<4D F736F F D B8BA488A489EF DB293A18CAB88EA98592E646F6378>

Similar documents
1. 重篤な不正出血の発現状況 ( 患者背景 ) (1) 患者背景 ( 子宮腺筋症 子宮筋腫合併例の割合 ) 重篤な不正出血発現例の多くは子宮腺筋症を合併する症例でした 重篤な不正出血を発現した 54 例中 48 例 (88.9%) は 子宮腺筋症を合併する症例でした また 子宮腺筋症 子宮筋腫のい

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

Microsoft PowerPoint - komatsu 2

一般内科

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」


診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

_03大山.indd

頻度 頻度 播種性血管内凝固 (DIC) での使用 前期 後期 PLT 数 大半が Plt 2.5 万 /ml 以下で使用 使用指針 血小板数が急速に 5 万 /μl 未満へと低下 出血傾向を認

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

BMP7MS08_693.pdf

認定看護師教育基準カリキュラム

人間ドック結果報告書 1/5 ページ 所属 : 株式会社 ケンコウタロウ健康太郎 様 性別 / 年齢 男性 / 49 歳 生年月日 昭和 40 年 3 月 17 日 受診日 平成 26 年 5 月 2 日 受診コース 人間ドック ( 胃カメラ ) 問診項目 今回前回前々回平成 26 年 5 月 2

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

50 生化学検査 420 3J 総ビリルビン 数字 PQ 5 NNN.N mg/dl mg/dl 3J010 総ビリルビン 3J 生化学検査 430 3B GOT(AST)

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

2005年 vol.17-2/1     目次・広告

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

「血液製剤の使用指針《(改定版)

減量・コース投与期間短縮の基準

「             」  説明および同意書

補足 : 妊娠 21 週までの分娩は 流産 と呼び 救命は不可能です 妊娠 22 週 36 週までの分娩は 早産 となりますが 特に妊娠 26 週まで の早産では 赤ちゃんの未熟性が強く 注意を要します 2. 診断 どうなったら TTTS か? (1) 一絨毛膜性双胎であること (2) 羊水過多と羊

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

パスを活用した臨床指標による慢性心不全診療イノベーション よしだ ひろゆき 福井赤十字病院クリニカルパス部会長循環器科吉田博之 緒言本邦における心不全患者数の正確なデータは存在しないが 100 万人以上と推定されている 心不全はあらゆる心疾患の終末像であり 治療の進步に伴い患者は高齢化し 高齢化社会

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

症例_佐藤先生.indd

< F31312D81798A6D92E894C5817A95F18D908F915B315D2E6A7464>

中小医療機関における輸血 療法委員会の設置に向けて 長崎県合同輸血療法委員会平成 31 年 1 月 16 日


Microsoft PowerPoint - 2.医療費プロファイル 平成25年度(長野県・・

頭頚部がん1部[ ].indd

豊川市民病院 バースセンターのご案内 バースセンターとは 豊川市民病院にあるバースセンターとは 医療設備のある病院内でのお産と 助産所のような自然なお産という 両方の良さを兼ね備えたお産のシステムです 部屋は バストイレ付きの畳敷きの部屋で 産後はご家族で過ごすことができます 正常経過の妊婦さんを対

心房細動1章[ ].indd

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

<様式2> 個人情報ファイル簿(単票)

2. 診断 どうなったら TTTS か? 以下の基準を満たすと TTTS と診断します (1) 一絨毛膜性双胎であること (2) 羊水過多と羊水過少が同時に存在すること a) 羊水過多 :( 尿が多すぎる ) b) 羊水過少 :( 尿が作られない ) 参考 ; 重症度分類 (Quintero 分類


