4. 発表内容 : 1 研究の背景超高齢社会を迎えた日本では 骨粗しょう症の患者数は年々増加しつつあり 1300 万人と 推測されています 骨粗しょう症では脊椎や大腿骨を骨折しやすくなり その結果 寝たきり に至ることも多く 患者の生活の質 (QOL) を著しく低下させるため その対策が重要な課題

Similar documents
界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

Untitled

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

平成24年7月x日

平成24年7月x日

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関


研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

検査項目情報 クリオグロブリン Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital 一次サンプル採取マニュアル 免疫学的検査 >> 5A. 免疫グロブリン >> 5A160. クリオグロブリン Ver.4 cryo

汎発性膿庖性乾癬の解明

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

第6号-2/8)最前線(大矢)

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 5. 免疫学的検査 >> 5G. 自己免疫関連検査 >> 5G010. 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

平成24年7月x日

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

論文の内容の要旨

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)


学位論文の要約

目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ

長期/島本1

報道関係者各位

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C A838A815B83588CB48D F4390B3979A97F082C882B5816A2E646F6378>

平成14年度研究報告

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

<4D F736F F D208DC58F498F4390B D4C95F189DB8A6D A A838A815B C8EAE814095CA8E86325F616B5F54492E646F63>

< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

RN201402_cs5_0122b.indd

知っておきたい関節リウマチの検査 : 中央検査部医師松村洋子 そもそも 膠原病って何? 本来であれば自分を守ってくれるはずの免疫が 自分自身を攻撃するようになり 体のあちこちに炎 症を引き起こす病気の総称です 全身のあらゆる臓器に存在する血管や結合組織 ( 結合組織 : 体内の組織と組織 器官と器官

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

(Microsoft Word - \226\306\211u\212w\211\337\213\216\226\ doc)

<4D F736F F D BE391E58B4C8ED2834E C8CA48B8690AC89CA F88E490E690B62E646F63>

-119-

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

情報提供の例

研究成果報告書

H26分子遺伝-20(サイトカイン).ppt

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

Case  A 50 Year Old Man with Back Pain,Fatigue,Weight Loss,and Knee Sweling

<4D F736F F D DC58F49288A6D92E A96C E837C AA8E714C41472D3382C982E682E996C D90A78B408D5C82F089F096BE E646F6378>

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

cover

検査項目情報 抗 SS-A 抗体 [CLEIA] anti Sjogren syndrome-a antibody 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5G076 分析物 抗 SS-A 抗体 Departme


No146三浦.indd

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

図 Mincle シグナルのマクロファージでの働き

Microsoft Word _前立腺がん統計解析資料.docx

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

報告にも示されている. 本研究では,S1P がもつ細胞遊走作用に着目し, ヒト T 細胞のモデルである Jurkat 細胞を用いて血小板由来 S1P の関与を明らかにすることを目的とした. 動脈硬化などの病態を想定し, 血小板と T リンパ球の細胞間クロストークにおける血小板由来 S1P の関与につ

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

Untitled

Microsoft PowerPoint - 2_(廣瀬宗孝).ppt

Transcription:

抗体が骨を壊す 自己免疫疾患に伴う骨粗しょう症のしくみの一端を解明 1. 発表者 : 高柳広 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻免疫学講座免疫学教授 ) 古賀貴子 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻免疫学講座免疫学特任助教 ) 2. 発表のポイント : 抗体 (IgG) が抗原と結合してできる免疫複合体 ( 注 1) が破骨細胞を増やして骨を壊す という抗体の新たな役割をマウスにおいて発見しました 炎症に伴い免疫複合体が増えることと 免疫複合体に対する受容体 (Fcγ 受容体 ) の感受 性が高まることが 骨が減る原因となることがわかりました 自己免疫疾患や炎症性疾患に伴う骨破壊や骨粗しょう症のしくみが明らかになったことで 診断マーカーや新しい治療法が確立されると期待されます 3. 発表概要 : 関節リウマチは 自己免疫疾患の中でも最も発症頻度が高い疾患です 関節リウマチは関節 部位に炎症が起こり 骨が壊れる疾患ですが 関節部位の骨の破壊だけでなく全身の骨量が低 下する骨粗しょう症も伴います 関節リウマチだけでなく 全身性エリテマトーデスなどの自 己免疫疾患や 慢性炎症性腸疾患などの炎症性疾患 多発性骨髄腫においても 骨粗しょう症 を伴うことが知られています しかし 炎症に伴う骨破壊や骨粗しょう症のメカニズムは十分に解明されていないため これを未然に防ぐことは困難です 東京大学大学院医学系研究科の高柳広教授と古賀貴子特任助教らの研究グループは 多くの 自己免疫疾患や炎症性疾患などに共通して増加する抗原 抗体複合体 ( 免疫複合体 注 1) が 骨を壊す細胞である破骨細胞に直接的に働きかけて骨を減少させることを見いだしました ( 図 1) 自己免疫疾患を自然に発症するマウスの解析や 免疫複合体を局所的または全身に投与 したマウスの骨の解析 および関節リウマチの症状を再現した遺伝子改変マウスを用いた遺伝 子発現解析などの手法により 免疫複合体が増加し それを認識する受容体タンパク質 (Fcγ 受容体 ) の発現バランスが変化していることが 間接リウマチにおける局所的な骨の破壊だけ でなく 全身性の骨粗しょう症の一因となることを明らかにしました 本研究は 抗体の骨における新しい役割を見いだし 免疫複合体がさまざまな自己免疫疾患 や炎症性疾患に伴う骨の破壊と骨粗しょう症を早期発見する有効なバイオマーカーになること が期待されます 本成果は国際科学誌 Nature Communications に 2015 年 3 月 31 日午前 5 時 ( 米国東部 時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究は独立行政法人科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業 高柳オス テオネットワークプロジェクト の一環として行われました

