第 1 章 商品売買 現金 当座預金 当座借越 小口現金 1. 商品売買 1 三分法 分記法 入門編では商品売買の際に使用する科目として 売上 仕入 繰越商品という3つの勘定科目を使用してきました このような会計処理の方法を 3 つの勘定科目を使用することから三分法といいます 他の処理方法として分記法という処理方法があります この方法は商品 ( 資産科目 ) と商品売買益 ( 収益科目 ) を使用して処理する方法です A 商店より商品 1,000 円を仕入れ 現金で支払った 借 商品 1,000 / 貸 現金 1,000 商品という資産の増加と現金という資産の減少として仕訳をします A 商店より仕入れた商品を B 商店へ 1,500 円で販売し 現金を受領した 借 現金 1,500 / 貸 商品 1,000 / 貸 商品売買益 500 現金という資産の増加と商品という資産の減少として記録すると同時に差額に商品売買益という収益科目を計上します 今まで学習した三分法と比較すると 分岐法を使用するとその都度いくら儲かったかという商品 販売益が分かりますが 試算表を作成した際には分記法だと売上金額や仕入金額は分からず 利益のみしか分かりません その為 実務的にはほとんどの企業が三分法を採用しています 2 返品 値引の処理返品とは 仕入れた商品に品質不良 傷などがあったとき 仕入先へ送り返すことがあります 仕入れた商品を送り返すことを仕入戻し 売り上げた商品が返品されることを売上戻りといいます 2
返品の処理 返品の処理は商品の仕入れや販売をした時の処理の取り消しです つまり 仕入れや販 売をした仕訳を反対にした仕訳を行います ⅰ 売上戻り ~ 仕訳は売上時の逆となる仕訳を行います B 商店に販売した商品に品違いがあり 100,000 円分の返品を受けた この金額 100,000 円については同商店に対する売掛金と相殺することとした 借 売上 100,000 / 貸 売掛金 100,000 ポイント B 商店に販売した時の仕訳は 借 売掛金 100,000 / 貸 売上 100,000 となっていたはずですので その反対仕訳を行うということです ⅱ 仕入戻し ~ 仕訳は仕入れ時と反対の仕訳を行います 上記の B 商店側の処理 借 買掛金 100,000 / 貸 仕入 100,000 値引きの処理 売上値引きは売値の修正であり 仕入値引きのときは仕入値の修正です 仕訳は返品と 同じですが 金額は修正金額のみとなります ⅰ 売上値引の処理 G 商店へ商品を 100,000 円現金にて販売していたが 商品に破損している部分があったた め 10,000 円の値引きを行い 現金で支払った 借 売上 10,000 / 貸 現金 10,000 ⅱ 仕入値引の処理 ~ 先ほどの G 商店の処理 借 現金 10,000 / 貸 仕入 10,000 3
3 仕入諸掛の処理 諸掛とは 商品を送る時の運賃や運送保険料 輸入する時の関税などを諸掛といいます 商品を引き取る時にかかる費用を仕入諸掛 商品を発送する時にかかる費用を売上諸掛といいます 仕入諸掛の処理 A 商店より商品 20,000 円を仕入れ 代金は掛けとした なお 仕入れの際に当店が負担 する引き取り運賃 500 円を現金にて支払った ⅰ 当店が負担する場合仕入諸掛は仕入原価に含めて処理します 仕入諸掛は仕入勘定で処理します 借 仕入 20,500 / 貸 買掛金 20,000 / 貸 現金 500 ⅱ 相手先が負担する場合で 当店がこれを立替た場合次に 相手先が諸掛を負担するケースで 当店が諸掛代を支払った時の処理はどのようになるのでしょうか? 後日相手先から当店が支払った代金をもらえるので 資産グループの立替金勘定で処理するかもしくは 相手に支払う買掛金に充当することもできますので買掛金の減少で仕訳します 立替金とは 本来支払うべき人に代わって 当店が一時的に支払う場合に利用する資産グループの勘定科目です 将来お金を受け取れる権利を表しています 借 仕入 20,000 / 貸 買掛金 20,000 借 立替金 500 / 貸 現金 500 ⅲ 引き取り運賃を相手に支払う買掛金に含めた場合 借 仕入 20,000 / 貸 買掛金 20,000 借 買掛金 500 / 貸 現金 500 4
4 売上諸掛の処理 B 商店へ商品 20,000 円を販売し 代金は掛けとした なお 販売の際に当店が負担する引 き取り運賃 500 円を現金にて支払った ⅰ 当店が負担する場合 売上諸掛は費用グループである支払運賃勘定を使って仕訳します 借 売掛金 20,000 / 貸 売上 20,000 借 支払運賃 500 / 貸 現金 500 ⅱ 相手先が負担する場合で 当店がこれを立替た場合 借 売掛金 20,000 / 貸 売上 20,000 借 立替金 500 / 貸 現金 500 ⅲ 引き取り運賃を相手からもらう売掛金に含めた場合 借 売掛金 20,500 / 貸 売上 20,000 / 貸 現金 500 引取費用 発送費用 当店負担の場合 仕入にて処理 支払運賃にて処理 相手先負担の場合 1 立替金勘定で処理 2 買掛金と相殺 1 立替金勘定で処理 2 売掛金に加算 5