研修計画

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

1)表紙14年v0

5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

配偶子凍結終了時 妊孕能温存施設より直接 妊孕能温存支援施設 ( がん治療施設 ) へ連絡がん治療担当医の先生へ妊孕能温存施設より妊孕能温存治療の終了報告 治療内容をご連絡します 次回がん治療の為の患者受診日が未定の場合は受診日を御指示下さい 原疾患治療期間中 妊孕能温存施設より患者の方々へ連絡 定

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件


<様式2> 個人情報ファイル簿(単票)


障害程度等級表 級別じん臓機能障害 1 級 じん臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの 2 級 3 級 じん臓の機能の障害により家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの 4 級 じん臓の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc

研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

L5214_⑥カリキュラム(産婦人科)

甲状腺機能が亢進して体内に甲状腺ホルモンが増えた状態になります TSH レセプター抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺にも影響します 母体の TSH レセプター抗体の量が多いと胎児に甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性が高まります その場合 胎児の心拍数が上昇しひどい時には胎児が心不全となったり 胎児の成

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 参考 11 慢性貧血患者における代償反応 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 赤血球液 RBC 赤血球液

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

はじめに 連携パス とは 地域のと大阪市立総合医療センターの医師が あなたの治療経過を共有できる 治療計画表 のことです 連携パス を活用し と総合医療センターの医師が協力して あなたの治療を行います 病状が落ち着いているときの投薬や日常の診療はが行い 専門的な治療や定期的な検査は総合医療センターが

当院人工透析室における看護必要度調査 佐藤幸子 木村房子 大館市立総合病院人工透析室 The Evaluation of the Grade of Nursing Requirement in Hemodialysis Patients in Odate Municipal Hospital < 諸

Microsoft Word - todaypdf doc

CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など

2

臨床研究実施計画書

女性用問診票

<955C8E862E657073>

医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

表 1 入院時検査所見 11,500L 471 L 17.0 gdl.3 L ph 7.49 PaCO 37.8 mmhg PaO 67.4 mmhg HCO 3.6 meql B E 1. meql 141 meql K 3.9 meql Cl 108 meql Ca 8.4 mgdl P 4.5

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

本文/開催および演題募集のお知らせ

2009年8月17日

手術や薬品などを用いて 人工的に胎児とその付属物を母体外に排出することです 実施が認められるのは 1 妊娠の継続又は分娩が 身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがあるもの 2 暴行もしくは脅迫によって妊娠の場合母体保護法により母体保護法指定医だけが施行できます 妊娠 22 週 0

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

その最初の日と最後の日を記入して下さい なお 他の施設で上記人工授精を施行し妊娠した方で 自施設で超音波断層法を用いて 妊娠週日を算出した場合は (1) の方法に準じて懐胎時期を推定して下さい (3)(1) にも (2) にも当てはまらない場合 1 会員各自が適切と考えられる方法を用いて各自の裁量の

プラザキサ服用上の注意 1. プラザキサは 1 日 2 回内服を守る 自分の判断で服用を中止し ないこと 2. 飲み忘れた場合は 同日中に出来るだけ早く1 回量を服用する 次の服用までに 6 時間以上あけること 3. 服用し忘れた場合でも 2 回量を一度に服用しないこと 4. 鼻血 歯肉出血 皮下出

妊娠分娩と産褥期の管理 ならびに新生児の医療に必要な基礎知識とともに 育児に必要 な母性とその育成を学ぶ また妊産褥婦に対する投薬の問題 治療や検査をする上での制限な どについての特殊性を理解することはすべての医師に必要不可欠である 2. 行動目標 (SBO: Specific Behavior O

第1 総 括 的 事 項

水光No49 最終.indd

くろすはーと30 tei

Microsoft Word - 都道府県向け報告書

本文/開催および演題募集のお知らせ

2 身体所見 体格 身長, 体重, BMI を記載する 腹囲なども状況により記載を検討する 浮腫が著明の場合, 真の体重ではないため BMI は参考値となる バイタルサイン 体温, 血圧, 脈拍, 呼吸数など 電子カルテに看護師が毎日記録しているが, 練習のため自分で測定するとより良い 診察所見 必

kainoki26_A4タイプ

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

Microsoft Word - 03 大腸がんパス(H30.6更新).doc

Part 1 症状が強すぎて所見が取れないめまいをどうするか? 頭部 CT は中枢性めまいの検査に役立つか? 1 めまい診療が難しい理由は? MRI 感度は 50% 未満, さらには診断学が使えないから 3

