わかる できる つかえる 喜びを味わう算数科授業の創造(3 年次 ) ー学び合い活動を生かした授業と個に応じた指導の充実を通してー 1 はじめに 阿久根市立大川小学校 1 年次の一昨年度, 本校は, 算数科の 数と計算 領域に焦点化して,2 年次の昨年度は 量と測定 領域に焦点化して研修を進め, その成果と課題が明らかになった そこで今年度は, 算数科の領域を絞らず, 学び合い活動を中心に研修することにした 算数的活動と学び合い活動, 個に応じた指導を視点にして指導方法を工夫改善することで, わかる できる つかえる 喜びを味わう子どもを育成できるのではないかと考え, 昨年度に引き続き, 本研究主題を設定した 2 1 2 年次の成果と課題 (1) 成果 ア視点 1 算数的活動の充実 では, 系統性と授業のねらいを踏まえ, 問題解決的な学習を進めながら, 算数的活動の手だてを工夫改善することができた イ視点 2 個に応じた指導の充実 では, 個人カルテ等を基に, 子ども一人一人の実態を把握し, それに応じて, 授業や授業外における手だてを工夫改善することができた ウ検証の視点を明確にした 一人一研究授業 を通して, 算数的活動や個に応じた指導を工夫改善し, 指導上の成果と課題を明らかにすることができた (2) 本年度に向けての課題 ア自分の考えを説明することに苦手意識をもつ子どもが見られる 各学年の発達段階に応じた説明の仕方を明らかにし, 手だてを工夫改善する必要がある イ自分の考えを説明するだけでなく, 互いの考え方や説明の仕方などを学び合うための手だてについても工夫改善する必要がある ウ NRTの結果を分析すると, ほとんどの学年で1 年次は 数と計算 領域の通過率が向上していた 2 年次は 量と測定 領域の通過率が向上していた 一方, 結果に個人差が見られたことから, 今後も一人一人の計算力の向上を図る必要がある エ 1 2 年次の取組で良かったところは継続しながら,3 年次では, 領域を設定せずに, 学び合いを中心に研究を進める 3 研究の構想 (1) 目指す子どもの姿 わかる 子どもの姿 算数的活動や学び合い活動などによって, 実感を伴い, 理解する子ども できる 子どもの姿 理解したことを基に, 問題を正しく解く子ども つかえる 子どもの姿 学んだことを活用し, 新しく出合った問題を解決する子ども 喜びを味わう 子どもの姿 友だちといっしょに, 学習への成就感や有用性などを味わい, 次の学習への意欲を高めている子ども - 大川小 1 -
(2) 研究の仮説算数科において, 授業のねらいに応じた算数的活動を設定し, その手だてを工夫改善するとともに, 個に応じた指導の充実を図れば, 子ども一人一人が わかる できる つかえる 喜びを味わうことができるのではないだろうか その際, 学び合い活動を行うことで, より考えを深め合い, 互いに高め合うことができるのではないだろうか (3) 研究の視点と内容視点 1 学び合い活動の充実 ア 学び合い についての基本的な考え方,1 時間の授業における 学び合い の形態などの理論を学ぶ イ極少人数の複式のクラスにおける効果的な 学び合い の形態を確立する ウ 学び合い に必要な聞いたり, 話したりする基本的な力の定着を図る 視点 2 算数的活動の充実 ア題材全体及び1 単位時間の指導過程を見直し, 算数的活動が効果的に働くようにする イ教具を工夫し, 算数的活動が効果的に働くようにする ウ算数コーナー ( 掲示物 ) を工夫改善し, 学習した内容の定着を図る 視点 3 個に応じた指導の充実 ア子ども一人一人の実態を的確にとらえた上で ( 個人カルテの活用 ) 指導方法を工夫改善する イ授業外でも個別指導を行う場を確保し, 子ども一人一人の学力を高める ウ計算タイム ( 朝の活動 ) を利用して, 子ども一人一人の計算力を高める 4 研究の実際 (1) 視点 1 学び合い活動の充実 に関する取組 ア イ 学び合い の考え方 形態書籍やこれまでの研究例などから, 改めて学び合いの重要性を学んだ また, 極少人数 複式のクラスでの意見の広がりや高め合いのための, 子ども同士の意見の交流や教師や異学年のかかわりについても研修をした ウ基本的な力の定着学び合うためには, 自分の意見をしっかり持つこと, 人の話を聞くことが必要である 自分の意見をしっかりと持つために, まずは自分で考える時間を設定し, 書く活動を取り入れた また, 正しい姿勢で話を聞くことができるように, 注目させてから話をしたり, 発表する人の方を向いたりする基本的な学習のしつけを改めて確認し, 指導をした - 大川小 2 -
