トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

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イン版 (2 月 22 日付け : 日本時間 2 月 23 日 ) に掲載されます 注 )R. Yoshimi, K. Yasuda, A. Tsukazaki, K.S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura, Quantum Hall

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

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体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

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マスコミへの訃報送信における注意事項

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平成**年*月**日

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

平成18年2月24日

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1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

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図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

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             論文の内容の要旨

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

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氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

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1 背景 物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ 通常反粒子が別の粒子として存在します 例えば 電 子の反粒子は陽電子であり 異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます 一方で 粒子と反 粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が 素粒子の一つとして 1937 年に予言

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

【NanotechJapan Bulletin】10-9 INNOVATIONの最先端<第4回>

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

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平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と


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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

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C-2 NiS A, NSRRC B, SL C, D, E, F A, B, Yen-Fa Liao B, Ku-Ding Tsuei B, C, C, D, D, E, F, A NiS 260 K V 2 O 3 MIT [1] MIT MIT NiS MIT NiS Ni 3 S 2 Ni

1 薄膜 BOX-SOI (SOTB) を用いた 2M ビット SRAM の超低電圧 0.37V 動作を実証 大規模集積化に成功 超低電圧 超低電力 LSI 実現に目処 独立行政法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 ( 理事長古川一夫 / 以下 NEDOと略記 ) 超低電圧デバイス技術研究組合(

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本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

論文の内容の要旨

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ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

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交番磁気力顕微鏡 : 空間分解能 5nm と高機能性の実現 秋田大学 工学資源学研究科附属理工学研究センター教授齊藤準 機器開発タイプ ( 平成 23 年度 ~26 年度 ) 開発課題名 : ベクトル磁場検出 高分解能 近接場磁気力顕微鏡の開発中核機関 : 秋田大学参画機関 :( 株 ) 日立ハイテ

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PRESS RELEASE 2017 年 12 月 6 日理化学研究所東京大学東北大学金属材料研究所科学技術振興機構 磁壁におけるトポロジカル電流を観測 - 省エネルギースピントロニクスデバイスの基礎原理を実証 - 要旨理化学研究所 ( 理研 ) 創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの安田憲司研修生 ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 十倉好紀グループディレクター ( 同教授 ) 強相関界面研究グループの川﨑雅司グループディレクター ( 同教授 ) 動的創発物性研究ユニットの賀川史敬ユニットリーダー ( 同准教授 ) 東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らの共同研究グループ は 磁性トポロジカル絶縁体 [1] の磁壁 [2] におけるトポロジカル電流の観測とスピントロニクス [3] デバイスの基礎原理の実証に成功しました 近年 磁性トポロジカル絶縁体と呼ばれる特殊な磁石 [2] で 量子異常ホール効果 [4] という現象が観測されました これは 磁石中に磁化 [2] があることで生じる外部磁場が不要な量子ホール効果 [4] であり 試料端において エネルギー散逸の少ないトポロジカル電流が一方向に流れます このとき 磁区 [2] の境界である磁壁においてもトポロジカル電流が生じることが理論的に提唱されていました 磁壁でのトポロジカル電流は その向きおよび位置を制御することができるため これを用いた再構成可能な回路の設計が可能であり 低消費電力素子への展開を飛躍的に進めると期待されます しかし 磁区を任意に作ることが困難であり 磁壁でのトポロジカル電流はこれまで観測されていませんでした 今回 共同研究グループは磁気力顕微鏡 [5] を用いることで 磁性トポロジカル絶縁体上に任意の磁区を書き込む手法を新たに確立しました 磁区形成後の素子に対して 0.5K(-272.65 ) の極低温で電気伝導測定を行ったところ 磁区構造に応じた量子化抵抗が観測され 磁壁におけるトポロジカル電流の存在が確認されました さらに 単一素子内でのさまざまな磁区構造の形成により トポロジカル電流の流れおよび量子化抵抗を自在に制御できることを明らかにしました 本研究により トポロジカル電流を用いた新しいスピントロニクスデバイスの基礎原理が実証されました 今後 電流での磁壁駆動による次世代磁気メモリ [6] の構築や動作温度の高温化によるデバイスのさらなる発展が期待できます 本成果は 米国の科学雑誌 Science に掲載されるのに先立ち オンライン版 (12 月 7 日付け : 日本時間 12 月 8 日 ) に掲載されます 本研究は 最先端研究開発支援プログラム (FIRST) 強相関量子科学 ( 中心研究者 : 十倉好紀 ) 科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業 (CREST) 1