5 売上原価の算定 売上原価とは当期に売り上げた商品に対応する仕入原価です 入門編では期末在庫を資産計上することで計上しましたが期首商品があった場合について学習します 期首商品がある場合には貸借対照表にて資産計上されていますので費用科目である仕入に振替ます 従って売上原価はこの計算式で求めます 売上原価 = 期首繰越商品 + 当期仕入高 期末繰越商品 期末商品棚卸高は 500 円であった ( 当期の商品仕入高は 9,000 円 期首商品棚卸高は 1,000 円 ) 借 仕入 1,000 / 貸 繰越商品 1,000 借 繰越商品 500 / 貸 仕入 500 仕入 期首商品 1,000 売上原価 9,500 当期仕入 9,000 期末商品 500 又 売上原価を算定する際に 仕入勘定でなく 売上原価勘定を使用することもあります この 場合にはまず期首商品を繰越商品から売上原価に振り替え 次に仕入勘定を売上原価勘定に振 り替えます そして最後に期末商品を売上原価から繰越商品に振り替えます 上記にて売上原価勘定を使用した仕訳 借 売上原価 1,000 / 貸 繰越商品 1,000 借 売上原価 9,000 / 貸 仕入 9,000 借 繰越商品 500 / 貸 売上原価 500 6
2. 現金 1 他人振出小切手を受け取った時ドラマなどでお金持ちが小切手に金額を記入して相手に渡すシーンをみたことはありませんか? 例えば A さんが B さんに小切手を振り出したとします 小切手は振り出した人 (A さん ) がこの小切手を持ってきた人 B さんにこの金額を支払って下さいと銀行にお願いするための証券です B さんはいつでも銀行で換金することが出来るので 他人が振り出した小切手は現金勘定として処理します C 商店へ商品 1,000 円を販売し 代金は同店振出の小切手で受け取った 借 現金 1,000 / 貸 売上 1,000 逆に他人振出小切手で支払をした場合には現金の減少として処理します < 小切手以外で現金として扱うもの> 他人振出小切手の様に 一般的に考えられている紙幣や硬貨などの現金ではないのだけれども簿記上現金として扱うものを通貨代用証券といいます 通貨代用証券には 他人振出小切手のほか 送金小切手や配当金領収書などがあります 送金小切手は送金手段として銀行が振り出す小切手です 又 配当金領収書は銀行に持っていくと配当金として現金を受け取ることが出来ます つまり通貨代用証券とは多額の現金を移動させるリスクを避けるために現金の代わりとしての機能を持たせている証券です 2 現金の帳簿残高と実際残高が異なる時お店では定期的に帳簿上の現金残高 ( 帳簿残高 ) と実際にお店にあるお金の残高 ( 実際有高 ) を確認します そこで一致しなかった場合には もちろん実際有高が本当の残高ですので帳簿残高を実際有高に一致するように修正する必要があります 現金の実際有高が帳簿残高よりも少ない場合の仕訳 金庫の現金残高を調査したところ 帳簿残高 10,000 円に対して実際有高は 9,000 円しか ないことが判明した 借 現金過不足 1,000 / 貸 現金 1,000 7
現金の実際有高が帳簿残高よりも多い場合の仕訳金庫の現金残高を調査したところ 帳簿残高 10,000 円に対して実際有高は 12,000 円あることが判明した 借 現金 2,000 / 貸 現金過不足 2,000 この現金過不足という勘定科目は仮科目という意味がありまして 貸借対照表の科目ですが 資産でも負債でも資本でもありません なぜならまだ原因不明の科目だからです 3 現金過不足の原因が判明した時 現金過不足の原因が判明した場合にはその原因となった科目に振り替え処理します 6 月 25 日 6 月 10 日に生じていた現金の不足額 40 円 ( 帳簿残高 > 実際有高 ) の原因 を調べたところ 30 円は通信費の計上漏れであることが分かった 6 月 25 日 借 通信費 30 / 貸 現金過不足 30 参考 : 6 月 10 日の仕訳 借 現金過不足 40 / 貸 現金 40 4 現金過不足の原因が決算日まで判明しなかった時現金過不足は 原因が判明するまでの一時的な勘定科目なので その原因が判明しないからといって いつまでも帳簿に残しておくことはできません そこで 決算日において原因が判明しないものは雑損 ( 費用 ) または雑益 ( 収益 ) として処理します 12 月 31 日決算日において現金過不足 ( 借方 ) が 200 円あるが 原因が不明なので 雑損として処理する 借 雑損 200 / 貸 現金過不足 200 現金過不足勘定 現金過不足勘定 200 円 200 円 200 円 8