Microsoft Word - 健診コース・パンフレット docx

ここが知りたい かかりつけ医のための心不全の診かた

000-はじめに.indd

共済だより.indd

PowerPoint プレゼンテーション

CW6_A2200A01.indd

現況解析2 [081027].indd

心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患

消化器人間ドックのご案内

Microsoft PowerPoint - 参考資料

緒言

D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

Transcription:

一般募集論文子宮筋腫 子宮腺筋症により血色素 1.3 g/dl の高度貧血を示した 1 例 共愛会病院産婦人科 佐藤賢一郎 福島安義 要旨 今回 呼吸困難を主訴に救急搬送されたところ 子宮筋腫 子宮腺筋症による過多 過長月経に起因すると思われる血色素 1.3g/dL の高度貧血を認めた 1 例を経験した このような高度貧血例では 心不全や腎機能障害 肝機能障害などの併存疾患を有していることも多く 治療にあたっては他科との連携が必要である 子宮筋腫 子宮腺筋症による過多 過長月経は主要症状の一つであり ほとんどの場合は外来での貧血治療により管理が可能である しかし 稀ではあるが本例のように生命に関わる可能性もあり得るため 筋腫分娩 粘膜下筋腫 1,000g を超えると推定される大型の子宮筋腫 子宮腺筋症の場合には 高度貧血についても注意が必要で 患者への説明と定期的な経過観察が重要であると思われた キーワード : 子宮筋腫 子宮腺筋症 高度貧血 文献集計 はじめに 今回 呼吸困難を主訴に救急搬送されたところ 子宮筋腫 子宮腺筋症による過多 過長月経に起因すると思われる血色素 1.3g/dL の高度貧血を認めたが 救命し得た 1 例を経験した 過多 過長月経による貧血は子宮筋腫 子宮腺筋症の主要症状であるが 血色素 2g/dL 未満の高度貧血を示した報告例は散見されるのみである そこで今回 自験例の臨床経過とともに本邦における子宮筋腫 子宮腺筋症による高度貧血例の文献集計を行った 症例 患者 :49 歳 主婦妊娠分娩歴 :4 妊 2 産 ( 帝王切開 2 回 ) 主訴 : 呼吸困難月経歴 : 初経 10 歳 月経は整順で 30 日型 月経期間は 10 日間 最終月経は受診 5 日前から開始 月経痛なし 過多 過長月経あり現疾病 既往歴 : 喫煙歴あり (20 本 / 日 29 年間 ) 家族歴 : 母が糖尿病 子宮筋腫現病歴 : もともと月経期間が長く量も多く貧血様症状があり 浮腫も強かったため 家族に病院受診を勧められていたが放置していた 当院受診 1 ヵ月前から倦怠感が強くなり 受診前日には意識消失もあった 今回 呼吸困難となったため当院救急外来を受診した 初診時現症 : 身長 155cm 体重 85.8kg(BMI35.7) 意識は清明 体温 35.3 血圧 95/32 脈拍 56/ 分 呼吸数 20/ 分 リザーバーマスク酸素 6 リットル送与下で SpO2 98% であった また 全身浮腫が著明で皮膚と眼球の黄染 が認められた 初診時検査所見 : 採血結果で 血色素 1.3g/dL ヘマトクリット 4.9% 赤血球数 72x10 4 /μl の高度貧血のほか 肝機能異常 ビリルビン血症 腎機能障害 血小板減少 低蛋白 低アルブミン血症 炎症所見 甲状腺機能低下症が認められた ( 表 1) また心電図検査でモービッツⅡ 型房室ブロック疑い ( 図 1) 胸部レントゲン CT で心肥大 肺動脈の拡張を認め ( 図 2) CT 検査 MRA 腹部超音波検査にて小脳出血 脳動脈瘤 ( 図 3) 胆石 腎結石( 図 4) および子宮の腫大 ( 図 5)( 図 6a) が認められ 精査および性器出血の管理の目的で産婦人科を紹介された 産婦人科診察所見 : 内診にて子宮は新生児頭大に腫大しており 可動性は良好で圧痛は認めなかった 腟鏡診では 子宮内よりの出血を認め凝血塊も混入しており やや多めの印象ではあったが大量出血というほどではなかった 経腟超音波では多発性の子宮筋腫と考えられたが 腫瘍サイズが大きなため全体像は描出困難であった ( 図 6b) 喫煙 20 本 / 日で BMI35.7 年齢 49 歳のため EP 合剤は副作用面で使用しづらかったこと 月経開始 7 日目でありいつもは 10 日間くらいで月経は終了するとのことで もう 3 4 日で自然止血する可能性があったことより 子宮出血のほうは止血剤投与 安静等で保存的に対応することとした 複数臓器の異常が認められ 全身管理が複雑であったため内科へ入院とした 内科入院後経過 : 内科に入院後 第 1 病日 6 単位 第 2 病日 4 単位 第 3 病日 4 単位 第 5 病日 4 単位 第 6 病日 6 単位 第 13 病日 6 単位 第 16 病日 4 単位の計 7 回 34 単位の輸血を行なった ( 図 7) 性器出血は第 道南医ジ 1:63