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研修生茂木将孝 ( もぎまさたか ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 1 年 ) グループディレクター十倉好紀 ( とくらよしのり ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物理部門強相関界面研究グループグループディレクター川﨑雅司 ( かわさきまさし ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 上級研究員高橋圭 ( たかはしけい ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 強相関物理部門強相関量子伝導研究チーム基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 統合物性科学研究プログラム動的創発物性研究ユニットユニットリーダー賀川史敬 ( かがわふみたか ) ( 東京大学大学院工学系研究科准教授 ) 東北大学金属材料研究所教授塚﨑敦 ( つかざきあつし ) ( 理化学研究所創発物性科学研究センター強相関界面研究グループ客員主管研究員 ) 1. 背景 近年 数学的なトポロジー ( 位相幾何学 ) の概念に基づいた分類による自然界に存在する新しいタイプの物質相が注目を集めています トポロジカル絶縁体 [1] はその一つの例で 物質内部は電気を流さない絶縁体ですが 物質表面にはトポロジーで守られた特殊な金属状態が存在しています トポロジカル絶縁体に磁性元素を添加した 磁性トポロジカル絶縁体 においては磁化が発生し それに伴って試料端に電流が一方向にのみ流れるトポロジカル電流が発生します これはホール抵抗 [4] の量子化として観測でき 量子異常ホール効果 として知られています このようなトポロジカル電流は試料の端を一方向にのみ流れるためエネルギー損失を伴わず これを利用した低消費電力素子への展開が期待されています 特に量子異常ホール効果には 外部から強磁場を加えることが必要な通常の量子ホール効果とは異なり 磁化の向きを上下反転させるだけでトポロジカル電流の向きを制御できるというメリットがあります 2

トポロジカル電流の流れを制御する新たな手法として 磁区の境界である磁壁においてもトポロジカル電流が現れることが提唱されています これは 上下二つの磁区をつなぎ合わせることで その境界にもトポロジカル電流が生じるということで理解できます ( 図 1) 磁壁でのトポロジカル電流は試料端でのトポロジカル電流と異なり 磁区の制御によってその向きだけでなく位置も制御することができます したがって 磁壁でのトポロジカル電流を用いた再構成可能な回路の設計により 低消費電力素子への展開を飛躍的に進めると期待できます しかし 任意に磁区を作ることが困難なため 磁壁でのトポロジカル電流はこれまで観測されていませんでした 図 1 量子異常ホール状態での試料端と磁壁に生じるトポロジカル電流 量子異常ホール状態では 試料端にトポロジカル電流が流れる結果 ホール抵抗が h/e 2 の値に量子化する 上向きの磁化 下向きの磁化に対して トポロジカル電流の流れる向きは逆向きになり ホール抵抗はそれぞれ +h/e 2, -h/e 2 となる 同様にして 磁壁においてもトポロジカル電流が流れることが予言されている 2. 研究手法と成果 共同研究グループは これまでの研究でトポロジカル絶縁体 (Bi 1-y Sb y ) 2 Te 3 (Bi: ビスマス Sb: アンチモン Te: テルル ) に磁性元素 Cr( クロム ) を添加した磁性トポロジカル絶縁体 Cr x (Bi 1-y Sb y ) 2-x Te 3 を積層させた 磁性トポロジカル絶縁体薄膜の作製法を確立し 量子異常ホール効果の観測に成功しています注 1) 磁壁におけるトポロジカル電流の観測のためには 試料の磁区を自在に制御する方法を確立する必要があります そこで 通常は磁区構造の観察に用いられる磁気力顕微鏡を磁区の書き込みに用いたところ 磁性トポロジカル絶縁体上に任意の磁区構造を形成することに成功しました ( 図 2) これにより 磁区書き込みを行った場所のみの磁化が反転していることが分かりました 3

