米国のイラン核合意離脱と石油産業への影響(ショートコメント)

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た21 年ごろから 米国をはじめとする国際社会の経済制裁は一段と強化された 米国では 21 年に包括的イラン制裁法 (Comprehensive Iran Sanctions, Accountability and Divestment Act of 21) 211 年にはイランへの追加制裁を含む国

的に進めた欧州諸国や日本の企業に対する警告だと考えられる これは トランプ政権が本気であり どれだけアグレッシブにイランに対する制裁を履行しよう としているのかを見せつける一種の 脅し だと考えるべきである 5 月 13 日にはジョン ボルトン大統領補佐官が 欧州企業は米国の制裁に直面する可能性が

1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

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Ⅰ. 世界海運とわが国海運の輸送活動 1. 主要資源の対外依存度 わが国は エネルギー資源のほぼ全量を海外に依存し 衣食住の面で欠くことのでき ない多くの資源を輸入に頼っている わが国海運は こうした海外からの貿易物質の安定輸送に大きな役割を果たしている 石 炭 100% 原 油 99.6% 天然ガ

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2007年12月10日 初稿

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のウランを解体することであり イラン側がかなり譲歩した形となっている 両者の主な公約内容は以下の通りであり 2014 年 1 月 20 日より履行された イラン側の公約 濃度 5% を超える高濃縮ウランの製造停止 製造済みの濃縮度 20% のウランの解体 稼働する遠心分離機の種類と数量を制限 アラー

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Transcription:

ショートコメント 米国のイラン核合意離脱と 石油産業への影響 2018 年 5 月 24 日 調査部猪原渉 芦原雪絵 1

本日の報告事項 米大統領 イラン核合意からの離脱表明 再発動する制裁の概要 各国 ( イラン EU 等 ) の反応 米国の対イラン包括戦略公表 石油産業への影響 - 石油需給への影響 - イラン上流事業への影響 2

米国 JCPOA から離脱を表明 2018 年 5 月 8 日 トランプ米大統領はイラン核合意 (JCPOA) からの離脱を表明 イランに最大級の経済制裁を課す と主張 米国は JCPOA から離脱 大統領は JCPOA に関連する制裁を再開するプロセスを即座に開始するよう指示 再発動する制裁は イランの重要な経済セクター ( エネルギー 石油化学及び金融セクター ) を対象 JCPOA のもとイランビジネスを行う企業には 事業縮小期間 (wind down period) が与えられる 同時に OFAC( 財務省外国資産管理局 ) は再発動される制裁及び事業縮小期間に関するガイダンス (FAQ) 発表 5 月 8 日を起点として 90 日 (2018 年 8 月 6 日まで ) と 180 日 (2018 年 11 月 4 日まで ) の事業縮小期間を設け 期間終了時に制裁はすべて再発動し発効する 3

核問題をめぐるこれまでの経緯 年 核問題をめぐる動き 1996 年イラン制裁法 (ILSA) 制定 2002 年反体制派が建設中の核施設の存在を暴露 2005 年アフディネジャード大統領就任 2006 年 4 月 イランが3.5% ウラン濃縮を開始 2006 年国連安保理がイラン制裁採択 2009 年 1 月 オバマ大統領就任 2010 年 2 月 イランが20% ウラン濃縮に着手 6 月 国連安保理決議 7 月 米国対イラン包括制裁法 (CISADA) 制定 7 月 EU 制裁決議 ( 投資 貿易への制限 資産凍結等 ) 2011 年 12 月 米国 FY2012 国防授権法 1245 制定 2012 年 1 月 EU 制裁決議 ( イラン産原油 石油製品の禁輸 7 月より実施 ) 2 月 米国大統領令 13599 7 月 米国大統領令 13622 9 月 米国イラン脅威削減及びシリア人権法 (ITRSHRA) 制定 10 月 EU 制裁決議 ( イラン金融機関との取引禁止 ) 12 月 米国 FY2013 国防授権法 (IFCA) 制定 2013 年 8 月 ロウハニ大統領就任 11 月 イランとP5+1( 米英仏露中 + 独 ) 制裁緩和に関する暫定合意 2015 年 7 月 最終合意 2016 年 1 月 米欧がイラン制裁解除 2017 年 1 月 トランプ米大統領就任 8 月 ロウハニ大統領 2 期目就任 10 月 トランプ米大統領が核合意破棄を警告 2018 年 1 月 トランプ大統領が合意の見直しを強く要求 5 月 トランプ大統領が合意の離脱 制裁の再開を表明 4

