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個人消費活性化に対する長野県内企業の意識調査

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

2019 年 1 月号 広東省 香港 マカオが協働する一大経済圏 グレーターベイエリア 形成構想について 千葉銀行香港支店

税制について

公益法人の寄附金税制について

1. 復興基本法 復興の基本方針 B 型肝炎対策の基本方針における考え方 復旧 復興のための財源については 次の世代に負担を先送りすることなく 今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うこととする B 型肝炎対策のための財源については 期間を限って国民全体で広く分かち合うこととする 復旧 復興のため

資料3

「個人投資家の証券投資に関する意識調査」の結果について

2. 改正の趣旨 背景給与所得控除額の変遷 1 昭和 49 年産業構造が転換し会社員が急速に増加 ( 働き方が変化 ) する中 (1) 実際の勤務関連経費が給与所得控除を上回っても 当時は特定支出控除 ( 昭和 63 年導入 ) がなく 会社員は実際の勤務関連経費がいくら高くても実額控除できなかった

個人市民税 控除・税率等の変遷【市民税課】

企業中小企(2) 所得拡大促進税制の見直し ( 案 ) 大大企業については 前年度比 以上の賃上げを行う企業に支援を重点化した上で 給与支給総額の前年度からの増加額への支援を拡充します ( 現行制度とあわせて 1) 中小企業については 現行制度を維持しつつ 前年度比 以上の賃上げを行う企業について

Microsoft Word - 第53号 相続税、贈与税に関する税制改正大綱の内容

2. 改正の趣旨 背景給与所得控除 公的年金等控除から基礎控除へ 10 万円シフトすることにより 配偶者控除等の所得控除について 控除対象となる配偶者や扶養親族の適用範囲に影響を及ぼさないようにするため 各種所得控除の基準となる配偶者や扶養親族の合計所得金額が調整される 具体的には 配偶者控除 配偶

平成19年度税制改正.xls

企業活動のグローバル化に伴う外貨調達手段の多様化に係る課題

スライド 1

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望の内容平成 28 年度税制改正 ( 租税特別措置 ) 要望事項 ( 新設 拡充 延長 ) ( 経済産業省経済産業政策局産業再生課 ) 制度名産業競争力強化法に基づく事業再編等に係る登録免許税の軽減措置 税 目 登録免許税 ( 租税特別措置法第 80 条 ) ( 租税特別措置法施行令第 42 条の

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金融政策決定会合における主な意見

Microsoft Word - 20_2

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女性が働きやすい制度等への見直しについて

依然見通しは慎重 環境や海外への関心高まる-第7回不動産市況アンケート結果

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平成 28 年度予算編成方針 我が国の経済は 景気は引き続き緩やかな回復基調を維持しているが その影響が地方経済にまで十分に行き渡っているとは言えず 我々地方の行財政運営の基本となる税等一般財源を確保するためには 臨時財政対策債に頼らざるを得ない状況が続くものと考える また 税制改正も予測されること

H28秋_24地方税財源

貿易特化指数を用いた 日本の製造業の 国際競争力の推移

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

PowerPoint プレゼンテーション

資料9

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Giới thiệu tóm tắt CÔNG TY CỔ PHẦN PHÁT TRIỂN ĐẦU TƯ CÔNG NGHỆ - FPT TRUNG TÂM GIẢI PHÁP PHẦN MỀM FPT SOFTWARE SOLUTIONS

現代資本主義論

【No

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目次 要旨 1 Ⅰ. 通信 放送業界 3 1. 放送業界の歩み (1) 年表 3 (2) これまでの主なケーブルテレビの制度に関する改正状況 4 2. 通信 放送業界における環境変化とケーブルテレビの位置づけ (1) コンテンツ視聴環境の多様化 5 (2) 通信 放送業界の業績動向 6 (3) 国民

第16回税制調査会 別添資料1(税務手続の電子化に向けた具体的取組(国税))

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

Microsoft Word - ギリシャ概況(2019年7月号)

(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

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平成19年度分から

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

野村資本市場研究所|資本規制下の人民元の国際化の限界― 内外市場間の裁定取引によって歪められた資金の流れ ―(PDF)

市場と経済A

P10 第 2 章主要指標の見通し 第 2 章主要指標の見通し 1 人口 世帯 1 人口 世帯 (1) 人口 (1) 人口 平成 32 年 (2020 年 ) までの人口を 国勢調査 ( 平成 7 年 ~22 年 ) による男女各歳人口をもとにコーホー 平成 32 年 (2020 年 ) までの人口

