日本基準基礎講座 収益

Similar documents
IFRS基礎講座 IAS第11号/18号 収益

収益認識に関する会計基準

平成30年公認会計士試験

平成28年度 第143回 日商簿記検定 1級 会計学 解説

スライド 1

(1) 契約の識別契約の識別にあたって 厳密な法律上の解釈まで必要とするのか あるいは過去の商慣習等で双方の履行が合理的に期待される程度の確認で済むのかが論点となります 基本的に新しい収益認識基準では 原則として法的な権利義務関係の存在を前提とします また 業界によっては 長年の取引慣行のみで双方が

経理事務3章-修3.indd

03-08_会計監査(収益認識に関するインダストリー別③)小売業-ポイント制度、商品券

日本基準基礎講座 有形固定資産

3. 改正の内容 法人税における収益認識等について 収益認識時の価額及び収益の認識時期について法令上明確化される 返品調整引当金制度及び延払基準 ( 長期割賦販売等 ) が廃止となる 内容改正前改正後 収益認識時の価額をそれぞれ以下とする ( 資産の販売若しくは譲渡時の価額 ) 原則として資産の引渡

IFRS基礎講座 IAS第12号 法人所得税

(10) 顧客による検収 80 (11) 返品権付きの販売 工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱い 重要性等に関する代替的な取扱い 91 (1) 契約変更 91 (2) 履行義務の識別 92 (3) 一定の期間にわたり充足される履行義務 94 (4) 一時点で充足される履

1 本会計基準等の概要以下の概要は 本会計基準等の内容を要約したものです 本会計基準等の理解のために 本会計基準等の基本となる原則である収益を認識するための 5 つのステップについて 別紙 1 に取引例及びフローを含めた説明を示しています また 本会計基準等と従来の日本基準又は日本基準における実務と

IFRS基礎講座 IAS第21号 外貨換算

できる 105. 前項の取扱いを適用する場合には 次の事項を注記する (1) その旨及び決算月に実施した計量の日から決算日までに生じた収益の見積りが極めて困難と認められる理由 (2) 当連結会計年度及び当事業年度の決算月の翌月に実施した計量により確認した使用量に基づく収益の額 ( この収益の額が 決

ならないとされている (IFRS 第 15 号第 8 項 ) 4. 顧客との契約の一部が IFRS 第 15 号の範囲に含まれ 一部が他の基準の範囲に含まれる場合については 取引価格の測定に関する要求事項を設けている (IFRS 第 15 号第 7 項 ) ( 意見募集文書に寄せられた意見 ) 5.

貸借対照表 ( 平成 25 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 科目金額科目金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 14,146,891 流動負債 10,030,277 現金及び預金 2,491,769 買 掛 金 7,290,606 売 掛 金 9,256,869 リ

このため 法人税法の取扱いでは 収益の計上時期について各法人の任意の取扱いに委ねるのではなく 課税の公平の観点からこれを統一的に取扱うこととしている すなわち 法人が商品等を販売した場合には それによる収益は商品等の 引渡しがあった日 に収益に計上することとしている つまり 商品等の買主への引渡しと

(10) 顧客による検収 80 (11) 返品権付きの販売 工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱い 重要性等に関する代替的な取扱い 92 (1) 契約変更 92 (2) 履行義務の識別 93 (3) 一定の期間にわたり充足される履行義務 95 (4) 一時点で充足される履

Microsoft Word - 決箊喬å‚−表紎_18年度(第26æœ�ï¼›

NTT テクノクロス株式会社 自平成 30 年 4 月 1 日 至 平成 31 年 3 月 31 日

日本基準基礎講座 資本会計

質問 2 財務諸表作成者の実務負荷及び監査人の監査負荷を必要以上に増大させる契約の分割には反対である その理由は以下のとおりである 当初の取引価格算定時点においては 契約の分割と履行義務の識別という2 段階のステップを経ずとも 履行義務の識別が適正になされれば適正な取引価格が算定可能である 契約の分

貸借対照表 平成 29 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 百万円 ) 資産の部 負債の部 流動資産 13,610 流動負債 5,084 現金 預金 349 買掛金 3,110 売掛金 6,045 短期借入金 60 有価証券 4,700 未払金 498 商品 仕掛品 862 未払費用 254 前