4. 発表内容 : 1 研究の背景超高齢社会を迎えた日本では 骨粗しょう症の患者数は年々増加しつつあり 1300 万人と 推測されています 骨粗しょう症では脊椎や大腿骨を骨折しやすくなり その結果 寝たきり に至ることも多く 患者の生活の質 (QOL) を著しく低下させるため その対策が重要な課題 となっています 骨組織では骨を作る骨芽細胞と骨を壊す破骨細胞がバランスよく働くことに よって健康な骨が維持されています 骨粗しょう症を未然に防ぎ または治療するためには 破骨細胞の分化メカニズムを明らかにすることが必要です 骨粗しょう症は 加齢や閉経などが要因となる原発性と 別の疾患や治療薬の副作用によっ て引き起こされる続発性に分けられます 続発性骨粗しょう症としては 関節リウマチ (RA) や全身性エリテマトーデスといった自己免疫疾患 慢性炎症性腸疾患などの炎症性疾患 多発 性骨髄腫に併発する骨粗しょう症がよく知られています RA では 炎症によって増加したサ イトカイン ( 注 2) や T 細胞が 炎症部位で破骨細胞の分化を促進して関節の骨が壊れること がわかっています しかし RA では関節の炎症部位だけでなく全身性の骨粗しょう症も伴うことや RA 以外の自己免疫疾患や炎症性疾患にも骨粗しょう症が伴うことについては サイ トカインや T 細胞だけでは説明ができませんでした 上記の疾患には共通して 抗体産生や免 疫複合体の形成が増加していることが解明の糸口になるかと考えられましたが 破骨細胞に対 する抗体の役割に関しては不明でした また これまでの研究から 免疫系の細胞と破骨細胞は 共通のサイトカインや細胞内シグ ナルで制御されることがわかってきました しかし 抗体やその受容体である Fcγ 受容体 ( 注 3) の骨粗しょう症における役割を探る研究はなされていませんでした 2 研究内容 東京大学大学院医学系研究科の高柳広教授と古賀貴子特任助教らの研究グループは IgG 抗 体とその受容体である Fcγ 受容体の破骨細胞の分化における役割を明らかにしました Fcγ 受容体は IgG 抗体と結合して細胞を活性化させる活性化型と その活性化を抑える抑制型の 2 つに大別されます マウスには 3 つの活性化型 Fcγ 受容体と 1 つの抑制型 Fcγ 受容 体が存在し これらのうち 破骨細胞では活性型の FcγRIII 受容体と抑制型の FcγRIIB 受容体 が多く発現することを見いだしました 抑制型 FcγRIIB 遺伝子を欠損するマウスは糸球体腎炎や浮腫といった自己免疫疾患を自然 に発症することが知られていましたが このマウスの骨組織では破骨細胞数が増加し 骨粗し ょう症も発症していることを発見しました 興味深いことに 炎症や炎症性サイトカインは検 出されないものの 抗体の量だけが増加している状態のマウスでも 既に骨粗しょう症を発症 していました このようなマウスの血中には IgG 免疫複合体が多く含まれていることが判明 し 血清から精製した IgG 免疫複合体が破骨細胞の分化を促していることがわかりました 人工的に IgG 免疫複合体を作製し マウスの頭蓋冠 ( 注 4) へ局所的に投与すると顕著な骨 の破壊が起こりました ( 図 2) また IgG 免疫複合体を尾静脈から全身に回るように投与し た場合も マウスの四肢に多く見られる長管骨の骨量の低下がみられました これらの処置を施したマウスにおいても 骨破壊部位への炎症性細胞の浸潤や血中の炎症性サイトカイン (TNF-α や IL-1β など ) の濃度上昇は見られず 免疫複合体は炎症や免疫応答を介さずに直接的に破骨細胞の分化を促進して骨量を低下させることがわかりました

