が指摘しているように 大学は 学問するところ であり 学問が積み上げてきた既存の知識を正しく身につけ それを用いてより正しい答えに到達するための技を身につけるところまで行かなければ 学問に参加したことにはならない のである このような大学教育の場では 個人の学業への意欲の高さが求められている ところが 青年期後期に位置づけられる大学生には アイデンティティ形成のテーマも関わる時期であることから さまざまなきっかけで 学業への意欲は低下し 場合によっては留年や退学なども生じる このようなさまざまな学業とかかわる事象がどのような影響を学生に与えているかを理解することは 大学教育にとって課題のひとつだといえる 1. 問題と目的 溝上 (2004) は 現代の大学生は 以前と比べると 授業出席率やキャンパスライフにおける学業の位置づけが上昇しており 学生たちが教室やキャンパスから離脱するといった話はほとんどなくなったと指摘している しかし 実際には 授業に遅刻したり欠席したり 授業に出席しても講義を聞いていない学生や 一部の学生では無気力や神経症 ( スチューデント アパシーなど ) の状態にあるとして研究がなされている しかし どのような要因によって学生の意欲が影響を受けているかは十分に検討されていない 出欠管理が厳しくなるなど大学教育の方針の変化があり 授業の出席率や学業の重要度の位置づけが上昇したからといって 大学生の学業意欲が高まっているかは十分な検討が必要である 学業に対する意欲に変化がみられることが いくつかの先行研究で指摘されてきた 例えば 後藤 (2003) は 1 年生よりも2 3 年生の方が授業意欲の低下がみられたとしている また 溝上 (2004) は 授業意欲は1 年生後期 2 年生と段階を経て低下することを明らかにしている さらに 松島 尾崎 (2009) は 1 年生の時期に意欲が低下したととらえている者が多いことを明らかにしている このように 学業に対する意欲の変化がみられることは指摘されているが 具体的に1 年生から4 年生にかけてどのような変化がみられるのかは明らかになっていない また 松島 尾崎 (2009) の研究に 学業意欲の上昇 下降について大学生自身がどのような理由づけを示すのかを質問紙法を用いて検討しているが 意欲が上昇 下降した背景については明らかにされていない 以上のことから 本研究では 学生たちが1 年生から4 年生にかけてどのように意欲が変化したととらえているのかについて検討することを目的とする また 意欲の上昇 下降に注目し 意欲の変化にはどのような背景があるのかを 事例をもとに検討することを目的とする * 山口大学大学院教育学研究科学校臨床心理学専修 115

2. 研究 1 2-1 方法調査対象者 :A 大学の女子大学生 99 名調査期間 :2012 年 11 月下旬手続き : 講義の時間に質問紙を一斉配布し 回答を求めた 質問紙 :1 大学生活で重点を置いている活動に関する尺度 徳島大学 (2011) で行われた学生生活実態調査の 大学生活の意義 で尋ねられた項目を参考に 大学生活で重点を置いている活動として 豊かな人間関係 資格取得 勉強 サークルや部活 バイトや貯金 遊び という6 項目を設定した この6 項目について 重点を置いているものの順位を尋ねた 2 意欲の変化に関する尺度 大学入学時から現在までの 学業に対する意欲の度合いをグラフに書いてもらった ( 以下 やる気曲線 とする ) 意欲がまったくない状態を0 最大の状態を100とした 2-2 結果と考察 2-2-1 やる気曲線の分類臨床心理学を専攻している大学院生 2 名と教員 1 名により やる気曲線をグループ分けしたところ 8つの型に分かれた それぞれの型を 曲線の上昇と下降の特徴から命名した それぞれの型の曲線を出現頻度の高い順に示す なお 以下に図示したやる気曲線は それぞれの型の典型例として作図したものである 最初の型は やる気が一度下がり その後上がっているものであり この曲線を U 型 とした (Figure1) Figure 1 U 型 (n=43) の学年推移 次に 1 年生から4 年生にかけてやる気が下がり続けているもので この曲線を 下降型 とした (Figure2) Figure 2 下降型 (n=11) の学年推移 116

3 つ目の型は やる気が一度上がり その後下がっているもので この曲線を 山型 とした (Figure3) Figure 3 山型 (n=10) の学年推移 4つ目の型は やる気が下がって その後上がり 再び下がっているもので この曲線を 逆 N 型 とした (Figure4) Figure 4 逆 N 型 (n=9) の学年推移 5 つ目の型は やる気の上がり下がりを繰り返しているもので この曲線を 波型 とした (Figure5) Figure 5 波型 (n=8) の学年推移 117