図 4-1 総額 と 純計 の違い ( 平成 30 年度当初予算 ) 総額ベース で見た場合 純計ベース で見た場合 国の財政 兆円兆 国の財政 兆円兆 A 特会 A 特会 一般会計 B 特会 X 勘定 Y 勘定 一般会計 B 特会 X 勘定 Y 勘定

つのシナリオにおける社会保障給付費の超長期見通し ( マクロ ) (GDP 比 %) 年金 医療 介護の社会保障給付費合計 現行制度に即して社会保障給付の将来を推計 生産性 ( 実質賃金 ) 人口の規模や構成によって将来像 (1 人当たりや GDP 比 ) が違ってくる

一般会計 特別会計を含めた国全体の財政規模 (1) 国全体の財政規模の様々な見方国の会計には 一般会計と特別会計がありますが これらの会計は相互に完全に独立しているわけではなく 一般会計から特別会計へ財源が繰り入れられているなど その歳出と歳入の多くが重複して計上されています また 各特別会計それぞ

個人投資家の証券投資に関する意識調査(結果概要)

歳入総額 区分 平成 年度の財政フレーム ( 単位 : 百万円 ) 30 年度 31 年度 合計 構成比 構成比 構成比 263, % 265, % 529, % 一般財源特別区税特別区交付金その他特定財源国 都支出金繰入金特別区債 167

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

平成20年度税制改正(地方税)要望事項

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

平成29年 住宅リフォーム税制の手引き 本編_概要

タイトル

平成 31 年度 税制改正の概要 平成 30 年 12 月 復興庁

1: とは 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの ( 青色事業専従者等に該当する者を除く ) のうち 合計所得金額 ( 2) が 38 万円以下である者 2: 合計所得金額とは 総所得金額 ( 3) と分離短期譲渡所得 分離長期譲渡所得 申告分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額 申告分

Slide 1

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今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

Microsoft Word - 18_2

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

新・NPO法人申請マニュアル.pwd

Microsoft PowerPoint 寄附金控除制度概要.ppt

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⑴ 政策目的本件は, 我が国において開発資金のための国際連帯税 ( 国際貢献税 ) を導入し, 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ 等, 国際的な開発目標の達成に対応 貢献するために, 世界の開発需要に対応し得る幅広い開発資金を調達するもの これは, 外務省政策評価, 基本目標 Ⅵ 経済協

3. 住宅税制 消費税率の引上げに伴う一時の税負担の増加による影響を平準化し 及び緩和する観 点から 住宅税利について以下のとおり所要の措置を講じます 住宅ローン減税を平成 26 年 1 月 1 日から平成 29 年末まで 4 年間延長し その期間のうち平成 26 年 4 月 1 日から平成 29

218 年分以降の配偶者控除額は夫の年収に応じて減っていきます 217 年分までは が 13 万円 ( 合計所得金額 38 万円 以下であれば 夫の年収にかかわらず 配偶者控除額 38 万円 ( 住民税は 33 万円 を夫の所得から控除できました 218 年分以降は が 13 万円 ( 合計所得金額

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新設 拡充又は延長を必要とする理地方公共団体の実施する一定の地方創生事業に対して企業が寄附を行うことを促すことにより 地方創生に取り組む地方を応援することを目的とする ⑴ 政策目的 ⑵ 施策の必要性 少子高齢化に歯止めをかけ 地域の人口減少と地域経済の縮小を克服するため 国及び地方公共団体は まち

所得控除 基礎控除 配偶者控除などの下記の表に記載されたものをいいます それぞれ一定の要件を満たしている場合は 課税所得金額を計算する際に それぞれの控除が受けられます 個人の県民税 個人の市町村民税 12

平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

新今回の要望に合関理連性する事項設 拡充又は延長を必要とする理中小企業は地域の経済や雇用を支え 我が国経済全体を発展させる重要な役割を担っている 中小企業の設備投資を促進し 成長の底上げに不可欠な設備や IT 化等への投資の加速化や生産性の向上を図る ⑴ 政策目的 ⑵ 施策の必要性 昨今の中小企業の

相続税・贈与税の基礎と近年の改正点


目 次 (1) 財政事情 1 (2) 一般会計税収 歳出総額及び公債発行額の推移 2 (3) 公債発行額 公債依存度の推移 3 (4) 公債残高の累増 4 (5) 国及び地方の長期債務残高 5 (6) 利払費と金利の推移 6 (7) 一般会計歳出の主要経費の推移 7 (8) 一般会計歳入の推移 8


