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2018 年 8 月 10 日 各 位 上場会社名 エムスリー株式会社 ( コード番号 :2413 東証第一部 ) ( ) 本社所在地 東京都港区赤坂一丁目 11 番 44 号 赤坂インターシティ 代表者 代表取締役 谷村格 問合せ先 取締役 辻高宏

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平成 29 年度連結計算書類 計算書類 ( 平成 29 年 4 月 1 日から平成 30 年 3 月 31 日まで ) 連結計算書類 連結財政状態計算書 53 連結損益計算書 54 連結包括利益計算書 ( ご参考 ) 55 連結持分変動計算書 56 計算書類 貸借対照表 57 損益計算書 58 株主

参考 企業会計基準第 25 号 ( 平成 22 年 6 月 ) からの改正点 平成 24 年 6 月 29 日 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 の設例 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 平成 22 年 6 月 30 日 ) の設例を次のように改正

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営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

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ならないとされている (IFRS 第 15 号第 8 項 ) 4. 顧客との契約の一部が IFRS 第 15 号の範囲に含まれ 一部が他の基準の範囲に含まれる場合については 取引価格の測定に関する要求事項を設けている (IFRS 第 15 号第 7 項 ) ( 意見募集文書に寄せられた意見 ) 5.

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2020 年 3 月期第 1 四半期決算短信 IFRS ( 連結 ) 2019 年 7 月 31 日 上場会社名 アイシン精機株式会社 上場取引所東名 コード番号 7259 URL 代表者 ( 役職名 ) 取締役社長 ( 氏名 ) 伊勢清貴 問合せ先

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コニカミノルタ ( 株 ) (4902) 2019 年 3 月期決算短 4. 連結財務諸表及び主な注記 (1) 連結財政状態計算書 資産 流動資産 前連結会計年度 (2018 年 3 月 31 日 ) ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 (2019 年 3 月 31 日 ) 現金及び現金同等物

貸借対照表 (2019 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 科目 金額 科目 金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 3,784,729 流動負債 244,841 現金及び預金 3,621,845 リース債務 94,106 前払費用 156,652 未払金 18,745

2019 年 3 月期第 3 四半期決算短信 IFRS ( 連結 ) 2019 年 2 月 1 日 上場会社名アイシン精機株式会社上場取引所東名 コード番号 7259 URL 代表者 ( 役職名 ) 取締役社長 ( 氏名 ) 伊勢清貴 問合せ先責任者

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3. その他 (1) 期中における重要な子会社の異動 ( 連結範囲の変更を伴う特定子会社の異動 ) 無 (2) 会計方針の変更 会計上の見積りの変更 修正再表示 1 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 無 2 1 以外の会計方針の変更 無 3 会計上の見積りの変更 無 4 修正再表示 無 (3)

貸借対照表 (2018 年 3 月 31 日現在 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) Ⅰ. 流動資産 8,741,419 千円 Ⅰ. 流動負債 4,074,330 千円 現 金 預 金 5,219,065 未 払 金 892,347 受 取 手 形 3,670 短

平成29年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

キャッシュフロー計算書の作成

第1章 財務諸表

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(訂正・数値データ修正)「平成29年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

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財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

説明会資料 IFRSの導入について

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『学校法人会計の目的と企業会計との違い』

監査手続の実施状況に関する表示この決算短信は 金融商品取引法に基づく監査手続きの対象外ですが この決算短信の開示時点において 金融商品取引法に基づく連結財務諸表の監査手続きは終了しております 業績予想の適切な利用に関する説明 その他特記事項 ( 国際会計基準 (IFRS) の適用 ) 当社は 平成

前連結会計年度 ( 平成 29 年 12 月 31 日 ) 当第 2 四半期連結会計期間 ( 平成 30 年 6 月 30 日 ) 負債の部流動負債支払手形及び買掛金 8,279 8,716 電子記録債務 9,221 8,128 短期借入金 未払金 24,446 19,443 リース

平成28年度 第144回 日商簿記検定 1級 会計学 解説

085 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 新株予約権 少数株主持分を株主資本に計上しない理由重要度 新株予約権を株主資本に計上しない理由 非支配株主持分を株主資本に計上しない理由 Keyword 株主とは異なる新株予約権者 返済義務 新株予約権は 返済義務のある負債ではない したがって

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第 32 期 計算書類 自 至 2018 年 4 月 1 日 2019 年 3 月 31 日 株式会社 NHK グローバルメディアサービス

NO 連結精算表科目 & 連結開示 前連結会計 当連結会計 増減差額 科目 借 年度 年度 借方 方 連結借対照表 千円 千円 千円 千円 開 38 社債 20,000,000 5,000,000 開 39 長期借入金 16,500,000 16,071,500 開 40 リース債務 632,000

連結の補足 連結の 3 年目のタイムテーブル B/S 項目 5つ 68,000 20%=13,600 のれん 8,960 土地 10,000 繰延税金負債( 固定 ) 0 利益剰余金期首残高 1+2, ,120 P/L 項目 3 つ 少数株主損益 4 1,000 のれん償却額 5 1,1