6つ目の型は 1 年生から4 年生にかけてやる気が上がり続けているもので この曲線を 上昇型 とした (Figure6) Figure 6 上昇型 (n=7) の学年推移 7つ目の型は やる気が上がって その後下がり 再び上がっているもので この曲線を N 型 とした (Figure7) Figure 7 N 型 (n=7) の学年推移 8 つ目の型は やる気に変化がなく一直線のもので この線を 平行型 とした (Figure8) Figure 8 平行型 (n=4) の学年推移 2-2-2 大学生活での重点とやる気曲線の型についてやる気曲線の型別に 大学生活でもっとも重点を置いている活動の出現頻度を示した結果を以下に示す (Table1) 約半数が 豊かな人間関係 を重要であると位置づけていた 次に多かったのが 資格取得 であった 今回調査を依頼した大学は教育系であり 資格をとることが目的の大学であったため 資格取得 を重要だと位置づける学生が多かったと考えられる 資格をとるためには大学での勉強が欠かせないことから 本研究では 資格取得 と 勉強 は同義と考えることにする よって 今回の調査では 豊かな人間関係 118

Table 1 やる気曲線の型別の大学生活で重点を置いている活動ごとの人数 豊かな人間関係 資格取得 勉強 サークルや部活動 バイトや貯金 を重要であると位置づけている学生と 資格取得 勉強 を重要であると位置づけている学生の割合はほぼ同じという結果であった 2011 年に徳島大学で行われた学生生活実態調査の結果では 勉強や研究 を重視している学生が35% と最も多く 次に多かった 豊かな人間関係 を重視している学生は15% であった 大学の違いによる差であると考えられるが 今回調査したA 大学は 豊かな人間関係 を重視する人が多い傾向にあるという結果となった 今回の調査でもっとも出現頻度の高かったU 型について述べる U 型の学業への意欲が下降し始めた時期と 上昇し始めた時期ごとの人数を以下に示す (Table2) Table 2 U 型の下降時期 上昇時期ごとの人数 下降時期について 1 年生の内に学業への意欲が下降したと感じている学生が多かった また 上昇時期については 3 年生で上昇したと感じている学生が多かった 松島 尾崎 (2009) の学習意欲の変化についての研究で 1 年生において意欲が下降し 横断的調査では3 年生において上昇するという結果が出ており 今回の結果と一致していた 次に 他の型とは異なった特徴のある下降型について述べる 下降型では 資格取得 や 勉強 を重要だとしている学生 (n=6) の方が 豊かな人間関係 を重要だとしている学生 (n=1) よりも多いにもかかわらず 1 年生から4 年生にかけてやる気が下降している この結果から 学業を重視することは 必ずしも学業意欲を高めたり 維持できるわけではないということが示唆される 他の型では 豊かな人間関係 を重要だとしている学生が 資格取得 や 勉強 と同数か やや多かったが 下降型では少なかった 石本 倉澤 (2009) の研究で 学内友人関係における居場所感が学業意欲低下に対して抑制的な影響を与えることを明らかにしている このことを踏まえると 他の型では 豊かな人間関係を重視し 築いた人間関係に居場所感を感じており 学業意欲を高める要因の1つになっていると考えられる 大学での学業意欲を高める要因は 授業への興味 授業の内容 おもしろさだけではなく 大学での人間関係など 他の要因が関わっていると考えられる 遊び U 型 20 17 2 2 2 43 下降型 1 5 1 2 2 11 山型 3 3 4 10 逆 N 型 4 3 1 1 9 波型 5 2 1 8 上昇型 4 2 1 7 N 型 5 2 7 平行型 1 2 1 4 計 43 36 4 4 1 11 99 下降時期 上昇時期 1 年生 39 1 年生 1 2 年生 4 2 年生 17 3 年生 3 年生 24 4 年生 4 年生 1 計 3. 研究 2 3-1 目的事例研究の手法により やる気曲線の上昇下降にどのような要因が影響しているのかを検討する目的で第 2 研究を行った 119