投資法人の資本の払戻 し直前の税務上の資本 金等の額 投資法人の資本の払戻し 直前の発行済投資口総数 投資法人の資本の払戻し総額 * 一定割合 = 投資法人の税務上の前期末純資産価額 ( 注 3) ( 小数第 3 位未満を切上げ ) ( 注 2) 譲渡収入の金額 = 資本の払戻し額 -みなし配当金額

「教育資金贈与信託」、資産の世代間移行を後押し

北陸3県、法人税改革に対する企業の意識調査

住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税制度の改正

2. 改正の趣旨 背景の等控除は 給与所得控除とは異なり収入が増加しても控除額に上限はなく 年金以外の所得がいくら高くても年金のみで暮らす者と同じ額の控除が受けられるなど 高所得の年金所得者にとって手厚い仕組みとなっている また に係る税制について諸外国は 基本的に 拠出段階 給付段階のいずれかで課

2007財政健全化判断比率を公表いたします

新設 拡充又は延長を必要とする理⑴ 政策目的沖縄県内の一般消費者の生活及び産業経済に及ぼす影響を考慮して税負担を軽減する 1 沖縄の一般消費者の酒税負担を軽減する 2 価格優位性を確保することによる沖縄の酒類製造業の自立的経営を促進する ⑵ 施策の必要性 1 沖縄の一般消費者の酒税負担を軽減する沖縄

日本版スクーク ( イスラム債 ) に係る税制措置 Q&A 金融庁


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住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税制度の改正

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Microsoft PowerPoint - 【別添1】23税制改正の概要.pptx

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フ ァ ン ド の 特 色 ハイグレード ハイグレード オセアニア オセアニ ニア ボンド マザーファンド マザーファンド を通じて オーストラリア ドル建ておよびニュージーラ ドル建ておよびニュージーランド ドル 建ての 債券等 に投資します 債券等 には コマーシャル ペーパー等の短期金融商品を

( 図表 1) 平成 28 年度医療法人の事業収益の分布 ( 図表 2) 平成 28 年度医療法人の従事者数の分布 25.4% 27.3% 15.8% 11.2% 5.9% n=961 n=961 n= % 18.6% 18.5% 18.9% 14.4% 11.6% 8.1% 資料出所

2 政策体系における政策目的の位置付け 3 達成目標及び測定指標 4-5 福島 震災復興 租税特別措置等により達成しようとする目標 政策の達成目標と同じ 租税特別措置等による達成目標に係る測定指標 仮設施設の整備数 8 有効性等 政策目的に対する租税特別措置等の達成目標実現による寄与 東日本大震災で

の各種税制優遇を受けやすくする見直しが行われ 入居までに耐震基準に適合するという証明があれば 1 住宅ローン減税 2 住宅取得資金に関する贈与税の非課税措置 3 中古住宅に関する不動産取得税の特例措置の適用が可能となる 耐震基準に適合しない中古住宅を取得し 耐震改修工事を実施した後に入居するような場

第 7 章財政運営と世代の視点 unit 26 Check 1 保有する資金が預貯金と財布中身だけだとしよう 今月のフロー ( 収支 ) は今月末のストック ( 資金残高 ) から先月末のストックを差し引いて得られる (305 頁参照 ) したがって, m 月のフロー = 今月末のストック+ 今月末

Microsoft PowerPoint  香港・マカオ経済概観

Transcription:

第 20 号 2017 年 3 月 16 日 香港 2017 年度財政予算案について 香港の陳茂波 財政長官は 2 月 22 日 2017 年度 (2017 年 4 月 ~2018 年 3 月 ) の財政予算案 ( 以下 予算案 ) 1 を 発表しました 本稿では 予算案の主なポイントを纏めましたのでご参照ください 財政状況 ~ 黒字は上振れも 一過性の還元策 には慎重 ~ 2016 年度の財政収支は 928 億香港ドルの黒字見通しです ( 表 1) 前年の予算案発表時の見通し (114 億香港ド ルの黒字 ) を大幅に上回る見込みで 2007 年度の黒字 (1,237 億香港ドル ) に次ぐ規模となりそうです 黒字上振れ は公有地売却収入や不動産関連の印紙税収入が予想を大幅に上回ったことが主因です 一方 2017 年度の事業 所得税と給与所得税の減税など 一過性の還元策 の予算は 351 億香港ドルと 前年度の 388 億香港ドルを下回り ました 背景には 税収見通しが不透明な反面 歳出増は確実に予想さ れることがあります 税収については 小規模で開放型経済の香港 は 景気が外部環境の影響を受けやすく 税収もそれに左右されや すいという特徴があります 加えて 税基盤が限定的で その中で も不動産市況の影響を受ける不動産関連の税収への依存度が高 い という脆弱性をはらんでいます 一方 歳出側をみると 高齢化等を背景に増勢は続く見込みで 硬直性が高まっています こうした構造的な問題を踏まえ 予算案 では 経常的でない収入が多かったのを理由に経常的な支出を安 易に増やせない などと財政規律を厳しく守る必要性を強調し バラ ンスを考慮した配分にしたと説明しています 表 1: 財政見通し 財政収支 ( 単位 :HKD) 財政余剰金 2016 年度 928 億 9,357 億 2017 年度 163 億 9,520 億 2018 年度 73 億 9,593 億 2019 年度 ( 注 ) 5 億 9,597 億 2020 年度 85 億 9,512 億 2021 年度 84 億 9,428 億 ( 注 ) 政府債券の償還額含む ( 出所 ) 財政予算案を基に作成 税制面の競争力強化へ専門グループ立ち上げ税基盤の脆弱性など構造的な問題が改めて浮き彫りになったのに加え 予算案では 香港を取り巻く環境の変化にも言及しています 例えば 近隣諸国や欧米の自由貿易経済圏での優遇税制導入 一部欧米諸国の法人税減税検討などの動きです こうした変化する環境の中で税制面での競争力を強化すべく 税制の国際競争力を見直し 限定的な税基盤の問題を直視しなければならない と指摘 税務政策グループ (Tax Policy Unit) の設立を準備していると明らかにし マクロ的な角度から税制の構造的な問題を見直すほか 科学研究関連費用の損金算入拡大等を通じた支柱産業 優勢産業 新興産業の発展後押し 税基盤の拡充を含む税構造の改善などに向けて取 1 予算案の実施にあたっては 立法会 ( 議会 ) での審議を経る必要があります

り組む方針を示しました 支柱産業強化今回の予算案の大きなテーマの一つは 支柱産業強化 です 1) 貿易 物流 2) 金融サービス 3) 観光業 4) ビジネス 専門サービス の支柱産業について 予算案では 2015 年の域内総生産 (GDP) に対する寄与が 6 割近くに達し 雇用の約半数を占めた と指摘 支柱産業の優位性を強固にし 引き上げるのは重要 と訴えました 1) 貿易 物流 ~ 航空機リース事業の優遇税制導入へ~ 貿易 物流業の GDP に占める比率は約 22% 金融サービスは約 18% に達します 政府は この二大産業の要素を兼ね備える航空機リース産業の発展を後押しする方針で 先ごろ発表された 施政方針演説 2 に続き 予算案でも 航空機リース事業を対象にした優遇税制導入について言及しました まず世界の新規航空機の資金調達方式について リースがすでに 30% を超えた と指摘 ここ数年のアジア地域での航空業の急成長を背景に 航空機リース需要は長期的に拡大する 今後 20 年で世界の航空旅客は年間約 5% のペースで拡大し 新規に納入される航空機は 3 万 9,000 機超 ( 金額ベースで約 5 兆 9,000 億米ドル ) との予想を示しました そのうえで 税制面でシンガポールやアイルランドの後塵を拝している状況を念頭に 税制は航空機リース事業者にとって拠点選択を検討するうえで重要な要素の一つ とし 2017 年に立法会に 税務条例 改正案を提出し 優遇税制を打ち出して航空機リース事業者の誘致を強化する と 施政方針演説 の内容を踏襲しました ~ 越境 EC の急成長に対応 ~ ここ数年の越境 EC の急成長が空運業界に新たなビジネスチャンスをもたらしている状況に対応すべく 予算案では 香港空港管理局 (Airport Authority AA) が中継貿易貨物 越境 EC 高付加価値空運貨物の発展を支えるため 空港近くの用地を確保したと明らかにしました また ハード ソフトの両面から温度コントロールが必要な高価な貨物 ( 薬品等 ) の処理能力引き上げに積極的に取り組んでいるとしています ~ 港珠澳大橋 完工見据え~ 香港 珠海 マカオを結ぶ 港珠澳大橋 が今年末にも完工する見込みとなるなか 予算案では 交通の利便性向上策として 香港と珠江デルタの間を結ぶヘリコプターサービス 香港国際空港でのトランジット旅客向けバスサービスなどを検討していると明らかにしました 2) 金融サービス ~ ファンドの事業所得税免除対象を拡大 ~ アジアの資産運用センターを目指す香港 予算案では ファンドの事業所得税免除対象について オフショア ( 香 2 政府が今年立法会に提出する 税務条例 改正草案で優遇税制を打ち出し企業を呼び寄せ 香港の航空機リース業務を発展 させる と明記されています

