東日本大震災による沿岸都市の被害と復旧 ( 中間報告 ) 港湾, 産業, 物流 - 仙台塩釜港周辺に散乱するコンテナ ( 国土交通省により震災直後に撮影 ) 柴崎隆一 ( 国総研 ) 岡本直久 ( 筑波大学 ) 竹林幹雄 ( 神戸大学 ) 石黒一彦 ( 神戸大学 1 )
本報告の対象 八戸港 ( 青森県 ) から鹿島港 ( 茨城県 ) までの東北 関東太平洋沿岸の被災した主要港湾とその港湾の属する市町村 ( 複数の場合あり ) 国際拠点港湾 重要港湾 (11 港 14 港区 ) 青森県八戸港 ( 八戸市 ) 岩手県久慈港 ( 久慈市 ) 宮古港 ( 宮古市 ) 釜石港 ( 釜石市 ) 大船渡港 ( 大船渡市 ) 宮城県石巻港 ( 石巻市 ) 仙台塩釜港塩釜港区 ( 塩釜市 ) 仙台港区 ( 多賀城市 仙台市宮城野区 ) 福島県相馬港 ( 新地町 相馬市 ) 小名浜港 ( いわき市 ) 茨城県茨城港日立港区 ( 日立市 ) 常陸那珂港区 ( ひたちなか市 ) 大洗港区 ( 大洗町 ) 鹿島港 ( 鹿嶋市 神栖市 ) 地方港湾 (1 港 ) 宮城県気仙沼港 ( 気仙沼市 ) 2
Tsunami height measured and estimated Run-up height Inundation height Estimated inundation height at the shoreline 0 5 10 15 20 25 0 5 10 15 Tsunami height (m) 3 8
港湾の物理的被害の事例 (1) 防波堤の倒壊 ( 八戸港 ) 4
港湾の物理的被害の事例 (2) 湾口防波堤 ( 津波防波堤 ) の被害 (1. 釜石港 ) 5 交通政策審議会港湾分科会資料より (HPで公表済み)
港湾の物理的被害の事例 (2) 湾口防波堤 ( 津波防波堤 ) の被害 (2. 大船渡港 ) 国土交通省釜石港湾事務所 HP より 6
港湾の物理的被害の事例 (3) 主に地震動によると思われる被害例 ( 仙台塩釜港高砂第 2 ふ頭コンテナバース, 耐震岸壁 ) 7 2011/04/25 撮影
港湾の物理的被害の事例 (3) 主に地震動によると思われる被害例 ( 液状化, 小名浜港 ) *4/11 の余震により液状化がさらに進展 8 2011/06/13 撮影
港湾の物理的被害の事例 (4) 主に津波よると思われる被害例 ( 引き波時の残留土圧による岸壁の倒壊, 釜石港専用岸壁 ) 9
港湾の物理的被害の事例 (4) 主に津波よると思われる被害例 ( 漂流船の衝突による荷役施設の損傷, 釜石港専用岸壁 ) 10 2011/05/19 撮影
港湾の物理的被害の事例 (4) 主に津波よると思われる被害例 ( 船舶の避難による荷役施設の損傷, 相馬港専用岸壁 ) 11 2011/07/07 撮影
港湾の物理的被害の事例 (4) 主に津波よると思われる被害例 ( 燃料タンクの倒壊, 気仙沼港 ) 12 2011/04/26 撮影
港湾の物理的被害の事例 (4) 主に津波よると思われる被害例 ( 倉庫の被災, 相馬港 ) 13 2011/07/07 撮影
港湾の物理的被害の事例 (5) 地震動と津波の複合作用によると思われる被害例 ( 矢板式岸壁の倒壊, 相馬港 ) 14 2011/07/07 撮影
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港湾の物理的被害の事例 (5) 地震動と津波の複合作用によると思われる被害例 ( 鹿島港 ) 16 2011/03/31 撮影
( 参考 ) 地震動と津波の複合作用による被害の代表例 ( 女川町 ) 17 2011/05/20 撮影
問題意識と目的 港湾の物理的被害と復旧状況については, 国土交通省本省 各地方整備局 港空研などで適切に取りまとめられるものと思われる ただし, 物流機能の観点から見た港湾の被害 復旧状況 ( 岸壁などのハードが復旧したからといって物流機能が復旧したとは限らない ) は記録として残されるだろうか? あるいは, 背後立地企業や, 物流ニーズの復旧状況は記録として残されるだろうか? 国土交通省や他省庁, 民間などで産業や経済被害の調査は数多く行われているものの, - 個別企業の被害 復旧状況については公表されないケースが多い - 港湾のような物流インフラの復旧と企業 ( の物流需要 ) の復旧を関連付けて整理した例は皆無と思われる そこで, 1 港湾 ( 特に工業港 ) を有する都市における立地企業の ( 物流需要の ) 復旧と港湾の物流機能の復旧プロセスを整理することで, 2 物流インフラが産業の復興に果たす役割 ( もしくは, 物流インフラが復興の足を引っ張っていないか ) についての議論に資することを目的とする. なお, 3 整理結果を広く公表するため, できるだけ公表された資料に基づいて整理する 18 ものとする.