図 1 説明 と 学び合い に関する評価規準 (2) 視点 2 算数的活動の充実 に関する取組 ア 算数的活動の系統性と題材全体及び 1 単位時間の指導過程の工夫 子どもが わかる できる つかえる 喜びを味わうためには, 系統性を明らかにした上で, 授業の中に算数的活動を意図的に位置付けることが, まずは大切である そこで, 本校は, 説明 と 学び合い に関連した算数的活動に注目し, 普段の授業で実践することにした 子どもが目的意識をもって算数的活動に取り組むためには, 問題解決的な学習を推進することが重要である その中でも, 特に自分の考えを説明したり, 友だちの考えを聞いて自分の考えに生かしたりする 学び合い の時間を重視した また, 基礎的な知識及び技能を確実に身に付けたり, 発展的 応用的な問題に取り組んだりする場も設定することで, 子どもが わかる できる つかえる 喜びを味わえるようにしたいと考え, 指導過程を作成し, 普段の授業で実践することにした ( 図 2) - 大川小 3 -
算数的活動の中でも, 特に自分の考えを説明したり, 互いの考え方や説明の仕方について学び合ったりする時間を重視する 図 2 単位時間の指導過程 - 大川小 4 -
イ教具の工夫算数的活動の充実を図るためには, 子どもが問題解決的な学習の進め方を理解したり, 自分が考えた解決方法を説明したりすることを支援するような教具が必要である そこで, 本校は, 学習の流れを示すプレートや自分の考えを発表するボードを作成し, 授業において全学年で使用することにした また, 授業において, 具体物を操作し, 量感を体得することもとても重要である 特に導入段階を中心に, 児童の実態に合わせ, 一人一人に具体物を準備し, 操作活動を取り入れることで, 自分の考えを整理し, これからの学習に意欲を持って取り組めるようになると考えた ウ算数コーナーの工夫子どもが算数的活動を通して学んだことを振り返ったり, 発展的 応用的な問題に取り組んだりすることができるように, 各教室の算数コーナーの内容を工夫した 具体的には, わかる, できる, つかえる の観点から掲示物を検討し, 子どもが見るだけでなく, 問題を解いて楽しむことができるようにしている また, これまで学習したことや公式などを掲示して, 子どもたちの思考の一助になるようにしている (2) 視点 3 個に応じた指導の充実 に関する取組 ア子ども一人一人の実態に応じた手だての工夫本校は小規模校であり, 個に応じて, きめ細やかな指導ができるというよさがある 学力の個人差が見られるという本校の実態からも, 授業において, そのよさを十分に生かすように手だてを工夫した 具体的には, 指導案に, 子ども一人一人の学習に対する意識調査や 量と測定 に関する調査の結果を分析し, 個に応じた手だてを示すことを共通理解している また, 算数科 個人カルテ に, 一人一人の学習状況を記録し, 授業や個別指導での指導方法を検討して明記するようにしている これらの取組を進めた結果, 授業研究においては, 一人一人の学習の様子や変容に注目して意見交換がなされたり, 数値を基に, 個別指導の内容を検討したりするなど, 子どもの実態に即して指導方法を改善するようになった また, 個人カルテ は, 次年度の引き継ぎの材料にもなり, 継続的な指導が可能となっている イ放課後の個別指導の充実本校は, 月に2,3 回程度の放課後の時間を利用して, 個別指導に取り組んでいる この時間は, 学力の個人差が徐々に見られる3 年生以上の子ども全員を対象としている 特に苦手意識をもつ子どもには担当者が付き, 重点的に支援していく体制を整えた その際, 担任と連携を図るために, 個別指導の記録 というファイルを通して, その子どもの学習状況について連絡を取り合い, 継続的な指導ができるように工夫している - 大川小 5 -
ウ計算力の育成本校は, 毎週 2 回, 朝の活動を利用して 計算タイム を実施している これは, 全学年の子どもを対象として実施し, 整数と小数及び分数の四則計算の問題に取り組む時間である 子どもは, 毎月, 担任と相談しながら たし算, ひき算, かけ算, わり算 のコースを選択し, 計算力の向上に努めている 上学年が下学年に教える姿も見られ, やり方が分かるようになることもあった 一方, 教師は, コースごとに分かれて担当し, 指導に当たる 担任が, ファイルをチェックして, 子どもの取組の状況を把握し, 賞賛と助言を行っている (3) 一人一研究授業 による研究の検証 ア 一人一研究授業 の計画と授業研究の進め方の工夫子どもが, 算数科の授業において わかる できる つかえる 喜びを味わうために, 学び合い活動 算数的活動と個に応じた指導が効果的に働いていたかどうかを 一人一研究授業 を通して検証することにした その際は, あらかじめ検証の視点を設定することで, 一つ一つの研究授業での取組がつながるように留意した 授業研究では, 検証の視点に沿って協議を進めることで, 指導上の成果と課題を明らかにするようにした これらの取組を進めた結果, 検証の視点に沿った研究授業が提案されるとともに, 指導方法の改善の視点も明確になるなど, 