3. 当座預金 ( 資産 ) 当座預金とは 預金の一種で 預金を引き出すときに小切手を用いることが特徴です 小切手を利用することで多額の現金を持ち運ぶことなどの危険を回避することができます 1 当座預金に現金を預け入れた時 D 商店は B 銀行と当座取引契約を結び 現金 300 円を当座預金口座へ預け入れた 借 当座預金 300 / 貸 現金 300 2 小切手を振り出した時 G 商店は L 商店に対する買掛金 500 円を支払うため 小切手を振り出して渡した 借 買掛金 500 / 貸 当座預金 500 小切手を受け取った人は銀行にその小切手を持っていくと 現金を受け取ることが出来ます そして その現金は小切手を振り出した人の当座預金から引き出されます 又 小切手をもらった 人は他人振出小切手を受け取っていますので現金で処理します 3 自己振出小切手を受け取った時自分が振り出した小切手 ( 自己振出小切手 ) を受取ることがあります その場合は 当座預金として処理します 小切手を振り出したとき 当座預金の減少として処理していますのでその反対処理を行います このように だれが振り出したかによって小切手の処理は異なりますので注意しましょう 4 当座預金の残高を超えて引き出した時当座借越とは 通常 当座預金の残高を超えて当座預金を引き出すことは出来ませんが 銀行と当座借越契約という契約を結んでおくと 一定額までは 当座預金の残高を超えて当座預金を引き出すことが出来ます このように 当座預金の残高を超えて当座預金を引き出すことを 当座借越といいます なぜ 当座借越という制度があるのかというと 小切手を使用する会社の当座預金残高が足りなくても残高不足に陥らずにスムーズな業務運営が出来るようにするためです 当座預金の残高を超えて引き出したときは まず 当座預金の残高がゼロになるまでは当座預金を減少させます そして当座預金の残高を超える金額は当座借越という負債の勘定科目にて処理します 9
H 商店は買掛金 100 円を小切手を振り出して支払った なお 当座預金の残高は 20 円 であったが H 商店は K 銀行と借越限度額 200 円の当座借越契約を結んでいる 借 買掛金 100 / 貸 当座預金 20 / 貸 当座借越 80 ( 上記の続き ) H 商店は K 銀行の当座預金口座に現金 90 円を預け入れた 借 当座借越 80 / 貸 現金 90 当座預金 10 / 5 一勘定制と二勘制当座預金の処理方法としては上記のように当座預金と当座借越という2つの勘定科目を使用する方法 ( 二勘定制 ) と当座というひとつの勘定科目で処理する方法 ( 一勘定制 ) があります 試験においては資料に与えられた勘定科目一覧に 当座 勘定があれば一勘定制を使い なければ二勘定制を使用します 一勘定制の場合の上記の仕訳 借 買掛金 100 / 貸 当座 100 借 当座 90 / 貸 現金 90 4. 小口現金 企業の規模が大きくなってくると 経理部や営業部などの部署が出来てきます お金の管理は経理部で行いますが 営業部の社員が出張に出かけたり ボールペンなどを買いにいくときにいちいち経理部に現金をもらいにいくのは面倒です そこで通常 日々生じる細かい支払に備えて 各部署や各課に少額の現金を渡しておきます この少額の現金のことを小口現金 ( 資産 ) といいます また 各部署などで小口現金を管理する人を小口現金係といいます 会計係は1 週間や1ヶ月後に小口現金係から何にいくら使ったかの報告を受け 使った分だけ小口現金を補給します このように一定の小口現金を前渡ししておくシステムを定額資金前渡法 ( インプレストシステム ) といいます 10
定額資金前渡法の仕訳の流れ 1 4 月 1 日会計係が小口現金係に小口現金を 600 円前渡しした 借 小口現金 600 / 貸 現金 600 2 4 月 4 日小口現金係が文房具 50 円とタクシー代 100 円を支払った 仕訳なし 小口現金係が小口現金で支払をしても 小口現金係は経理部でないので仕訳は起こりません 会計係が小口現金係から支払報告を受けたときの仕訳 3 4 月 15 日小口現金より文房具代 50 円とタクシー代 100 円を小口現金で支払ったという報告を受けた 借 消耗品費 50 / 貸 小口現金 150 旅費交通費 100 / 会計係が小口現金を補給した時の仕訳定額資金前渡法では使った分 (150 円 ) だけ月末又は週末に小口現金を補給します 使った分だけ補給することにより月末又は週末には常に同じ金額が小口現金にある状態となります 4 4 月 30 日に会計係が小口現金へ今月使用分の 150 円を入金した 借 小口現金 150 / 貸 現金 150 ここまでの流れを小口現金の元帳で確認してみましょう 小口現金 4/1 600 4/15 150 4/30 150 月初に 600 円となっているのが月末まで小口現金が減っていき 又 月末に同じ金額になってい ることが分かると思います 11