14 病日で止血した また 第 13 病日に上部消化管内視鏡検査を行なったところ 胃大弯に H1 の潰瘍が認められたが 目立った血便は認められておらず 今回の貧血の主な原因はやはり子宮出血によるものと考えられた 第 14 病日に MRI を施行したところ 子宮腺筋症 多発性子宮筋腫で 漿膜下 粘膜下筋腫 ( 図 8) と考えられた 全身状態が落ち着いたところで子宮全摘術を勧めたが同意が得られなかったため 保存治療を行う方針とした 第 31 病日より再び月経が開始したため GnRHa の投与を開始し 第 35 病日に内科を退院した ( 図 7) 内科退院後経過 : 子宮出血について 特に子宮粘膜下筋腫の影響が大きいものと考え 退院後 9 日目に子宮鏡検査を施行したところ 子宮内膜ポリープと思われる所見と子宮腔内の癒着が認められ 明らかに突出する粘膜下筋腫は認められなかった 6 ヵ月間の GnRHa 療法を終了し 貧血も改善しており 子宮も手拳大まで縮小していたため経過観察とした その後 散発的に月経が発来しており 血色素 8.7g/dL の貧血を認めることがあったが 鉄剤の投与により回復した 考察 出血性の貧血には急性と慢性の場合がある 急性の貧血では 出血量が循環血液量の 15% 以下であれば 軽い末梢血管収縮あるいは頻脈を認める程度で循環動態にはほとんど変化は生じない 15~30% の出血では 頻脈や脈圧の狭小化がみられ落ち着きがなくなり不安感を呈するようになる 30 40% の出血では血圧の低下 精神錯乱が起こる場合もあり 循環血液量の 40% を超える出血では傾眠傾向となり生命にも危険な状態とされている 1) 一方 慢性の貧血では比較的症状はあらわれにくく 慢性貧血の場合の生活耐容限界値は 女性で血色素 2g/dL 男性で血色素 3g/dL との報告がある 2) 本例は 問診 症状よりみて もともと子宮腺筋症 子宮筋腫 および胃潰瘍による慢性の貧血があったところに 今回 過多月経が加わり症状が増悪していったものと考えられる 本邦における子宮筋腫による高度貧血例を 医学中央雑誌により 1970~2017 年の期間で 子宮筋腫 または 子宮腺筋症 と 貧血 または 高度貧血 極度貧血 で検索 および論文に記載された文献から検索したところ 会議録も含めて 15 例が検索された 3)-17) これに自験例 1 例を加えて計 16 件 16 例について検討を行った ( 表 2) 平均年齢 44.5±5.3 歳 (n=15) 最年少 35 歳 最高齢 52 歳であった 出産経験があるのは 記述がある 8 例中 7 例で 1 例のみ未経産であった 血色素の最低値は 0.9g/dL で 1 例の報告があった 受診時の主訴は 倦怠感が最も多く 7 例に認めら れた その他 意識障害 混濁 傾眠傾向が 4 