再発動する二次制裁 事業縮小期間 90 日 ( 期限 :2018 年 8 月 6 日 ) 制裁内容 イラン政府による米ドルの購入または取得に対する制裁 金または貴金属のイランとのトレードに対する制裁 グラファイト 統合された工業プロセスで使用する原料又は半製品のアルミニウム 鉄鋼 石炭 ソフトウェアのイランとの直接又は間接の売却 供給又は移転に対する制裁 イラン リヤルの売買に関連する相当の取引又はイラン リヤルが流通するイラン領域外の相当の資金又は口座の維持に対する制裁 イラン国債の購入 発行または発行の融通に対する制裁 イランの自動車セクターに対する制裁 関係法 E.O.13622 E.O.13622 IFCA E.O.11382 CISADA IFCA E.O.13645 ISA ITRSHRA E.O.13599 CISADA IFCA E.O.13645 5

再発動する二次制裁 事業縮小期間 180 日 ( 期限 :2018 年 11 月 4 日 ) 制裁内容 1IRISL を含むイランの港湾 船舶輸送 船舶建造セクターに対する制裁 NIOC NICO NITCなどとのイランからの石油 石油製品又は石油化学製品の購入を含む石油 2 関連取引に対する制裁 非米国金融機関とイラン中央銀行又はNDAA( 国防授権法 )2012セクション1245により指定さ 3 れたイラン金融機関との取引に対する制裁 注 1 CISADAセクション104(c)(2)(E)(ii) に定めるイラン中央銀行又はイラン金融機関に対する特殊金 4 融サービスに対する制裁 IFCA 関係法 ISA CISADA ITRSHRA FY2012NDAA CISADA 5 保険 再保険に対する制裁 IFCA 6 イランのエネルギーセクターに対する制裁 (ISA セクション 5(a)) 注 2 ISA 注 1 イランから輸入する原油等の代金決済のためイラン中央銀行等と金融取引を行った外国金融機関への制裁 制裁の除外を受けるためには 金融機関の母国がイラン原油の購入量の 相当量の削減 をする必要があり 米国政府が相当量の削減を認定した場合 制裁対象から当該国が除外される トランプ政権は 相当量の削減 の定義を示していないが オバマ政権時代 (2012 年 ) に使われたパラメータ ( 約 20% 削減 ) を上回る削減を要求する可能性あり 注 2 非米国人を対象として イランの石油資源の開発 イランにおける石油精製品の生産 イランへの石油精製品の輸出 イラン国外における石油資源の開発に係るイランとのジョイントベンチャー イランにおける石油資源の開発及び石油精製品の生産への援助 イランからの石油化学製品の購入及び開発 イランからの原油の輸送 イラン由来の原油及び石油精製品を積む船舶の所有 運航及び管理などが想定 6

各国の反応 EU イランが核合意を守る限り 欧州も合意を堅持する方針 (5/15 イラン ザリフ外相と英独仏 EU 外相会談 @ ブリュッセル 5/16EU 非公式首脳会談 @ ソフィアで方針確認 ) イランビジネスを行う欧州企業 (Total エアバス等 ) の保護策を検討 欧州投資銀行 (EIB) など EU 機関による対イラン投融資 イランへのユーロ建て信用保証の提供 EU が欧州企業に第 3 国の経済制裁に従わないよう命じる ブロッキング規制 も検討 ( 96 年の米国の対キューバ制裁時に制定も発動には至らず 実効性は不明 ) 欧州各国は米国に 欧州企業を制裁対象から外すよう求めているが ボルトン米大統領補佐官は イランと取引を続ける欧州企業が制裁対象になる 可能性がある との認識を明示 7

各国の反応 中国王毅外相 核合意を維持する努力を継続 (5/13 ザリフ外相との会談 ) 反イランのイスラエル サウジ UAE は米国の核合意離脱への支持を表明 イランの反応 ロウハニ大統領は 8 日 ( 米国を除く )5 カ国と協議して核合意の目的が達成されるなら イランはとどまる と表明 一方で 必要ならば無制限にウラン濃縮活動を再開できるよう原子力庁に指示 将来的な離脱に含み ザリフ外相が 13 日以降中ロ欧を訪問し 米抜きの核合意を維持する方向で合意 ( 前述 ) 反米の保守強硬派の勢いが増す中 イラン政府は核合意の破棄には踏みこまず抑制的な対応 核開発を再開すれば トランプ大統領にイランへの軍事攻撃を含む圧力強化の口実を与えるとの懸念 < 地域情勢悪化の恐れ > イスラエルはトランプ氏の発表直後にシリア国内のイラン軍事施設へ攻撃を加えるなど イランへの対決姿勢を強める サウジが支援するイエメン暫定政権とイランが支援するフーシ派の内戦も収束の気配なし 8