( 億円 ) 沿岸市町村の工業活動 ( 工業統計による,2009 年 ) 青森 岩手 宮城 ( 億円 ) 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 福島 茨城 原材料使用額 工業製品出荷額 沿岸市町村 主要内陸市町村 ( 参考 ) 19
16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 各港湾の交易実績と港湾都市の経済規模 ( 移輸入関係 ) ( 億円 ) ( 万トン ) 八戸港 港湾都市の原材料使用額 ( 億円, 左軸, 工業統計,2009) 輸入額 ( 億円, 左軸, 貿易統計,2010) 移輸入量 ( 万トン, 右軸, 港湾統計,2008) 久慈港 宮古港 釜石港 大船渡港 気仙沼港 石巻港 仙台塩釜港 相馬港 小名浜港 茨城港 鹿島港 5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 注 : 貿易統計は八戸港に久慈港も含まれる ( 上図では久慈港は便宜的にゼロとしている ) 500 0 20
25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 250 200 150 100 50 0 各港湾の交易実績と港湾都市の経済規模 ( 移輸出関係 ) ( 億円 ) ( 万トン ) ( 億円 ) 八戸港 港湾都市の製造品出荷額 ( 億円, 左軸, 工業統計,2009) 輸出額 ( 億円, 左軸, 貿易統計,2010) 移輸出量 ( 万トン, 右軸, 港湾統計,2008) 久慈港 宮古港 釜石港 大船渡港 気仙沼港 石巻港 仙台塩釜港 水産物水揚げ額 ( 億円, 水産物流通調査,2010) ( 相相馬馬港原釜漁港 小名浜港 茨 ( 那城珂港湊漁港 鹿島 ( 波港崎漁港 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 21
八戸製錬 ( 亜鉛 ) 大平洋金属 ( フェロニッケル ) エプソンアトミックス高周波鋳造 アルバック東北 北日本造船 非鉄金属製造業 4% 生産用機械器具製造業 5% 金属製品製造業 4% 輸送用機械器具製造業 7% 八戸市の製造品出荷額内訳 (2009) 飲料 たばこ 飼料製造業 15% パルプ 紙 紙加工品製造業 20% 鉄鋼業 15% 食料品製造業 19% 三菱製紙八戸工場 東北東京鉄鋼八戸工場 八戸港飼料コンビナート東北グレーンターミナル ( 輸入 ) 飼料メーカー 6 社 ( 東北飼料, 伊藤忠飼料, 日和産業, みちのく飼料, 北日本くみあい飼料, 中部飼料 ) 八戸缶詰など 八戸港 22
八戸港の輸出入品目 ( 貿易額ベース,2010) アルバック東北 北日本造船 大平洋金属 * 税関 HP より 23
八戸港の取扱品目 ( 重量ベース,2008) 移輸出 移輸入 非鉄金属鉄鋼 セメント 非金属鉱物 金属鉱 紙 パルプ セメント 石灰石 動植物性製造飼肥料 完成自動車 重油 石油製品 八戸セメント 住金鉱業 石炭 とうもろこし 火力発電所東北電力 太平洋エネルギーセンター 木材チップ 油槽所出光興産 コスモ石油 JX 日鉱日石 カメイ ジャパンオイルネットワーク ( 昭和シェル石油系 ) 24
* 浸水図は国土地理院 HP よりダウンロード 八戸港 三菱製紙 アルバック東北八戸製錬コンテナターミナルフェリーターミナル東京鉄鋼飼料コンビナートエプソンアトミックス大平洋金属 東北電力 高周波鋳造 北日本造船 油槽所群 住金鉱業 漁港区 水産加工場群 八戸セメント 25
八戸港の復旧プロセス ( 新聞記事で追えるもの, 整理途中段階 ) 26
八戸港コンテナターミナル管理棟 1F は浸水により利用不可能 27 2011/05/18 撮影
奥の電柱は仮設, 電源仮復旧用 ( 高圧電源は復旧に約 1 年かかる見込み ) 28
フェンスが流失したためロープで SOLAS 区域を区切っている 29
リーファーは 10 個のみ当面復旧. 浸水を免れた 3 段目だけ使用可能であるため, 被災したコンテナを踏み台として用意 30
検査場は壊滅的被害.8 月を目途に復旧予定. ( それまでは目視による検査 ) 31
ゲートは電気が復旧しない等の理由によりプレハブ小屋は設置されているものの当面は使用されない見込み. ゲート脇から出入りさせる予定とのこと. 32 ( 検査員は脇に止めた乗用車内で待機 )
( 八戸港復興会議資料, 八戸港湾事務所 HP からダウンロード可能 ) 33
八戸市立地主要企業の復旧プロセス ( 新聞記事で追えるもの, 整理途中段階 ) 三菱製紙八戸工場 飼料コンビナート 八戸製錬 大平洋金属 34
35 交通政策審議会港湾分科会資料より (HPで公表済み)
