キャリア開発ラダーと連動したマネジメントラダーの作成と育成 支援体制の構築 ~ コンフリクトをビジョンに変換し, 生き生きと活躍する看護管理者へ 当院における看護管理者育成の概要 医療の高度化, 複雑化, 多様化に加え, 医療財源の逼迫という環境の変化を受け, 看護管理者には看護サービスの質の向上や病院経営, 運営への参画, 労働安全衛生活動の推進といった高い管理能力が求められている 当院では, 団塊世代の退職以降も看護管理者の定年退職などにより, 看護師長, 副看護師長の年齢構成が若年化している そのため, 看護師長, 副看護師長の管理経験の格差から, 役割遂行能力, 問題解決能力に差が生じている また, 看護管理実践における患者 家族との関係や上司 部下との関係, 他職種 他部門との交渉におけるコンフリクトに疲弊している現状がある 看護部における看護管理者育成は, 日本看護協会の 認定看護管理者教育課程 の受講が主体となっており, 院内での体系的な教育は実施していない そこで, 看護管理者の育成 支援体制を再考し, 看護管理者がビジョンを持ち看護管理実践に取り組めるよう, 新たな育成 支援体制の構築に取り組んだ ファーストレベル, セカンドレベル研修修了後のフォロー体制の構築 当院の看護職員は 894 人 (2018 年 8 月 広島大学病院看護部副看護部長 / 認定看護管理者佐藤陽子 広島大学医学部附属看護学校卒業後,1988 年広島大学病院入職 広島大学病院, 筑波大学附属病院での勤務を経て,2013 年より現職 広島大学大学院社会科学研究科博士課程後期満期退学, 修士 ( マネジメント ) 時点 ) で, そのうち看護管理者は看護部長 1 人, 副看護部長 5 人, 主任看護師長 2 人, 看護師長 31 人, 副看護師長 87 人である 認定看護管理者は8 人, ファーストレベル修了者 77 人, セカンドレベル修了者 43 人であり, 副看護師長の93% がファーストレベルを修了し, 看護師長の97% がセカンドレベルを修了している 研修修了直後は, 研修で学んだ知識を臨床に応用すべく, 意欲的に実践課題に取り組んでいるが, 時間の経過と共に日常業務に追われ, モチベーションを維持することが困難な状況があった そのため, 修了生が実践課題を継続して追求できるよう, 活動時間の確保や成果報告の機会の提供, 活動成果の共有など, 組織的に活動を支援できる体制を構築することが課題であった そこで, 活動支援の一環として, 副看護師長を対象に院内研修として問題解決演習を企画し, 所属する看護単位における自分の実践課題について, 演習形式で意見交換 情報共有し, 年度末に成果を発表する場を設けることとした 看護師長研修としては, コンフリクトマネジメントやメンタルヘルス, 診療報酬や財務数字の基礎知識などの看護単位の運営に必要な知識に加え,2016 年度より看護管理者のコンピテンシー モデルに関する研修 ( 年 4 回 ) を開催 ( 翌年度からは副看護師長へも拡大 ) 11
し,2018 年度も継続している 副看護師長対象の問題解決演習は, 副看護師長間での意見交換 情報共有の機会となったこと, 看護師長の支援を得ながら実践課題に取り組めたことから, アンケート結果では参加者の95% から満足度 活用度において肯定的な評価を得ることができた 特に 自分の課題への取り組みや業務改善, スタッフ指導に生かせる など, 他の副看護師長の取り組みからの学びも大きかったことがうかがえた また, コンピテンシー研修は, 個々の看護師長 副看護師長の実践事例から, その中で発揮されているコンピテンシーについてグループワークで評価を行い, コンピテンシーの定義や水準の理解を深めている 他の看護師長 副看護師長の取り組みや自分の取り組みについてさまざまな角度から意見交換 情報共有ができる機会となって おり, 看護管理実践や人材育成, 特に看護師長においては, 副看護師長の育成や活動支援に積極的に取り組むきっかけとなっていた 当院は, 目標管理を導入していることから, 副看護師長や看護師長の個人面談の際に研修での取り組みについても情報共有ができ, 目標達成に向けた支援につながることを期待している キャリア開発ラダーと連動したマネジメントラダーの作成と運用 当院のキャリアパス ( 図 1) では, 看護管理者コースを選択する者は, キャリア開発ラダーレベルⅣから 認定看護管理者教育課程 の受講申請ができることになっている そのため, レベルⅣ Ⅴ 認定者から申請できるマネジメントラダーの作成に取り組んだ 2014 年度より, ラダーの段階 12
と領域 ( 枠組み ), 到達目標および領域ごとの項目の検討などを開始した 検討に当たり, 広島大学職員能力要件に基づく看護師能力要件, 他院で運用されているマネジメントラダーやコンピテンシー評価などを参考に評価項目を整理した マネジメントラダーの領域は, 当院の看護管理者に必要とされる中核的な看護管理業務内容と, その業務を遂行する上で必要な能力 ( コンピテンシー ) を明文化し, 最終的に 組織運営管理 看護の質管理 人間関係 キャリア開発 の4 領域に決定した ラダーの段階については, マネジメントラダーレベルⅠ Ⅱを副看護師長, レベルⅢ Ⅳを看護師長, レベルⅤを副看護部長, レベルⅥを看護部長とし, それぞれの到達目標を設定した ( 表 1) 2015 年度は, その内容の精緻化と運用方法について検討し,2016 年度より運用を開始した 