港域外 ) のファンドだけでなく オンショア ( 香港域内 ) のオープンエンド型私募ファンドにも拡大する方針を表明 香 港登録のファンドを増やす案を打ち出しました 3) 観光 ~ 持ち直しの兆しも短期的な支援措置は継続 ~ 予算案では 観光業について 昨年の調整期を経て ここ数カ月は持ち直しの兆しが出ている との認識を示しています 但し 業界全体が依然として厳しい状況を踏まえ 前年度に続いて 旅行会社やホテルを対象に 1 年間の営業許可証の費用支払免除などの支援措置を打ち出しました 4. ビジネス 専門サービス ~ 一帯一路 構想睨み専門サービス強化へ~ ビジネス 専門サービスの分野では アジアインフラ投資銀行 (AIIB) への早期加盟に向け引き続き手続きを進めるとし 香港は各専門人材 インフラプロジェクトの豊富な管理 運営の経験 成熟した金融市場を通じて AIIB に貢献できる との見解を示しました また 2016 年 7 月に設立した香港金融管理局 (Hong Kong Monetary Authority 以下 HKMA) 傘下の 基建融資促進弁公室 (Infrastructure Financing Facilitation Office 以下 IFFO) を通じて 香港をインフラ投資 ファイナンスセンターにさせるとしています 表 2: 支柱産業強化に向けた主な施策 航空機リース事業を対象に優遇税を導入 貿易 物流 自由貿易協定や投資促進 保護協定のネットワーク拡大を継続 中継貿易や越境 EC 高付加価値の物流サービスを促進 香港 マカオ 珠海を結ぶ 港珠澳大橋 の完工を見据え 香港と珠江デルタを結ぶヘリコプターサービス等を研究 ファンドの事業所得税免除対象を拡大 香港とのファンド相互認証 販売を可能とする海外市場の開拓 金融サービス 上場企業を含め市場の質向上に向けた取り組み推進 公的年金計画を検討 既に香港モーゲージ コーポレーションが実行可能性等を実施 二重課税防止協定に向けた租税条約締結国 地域を積極的に拡大 旅行会社 1,800 社を対象に 1 年間の営業許可証の費用支払免除 観光業 ホテル ドミトリー約 2,000 軒を対象に 1 年間の営業許可証の費用支払免除 旅行客誘致に向けたイベントなどに 2 億 4,300 万香港ドル拠出 ビジネス 専門サービス 海外及び中国本土への駐在事務所ネットワークを拡大し 市場開拓を推進 IFFO を通じてインフラ投資 ファイナンスセンター目指す ( 出所 ) 財政予算案を基に作成

多角的発展 支柱産業強化 と並び もう一つ大きなテーマとなったのは 多角的発展 です 予算案では 国際的な経済情勢や競争環境の変化に対応しなければならない とし イノベーションとテクノロジーを通じて産業構造の多角化を促進する方針を表明 2016 年度の財政黒字のうち 100 億香港ドルをイノベーション テクノロジーの発展のために確保する方針を示しました ~イノベーション テクノロジーと 再工業化 の融合で製造業ハイエンド化へ~ サービス業が盛んな香港 一方 製造業の GDP に占める比率は 2006 年の 2.7% から 2015 年には 1.2% に低下しました 予算案では イノベーションとテクノロジーこそが香港の 再工業化 を推進し 製造業のハイエンド化を促すとの認識の下 イノベーション テクノロジーと 再工業化 の融合に取り組む新たな委員会を設立すると表明 また 税務政策グループ による関連費用の損金算入拡大を模索する案を盛り込みました ~フィンテック~ フィンテックにより従来型の金融サービスモデルが変化するなか 予算案では 決済サービスのインフラ強化に向け HKMA が全面刷新した 即時決済システム を構築中であると明らかにし 来年にも運用が始まる見通し としています 表 3: 多角的発展 に向けた主な施策イノベーション テクノロジー発展のために 100 億香港ドルを備蓄 イノベーション テクノロジー イノベーション テクノロジーと 再工業化 の融合に向け新たな委員会設置 税務政策グループ による科学研究関連費用の損金算入拡大等の検討 スタートアップ企業支援 フィンテック 20 億香港ドル規模の イノベーション テクノロジー ベンチャー ファンド を創設 HKMA が全面刷新した 即時決済システム を構築中 ( 出所 ) 財政予算案を基に作成 一過性の還元策 ~ 給与所得税の累進課税所得税幅を拡大最後に前述した 一過性の還元策 についてみます 2017 年度の給与所得税と事業所得税の 75% 減額 ( 上限は 2 万香港ドル ) など前年度と同様の内容が目立ったなかで大きな変更点としては 給与所得税 3 の累進課税方式について 課税所得幅を 4 万香港ドルから 4 万 5,000 香港ドルに引き上げた ( 表 4) 点が挙げられます 課税所得幅の拡大は 2008 年度以来 9 年ぶりで 主に中所得者層への恩恵が大きくなります 累進課税方式の課税所得は 所得から税免除項目 ( 表 5) 及びその他定められた控除可能な経費を差し引いた金 3 給与所得税は 累進課税方式 ( 課税所得 累進課税率 ) 又は標準課税方式 ( 税免除項目控除前の純所得 標準課税率 15%) の うち いずれか低いほうが適用されます

