[9] 放射線技師から見た装置への期待 - 臨床 PET の定量性 - 谷本克之 放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター病院診療放射線室. はじめに 976 年 日本における Positron Emission Tomography(PET) 研究は 放射線医学総合研究所において開始され その後もしばらくの間 PETは限られた施設における臨床研究として利用されてきた 996 年 5 O- 標識ガス 22 年の 2-deoxy-2-[ 8 F]fluoro-D-glucose ( 8 F-FDG) の保険適用によりサイクロトロン PETを所有する施設の急激な増加 さらに 25 年 8 F-FDGのデリバリー開始により PET 装置のみを所有する施設も増えてきており まさにクリニカルPET 全盛の時代といえる PET SPECT γカメラといった いわゆる核医学検査とは機能検査であり 放射性薬剤の集積亢進部位を描出し その薬理学的特性から機能診断するもので解剖学的情報は非常に乏しい ( 図 ) 現在 一般的となったPET-CT 装置はその欠点を補うために考え出された 特に全身腫瘍検査において PET-CTで得られた画像は高度な分解能を持つCT 情報と機能情報を持つPETの両面から診断可能となり がん医療における画像診断装置として欠かせないものになっている これにともないPET 本来の 測定器 としての基本性能がより重要視されてきている PETの他の核医学装置と異なる大きな特徴に高い定量性を有していることがあげられる PET 装置は外部線源を持っており これを用いて transmission scan を行うことにより被験者のμ-map( 吸収係数分布 ) を作成し PETで検出されるγ 線を吸収補正し集積亢進部位の定量を行う PET-CTでは一般的に外部線源の代わりにCTからμ-map を作成する このように吸収補正を行うことで高精度の定量を実現している PETの定量性に影響を与えるものに装置の精度管理 画像収集再構成条件 被験者の状態 装置の分解能 μ-map の精度等があげられる [] 図 悪性リンパ腫肝転移.CT では全く見えていない病変部が PET では明瞭に描出されている 3
2. 定量性の影響因子 2.. 装置の精度管理 PET 装置は日々のチェックと定期的な点検により精度管理を行う必要がある 検出器は経年劣化以外に温度 湿度 磁場等の影響を受ける クリスタルの温度特性による変化や校正線源やHV 電源を交換すると大きく定量に影響を与えるので注意が必要である ( 図 2) 2 ファントム 22 ファントム 23 ファントム 24 ファントム HV 交換 9 ラインソース交換 8 7 6.5.88.76 5 4.88 3.98.88 2 ECF_2D ECF_3D ファントムの選択ミス 22/5/24 22/9/ 22/2/ 23/3/2 23/6/28 23//6 24//4 24/4/23 24/8/ 24//9 25/2/7 25/5/28 図 2 検査室 チラーの温度変化および ECF の変動 2.2. 画像再構成条件核医学では古くから Filtered Backprojection(FBP) を用いて画像再構成を行ってきた Ordered Subsets Expectation Maximization(OSEM) を用いた定量精度について議論されているが 臨床上腫瘍検査では一般的にOSEMが利用されている [2] C-raclopride おけるFBPとOSEMによる違いを示す [3] 8.5 k B q / m l 8 7.5 7 FBP Itr- 6.5 6 5.5 5 Itr-3 Itr-6 (Sub-8) 4.5 FBP Itr- Itr-3 Itr-6 (Sub-8) 図 3 画像再構成法および条件の差による画質 値の変化 2.3. 被験者の状態 8 F-FDG 等の腫瘍検査では一般的に採血を行わずに定量可能な Standardized Uptake Value(SU V) が利用されている SUV とは次式で表される 4
SUV 組織放射能 = 投与放射能 ( Bq) / 組織体積 ( ml) ( Bq) / 体重 ( g) * * 組織の比重を. と仮定し ml を g としてピクセルの体積を g に換算している. 体脂肪率が高いと体重補正が過補正となる [4] これにより SUV は目的部位の放射能と身体全体の平均放射能の比として表される しかし SUV は 排尿 薬剤のリーク 体脂肪率 血糖値等さまざまな被験者の状態の影響を受ける ( 図 4) Density(g/ml).4.3.2. 運動もれ糖尿病 3 6 9 2 Weight(kg) 図 4 被検者の状態による差および身体比重のばらつき 3.Brain Reference Index(BRI) 筆者らはSUVに比べ より正確な定量指標として Brain Reference Index(BRI) を提唱している BRIは Nakagawa らが心筋の glucose 代謝の指標として 995 年に発表した [5] 脳の glucose 代謝は安定しており血糖値の影響が小さい このため小脳のSUVと血糖値は負の相関関係を持つ ( 図 5) がんを正しくがんと判定する確率を感度 (Sensitivity) がんではないものを正しくがんではないと判定する確率を特異度 (Specificity) とし Receiver Operating Characteristic(ROC) 解析を行うとBRIはSUVよりおよそ% 高い診断能となる [6]( 図 6) 小脳と腫瘍では metabolic trapping の原理 [7] は異なるがBRIは前述 (2 節 ) のSUVにおける不安定要素が cancel されるため より高い診断能が得られると考えられる [8] SUV[g/ml] 9 8 7 6 5 4 y = -.48x +.596 R 2 =.396 Sensitivity.9.8.7.6.5.4 3 2.3.2 BRI Az=.898 SUV Az=.86 2 4 6 8 2 4 6 8 GLU[mg/dl] 図 5 小脳の SUV と血糖値は負の相関関係...2.3.4.5.6.7.8.9 -Specificity 図 6 ROC 解析 5