マウスの IgG 抗体は 4 種類あり そのうちの 1 種である IgG1 抗体は 活性型 FcγRIII 受容 体と抑制型 FcγRIIB 受容体だけに結合しますが 活性化型 FcγRIII 受容体に比べて抑制型 FcγRIIB 受容体への結合が強いため 通常は破骨細胞を活性化しません しかし FcγRIIB 遺伝子を欠損する細胞においては IgG1 抗体が破骨細胞の分化を促進する効果を持つことがわかり ました 一方 IgG1 抗体とは別の IgG 抗体である IgG2a 抗体はすべての Fcγ 受容体に結合しま すが 抑制型 FcγRIIB 受容体に比べて活性化型 Fcγ 受容体への結合が強いため 遺伝子改変し ていない普通のマウス細胞 ( 野生型細胞 ) でも破骨細胞の分化を促進することがわかりました 健康状態のマウスでは IgG 抗体のうち IgG1 抗体が血中の大半を占めており IgG1 抗体と破 骨細胞前駆細胞の FcγRIIB 受容体が IgG1 抗体の効果を抑制しているために骨量減少は起こらな い と示唆されます では RA や骨粗しょう症では IgG 抗体はどのように骨にダメージを与えるのでしょうか 炎症などの病的状況では IgG1 抗体だけでなく IgG2a 抗体や IgG2b 抗体が増加します RA の モデルであるコラーゲン誘導性関節炎を発症させたマウスの血清はこれらの IgG 抗体を多量に 含んでおり この血清は 野生型細胞の破骨細胞の分化を促進する効果を持っていました ま た RA を発症させたマウスから採取した破骨細胞前駆細胞は 正常な細胞に比べて抑制型 FcγRIIB 受容体の発現が減少し 一方で活性化型 FcγRIII 受容体と FcγRIV 受容体の発現が上昇 するため IgG 抗体による破骨細胞の分化促進効果に対する感受性が促進していることが判明 しました 以上の研究により IgG 免疫複合体は免疫細胞が関与することなく 破骨細胞の分化を直接 的に促進することがわかりました また 自己免疫疾患などの病的状態では (1)IgG 免疫複合 体が増加すること および (2) 活性化型と抑制型の Fcγ 受容体の発現バランスが変化して破骨細 胞前駆細胞が IgG 抗体による分化促進効果を受けやすい細胞になっていること の 2 つが骨粗 しょう症の一因となることが明らかになりました ( 図 3) 以上はマウスを用いた研究結果で すが ヒトの末梢血から単離した細胞もヒト IgG 免疫複合体によって破骨細胞前駆分化が促進 されることを確認しています RA や全身性エリテマトーデス患者の単球 ( 破骨細胞前駆細胞 を含む ) でも 抑制型受容体発現の低下や活性化型受容体発現の促進が観察されており 自己 免疫疾患における骨粗しょう症の一因として考えることができます 3 社会的意義と今後の展望 IgG 免疫複合体は 感染 自己免疫疾患 多発性骨髄腫などの多くの疾患で増加します RA では リウマチ因子 ( 注 5) や抗シトルリン化タンパク抗体 ( 注 6) などによる免疫複合体が増加しますが 本研究により これが直接破骨細胞を増やし骨破壊に関与することが明らかになりました また RA を含む自己免疫疾患に伴って発生する骨粗しょう症の主な原因は治療に使われるステロイドの副作用と考えられてきましたが 免疫複合体による直接作用も重要であることがわかりました 今後 血清中の免疫複合体の値は 炎症性の骨破壊や炎症に伴う骨粗しょう症の診断に役立つバイオマーカーとなる可能性があります そして 免疫複合体除去療法や抗体の活性を制御するシアル化 ( 注 7) 阻害剤が炎症性骨破壊や炎症に伴う骨粗しょう症の治療に役立つことが期待されます

