Yoshiharu Hoshino 1960 年 長野県軽井沢町生まれ 83 年 慶應義塾大学経済学部卒 米国コーネル大学ホテル経営大学 院修士課程修了 91 年 星野温泉 ( 現在の星野リゾート ) 社長に就任 所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり 運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換 現在 運営拠点は ラグジュアリーラインの 星のや 小規模高級温泉旅館の 界 高級リゾートホテルの リゾナーレ の 3 ブランドを中心に国内外 35 カ所に及ぶ
特別企画 TOP INTERVIEW グローバルオペレーターへの足がかりとなる 星のや東京 の開業 持続可能な強みを磨き 世界を目指す 星野リゾート代表星野佳路氏 星のや東京総支配人菊池昌枝氏 2016 年 7 月 20 日 星のや東京が開業をした 同 旅館 の開業は 星野リゾートに新たな施設が加わったというだけの話ではない 旅館をホテルの一つのカテゴリーとして世界の投資家たちから選ばれるものにしたい という 星野リゾートの大きな目標に向けた第一歩目という大きな意味を持つ 西洋文化から生まれたホテルに対し 日本生まれの旅館がより高い顧客満足と そしてより高い収益性を生み出せるのか 本インタビューでは大きな挑戦を迎えた星野リゾート代表の星野佳路氏と星のや東京総支配人の菊池昌枝氏に星のや東京の開業に寄せる思い そして今後のビジョンについて聞いた 聞き手本誌 岩本大輝写真林正 すし屋や日本車が世界中にあるように日本旅館がホテルのカテゴリーとして世界にあってもいい いよいよ星のや東京が開業を迎えました それぞれの視点で この開業に寄せる思いについて教えてください 星野思いは 日本旅館というスタイルを世界の宿泊施設の一つのカテゴリーとして確立したいというものです 日本に来たから ではなく 温泉地に来たから でもなく 日本旅館というスタイルが快適で 機能的だから日本旅館に宿泊をする それが確立できれば日本旅館は海外に出ていくことができます この度 開業を迎える星のや東京はそのベースキャンプになれれ ばと考えています 菊池現在の東京では宿泊先を選ぶときにホテルしかないと思うのですね そこに旅館があってもいいはずだ という星野の考えには非常に共感をしています 東京に訪れた日本人でも 海外からのお客さまでも 宿泊先の選択肢としてホテルのほかに旅館というカテゴリーとしてつくること これが私たちの目指す所です 星野私は すし屋が世界中にあり 日本車が世界中を走っているように 日本旅館というホテルのスタイルも世界にあっていいと考えています ただし そのためには 勝てる形 が重要 です 従来のままの日本旅館では西洋式のホテルには勝てません 高い快適性と機能性を持ち さらにマルチタスクを駆使した高い収益性が重要です 1980 年代 日本にあるホテルが世界的に高い評価を受けたにもかかわらず その後日本のホテル運営会社が世界に出たとき 全く勝てず撤退することとなりました それは 西洋式のホテルをそのまま踏襲したものが日本にあったからこそ成功をしただけであり 世界に出る時の 勝てる形 ができていなかったからだと考えています つまり 持続可能な強み がなかったわけです 星のやのマルチタスクによる高い収益性はどこのホテルチェーンにもない まさに持続可能な強みであると考えて ー 2016.8.12 ー 17
TOP INTERVIEW います これを武器に東京で成功をさせ 世界に出ていきたいと考えています 需要のない場所に需要をつくる のは得意だったが すでに需要のある場所での運営 は未知の領域だった 東京における 日本旅館 をどのように表現されていくのでしょうか? 星野東京にどのような日本旅館があるべきか という点では試行錯誤がありました 私たちは青森屋とか竹富島のように 本来 泊まる という需要がない場所にいかに需要を呼び起こすかということはこれまでも数多くやってきました ところが 東京には最初から 泊まる という需要はあります そういった場所での挑戦というのは未知の領域でした 最終的に行き着いたのは 日本旅館らしさを追求していこうということでした その中の一つの大きな特徴として お茶の間ラウンジ があります 高級ホテルのミニバーでは さまざまなドリンクを用意するために 冷蔵庫がどんどん大きくなっています そして チェックアウトの際の自己申告制というスタイルもずっと変わっていません 私は それが高級ホテルのサービスとして最適だとは思っていませんでした それを日本旅館としてどのように解決していくかとなったときに行き着いた答えが お茶の間ラウンジだったのです ここには夜中の時間以外にはスタッフがいます そのスタッフが時間ごと 季節ごと そしてお客さまのお好みに合わせ 温かいものから冷たいものまでさまざまなものをご提案いたします それが日本旅館らしい解決方法であると考えたのです 菊池まずハード面では 旅館というものを 旅館の良い部分は大切にしながらも 現代のニーズに合わせて変える部分は変えていきました 具体的には 玄関で靴を脱ぐとか 木や畳といった自然の素材を多く使うとか そういった点は変わらない部分です 一方で 例えば障子はその裏にロールカーテンがあるわけですが それは今の時代に必須であると考えたからです 海外からもお客さまはいらっしゃいますし 何時にチェックインされるかも分からない 明るい時間に寝られるお客さまもいらっしゃると思います そういった 今の時代に必要なものをそろえながらも 今までの日本と同じもので良ければそれを生かすという形のハードにはなっています 日本の素晴らしさを伝える スタッフが つなぎ役 として重要な役割を果たす菊池一方で ラグジュアリー = 高いもの という発想は私たちにはありません 結果的にコストがかかっているところはありますが こだわっているのは館内のアイテムや細部にまでおよぶ 