図 2 磁気力顕微鏡による磁性トポロジカル絶縁体への磁区の書き込み 左 ) 磁区書き込み前の磁区構造観察結果 すべての領域で磁化が下を向いており 単一磁区となっていることが分かる 右 ) 磁気力顕微鏡による磁区書き込みを行った後の磁区構造観察結果 点線枠内のみの磁化が上を向いており 磁区書き込みに成功したことが分かる 磁区構造形成の方法を確立したため 加工した素子に対し本手法を適用し 左半分の磁化が上 右半分の磁化が下となったような磁区構造を作りました このような素子に対して 0.5K(-272.65 ) の極低温において電気伝導測定を行ったところ 単一磁区の状態と異なる特徴的な量子化した抵抗値が確認されました ( 図 3) 磁区構造に応じた量子化抵抗を理論予測と比較したところ 磁壁にトポロジカル電流が生じていることが明らかになりました トポロジカル電流が生じているとき 縦抵抗は電流の下流では抵抗値が 0 上流では 2h/e 2 の値にそれぞれ量子化します また 左半分の磁化が下 右半分の磁化が上の磁区構造を作ったところ トポロジカル電流の向きが反転することが分かりました 磁壁におけるトポロジカル電流の存在を確認し また 磁区構造を任意に制御する方法を確立したため これらを利用することでトポロジカル電流の流れと向きを自在に制御できると期待できます 実際 磁気力顕微鏡を用いてさまざまな磁区構造を形成 抵抗測定を行ったところ いずれの磁区構造においても理論から期待される量子化抵抗との一致を示しました これにより トポロジカル電流を用いた新たなスピントロニクスデバイスの基礎原理が実証されました 4

図 3 抵抗の磁区構造依存性 上のグラフは 各磁区構造における抵抗値を表している それぞれ左から単一磁区状態 左半分の磁化が上 右半分の磁化が下となった磁区状態 左半分の磁化が下 右半分の磁化が上となった磁区状態に対応する 端子 5 から端子 6 に電流を流し 端子 i, j 間の抵抗 R ij(r 13 R 24 R 12 R 34 R 56) を測定した 実線の水平の線は 試料端および磁壁にトポロジカル電流が存在するときに期待される量子化抵抗の理論値 理論値と実験値がほぼ一致していることが分かる 注 1)M. Mogi, R. Yoshimi, A. Tsukazaki, K. Yasuda, Y. Kozuka, K. S. Takahashi, M. Kawasaki and Y. Tokura, Magnetic modulation doping in topological insulators toward higher temperature quantum anomalous Hall effect, Appl. Phys. Lett. 107, 182401 (2015). 3. 今後の期待 今回の成果により 量子異常ホール効果においては試料端のみならず磁壁においてもトポロジカル電流が存在することが明らかになりました 試料内部の磁壁はその制御性の高さから トポロジカル電流を用いた量子電磁気現象 量子コンピューティング [7] の舞台として利用できると期待できます また 磁壁におけるトポロジカル電流を用いた省エネルギースピントロニクスデバイスの動作の基礎原理が実証されました 今後 電流での磁壁駆動による次世代磁気メモリの構築や動作温度の高温化によるデバイスのさらなる発展が期待できます 4. 論文情報 < タイトル > Quantized chiral edge conduction on reconfigurable domain walls of a magnetic topological insulator < 著者名 > K. Yasuda, M. Mogi, R. Yoshimi, A. Tsukazaki, K. S. Takahashi, M. Kawasaki, F. Kagawa 5