第 部 B/S とキャッシュフロー 表 B 金満家この 1 年間の投資と調達の内容 ( 昨年末 ~ 本年末 )( 単位 : 百万円 ) 車 15 家 5 銀行借入 5 内部留保 ( 注 ) 昨年末と本年初は同じ B/S この結果 本年末の B/S は表 C のようになります 表 C

平成 29 年 3 月期決算短信 IFRS ( 連結 ) 平成 29 年 4 月 26 日 上場会社名 日信工業株式会社 上場取引所 東 コード番号 7230 URLhttp:// 代表者 ( 役職名 ) 代表取締役社長 ( 氏名 ) 大河原栄次 問合せ先責

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2019 年 3 月期決算短信 IFRS ( 連結 ) 2019 年 6 月 21 日 上場会社名 トヨタ紡織株式会社 上場取引所東名 コード番号 3116 URL 代表者 ( 役職名 ) 取締役社長 ( 氏名 ) 沼毅 問合せ先責任者

Microsoft Word 【公表】HP_T-BS・PL-H30年度

IFRS第3号「企業結合」修正案及びIAS第27号「連結及び個別財務諸表」修正案に対する

4 地方公営企業会計基準の見直しの影響 ( 概要 ) 地方公営企業会計基準の見直しのため 平成 23 年度に地方公営企業法施行令等を改正し その改正内容が平成 26 年度予算 決算から全面的に適用となっている (1) 見直しの趣旨 昭和 41 年以来大きな改正がなされていない地方公営企業会計制度と国

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

第 14 期 ( 平成 30 年 3 月期 ) 決算公告 平成 30 年 6 月 21 日 東京都港区白金一丁目 17 番 3 号 NBF プラチナタワー サクサ株式会社 代表取締役社長 磯野文久

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貸 借 対 照 表 ( 平成 28 年 3 月 31 日現在 ) 科 目 金額 科 目 金 額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 4,007 流動負債 4,646 現金及び預金 2,258 買掛金 358 売掛金 990 リース債務 2,842 有価証券 700 未払金 284 貯蔵品

IFRS連結財務諸表記載例2013年版-3

Microsoft Word 決算短信修正( ) - 反映.doc

Ⅱ. 資金の範囲 (1) 内訳 Ⅰ. 総論の表のとおりです 資 金 現 金 現金同等物 手許現金 要求払預金 しかし これはあくまで会計基準 財務諸表規則等に記載されているものであるため 問題文で別途指示があった場合はそれに従ってください 何も書かれていなければ この表に従って範囲を分けてください

2017年度(平成29年度)第3四半期連結決算概要

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Transcription:

IFRS 基礎講座 IAS 第 21 号 外貨換算 のモジュールを始めます

パート 1 では 外貨建取引の会計処理を中心に解説します パート 2 では 外貨建財務諸表の換算を中心に解説します

企業は 取引を行うにあたって通常 様々な種類の通貨を使用します これらのうち 企業が営業活動を行う主たる経済環境の通貨を機能通貨といいます 例えば 日本企業の場合 営業活動を行う主たる経済環境の通貨は 通常 日本円であることが多く この場合 機能通貨として 日本円が採用されます 他方 機能通貨以外の通貨を外貨といいます 取引は機能通貨で記帳するため 企業はまず 機能通貨を決定する必要があります

機能通貨は 取引内容 事象 状況を勘案して決定します まず 販売価格に重要な影響を及ぼす通貨 販売価格を主に決定する国の通貨 コストに重要な影響を及ぼす通貨は何かということを考えます 販売価格に重要な影響を及ぼす通貨とは 通常 販売価格を表示し 決済するときの通貨であることが多いと考えられます さらに その競争力や規制の存在により 販売価格を主に決定する国がある場合には その国の通貨を考慮します コストに重要な影響を及ぼす通貨とは 例えば 原材料の仕入や給与の支払いにおいて これらのコストを表示し 決済するときの通貨であることが多いと考えられます このほかにも 営業活動を通じて獲得した資金をどの通貨でプールするか また 資金調達をどの通貨で行うかについても 機能通貨の決定に影響します

また 在外子会社や在外関連会社 在外支店などの機能通貨を 親会社や本店とは異なる機能通貨を採用すべきか否かについては 特に注意して検討する必要があります これらを考慮した結果 必ずしも機能通貨と現地通貨が一致しないことについて 留意が必要です 例えば 東南アジアに進出した子会社において 通常の営業活動で使用する通貨の大半がドルである場合には 子会社の存在する国の現地通貨がドルでなかった場合でも 機能通貨はドルを採用することになります なお 機能通貨を決定した後は 取引内容や事象 状況に変更がない限り 機能通貨をみだりに変更することはできないことについても 留意が必要です

外貨建取引とは 機能通貨以外の通貨による取引をいいます 企業活動における取引や事象は 機能通貨 で記帳します 外貨による取引すなわち 外貨建取引を記帳する際には 機能通貨に換算する必要があります たとえば 機能通貨を円と決定した場合 ドル建の取引は 外貨建取引 に該当します このため ドル建の取引を記帳するにあたっては 機能通貨である円に換算する必要があります