全職員が同じ方向を見ながら校内研修を推進し, 共通実践しやすい環境を整えることができた イ 一人一研究授業 の実際及び分析と考察ここでは, 各学年の 一人一研究授業 の実際を分析しながら, その指導上の成果と課題を明らかにしたい ( は, 課題と改善点 ) 6 月 26 日 ( 月 ) 第 1 回研究授業 第 1 学年 ひきざん 第 2 学年 ひき算の筆算 視点 考えの伝え合い, 学び合い 個に応じた手立て 子ども自身の質問する力がついてきてい 一人一人の実態を明らかにした指導案 成果 る 教具が工夫されて準備されていた ガイド学習が定着してきている 話し合いのマニュアル 複式学級における一人一人の関わり方 課題 ( 継続的な系統的な型 ) ( 時間の配分 ) 一人学年の学び合いのさせ方 子どもの意見から授業を展開する ( となりの学年の活用 など ) 1 時間の流れの板書 - 大川小 6 -
11 月 21 日 ( 木 ) 第 2 回研究授業 第 5 学年 分数のかけ算とわり算 第 6 学年 比例と反比例 視点 考えの伝え合い, 学び合い 個に応じた手立て 6 年のガイド学習の定着 一人一人の実態を明らかにした指導案 成果 個人差が大きい中でのガイド学習の進め ペアを作り 意見交換をさせる課題方 ( 座席の配置 ) 学習課題の設定のしかた ホワイトボードの代わりにノートを活用 ( 子どもが必要性を感じる課題 ) ガイドの育成 中学校との連携 聞く視点 12 月 2 日 ( 月 ) 第 3 回研究授業 第 3 学年 表とグラフ 第 4 学年 しりょうの整理 視点 まとめの手立て 算数的活動と個に応じた手立て ノートの活用 一人一人の実態を明らかにした指導案 成果 4 年のガイド学習 課題 学習課題の設定のしかた 表にまとめる視点や観点の与え方 ( 子どもが必要性を感じる課題 ) 早く終わった子への指示 十分な教材研究と時間配分 平成 26 年度に向けて 視点 学び合い 話し合い 個に応じた指導 複式指導 ガイドの育成 実態把握をふまえた授 学習過程の共通実践 継続 業構想 ガイド学習 ( 成果 ) 教材 教具の工夫 個別指導等の確保 発表ボード ノートの効 ノート活用 ガイド育成 課題果的な活用 既習事項の確認 学び合い 話合い活動の充 学び合いの深まり 学習内容の確実な定着実 基本的なマニュアルの作 個人差への対応 1 時間の授業の完結 成 修正 ( 早い子も遅い子も ) - 大川小 7 -
5 研究のまとめ (1) 子どもの変容 算数が とてもすき すき 少しきらい きらい すきか 7 月 12 月 7 月 12 月 7 月 12 月 7 月 12 月 1 年 1 1 2 年 2 2 1 1 3 年 5 4 1 1 1 4 年 3 2 1 1 1 2 5 年 1 1 3 4 2 1 6 年 2 1 2 2 1 計 11 8 5 6 4 9 5 2 少しきらい が増加している 理由を見ると, 難しい, 分からない ということが多い 一方, きらいは減少している 個に対する手立てがうまくいった子は, 少し理解ができるように なり, そうでなかった子は苦手意識を持つ結果になったためと思われる 今後も, みんなが分か る授業の展開や, 教具の準備をして, わかる喜び を味わわせることができるようにしたい さらに詳しいアンケートを行って, 変化を調べたい (2) 研究授業から 成果 課題 学び合い 話し合い 学年によって, ガイド学習が定着しつつある 今後も系統性を見ながら, 指導していく必要 性がある 意見を発表する際に発表ボードや実物, ノートを使って発表した 時間がかかることもあり, さらに効果的な活用法を研修する 意見の発表だけにとどまり, 深めていくことができなかった ペア学習で意見を交換させて, 自信を持たせてから, 全体に広げても良い 聞く姿勢や観点なども示す必要がある 個に応じた指導 実態をふまえた授業構想について, 個別の指導が必要な子を中心に授業を展開させることで, どの子もわかる授業を行うことができた 教材 教具について, 一人一人が具体的に活動できる教具を準備した結果, 子どもの理解を 助けたり, 深めたりすることができた 子どもが必要とし, 解きたいと思うする学習問題の設定が必要である ノートの効果的な活用や確実な記録が必要である 複式学習 学習過程の共通実践について,3~6 年において, 学習過程を同じにし, 複式学習の進め方 がわかるようになってきた 異学年との交流を1 時間内に取り入れて行う ガイド学習について, 長いスパンで見た (6 年の積み上げ ) ガイドの育成が課題である 1 時間の授業の完結について, 子どもたちの実態や内容の精選をして, 授業が完結できるよ うに計画を立てる必要がある また, 子どもたちの理解の程度に臨機応変に対応して, 授業を 組み立て直したり, 複式を解いて授業を進めることも必要であると考える - 大川小 8 -
- 大川小 9 -