額です 税免除項目について今回の予算案では 兄弟姉妹と障害者の扶養控除が拡大されたのみで 基礎控除や 子女 父母などの扶養控除は前年度の水準で据え置かれました 表 4: 累進課税所得幅の拡大案 2016 年度 2017 年度 ( 案 ) 課税所得 (HKD) 税率 課税所得 (HKD) 税率 1~40,000 2% 1~45,000 2% 40,001~80,000 7% 45,001~90,000 7% 80,001~120,000 12% 90,001~135,000 12% 120,001~ 17% 135,001~ 17% ( 出所 ) 税務局の資料を基に作成 基礎控除 表 5: 税免除項目 2016 年度 2017 年度 ( 案 ) 単身者 13 万 2,000 香港ドル 13 万 2,000 香港ドル 既婚者 26 万 4,000 香港ドル 26 万 4,000 香港ドル 扶養控除 (1 人当たり ) 60 歳以上の父母又は祖父母 ( 同居 ) 9 万 2,000 香港ドル 9 万 2,000 香港ドル 60 歳以上の父母又は祖父母 ( 別居 ) 4 万 6,000 香港ドル 4 万 6,000 香港ドル 55~59 歳の父母又は祖父母 ( 同居 ) 4 万 6,000 香港ドル 4 万 6,000 香港ドル 55~59 歳の父母又は祖父母 ( 別居 ) 2 万 3,000 香港ドル 2 万 3,000 香港ドル 子女 10 万香港ドル ( 出生年度は 10 万香港ドル追加 ) 10 万香港ドル ( 出生年度は 10 万香港ドル追加 ) 兄弟姉妹 3 万 3,000 香港ドル 3 万 7,500 香港ドル 障害者 6 万 6,000 香港ドル 7 万 5,000 香港ドル ( 出所 ) 税務局の資料を基に作成 * * * 現政権にとって最後となった今回の予算案は 前述のように香港の財政上の構造的な問題を改めて浮き彫りにするとともに 香港を取り巻く環境変化への対応が急務になっている状況が示されたといえます 巨額の黒字見通しに比べ 一過性の還元措置 の少なさに対する不満の声も一部にありますが 予算案では 異なる経済環境下でも膨大な公共支出を維持する必要があり 減税や税基盤を揺るがすようなことは安易にできないし 財政見通しの不確定性に影響を与えかねないため 税率の調整も頻繁に行えない などと訴えています 消費税導入をはじめ構造的な問題の解消に向けた対策の必要性はかねてから議論されていますが 税務政策

グループ の設立は 税制の全面的な見直しに政府が本腰を入れて取り組む姿勢を示したものと読み取れます 今 年新たに選出される行政長官 4 率いる新政権が長期的な視点で様々なバランスに配慮しつつ 予算案で示された施 策をどのように具現化していくのか注目されます ( 執筆 : 株式会社三井住友銀行コーポレート アドバイザリー本部香港グループ ) 本誌内容に関するご照会は お取引店までご照会ください 4 2017 年 3 月の香港の選挙委員 ( 定数 1,200 人 ) による選挙での当選者が中国政府の任命を経て同 7 月 1 日に就任する予 定となっています