外貨建取引を記帳する際には 原則として 取引発生時点の為替レートである 取引日レートを用いて換算します 例えば 100 ドルで商品を販売したとき その日の為替レートが 1 ドル 115 円だった場合には 100 ドルかける 115 円で 11,500 円の売上を計上します 一方 実務上の簡便法として 一定の平均レートを用いることが認められています 平均レートには 例えば 1 週間平均レート 1 ヵ月平均レートなどがあります ただし 為替レートが著しく変動している場合には 平均レートを用いることはできません

外貨建取引は 取引発生時のレートで記帳されていますが 為替レートは日々変動することから 期末日において 外貨建項目を換算替えする必要があります どの換算レートを用いるかは 対象となっている項目が貨幣性項目か 非貨幣性項目のどちらに属するかによって異なります 貨幣性項目とは 固定または決定可能な通貨単位を受け取る権利 または引渡す義務をいいます 例えば 現金 売掛金 借入金などがこれにあたります 貨幣性項目は 決算日の為替レートを用いて換算を行います 一方 非貨幣性項目とは 貨幣性項目以外の項目をいいます 例えば 前払費用 棚卸資産 有形固定資産などがこれに当たります なお 同じ有価証券であっても 株式などの持分証券は非貨幣性資産 社債などの債券については貨幣性資産に該当します 非貨幣性項目については 外貨建項目の測定方法によって 換算レートが異なります 取得原価で測定されている項目は 取引日のレートを用いて換算します 公正価値で測定されている項目は 測定日のレート すなわち 公正価値が決定された日の為替レートを用いて換算します

複数の金額の比較によって簿価が決定される場合には 比較対象となる価額が決定された日のレートで換算した金額と 再測定値を測定日のレートで換算した金額とで比較を行います 例えば 棚卸資産は 取得原価と正味実現可能価額を比較し いずれか低い方で測定しますが この取得原価は取引日レートで換算し 正味実現可能価額は測定日レートで換算した上で 当該比較を行います また 有形固定資産について減損テストを行う場合には 帳簿価額と回収可能価額を比較し いずれか低い方で測定しますが この帳簿価額は通常 取得原価になりますので 取引日レートで換算し 回収可能価額は測定日レートで換算した上で 当該比較を行います なお 過去に減損したことがある場合など 帳簿価額が取得原価と異なっている場合には 帳簿価額を当該価額が決定された日のレートで換算し 比較を行います

外貨換算から生じる為替差額は 主に純損益で認識されます ただし 換算対象項目が OCI すなわち その他の包括利益で認識される場合は 為替差額も OCI で認識されます 例えば 売掛金や買掛金等の貨幣性項目の換算から生じた為替差額は 純損益で認識します また 有形固定資産の減損など 関連損益が純損益で認識される非貨幣性項目の為替差額は 純損益で認識します 一方 公正価値で測定される外貨建株式の評価損益など 関連損益が OCI で認識される非貨幣性項目の為替差額は OCI で認識します

IFRS には 機能通貨とは別に 表示通貨という概念があります 表示通貨とは 財務諸表の表示に利用される通貨 のことをいいます IFRS においては 表示通貨を企業が任意に選択することができ 機能通貨と同一である必要はありません したがって 一度表示通貨を決定した後でも 自由に変更することができます

親会社の機能通貨と連結財務諸表の表示通貨は同じであることが一般的です 連結財務諸表の表示通貨と 在外子会社等の機能通貨が異なる場合には 在外子会社等の財務諸表を連結財務諸表の表示通貨に換算する必要があります 例えば在外子会社等の機能通貨がドルであって 親会社の機能通貨が日本円である場合には 連結財務諸表は通常 円建であるため 在外子会社等の外貨建財務諸表を 連結上の表示通貨である日本円に換算する必要があります

在外営業活動体などの外貨建財務諸表の換算に用いるレートは 財務諸表の項目により異なります まず 資産および負債は 決算日レートで換算します 資本の構成要素や資本取引については 基準上 明確な定めはありませんが 取引日レートで換算するものと考えられます 換算により生じた差額は その他の包括利益で処理します この換算差額から生じたその他の包括利益は 資本の一項目として累積され 在外営業活動体を処分した時点で 純損益に振り替えます 続いて 収益 費用 キャッシュフローの項目については 原則として取引日レートで換算します ただし 影響が重要でない限り 期中平均レートで換算することも認められます なお 日本基準における在外支店の外貨建財務諸表換算においては 貸借対照表項目および損益計算書項目の全てを決算日レートで換算することも認められていますが IFRS においては 認められていません

異なる決算日における在外営業活動体の財務数値を換算する場合には 原則としてその在外営業活動体の決算日レートで換算します ただし 報告企業の決算日までに為替レートが著しく変動した場合には修正を行う必要があります これで外貨換算の解説を終わります