油槽所関係 セメント 石灰石 発電所関係 36
貿易統計による北東北各港の復旧状況 (1) ( 貿易額ベース, 対前年同月比 ) 200.0% 輸出 200.0% 輸入 150.0% 100.0% 50.0% 150.0% 八戸釜石 100.0% 大船渡青森 50.0% 秋田船川 八戸釜石大船渡青森秋田船川 0.0% 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 0.0% 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 2011 年 2011 年 * 函館税関 HP による. 青森の 5 月輸入は全増 ( 前年の実績ゼロ ) 37
貿易統計による北東北各港の復旧状況 (2) ( 貿易額ベース, 対前年同期比 ) 38
一方で 津波被害の工場再建断念 / 八戸 太洋冷蔵 (8/30, デーリー東北 ) 水産大手のマルハニチロホールディングス ( 東京 ) のグループ会社で 水産加工販売 冷凍保管などの事業を展開していた八戸市白銀町の太洋冷蔵 ( 勝田隆文社長 ) は 東日本大震災の大津波で被災した工場の再建を断念し 29 日に同市の水産加工業 島倉水産 ( 島倉米男社長 ) に所有する工場と土地を売却した 太洋冷蔵は残務処理後に解散する 勝田社長によると 太洋冷蔵の契約社員約 60 人は 7 月上旬に解雇 社員約 2 0 人は 9 月末まで残務処理を行う 契約社員 社員共に八戸市の同業他社や市外のグループ会社へ再就職をあっせんしているという 同社は大津波により工場などの建物 機械設備 水産物の在庫合わせて 3 億円程度の損害が発生 イカやサバ タラコなどの加工作業ができない状態となった 機械設備の更新など再建を模索したが 被害額が予想以上に膨らんだことや マルハニチロのグループ会社として 再び津波被害を受ける可能性がある場所に 生産拠点を再建するのはリスクがあるとの判断から 売却を決めたという 39
釜石港 釜石市の製造品出荷額内訳 (2009) 釜石港の移輸出貨物内訳 (2008) 窯業 土石製品製造業 1% 生産用機械器具製造業 2% 飲料 たばこ 飼料製造業 1% その他 14% 金属くず 鉄鋼 水 プラスチック製品製造業 3% 食料品製造業 11% 鉄鋼業 50% 完成自動車 鋼材 はん用機械器具製造業 18% SMC(FA 空圧制御機器製造 ) 釜石工場 *3 月下旬に操業再開 新日本製鉄釜石製鉄所 関東自動車岩手工場 ( 金ヶ崎町 ) 愛知県の三河港へ移出 * 輸出額の 99% 以上は鉄鋼 鋼材 (2010 年貿易統計 ) 40
新日本製鉄釜石製鉄所 関東自動車岩手工場 ( 金ヶ崎町 ) ( 参考 ) トヨタ自動車グループ全体の動き 41
釜石港 新日鉄釜石 釜石グレーンセンター釜石飼料 専用バース SMC 石炭火力発電所 公共バース 湾口防波堤 42
貿易統計による北東北各港の復旧状況 (3) ( 貿易額ベース, 対前年同期比 ) 岩手県 輸出 岩手県 輸入 ( 単位 : 百万円 ) ( 単位 : 百万円 ) 品名前年品名前年価額寄与度価額同期比同期比 寄与度 輸 出 総 額 8,730 91.4% -8.6 輸 入 総 額 3,156 36.5% -63.5 鉄 鋼 4,055 81.6% -9.6 石 炭 1,303 28.9% -37.1 紙 板 紙 2,884 107.1% 2.0 と う も ろ こ し 717 49.0% -8.6 電 気 機 器 808 108.4% 0.7 粗 鉱 物 154 299 倍 1.8 一 般 機 械 507 2.3 倍 3.0 木 材 316 39.9% -5.5 金 属 製 品 199 55.6% -1.7 肥 料 - 全減 -0.1 魚 介 類 同 調 製 品 121 31.8% -2.7 石 油 製 品 - 全減 -3.0 パ ル プ 古 紙 7 8.7% -0.8 こうりゃん ( 飼料用 ) 139 84.2% -0.3 そ の 他 149 大 麦 は だ か 麦 90 46.4% -1.2 飼 料 191 57.4% -1.6 そ の 他 246 43
貿易統計による南東北 茨城県各港の復旧状況 ( 貿易額ベース, 対前年同月比 ) 200 150 100 50 0 輸出 % % 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 200 輸入 気仙沼 気仙沼 150 石巻 石巻 仙台塩釜 仙台塩釜 相馬 相馬 100 小名浜 小名浜 茨城 茨城 50 鹿島 鹿島 酒田 酒田 0 新潟 新潟 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 2011 年 2011 年 * 東京 横浜税関 HP による. 44