例 呼吸困難が 4 例 歩行困難が 3 例 浮腫が 3 例等が主な症状であった 筋腫によると思われる合併症としては 心肥大 心不全が10 例と最も多く アシドーシス 3 例 胸水 2 例 肺水腫 1 例 肝 腎機能障害 2 例などが認められ 心肺停止も 1 例みられていた 子宮筋腫の大きさは 記載がある 8 例では筋腫分娩例 子宮粘膜下筋腫例は 1,000g 以下であるが それ以外は 575g の子宮腺筋症の 1 例を除いて 1,000g をこえる大型の子宮筋腫が 4 例であった 自験例では手術を施行していな 18) いので 正確な重量は示せないが 子宮重量推定式によれば 1,641g となり 優に 1,000g を超える 高度貧血例の治療については 合併症も含めた全身管理 止血 輸血が中心となる 心不全や腎機能障害 肝機能障害などの合併症 併存疾患を有していることも多く 治療にあたっては他科との連携が必要である 手術がなされたのは記述のある 14 例中 11 例で その他の 3 例はそれぞれ UAE GnRHa LNG-IUS による保存治療が行われていた 輸血について 平成 29 年 3 月に公表された厚生労働省の血液製剤の使用指針 1) によると 急性出血による貧血の場合に輸血が適応となる基準値 ( トリガー値 ) は 一般的に血色素 6.0g/dL 以下が目安とされているが 術中のトリガー値は 7~8g/dL 心疾患 ( 特に虚血性心疾患 ) を有する患者の非心臓手術におけるトリガー値は 8~10g/dL とすることを推奨している また 臨床の現場ではショック指数も参考にされる これらを踏まえながら 患者の全身状態や止血のめどが立っているかどうか およびインフォームドコンセントが得られるかどうか などの個々の事情に合わせて輸血の実施を決めてゆくことになる 今回のシリーズ中で Hb1.7g/dL であったが既に止血しており 日常生活である程度の家事をこなしていたこと バイタルサインが落ち着いていたことより輸血をしないで鉄剤静注により治療し得た1 例が報告 14) されていた 他にも 宗教上の理由でヘモグロビン 2g/dL 台で輸血をせずに回復した例も報告 19)20) されており 条件次第では無輸血での治療も不可能ではないのであろうが生命の危険は大きい 子宮筋腫 子宮腺筋症による過多 過長月経は主要症状の一つであり ほとんどの場合は外来での貧血治療により管理が可能である しかし 稀ではあるが本例のように生命に関わる可能性もあり得るため 筋腫分娩 粘膜下筋腫 特に 1,000g を超えると推定される大型の子宮筋腫 子宮腺筋症の場合には 高度貧血についても注意が必要で 患者への説明と定期的な経過観察が重要である 本例が 今後の子宮筋腫 子宮腺筋症の管理に役立てば幸いである 道南医ジ 1:64