第 29 期決算公告 平成 26 年 4 月 1 日 平成 27 年 3 月 31 日 計算書類 1 貸借対照表 2 損益計算書 3 個別注記表 中部テレコミュニケーション株式会社

<4D F736F F D208CDA8B7182C682CC8C5F96F182A982E790B682B682E98EFB897682C98AD682B782E9985F935F82CC90AE979D2E646F6378>

IFRS基礎講座 IAS第37号 引当金、偶発負債及び偶発資産

<4D F736F F D20834F838D815B836F838B8F5A94CC81408C768E5A8F9197DE E718CF68D90817A E36>

第150回日商簿記2級 第1問 仕訳問題類題 解答・解説

「資産除去債務に関する会計基準(案)」及び

売上減少か?-「収益認識に関する論点の整理」

[ 設例 11] 返品権付きの販売 [ 設例 12] 価格の引下げ [ 設例 12-1] 変動対価の見積りが制限されない場合 [ 設例 12-2] 変動対価の見積りが制限される場合 [ 設例 13] 数量値引きの見積り 7. 顧客に支払われる対価 [ 設例 14] 顧客に支払われる対価 8. 履行義

第11期決算公告

リリース

平成 26 年 5 月に 顧客との契約から生じる収益 (IASB においては IFRS 第 15 号 ( 平成 30 年 1 月 1 日 以後開始事業年度から適用 ) FASB においては Topic606( 平成 29 年 12 月 15 日後開始事業年度から適 用 )) を公表しました これらの

営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

IFRS基礎講座 IFRS第1号 初度適用

計算書類 貸 損 借益 対計 照算 表書 株主資本等変動計算書 個 別 注 記 表 自 : 年 4 月 1 日 至 : 年 3 月 3 1 日 株式会社ウイン インターナショナル

平成26年度 第138回 日商簿記検定 1級 会計学 解説

第28期貸借対照表

<4D F736F F D2081A F838D815B836F838B8F5A94CC81408C768E5A8F9197DE8B7982D1958D91AE96BE8DD78F F

IFRS_14_03_12_02const.indd

Microsoft Word - 不動産ファンドに関する国際財務報告基準 第6回.doc

2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

第6期決算公告

日本基準基礎講座 退職給付

財剎諸表 (1).xlsx

Microsoft Word - 6回引当金.doc

6. データ集 2) 国内金融事業 1 日本保証 主要残高 貸借対照表 日本基準に基づく単体数値 ( 連結調整前 ) で作成しています ( 単位 : 百万円 ) 2015/ / / / / / /03 (a) 現金及び預金 1,

第4期 決算報告書

( 注 ) 役務の提供を受ける者の本店又は主たる事務所が日本にあれば課税 ということですので 国内に本店がある法人の海外支店に対して インターネットを介してソフトウェア等を提供した場合は 提供者が国内 国外いずれの事業者であっても国内取引に該当し消費税が課税されます ( 国税庁作成の 国境を越えた役

第4期電子公告(東京)

改正消費税法の実施に先立ち施行日をまたぐ取引の適用税率と経過措置の再確認(その1)

貸借対照表 平成 28 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 千円 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 資産の部 負債の部 流動資産 (63,628,517) 流動負債 (72,772,267) 現金及び預金 33,016,731 買掛金 379,893 売掛金 426,495 未払金 38,59

平成 22 年 4 月 1 日現在の法令等に準拠 UP!Consulting Up Newsletter 無対価での会社分割 バックナンバーは 当事務所のホームページで参照できます 1

Ⅰ 事業報告

第9期決算公告 平成27年6月15日

精算表 精算表とは 決算日に 総勘定元帳から各勘定の残高を集計した上で それらに修正すべき処理 ( 決算整理仕訳 ) の内 容を記入し 確定した各勘定の金額を貸借対照表と損益計算書の欄に移していく一覧表です 期末商品棚卸高 20 円 現金 繰越商品 資本金 2