and Y. Tokura < 雑誌 > Science <DOI> 10.1126/science.aan5991 5. 補足説明 報道解禁日 : 日本時間 2017 年 12 月 8 日午前 4 時 8 日朝刊 [1] 磁性トポロジカル絶縁体 トポロジカル絶縁体トポロジカル絶縁体は固体内部では電気を流さない絶縁体であるが 物質表面でのみ電気を流す金属として振る舞う 3 次元トポロジカル絶縁体の場合 その表面のみに 2 次元の伝導が現れる 表面状態はトポロジーによって特徴づけられる特殊な金属状態で 通常の金属とは異なる振る舞いを示す 磁性元素を添加することによって 磁石としての性質も現れ これを磁性トポロジカル絶縁体と呼ぶ 特殊な金属状態と磁石としての性質が作用する結果として 磁性トポロジカル絶縁体では量子異常ホール効果を生じる [2] 磁壁 磁石 磁化 磁区鉄などに代表される磁石は 磁化を持っており 磁場の発生源となる 二つの極の方向 (N 極 S 極 ) を 0 1 に対応させることで 記憶素子として用いられる N 極 S 極をそれぞれ 上向きの磁化 下向きの磁化ということもある 大きな磁石では 場所によって磁化の向きが異なることがあり 同じ方向を向いた領域のことを磁区という また 異なる方向を向いた磁区と磁区の境界を磁壁という [3] スピントロニクス電子は電荷と磁石の性質の両方を持つ このうち電荷のみの性質が利用されてきた通常のエレクトロニクスと異なり 電荷と磁石の性質の両方を利用 応用する分野をスピントロニクスという 磁化の向きや磁区を利用することで 大容量かつ省電力なハードディスクドライブや不揮発性 ( 電源を切ってもデータを保持できる ) メモリが実現されている [4] 量子異常ホール効果 量子ホール効果 ホール抵抗 2 次元を運動する電子に磁場を加えることで 試料端を一方向にのみ流れるトポロジカル電流が発生する その結果 ホール抵抗 ( 電流を加えた方向と垂直方向に生じる電圧を電流値で割ったもの ) がプランク定数 h と電気素量 e で表される h/e 2 ( 約 25.8 kω) の整数分の 1 の値に量子化する この現象を量子ホール効果と呼ぶ 同様の現象は磁化によっても生じ これを量子異常ホール効果と呼ぶ このとき 上向きの磁化 下向きの磁化に対して トポロジカル電流の流れる向きは逆向きとなり ホール抵抗はそれぞれ +h/e 2, -h/e 2 となる [5] 磁気力顕微鏡磁石で被覆された探針により 物質表面を走査することで 物質の磁区構造を可視化する手法 本研究では 探針からの漏れ磁場を用いることで磁化の向きを反転させ 磁区の書き込みができることを明らかにした 6

[6] 次世代磁気メモリ磁性体上の細線上に多数の磁壁を形成し 電流によってこれらを移動させることによって 記憶 演算を行うメモリが次世代磁気メモリとして注目されている 磁壁におけるトポロジカル電流と組み合わせることで 磁壁に機能性を持たせた次世代磁気メモリを構築できると期待される [7] 量子コンピューティング量子力学的な重ね合わせ状態を用いることで 大規模な計算を高速に行うことができるコンピュータ 特に 磁性トポロジカル絶縁体と超伝導体を接合することで 外界からの擾乱に対して堅牢なトポロジカル量子コンピューティングが実現できると期待される 6. 発表者 機関窓口 < 発表者 > 研究内容については発表者にお問い合わせ下さい理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) グループディレクター十倉好紀 ( とくらよしのり ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物理部門強相関界面研究グループグループディレクター川﨑雅司 ( かわさきまさし ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 統合物性科学研究プログラム動的創発物性研究ユニットユニットリーダー賀川史敬 ( かがわふみたか ) ( 東京大学大学院工学系研究科准教授 ) TEL:048-467-9774( 安田 ) FAX:048-462-4703( 安田 ) E-mail:yasuda@cmr.t.u-tokyo.ac.jp( 安田 ) 東北大学金属材料研究所低温物理学研究部門教授塚﨑敦 ( つかざきあつし ) ( 理化学研究所創発物性科学研究センター強相関界面研究グループ客員主管研究員 ) 左より安田研修生 十倉グループディレクター 川﨑グループディレクター 7

左より賀川ユニットリーダー 塚﨑教授 < 機関窓口 > 理化学研究所広報室報道担当 TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715 E-mail:ex-press@riken.jp 国立大学法人東京大学大学院工学系研究科広報室 TEL:03-5841-1790 FAX:03-5841-0529 E-mail:kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp 国立大学法人東北大学金属材料研究所情報企画室広報班横山美沙 TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482 E-mail:pro-adm@imr.tohoku.ac.jp 科学技術振興機構広報課 TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432 E-mail:jstkoho@jst.go.jp <JST 事業窓口 > 科学技術振興機構戦略研究推進部 TEL:03-3512-3531 FAX:03-3222-2066 E-mail:crest@jst.go.jp 8