4. 分解能現在 臨床で使用されているPET 装置 ( 東芝 -Aquiduo:crystal LSO 2 2 2mm) の Recovery Coefficient(RC) 曲線を示す この装置の分解能は 4.3 mm であり 病変サイズがcm では 35% 程度になってしまう 分解能の4 倍以上の大きさがなければ適正な定量は難しい ( 図 7) 高感度 高分解能なDOI 検出器を搭載した次世代 PET 装置ではcm 以下の病変部も十分描出 診断が可能であると考える.2 RC.8.6.4 37mm mm.2 28mm 5mmφ 4.4mm 3mm 22mm 7mm..5..5 2. 2.5 3. 3.5 4. ファントム径 (cm) 図 7 Recovery Coefficient(RC) 曲線. 5.μ-map の精度吸収補正には 時間はかかるが実測する Measured Attenuation Correction(MAC) 法 定量精度は落ちるがRIinjection 後も可能で短時間ですむ Segmented Attenuation Correction(SAC) 法がある またCTによる吸収補正 CT-based Attenuation Correction(CTAC) 法は高分解能のCTdata から得られたCTnumber を 5keV のγ 線でのμ 値へ変換している ( 図 8) しかしCTのX 線は連続スペクトルであるため吸収体を透過している間にも特に低エネルギー部分が吸収され実効管電圧が変化していく ( 図 9)[9] このためCTAC 法の定量精度はSAC 法と同程度である [] 収集時間が短く正確な μ-map を作成可能な新しい吸収補正法が望まれている μ(cm-).8.6.4.2..8.6.4.2 - -5 5 5 CTnumber 図 8 CTnumber と μ 値の関係 図 9 実効管電圧の変化 6
参考文献 [] 谷本克之 : 誌上講座 PET に関する話題 -Molecular Imaging の時代 -, 日本放射線技師会雑誌,Vol.53, No.644, pp.47-53, 26 [2] Morimoto T, Ito H, Tanimoto K, Yamaya T, et al.: Effects of image reconstruction algorithm on neurotransmission PET studies in humans: comparison between filtered back projection and ordered subsets expectation maximization, Annals of Nucl Med, Apr 2(3), pp.237-243,26 [3] Shiraishi T,Ito H,Tanimoto K, et al.: Effects of image reconstruction algorithms with various parameters on estimation of human neuroreceptor binding with PET, J Nucl Med MEETING ABSTRACTS 47, pp.54, 26 [4] 宮本俊男, 谷本克之, 白石貴博, 他 : 体格指標を用いた PET 定量値 SUV の検討, 日本放射線技術学会雑誌,Vol.26, No.9, pp.33, 26 [5] Nakagawa K, Fukushi K, Irie T, et al.: Simplified PET quantitation of myocardial glucose utilization, J Nucl Med, Nov 36(), pp.294-22, 995 [6] 谷本克之, 白石貴博, 安藤彰, 他 : FDG-PET における小脳を用いた定量評価法の検討, 千葉県放射線研究 26, pp.27-3, 26 [7] Waki A, Fujibayashi Y, Yokoyama A:Recent Advances in the analysis of the characteristics of tumors on FDG uptake, Nucl Med Biol, 25, pp.593-597, 998 [8] 谷本克之 : 米国核医学会 3 年連続受賞 -SUV の限界 -, 核医学技術, Vol.26, No.3, pp.24-22, 26 [9] Mohammad RA,Habib Z: Computed tomography-based attenuation correction in neurological positron emission tomography: evaluation of the effect of the X-ray tube voltage on quantitative analysis, Nucl Med Comm, Vol.27, No.4, pp.339-346, 26 [] 安藤彰, 谷本克之, 白石貴博, 他 : CTAC における CT 撮影条件が与える PET 定量値への影響 千葉県放射線研究 26, pp.-4, 26 7