野村アセットマネジメント株式会社 平成30年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

野村アセットマネジメント株式会社 2019年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

Microsoft Word 【公表】HP_T-BS・PL-H30年度

計算書類等

IT 導入補助金 2019 IT ツール登録についての注意点 2019 年 5 月 13 日 IT 導入補助金事務局

Taro-入門ⅠA-2019.jtd

第21期(2019年3月期) 決算公告

新収益認識基準に関するFASB及びIASBの改訂案

第10期

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

Microsoft Word - 07 資料_3_-4.doc

平成 30 年 4 月 24 日 各 位 会社名楽天株式会社 代表者名代表取締役会長兼社長三木谷浩史 ( コード :4755 東証第一部 ) 連結子会社 ( 楽天証券株式会社 ) の決算について 当社連結子会社の楽天証券株式会社 ( 代表取締役社長 : 楠雄治 本社 : 東京都世田谷区 以下 楽天証

IFRSへの移行に関する開示

新旧対照表(計算書類及び連結計算書類)

図 1図 1 期間損益 (P/L) (1) 発生費用 (2) 期間費用 期間収益 収益獲得の 財貨 用役の 選択 ための犠牲 費消 (80 個分の費用 ) 因果関係 (100 個製造 ) 発生主義 費用収益対応の原則 当期の収益 ( 成果 ) (80 個販売 ) 実現主義 当期に発生した発生費用 (

平成18年度注記事項

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

Microsoft Word - M&A会計 日本基準とIFRS 第5回.doc

収益論点整理

営業報告書

TAC2017.indb

ことも認められています 施行日前 ( 平成 26 年 3 月 31 日以前 ) にリース契約を締結し リース資産の引渡しを行ったリース取引についてこの特例により賃貸借処理を行っている場合には 旧税率の 5% が適用されます 3. 資産の貸付け に関する経過措置指定日の前日 ( 平成 25 年 9 月

第1章 財務諸表

(2) サマリー情報 1 ページ 1. 平成 29 年 3 月期の連結業績 ( 平成 28 年 4 月 1 日 ~ 平成 29 年 3 月 31 日 ) (2) 連結財政状態 訂正前 総資産 純資産 自己資本比率 1 株当たり純資産 百万円 百万円 % 円銭 29 年 3 月期 2,699 1,23

Taro-class3(for.st).jtd

開発にあたっての基本的な方針 97 Ⅰ. 範囲 102 Ⅱ. 用語の定義 110 Ⅲ. 会計処理等 114 (IFRS 第 15 号の定め及び結論の根拠を基礎としたもの ) 基本となる原則 収益の認識基準 117 (1) 契約の識別 117 (2) 契約の結合 121 (

本実務対応報告の概要 以下の概要は 本実務対応報告の内容を要約したものです 範囲 ( 本実務対応報告第 3 項 ) 本実務対応報告は 資金決済法に規定する仮想通貨を対象とする ただし 自己 ( 自己の関係会社を含む ) の発行した資金決済法に規定する仮想通貨は除く 仮想通貨交換業者又はが保有する仮想


第27期決算公告_賃借対照表・損益計算書

連結貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 ( 平成 29 年 3 月 31 日 ) 資産の部 流動資産 現金及び預金 7,156 受取手形及び売掛金 11,478 商品及び製品 49,208 仕掛品 590 原材料及び貯蔵品 1,329 繰延税金資産 4,270 その他 8,476

平成 29 年度連結計算書類 計算書類 ( 平成 29 年 4 月 1 日から平成 30 年 3 月 31 日まで ) 連結計算書類 連結財政状態計算書 53 連結損益計算書 54 連結包括利益計算書 ( ご参考 ) 55 連結持分変動計算書 56 計算書類 貸借対照表 57 損益計算書 58 株主

1. 本研究報告の目的多くの企業では 取引の開始から記録 処理 報告に至るまでの手続や財務諸表に含まれるその他の財務情報の作成過程にITが利用されている 本研究報告は IT の利用の促進に伴い重要性が増している業務処理統制を含んだ業務プロセスについて 財務諸表監査におけるリスク評価手続及びリスク対応