日本らしさ という点です アイテムに関しては私たちの考えに共感をしていただけ また お客さまにとって良いものを作っていただける方にお願いをしました 例えばお茶碗でも 50 75ml の小さなものにしたのですが それはお客さまにお茶をおかわりしていただき いろいろと味わっていただけるようにしたいと考えたためです お茶の間ラウンジにもさまざまなものを用意していますが それを作っていただいた 作る人 私たちのようなそれらを使わせいただく 使う人 そして それらを 享受していただける人 であ るお客さま こういう関係を作り上げていくことができるのも 旅館ならではなのかなと考えていますね その点ではスタッフのサービスが重要ですね 菊池はい ご存じの通り星野リゾートでは顧客満足度という指標があるのですが その中でもお客さまとのコミュニケーションという点を重視しています ハードが完成されている分 スタッフの接客が満足度に影響をしていくのかなと考えていますね ところで 菊池さんは今回の星のや東京の開業は相当なプレッシャーがあったのではないでしょうか 菊池意外と思われるかもしれませんが それほどありませんでした というのは 星野リゾートはこれまで数多くの施設の開業を経験していますから そのノウハウがシステマチックにできあがっていたからです やるべきことは明確になっているので 私はただそのプロセスに専念をするだけでしたね 私は以前星のや京都の開業でも総支配人としてかかわったのですが 当時はそういったノウハウもありませんでしたから そちらの方が大変だったという記憶があります 稼働率や ADR は外的環境の影響を受けるしかし マルチタスクによる高い収益性は他社との大きな差となる あらためてグローバルオペレーターへという観点でお聞きしたいと思います 世界に出て行く となると収益性 18 ー 2016.8.12 ー
Masae Kikuchi 国国内 海外のトイレタリー化粧品メーカーを経て 2000 年に 星野リゾート入社 ブライダル事業を担当し 2007 年から星のや京都開業準備及び総支配人を経て 2013 年より星のや軽井沢総支配人 2015 年から星のや東京開業準備を経て 2016 年 7 月より現職 ー 2016.8.12 ー 19
TOP INTERVIEW は非常に重要になると思います 今回の東京でも周辺の外資系ラグジュアリーホテルの数字などは意識されたのでしょうか? 星野当然意識をしました ただ 私たちの強みはマルチタスクによる高い収益性にあると考えています 稼働率や ADR というのは市場環境など外的環境の影響を大きく受けます そのような中でも 他社と比較して大きな利益を生み出せるのが星のやの強みであると考えています マルチタスク= 利益を外に出さない ということです 客室清掃を例にあげると 外資系のホテルでは 客室清掃は外注へ依頼をしています 私たちは客室清掃も正社員が行ない 手待ち時間なく生産性の高い仕事ができるようにしています そのノウハウが私たち星野リゾートにはあります ですから 84 室の星のや東京を 約 100 名の正社員スタッフが全て運営していきます これが世界のホテル運営会社のノウハウとはまったく違うものであり これこそが海外の投資家にアピールできる点だと考えています ちょっとヘルプに はマルチタスクではない 10 年かけて培った独自の強みをさらに磨いていく星野マルチタスクは皆さままねされようとしますが 結果としてできていません ちょっとヘルプに というのはマルチタスクとは全く異なります そもそも フロントがレストランにヘルプに行くという考え自体が違うのです 部門 間の垣根をすべて取り払うことがマルチタスクを達成する上で重要です ホテルはどうしても縦割り型組織の傾向があり それが長く根付いている文化的な背景がマルチタスクの実現を難しくしているのだと思います それだけ簡単ではないということです 私たちも 10 年以上をかけてつくり上げた仕組みですから 星野リゾートではマルチタスクの仕組みをシステム化していますが 現在はさらにその仕組みを強固にするという実験も始めています マルチタスクは私たちの大きな強みだと考えていますので そこには今後も積極的な投資を行なっていきます さらなる展開の礎をつくる お二人のこれからのチャレンジについて教えてください 星野まずは この星のや東京が国内 海外 レジャー ビジネス双方のお客さまに快適で機能的であるとご満足をいただけるようにしていくことです 特に海外への展開を考える場合 ここは金融街 大手町ですので 海外から のビジネスのお客さまに選ばれることも重要だと思っています また 星野リゾートとしては 来年から旭川グランドホテルを運営いたしますが この地方都市観光の領域も今後の国内の展開では重要です まだ具体的には何も決まっていませんが 観光客のニーズに応えるという点に現地スタッフとしっかり取り組んでいきたいと思います リゾナーレ八ヶ岳のときも 子供連れファミリーでここまでリゾートを再生できるのだと自分たちも含めて気付かされました 青森屋の再生やトマムの雲海のときもそうですね そういった成功体験は自信を与えてくれます 菊池冒頭の旅館をホテルのセグメントの一つとするというミッションを達成することですね 遠くない未来に 海外に出るきっかけは東京だったね と皆で言えるようにしたいです また 星のや東京は社内異動と中途採用が約半数ずつで いろいろなスタッフがいます まずはそのスタッフたちが一年内に星のや東京のおもてなしができるようにすることですね 守破離 をテーマに掲げていまして まずはやるべきことをできるようになる (= 守 ) そこからほかのスタッフの知識や経験を織り交ぜ実践していく (= 破 ) 最後に 向かうべき方向性と許容範囲の中で自由にやれるようにすること (= 離 ) というものなのですが 皆で協力をし合いながら自由に活躍できるスタッフがどんどん出てくるようにしていきたいと思います 20 ー 2016.8.12 ー