5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Nature Communications (2015 年 3 月 31 日オンライン版 ) 論文タイトル :Immune complexes regulate bone metabolism through FcRγ signaling 著者 :Takako Negishi-Koga, Hans-Jürgen Gober, Eriko Sumiya, Noriko Komatsu, Kazuo Okamoto, Shinichiro Sawa, Ayako Suematsu, Tomomi Suda, Kojiro Sato, Toshiyuki Takai & Hiroshi Takayanagi* 6. 用語解説 : ( 注 1) 免疫複合体 抗原と抗体の複合体 免疫複合体は 通常 補体の働きによりマクロファージなどの貪食 細胞によって速やかに処理される 免疫複合体の過剰な形成 補体の機能異常 貪食細胞 の機能低下などの病的状態では 排除されなかった免疫複合体は腎糸球体や血管壁に沈着 して組織障害を引き起こす 全身性エリテマトーデス 関節リウマチ 糸球体腎炎 強皮症 急性ウィルス肝炎 シェーグレン症候群 IgA 腎症 悪性腫瘍 ( 固形癌 リンパ系腫 瘍 ) 細菌性心内膜症 クローン病 天疱瘡 潰瘍性大腸炎 伝染性単核症 多発性動脈炎 混合性結合組織病で上昇する ( 注 2) サイトカイン 細胞から放出されるタンパク質のうち 細胞間の情報伝達にかかわるものの総称 ( 注 3)Fcγ 受容体 Fc 受容体は抗体の定常部分 (Fc) を認識し 細胞表面に存在する 結合する抗体の種類によって 異なる受容体が存在する ( たとえば 本研究で用いた IgG 抗体は Fcγ 受容体と結合する ) マウスやヒトの研究から 活性化型の FcγRI 受容体や FcγRIII 受容体が RA の発症に重要であることや 抑制型の FcγRIIB 受容体の発現低下が発症頻度を高めることなど がわかっていた ( 注 4) 頭蓋冠 頭蓋骨のうち 脳の入っている腔所 ( 頭蓋腔 ) を円盤状に覆っている部分

( 注 5) リウマチ因子 IgG に対する自己抗体 免疫複合体を形成する 関節リウマチ患者のおよそ 8 割以上が血液検査において陽性となる ( 注 6) 抗シトルリン化タンパク抗体 関節リウマチ患者の関節滑膜に多く発現するシトルリン化タンパク質に対する自己抗体 関節リウマチに特異的 ( 注 7) シアル化 糖鎖修飾の一つであり 抗体の Fc 部分はシアル化を含め さまざまな糖鎖修飾を受けてい る シアル化された抗体は免疫活性を抑制する機能を持つことが知られている 本研究で は 抗体のシアル化を除去することによって 抗体の破骨細胞の分化を促進する能力が低 下することがわかった 7. 添付資料 : 図 1 免疫複合体による破骨細胞の分化破骨細胞は破骨細胞分化促進因子 (RANKL) がその受容体 RANK に結合して分化します RA では炎症性サイトカインが関節滑膜細胞上に RANKL の発現を促進するため 破骨細胞の分化が促され骨が壊れます しかし RA において関節炎症部位の骨の破壊だけでなく体の全体で骨粗しょう症が起こることや 他の自己免疫疾患でも骨粗しょう症が発症することを説明できませんでした 本研究は 自己免疫疾患や炎症性疾患において増加した抗原と抗体複合体 ( 免疫複合体 ) が直接破骨細胞の分化を促進することが骨粗しょう症の一因であることを明らかにしました

図 2 IgG 免疫複合体による破骨細胞を介した骨の破壊 IgG1 免疫複合体を野生型または FcγRIIB 遺伝子を破壊したマウスの頭蓋冠下に投与すると FcγRIIB 遺伝子を破壊したマウスでのみ破骨細胞が増加 ( 下段中央 赤色 ) し 骨破壊の誘導 が見られました また IgG2a 免疫複合体は FcγRIIB 遺伝子を破壊したマウスだけでなく 野生型マウスにおいても破骨細胞による骨破壊の誘導が見られました ( 右 ) この際 骨破壊部位 に炎症性細胞の浸潤は見られず 免疫細胞が関与することなく 免疫複合体が直接的に破骨細 胞の分化を促進することがわかりました 図 3 免疫複合体が破骨細胞の分化を促進するメカニズム 健康状態 ( 上 ) の破骨細胞前駆細胞では 主に活性化型 FcγRIII 受容体と抑制型 FcγRIIB 受容体が発現し IgG1 抗体による活性化シグナルは FcγRIIB 受容体によって抑制されるため IgG1 抗体による破骨細胞の分化は起こりません 病的状態 ( 下 ) では IgG1 抗体に加えて IgG2 抗体が増加し これらが免疫複合体を形成するため 破骨細胞の分化を促進します また この ような状況下での破骨細胞前駆細胞では抑制型 FcγRIIB 受容体の発現が減少し 一方 活性化

型 FcγRIII 受容体と FcγRIV 受容体の発現が増加するため 免疫複合体による破骨細胞分化の促 進効果を受けやすい細胞になり より分化が促進されます