米国の対イラン包括戦略の公表 ポンペオ米国務長官が対イラン包括戦略を公表 (5 月 21 日 ) ポンペオ国務長官は 21 日 包括的な対イラン戦略を公表し 歴史上最強の制裁を課す と述べた イランに対し 核開発の永続的かつ検証可能な形での放棄 ウラン濃縮の完全停止 ヒズボラ ハマス フーシ派等への支援の終結 シリアからの兵力撤退など 12 項目を要求し イランが完全に実行するまで制裁を継続 (= 米政府のイランに対する一切の妥協を認めない強硬な対決姿勢を反映 ) イランへの国際的な包囲網を構築するため 関係国に対し 米国制裁への協力を呼びかけ 9

石油産業への影響 ( 需給 市場 ) 米国の核合意離脱に伴うイランからの原油供給の減少懸念が油価にも影響 今後も市場関係者は動向を注目 現在のところ イラン産原油の主要輸入国は 中国 インド 韓国 日本 トルコ イタリア等 2017 年のイランの全輸出量 ( 約 240 万 b/d) のうちアジア 4 カ国で約 60% を占める 10

石油産業への影響 ( 需給 市場 ) トランプ政権はイラン原油の 相当量の削減 の定義について明らかにしていないが 過去最高水準の制裁 を掲げるトランプ氏が前回 (2012 年 ) の制裁時にオバマ政権が求めた 約 20% を上回る削減を各国に要求する可能性もある 2011 年 12 月の FY2012NDAA( 国防授権法 ) の成立 2012 年 1 月の EU のイラン原油禁輸決定に基づく前回の制裁時は 米国は各国に約 20% の原油輸入削減を求め これを受け入れた日本などは制裁対象から除外された イラン原油の生産量は 2011 年の 362 万 b/d から 2012 年 9 月には 268 万 b/d と 2011 年比で約 100 万 b/d 程度減少 今回の制裁でも前回同様 50~100 万 b/d の供給減少の可能性 < 参考 >FY2012NDAA 制裁関連クロニクル 2011 年 12 月 31 日 FY2012NDAA が成立 2012 年 1 月 19 日上院議員らがガイトナー財務長官に対して 相当の削減について購入額の 18% 削減として定義すべきとの書簡を発出 クリントン国務長官は 日本を含む11ヵ国がイランからの原油購入量を相当に削減したことからFY2012NDAAセクション1245の制裁対象から除外を発表 2012 年 3 月 20 日のち議会に報告 (OFACのFAQ174によれば 当該除外の決定は 国務長官が財務長官 エネルギー長官及び国家情報長官と協議し決定 ) 2012 年 6 月 20 日参議院本会議で イラン産原油輸送タンカー特措法 が可決 成立 2012 年 9 月 14 日クリントン国務長官が日本などの除外を発表 2013 年 3 月 13 日ケリー国務長官が日本などの除外を発表 2013 年 9 月 6 日ケリー国務長官が日本などの除外を発表 2013 年 11 月 24 日 P5+1 とイランは JPOA に合意 米国政府はJPOAの制裁緩和措置を実施 (6ヵ月ごと 2014 年 7 月 11 月にそれぞれ延長 さらに2015 年 7 月 14 日まで数次の延長 ) 2014 年 1 月 20 日米国政府は イランから現在原油を購入する国が現在の平均量を購入できるよう さらなる削減を求めることを停止日本 中国 インド 韓国 台湾 トルコに対するNDAA2012セクション1245の制裁に関するWaiverを発行 2015 年 7 月 14 日 P5+1 とイランは JCPOA に合意 2016 年 1 月 16 日 FY2012NDAA セクション 1245 は Waive され 以降 120 日ごとに Waiver は更新され 直近では 2018 年 1 月 12 日に更新 11

石油産業への影響 ( 需給 市場 ) 各国のイラン原油輸入量の推移 300 250 200 150 100 50 0 2017 出所 : 各種情報に基づき JOGMEC 作成 ( 輸入量はコンデンセートを含む ) 12

石油産業への影響 ( 需給 市場 ) 万 b/d 500 イランの石油生産量 2016.1 JCPOA 発効 450 2012 国際制裁による禁輸措置発動 400 350 300 250 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 出所 :EIA 資料に基づき JOGMEC 作成 ( 生産量はコンデンセートを含む ) 13