貸借対照表 (2018 年 3 月 31 日現在 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) Ⅰ. 流動資産 8,741,419 千円 Ⅰ. 流動負債 4,074,330 千円 現 金 預 金 5,219,065 未 払 金 892,347 受 取 手 形 3,670 短

各位 2018 年 11 月 13 日 会社名株式会社リクルートホールディングス代表者名代表取締役社長兼 CEO 峰岸真澄 ( コード番号 :6098 東証一部 ) 問合せ先取締役兼専務執行役員兼 CFO 佐川恵一 ( 電話番号 ) ( 訂正 数値データ訂正 ) 2019 年

<4D F736F F D F816992F990B C B835E92F990B3816A E31328C8E8AFA208C888E5A925A904D816B93F

総合課税の譲渡所得の入力編

総合課税の譲渡所得の入力編

< D AC48DB C88B BE2836C C888E5A8F B835E2E786C73>

PowerPoint プレゼンテーション

untitled

第 14 期 ( 平成 30 年 3 月期 ) 決算公告 平成 30 年 6 月 21 日 東京都港区白金一丁目 17 番 3 号 NBF プラチナタワー サクサ株式会社 代表取締役社長 磯野文久

Transcription:

日本基準基礎講座 収益 のモジュールを始めます

パート 1 では 収益の定義や収益認識の考え方を中心に解説します

パート 2 では ソフトウェア取引および工事契約に係る収益認識について解説します

日本基準上 収益 という用語は特に定義されていませんが 一般に 純利益または非支配持分に帰属する損益を増加させる項目であり 原則として 資産の増加や負債の減少を伴って生じるものと考えられます 収益の例としては 売上があげられます 売上の対価として売掛金を認識する場合 売上により純利益が増加し 売掛金により資産が増加します

収益は 原則として 実現主義により認識します 実現主義とは 一般に 財貨の移転または役務の提供と それに対する現金または現金等価物 その他の資産の取得による対価の成立という 2 つの要件が満たされたときに 収益を認識するという考え方をいいます このような考え方に基づき 実務上 商品の販売等にかかる収益は 一般に 出荷基準 引渡基準 または検収基準により認識されています また 役務の提供にかかる収益は 役務提供の進捗に応じて または 役務提供の完了時点で認識されています

日本基準には 委託販売 試用販売 予約販売 割賦販売といった特殊な販売契約に関して 収益認識の定めがあります

委託販売では 会社が受託者に対し商品等の販売を委託しますが その時点でただちに収益を認識することは認められません 委託販売については 受託者が委託品を販売した日に売上が実現するため 原則として 受託者が委託品を販売した日に収益を認識します 会社は 受託者から会社に仕切精算書が到達すること等により 委託品が販売された事実を知ることになります 決算手続中に 決算日までに販売された事実が明らかとなったものについては 販売した日が属する期の収益として認識しなければなりません ただし 例外として 仕切精算書が販売のつど送付されている場合には 仕切精算書が到達した日に収益を認識することができます

試用販売については 商品等を移転した時点でただちに収益を認識することは認められません 試用販売では 得意先が商品等を試用した結果 買取りの意思を表示した日に売上が実現するため 得意先が買取りの意思を表示した日に収益を認識します

予約販売については 企業は商品を顧客に移転するよりも先に予約金を受け取りますが その時点でただちに収益を認識することは認められません 予約金に対し 商品の移転または役務の提供が完了した分だけ売上が実現するため 決算日までに商品の移転または役務の提供が完了した分だけを その期の収益として認識します

割賦販売については 商品等の引渡日に売上が実現するため 商品等の引渡日に収益を認識します ただし 割賦販売の場合は 通常の販売とは異なり 代金回収の期間が長期にわたり かつ 分割払いであることから 代金回収上のリスクが高く 貸倒引当金等の計上にあたって特別の配慮が必要になりますが その算定にあたっては 不確実性や煩雑さを伴う場合が多いと考えられます そのため 割賦金の回収期限到来日または入金日に収益を認識することも認められます