3-2 方法 3-2-1 手続き調査対象者 :B 大学の大学生のXさん (22 歳 ) 入学してから現在までの間で 学業に対する意欲が一度大きく下がり その後上がった経験があることから協力を依頼した 調査期間 2012 年 12 月下旬 ~2013 年 1 月上旬手続き 1 回 30 分 ~1 時間の半構造化面接を行った インタビューを開始する前に インタビューの内容を研究のデータとして使うこと その際に個人は特定されないこと また インタビュー時に録音することについて説明し 了承を得た 質問に対して話したくないことがある場合には無理に話さなくても良いと教示した その後 大学入学から現在までの 学業に対する意欲の変動を線で書いてもらった 初め 書いてもらったグラフをもとに 学業に対する意欲が下がった時期や上がった時期にどのような出来事 きっかけがあったのかを 自由に話してもらった その後 あらかじめ用意した質問のうち 自由に話してもらった内容と重複していない質問をし 回答してもらった 逐語録の作成後 あいまいな点について後日再びインタビューを実施した 3-2-2 半構造化面接の質問項目半構造化面接では ひとつの質問項目を尋ねた時に 他の項目についての回答が自発的に述べられた場合 新たに質問するのではなく 協力者にそのまま回答を続けてもらった その後 回答されていない質問項目について質問する手順をとった それぞれの項目について具体的な回答が詳しく得られたところで他の質問に移る手順を取った 半構造化面接に用いた質問項目を以下に示す 1 学業へのやる気が下がってしまった出来事やきっかけはあるか 2 やる気が下がった と思う根拠は何か 3 やる気がない とはどの程度か 4やる気が下がっているとき 学業以外のことへのやる気はどうだったか 5やる気が下がっているときの気持ちはどうだったか 何か考えたりしたことはあるか 6やる気が上がった出来事やきっかけはあるか 他者からの働きかけが要因の場合 どのような働きかけがあったのか また それを受けてどのように思ったのか 7 やる気が上がった と思う根拠は何か 8やる気が下がっているとき 他者から言われて ( されて ) 嫌だったことはあるか それを受けてどのように思ったのか 9やる気が下がっている状態から やる気が上がった状態になって 何か意識して変えたこと ( 工夫など ) はあるか 3-3 結果 3-3-1 やる気曲線についてインタビューの際に書いてもらったやる気曲線を以下に示す (Figure9) Figure 9 X さんのやる気曲線 120

3-3-2 インタビュー概要ここでは Xさんのインタビュー概要について示す ただし 個人情報保護の観点から 内容の一部や表現を修正して記載している 1 年の入学時に意欲が下がっているのは 入学前に課題を課されたことから入試まではあった意欲が低下したためである 1 年前期は 最も単位を修得できた時期である 5 月にサークルを始め 自分のやりたいときに練習していた 後期になると サークルでは毎日練習するように言われて束縛感が強まる (3 年で引退するまで ) 授業に出席しても講義を聞いていないことや(2 年前期まで続いた ) 午前中の授業に出なくなるなど 学業中心の生活ではなくなった サークル活動が学業に影響するようになり それにともなって 疲れを感じるようになり サークルへの意欲は低下した (3 年後期まで続いた ) また 2 日に1 回程度のアルバイトも始めた (3 年前期まで ) この時期には サークルでの人間関係でのトラブルがあった 2 年前期には サークルに加えてアルバイトを優先させたため学業がおろそかになる 授業がないときにはサークルへ行かなければならず 束縛感は続いていたが 後輩指導への意欲はあった サークルでの人間関係は思うようにいっていなかった (3 年後期まで ) 後期になると 授業の課題が提出できなくなり 勉強どころではない気持ちであり (3 年後期まで ) 授業もさぼるようになった そのため 授業についていけず必修の単位を落とすなど 単位がまったく取れなくなった 必修科目の再履修が決まったことで 吹っ切れた 気分であり 開き直っていた 3 年前期には 授業に行かなくなった 単位は数単位だけの修得であった サークルでは 部活の運営にも関わる学年となり先輩からの圧力も感じていた 途中から さらに週に1 2 回程度のアルバイトを1つ掛け持つことにした 大学内の相談機関に相談するようになり 半期に1 回程で継続した (4 年後期まで ) 大学へ行くぐらいなら休む という気持ちであった 後期には まったく単位が修得できなかった しかし サークルの引退をきっかけにして 学業への意欲が強まった 後がない と思って 再履修の科目もあるので ( 勉強を ) やらないといけない という気持ちになっていた 4 年前期には 自分のクラスとは別のクラスで履修する科目もあり クラスメートに甘えることができず 自分でしなければならない状況であった テストを受けると 自分の理解の甘さを実感した どうしたらいいのだろう という気持ちであった 後期になると 学業のことで親とケンカになったこともあった 本気で後がないと思い焦り始めた 3-4 考察 Xさんは 勉強することが嫌になって意欲が下がったのではない 意図せず入学前に課題を課されたことや サークルやアルバイトの忙しさや サークルでの人間関係がうまくいかなくなったことに影響されて やる気曲線にも描かれているように学業意欲が下がっていた 具体的には レポート 宿題を提出していなかったり 授業も欠席していた 学業とサークル活動やアルバイトがうまく両立できず 意欲が低下していたと考えられる その後 意欲低下の一番の要因であったサークルを引退したことで やらなきゃいけない と現状を考えるようになり やる気曲線にも示されているように学業意欲が高まっていった 本気でやらなければ後がないと思い始めたり このままでは やばい という焦りも良い意味で本人を動かし 意欲を高めていた ところが 親とケンカしたことで意欲が一時的に低下していた つまり 学業意欲は 大学内の活動であるサークル活動 アルバイトといった学業以外の活動 さらに サークルの人間関係だけではなく 家族関係からも影響を受けるものだといえる 意欲の回復には 専門家の援助を継続的に得ることも含めた 本人自身の構えの変化によるものだといえる 4. 総合考察 本研究では 1 年生から4 年生にかけて学生自身がどのように意欲が変化したととらえているのかということ また 事例をもとに 意欲の変化にはどのような背景があるのかについて検討した その結果 意欲が一度下がり その後上がるというU 型の曲線の出現頻度がもっとも高かった 意欲が下降した時期は1 年生であったととらえている学生が多く 上昇した時期は3 年生であったととらえている学生が多かった 事例の検討においても 1 年生の後期から意欲が低下しており そのときの出来事としてサークルやアルバイトといった学業以外の活動が忙しくなったことや サークルでの人間関係が悪化したことを 121