申請から認定までの手続きは表 2のとおりである 2016 年度は対象者の93%(116 人 ) が申請し, 現在までの認定状況は図 2のとおりである キャリア開発ラダー Ⅴ 認定者が少ないのは,2016 年 5 月の看護師のクリニカルラダー ( 日本看護協会版 ) 1) の公表を受け, 従来運用していたクリニカルラダー (Ⅳ 段階 ) を2017 年度よりキャリア開発ラダー (Ⅴ 段階 ) に改定して運用を開始したためである 新たに設けたレベルⅤは新規申請としたことと, マネジメントラダー申請者はキャリア開発ラダー申請の対象から除外したことから, このような結果となっている マネジメントラダー申請用評価表 ( 資料 1) には, 領域ごとに関連するコンピテンシーを記載しており, 評価の際は4 領域ごとに設定している行動目標を4 段階評価 ( 自己評価 他者評価 ) するようにしている しかし, 評価表だけでは客観的評価が難しいため, 面接評価の際にコンピテンシー評価シートを用いて, 自分の実践事例を紹介しながら, 自己評価の根拠を述べ, 第 1 評価, 第 2 評価と複数人が評価することで客観性を保つようにしている 看護師長のコンピテンシー評価 当院では, 職員のモチベーションの向上, 組織の活性化などを図ることを目的に, 年 2 回 (9 月 2 月 ), 人事考課を実施している その際, 評価に使用しているシートは広島大学職員能力要件評価シート ( 能力 成長シート ) であり,1 新人 レベルⅠ 評価シート,2レベルⅡ Ⅲ 評価シート,3レベルⅣ Ⅴ 評価シート,4 副看護師長評価シート,5 看護師長以上用評価シートの5 種類を使用していた しかし, マネジメントラダーの作成に当たり, 副看護師長以上の看護管理者にはコンピテンシーの評価を導入することを検討していたため, マネジメントラダーと並行して, 能力 成長シートの内容を再構築することとなった コンピテンシーの検討に当たり, 広島大学 2) 職員能力要件に加え, 虎の門病院看護部や東京大学医学部附属病院看護部と東京大 3) 学医科学研究所附属病院看護部が開発した看護管理者のコンピテンシー モデル, スペンサーらのコンピテンシー ディクショナリー 4) などを参考にした そして最終的に, スペンサーらの6クラスター 20コンピテンシーを用いることとした 各コンピテンシーについて, 定義と5 段階の評価水準を明文化し, 看護管理者としてどの水準にあるか, 評価者と被評価者が 13
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共通理解を持つことができ, 客観的な評価ができるようにした また, 従来の能力 成長シートに準じて, 副看護師長を対象とした能力要件と看護師長 主任看護師長 副看護部長 看護部長を対象とした能力要件の2 種類のコンピテンシー モデルを作成した 評価基準は, 従来は4 段階評価であったが,5 段階評価に変更し, 各職位に求められる基準を分かりやすくすると共に, 人事考課シートとして活用するため, 各コンピテンシーの評価を点数で表示し, 上半期 下半期の評定に利用できるようにした ( 資料 2) 評価方法は, マネジメントラダーと同様に, 自己評価, 一次評価, 二次評価を行うが, 評価するコンピテンシーを発揮できた ( 発揮できなかった ) 事例を述べ, その実践がどの評価水準に当たるかを確認しながら行っている 評価を通して, 被評価者自身がどのような行動 思考ができれば評価水準が上がるのかイメージできるようになり, 次期に向けたビジョンにつながることを期待している 16
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このコンピテンシー評価は, マネジメントラダーと同様に2016 年度から運用を開始している マネジメントラダー評価は, 申請年に評価を行うため毎年行うことはないが, コンピテンシー評価は毎年実施することから, マネジメントラダーの4 領域の実践に関する評価を併せて行えるため, 次の申請に向けた動機づけにつながると考える 今後の課題 看護管理者の育成 支援体制の構築に向け, 認定看護管理者教育課程修了後も継続して自分の実践課題に取り組めるよう, フォロー体制の一環として行った院内研修の実施, 能力指標であるマネジメントラダーの作成, コンピテンシー評価の導入について, その経緯および現時点での効果を述べた 看護管理者として成果を上げるためには, 何をすべきか を考えると同時に, どのようにするか を考え, 行動することが重要となる しかし, 実践において避けることができないのがコンフリクトである 研修を通して他の看護管理者の実践から得た学びは, 問題を認識し, 積極的に解決へ向けた行動を取るためのヒントと なり, 新たな取り組みへのきっかけになっていると考える 今後は, 看護管理者が直面した課題のみならず, 中長期的な視点で管理ビジョンを描き, 意欲的に実践できるよう支援することが課題である 具体的には, 対象者の学習ニーズ, 組織の教育ニーズを踏まえ, 知識の提供ばかりでなく, 行動力 発信力につながるよう看護管理者間で組織マネジメントの課題について議論する機会を設けるなど, さまざまな形態での看護管理者育成の場を提供することが必要と考える これらについて継続して取り組み, 評価しながら, コンフリクトをビジョンに変換し, 生き生きと活躍する看護管理者の育成に向けた体制を構築していきたい 20