ソフトウェア取引には 市場販売目的のソフトウェア取引と 受注制作のソフトウェア取引があります 市場販売目的のソフトウェア取引は 不特定多数のユーザー向けに開発されたソフトウェアの販売やライセンスの販売で 仕様がすでに確定しているという特徴があり 一般に 納品が完了した時点で収益を認識します 他方 受注制作のソフトウェア取引は 特定のユーザー向けにソフトウェアを制作し提供する取引であり オーダーメイドであることから 仕様は確定していないという特徴があり 一般に納品が完了し これに対して得意先が検収等を完了した時点で収益を認識します なお 受注制作のソフトウェア取引に買戻条件が付いている場合や 事後に大きな補修が生じることが明らかである場合には 売上が実現したとはいえないため 収益を認識することは認められません

異なる種類の取引を同一の契約書等で締結している取引を 複合取引といいます 例えば 引渡日に売上が実現すると考えられるソフトウェアの販売と 役務の提供に応じて売上が実現すると考えられる 2 年間の保守サービスの提供を 同一の契約書で締結した場合のように 複合取引に含まれている取引の種類ごとの収益認識時点が異なる場合があります

複合取引のうち 管理上の適切な区分に基づき 財貨またはサービスの内容や金額の内訳が 顧客との間で明らかにされている場合には 原則としてそれらを区分し それぞれの取引に関連する収益認識基準に従って 収益を認識します ただし すべての顧客に均一に提供されるような無償のユーザー トレーニング サービスのように 一方の取引が他方の主たる取引に付随して提供されるものである場合には 付随する取引を主たる取引と一体として収益認識することも認められます

複数の企業が介在するソフトウェア取引においては 収益を総額表示することが必ずしも適切ではないケースがあります 例えば 企業が取引先 A 社から 100 で取得した商品を 取引先 B 社に 105 で譲渡する取引を行ったとします 企業が この取引に関する瑕疵担保リスク 在庫リスク 信用リスクなど 一連の営業過程における仕入および販売に関して通常負担すべきさまざまなリスクを負担する場合は 収益を総額表示することが適切です 他方 企業が取引の代理人として そのようなリスクを負担せず 手数料収入のみを得ることを目的としている場合は 収益を純額で表示することが適切です

工事契約に係る認識の単位は 工事契約において当事者間で合意された実質的な取引の単位に基づくこととされています 一般に 工事契約については 契約単位で工事収益と工事原価を認識します ただし 契約書が当事者間で合意された実質的な取引の単位を適切に反映していない場合には 複数の契約を結合した単位で工事収益および工事原価を認識したり 工事契約の取引の一部を独立した単位として工事収益および工事原価を認識したりする必要があります

工事契約に係る収益認識基準には 工事完成基準と工事進行基準があります 工事完成基準とは 工事が完成し 目的物の引渡しを行った時点で 工事収益および工事原価を認識する方法をいいます 工事進行基準とは 決算日に 工事進捗度を合理的に見積り 当期の工事収益および当期の工事原価を認識する方法をいいます

例えば 当期にある工事に着工し その工事の工事収益総額が 15,000 工事原価総額が 10,000 と見積もられるとします 決算日までに発生した工事原価が 3,000 である場合 進捗度の代表的な見積方法である原価比例法によると この場合の工事進捗度は 30% となります その結果 当期の工事収益は 15,000 30% で 4,500 と計算されます

工事契約について適用する認識基準は 工事の進行途上において その進捗部分について成果の確実性が認められるか否かによって異なります 成果の確実性が認められる場合は工事進行基準を 成果の確実性が認められない場合は工事完成基準を適用します 成果の確実性が認められるかは 工事収益総額 工事原価総額 および決算日における工事進捗度について 信頼性をもって見積りを行うことができるかにより判断します 工事収益総額を信頼性をもって見積るためには 工事の完成見込みが確実で 工事の対価の定めがあることが必要になります 工事原価総額を信頼性をもって見積もるためには 工事原価の事前の見積りと実績とを対比することにより 工事原価総額の見積りについて適時 適切に見直しが行われることが必要です 決算日における工事進捗度としては 原価比例法を採用する場合は 工事原価総額を信頼性をもって見積ることができるのであれば 通常 工事進捗度を信頼性をもって見積もることができると判断されます これで収益の解説を終わります