韓国は輸入削減継続の動き 14

( 参考 ) 日本のイラン原油輸入量推移 15

石油産業への影響 ( イラン上流事業 ) < 概況 > イランは生産の多くを数十年経過した成熟油田に依存しており 自然減退が進み 生産能力維持のためには増進回収技術が不可欠 2015 年 11 月のIPC 説明会 ( テヘラン サミット ) 及び欧米の経済制裁解除 (2016 年 1 月 ) 以降 イランは外資の技術 (EOR 技術等 ) 資金の導入による石油 ガス生産能力の維持 拡大を目指し 約 70 件の外資参入対象の開発案件 探鉱案件について IOC 各社との協議を実施 その間 イランはTotal 等とサウスパースフェーズ11 開発契約を締結し PertaminaとはMansuri 油田の契約が近いとされたが 今般の米国の核合意離脱 ( 制裁再開 ) により 外資各社はイランからの撤退や事業中止を検討中 技術力のある外資の撤退により長期的な生産能力の減退が続くことになれば 制裁再発動による原油輸出の大幅削減と合わせ 石油収入に依存するイラン経済にとって大きな打撃となる可能性が高い 16

対外開放対象の上流事業 上 対外開放対象の探鉱鉱区 左 対外開放対象の開発 生 産中の鉱区 油田名 開発契約締結済み 油田名 開発契約締結準備中 油田名 MOU締結案件 17

IOC との契約 交渉状況 (JCPOA 発効以降 ) 2016~2017 年の間 外資開放対象事業 ( ) について 関心を有するロシア企業 アジア NOC 欧州 IOC 等との 30 数件の MOU を締結 ( )Azadegan Yadavaran Azar Changuleh AbTeymour Yaran 等の油田開発 IPC 契約締結案件 1 サウスパースガス ( フェーズ 11) 開発契約 2017 年 7 月 NIOC は新契約方式 IPC( ) に基づく開発契約に署名 権益比率 : Total( 仏 50.1%) CNPC( 中 30%) Petropars( イラン 19.9%) 契約期間 20 年 投資規模 48 億ドル 生産量見込みは天然ガス 20 億 cf/d 2Aban 油田 WestPaydar 油田開発契約 2018 年 3 月 新契約モデルの下で Zarubezneft( 露 ) のコンソーシアムと NIOC が開発契約を締結 投資規模 7 億 5000 万ドル 同社によるイラン初参入 3Jufair 油田 Sepher 油田 Pasargad Energy( イラン ) と NIOC が IPC に基づく 24 億ドル規模の開発契約を締結 18

IOC との契約 交渉状況 (JCPOA 発効以降 ) 近く契約締結見込みとされた案件 Mansuri 油田開発契約 Pertamina( インドネシア ) は以前 本年 5 月頃に契約締結の見通しとしていた 石油生産量を 6 万 b/d から 25 万 b/d に引き上げる計画 同社 80% 現地パートナー 20% の権益比率 インドネシアの新規製油所向に出荷予定 ( )IPC (Iran Petroleum Contract): 従来のバイバック契約に代わり 2016 年以降新たに導入されたイラン石油ガス開発契約の新方式 契約期間の長期化やコスト回収の上限撤廃 柔軟な報酬設定等 IOC に対する様々なインセンティブを設定 19

IOC 各社はイラン事業から撤退へ Total 5 月 16 日 仏及び EU 当局の協力の下 米国の経済制裁から免除されない限り 事業縮小期限の 11 月 4 日までにサウスパース事業から撤退 と表明 イランのザンギャネ石油相は Total 撤退時は 契約に基づき Total の権益は CNPC に譲渡される もし同社も撤退の場合は Petropars のみが残る と表明 Eni 2017 年 6 月 Kish 沖合油田及び Darquain 油田の開発スタディに係る覚書を締結し その後スタディを実施 5 月 13 日 Descalzi CEO は CNBC のインタビューで 同社のイラン投資への関心を否定し 米国の再制裁により 投資意思決定が困難になった旨表明 Pertamina 5 月 10 日 同社上流部門幹部は 米国を含む海外金融機関との資金調達契約の維持が重要 と述べ Mansuri 油田開発契約の締結中止を示唆 このような状況下にもかかわらず 5 月 16 日 英国企業他全 11 社からなる Pergas コンソーシアムと NISOC が Karanj 油田開発にかかる契約 (Heads of Agreement) を締結することで合意したとの報道 米国制裁への対応は明らかになっていない 2012 年以降の制裁強化時もイランに残った中国勢 (CNPC Sinopec) やイランとの関係が深いロシア勢は残留の可能性があるが 外資は概ね撤退の方向 イラン上流開発は今後長期に亘り停滞する恐れ 20