文献 1) 厚生労働省医薬食品局血液対策課 : 血液製剤の使用指針 ( 改訂版 ): 平成 29 年 :<http://www.mhlw.go.jp/file/06- Seisakujouhou-11120000- Iyakushokuhinkyoku/0000161115.pdf#search=%2 7 厚生労働省 + 血液製剤の適正使用 %27> <last accessed 2018-2-19> 2) 小原寛治, 斎藤稔, 小野芳孝, 他 : 慢性貧血には何処まで耐えられるのか. 現代医学, 1994; 42: 139-146. 3) 馬場聡, 五十嵐敏雄, 森岡将来, 他 : 合併症により外科的治療が困難な過多月経の患者に対して子宮内黄体ホルモン放出システムが著効した一例. 関東連合産科婦人科学会誌, 2016; 53: 455-460. 4) 青江尚志, 河西邦浩 : 著しい貧血を呈した子宮筋腫の一例. 日産婦誌, 2006; 58:776. 5) 篠原玄夫, 高木融, 多村幸之進, 他 : 慢性高度貧血下 (Hb 1.1 g/dl) に発症した十二指腸潰瘍穿孔の1 例.Therapeutic Research, 2002; 23: 173-178. 6) 助川明子, 茂田博行, 神田義明, 他 : 心肺停止より救命し得た子宮筋腫による高度貧血 (Hbl.3g/d7) の 1 例. 日産婦関東連会誌, 2008; 45: 15-20 7) 福家伸夫 : 重症貧血. 救急医薬ジャーナル, 2008; 16: 32-37. 8) 児玉亜子, 袖本武男, 星野寛美, 他 : 巨大筋腫分娩により高度貧血となった一例. 日産婦誌,2007; 59: 636. 9) Murao S, Fujieda H, Sakamoto T, et al: Regional left ventricular dysfunction in a patient with severe prolonged anemia. Jpn Circ J, 1999; 63: 61-63. 10) 金古逸美, 森和也, 小山薫 : 子宮筋腫による高度貧血例の麻酔経験. 日救急医会関東誌, 1994; 15: 310-311. 11) 中村友紀, 川島正久, 小林友季子, 他 : 日産婦関東連合地方部会会報, 2004; 41: 157. 12) 森崇宏, 平工由香, 山本和重, 他 : 子宮腺筋症による重症貧血にて心不全に至り MEA で性器出血をコントロールした一例. 東海産婦誌, 2015; 52: 318. 13) 比嘉涼子, 市田耕太郎, 登村信之, 他 : 当科救急受診者における高度貧血症例の検討. 日産婦誌, 2012; 14) 小林保, 岩田文直, 佐藤典子, 他 :Hb 1.7g/dl の貧血を呈した子宮筋腫の1 例. 日産婦関東連会報, 1993; 30: 616. 15) 朝野晃, 佐藤智子, 石垣展子, 他 : ヘモグロビン 2.0g/dl 未満の高度貧血を二度繰り返した子宮腺筋症の1 例. 臨婦産, 2006; 60: 1415-1418. 16) 高瀬幸子, 宇津野博, 橋本武次 : ヘモグロビン 1.8g/dl と極度の貧血をきたした子宮筋腫の 1 例. 日産婦関東連会報, 1992; 56: 171. 17) 山田義人, 木村真一, 澁谷正徳, 他 : 多量輸血後に白質脳症を呈した1 例. 日救急医会関東誌, 2001; 22: 276-277. 18) 飛梅孝子, 梅本雅彦, 小谷泰史, 他 : 子宮筋腫, 子宮腺筋症における術前子宮重量推定に関する検討. 日産婦内視鏡会誌, 2011; 27: 125. 19) 川越忠篤 : 輸血拒否患者の手術例. 産婦人科治療, 1992; 64: 258-261. 20) 川越忠篤 : 大量出血患者の輸血なし治療例. 産婦人科治療, 1994; 68: 372-375. 本論文内容に関連する著者の利益相反事項はありません 道南医ジ 1:65

道南医ジ 1:66

道南医ジ 1:67

道南医ジ 1:68

道南医ジ 1:69

道南医ジ 1:70