挙げていた 大学生活に慣れつつある中で学業以外の活動が増え どの活動も同じようにこなせない場合に 学業への意欲が低下してしまうのではないかと考えられる また 今回の調査では 大学生活で重点を置いている活動として 豊かな人間関係 が 資格取得 や 勉強 とほぼ同数であり 重要であるととらえている学生が多かったことから 人間関係が悪化した場合においても 直接的ではないにせよ学業意欲に影響を及ぼすのではないかと考えられる 意欲上昇について 事例検討では 3 年生後期にサークルを引退したことをきっかけに やらなきゃいけない やばい などの後がないという焦りを感じ始めたことで意欲が上昇している 3 年生という時期は 進学や就職活動を控えており今後の進路について考える時期であったり 単位取得や卒業論文など卒業に向けて意識し始める時期であるので やらなければいけない という意識が学業意欲を高める要因の一つとなることが考えられる 本研究の結果から 資格取得 や 勉強 を大学生活において重要だととらえていたとしても 学業意欲が低下してしまう時期があるということが明らかとなった その要因には 単に大学での勉強における問題だけではなく 学業以外の活動も含まれるということが示唆された 今後の課題について 本研究では 研究 1において学生自身が1 年生から4 年生にかけてどのように意欲が変化したととらえているのかということを検討したが やる気曲線のみでは意欲の変化の要因や背景が詳しく検討できなかった 研究 2においてやる気曲線を用いてインタビュー調査を行い 事例をもとに意欲の変化の背景について検討したが 取り扱った事例が少ないために 今回の結果は必ずしも他の大学生にあてはまるものであるとは言えない よって インタビュー調査を重ねるなどして事例を多く取り扱うことで 大学生の意欲の変化の要因や背景を詳しく検討することが必要であろう おわりに 大学生の学びは 大学までの教育を基礎にして行われる しかし 学びのスタイルは大きな変化があり この変化に適応することが大学 1 年生の課題である そして 大学生の学業に対する意欲も一定したものではなく 4 年間にわたって変化するものである 本研究では 大学生の4 年間の学業への意欲の変化は 平坦なものでも 入学後から持続的に高いわけでも 上昇を続けるものでもない さまざまな要因で上昇や下降しながら変化するものである この曲線の違いには 学生生活で何を重視するかといったことや 大学で課される課題 アルバイトやサークル活動 家族との関係などさまざまな要因が関与していることが事例的にも示唆された 付記 本研究は 上田佳苗が山口大学教育学部に提出した卒業論文の一部に 卒業論文には取り上げなったデータを新たに加えて加筆修正し 恒吉が監修したものである インタビューの協力者 Xさんに 心より感謝致します 参考文献 国立大学法人徳島大学第 25 回学生生活実態調査報告書 http://www.tokushima-u.ac.jp/campus/life_survey/ 引用文献 刈谷剛彦 : グローバル化時代の大学論 2イギリスの大学 ニッポンの大学 カレッジ, チュートリアル, エリート教育, 中公新書ラクレ,2012. 石本雄真 倉澤知子 : 心の居場所と大学生のアパシー傾向との関連, 神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要,2(2),227-232,2009. 後藤宗理 : 大学生における進学動機 自己意識 社会意識 専攻分野間の比較, 名古屋市立大学人文社会学部研究紀要,15,1-18,2003. 122

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