中小の小売店におけるキャッシュレス化のポイント

Similar documents
1. キャッシュレスの現状と推進 1

プレスリリース

キャッシュレス決済導入に関するアンケート調査報告 調査先 : 当所会員事業所のうち 小売業 飲食店 宿泊業 生活関連サービス業を抽出 調査期間 : 令和元年 5 月 17 日 ~6 月 14 日 回答数 :70 事業所 回答事業所 業種 回答企業 業種 1 小売業 25 2 飲食店 27 3 サービ

第16回税制調査会 別添資料1(税務手続の電子化に向けた具体的取組(国税))

60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 図表 1 日本の個人消費における決済手段の割合の推移 56.0% 49.0% 24.0% 12.1% 16.7% 18.6% 0.3% 6.5% 0.2% 2.2% 2.8% 3.5% 2.7% 5.4% 2011 年度 2016 年度 ( 出所

キャッシュレス決済市場の展望 ~「キャッシュレス・消費者還元事業」の影響を踏まえて~

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

【日証協】マイナンバー利活用推進小委員会提出資料

資料 3 時代の要請を受けた 消費者保護の課題について 平成 31 年 4 月 経済産業省商務 サービスグループ 商取引監督課

が実現することにより 利用希望者は認証連携でひもづけられた無料 Wi-Fi スポットについて複数回の利用登録手続が不要となり 利用者の負担軽減と利便性の向上が図られる 出典 : ICT 懇談会幹事会 ( 第 4 回 )( 平成 27(2015) 年 4 月 24 日 ) 2. 現状 日本政府観光局

. 次世代決済プラットフォームの構築 ネット決済 No. の GMO ペイメントゲートウェイ株式会社と 三井住友カード株式会社を中心としてリアル決済 No. のSMBCグループが 次世代決済プラットフォームの構築に向けた協議を開始 SMBCグループとしては新たな領域への参入となり 事業者にトータルな

Microsoft Word _FP_aquagates

目次 P. 1 調査の概要 P 年を振り返って P 年の展望 P 備えが必要 ( 経済的に不安 ) と感じること P 今 一番買いたいもの P お金の支払いをする際の決済方法 P 資産運用について

企業活動のグローバル化に伴う外貨調達手段の多様化に係る課題

<4D F736F F F696E74202D DC58F4994C5816A82732B825195D78BAD89EF95F18D908F9182CC8A E >

03-08_会計監査(収益認識に関するインダストリー別③)小売業-ポイント制度、商品券

02 IT 導入のメリットと手順 第 1 章で見てきたように IT 技術は進展していますが ノウハウのある人材の不足やコスト負担など IT 導入に向けたハードルは依然として高く IT 導入はなかなか進んでいないようです 2016 年版中小企業白書では IT 投資の効果を分析していますので 第 2 章

目次 要旨 1 Ⅰ. 通信 放送業界 3 1. 放送業界の歩み (1) 年表 3 (2) これまでの主なケーブルテレビの制度に関する改正状況 4 2. 通信 放送業界における環境変化とケーブルテレビの位置づけ (1) コンテンツ視聴環境の多様化 5 (2) 通信 放送業界の業績動向 6 (3) 国民

JIPs_010_nyuko

資料3

<4D F736F F F696E74202D E71837D836C815B82C98AD682B782E9837D815B F B835E81408FC194EF8D7

PowerPoint プレゼンテーション

一般社団法人全国銀行資金決済ネットワーク 振込の 24 時間 365 日対応について 日本商工会議所中小企業委員会 全国銀行資金決済ネットワーク 事務局 平成 30 年 4 月 19 日 1

発表概要 1. 経済産業省と内閣官房が提供する RESAS*1 を活用し 群馬県が抱える課題を抽出 2. 公開データ *2 による解析 官公庁 研究機関による分析結果などを集約 3. 群馬県で有効とみられる課題解決法を提案 *1 地域経済分析システム (Regional Economy Societ

により 都市の魅力や付加価値の向上を図り もって持続可能なグローバル都 市形成に寄与することを目的とする活動を 総合的 戦略的に展開すること とする (2) シティマネジメントの目標とする姿中野駅周辺や西武新宿線沿線のまちづくりという将来に向けた大規模プロジェクトの推進 並びに産業振興 都市観光 地

資料 5 総務省提出資料 平成 30 年 12 月 21 日 総務省情報流通行政局

<4D F736F F F696E74202D A A F193B994AD955C28834B838A836F815B29817A837C E E >

する店舗が増加する中 その他の国や地域から訪日する旅行者向けのスマホ決済手段の提供が比較的行われていないという状況が存在します 今回の実証実験においては 中国に次いで訪日旅行者が多い東アジア各国 ( 台湾 香港 韓国 ) の旅行者をメインターゲットとし 旅行客 店舗双方の利便性や効率性について検証を

PowerPoint プレゼンテーション

規制 制度改革に関する閣議決定事項に係るフォローアップ調査の結果 ( 抜粋 ) 規制 制度改革に係る追加方針 ( 抜粋 ) 平成 23 年 7 月 22 日閣議決定 番号 規制 制度改革に係る追加方針 ( 平成 23 年 7 月 22 日閣議決定 ) における決定内容 規制 制度改革事項 規制 制度

望の内容平成 30 年度税制改正 ( 租税特別措置 ) 要望事項 ( 新設 拡充 延長 ) ( 経済産業省中小企業庁経営支援部創業 新事業促進課 ) 制度名 産業競争力強化法に基づく創業支援事業計画の認定自治体における登録免許税の軽減措置の延長 税 目 登録免許税 ( 租税特別措置法第 80 条第

1

1. ネット取引の拡大とクレジットカード利用の増加 1 ネット取引の急拡大に伴い 近年 クレジットカード取引高は一貫して増加 直近では 46 兆円 ( 消費全体の約 16%) を占める ( 参考 ) 主要各国のカード利用率韓国 :73% 中国 :56% 米国 :34% ( 出所 ) 日本クレジットカ

<4D F736F F D E30332E A2D EE688B58A4A8E6E A882E682D1837C E815B81698B40945C92C789C1816A82C68B4

地域ポイントカード手引き ( まるこカード ) 越谷商工会議所 越谷市商店会連合会 ( 株 ) まちづくり越谷

取組みの背景 これまでの流れ 平成 27 年 6 月 日本再興戦略 改訂 2015 の閣議決定 ( 訪日外国人からの 日本の Wi-Fi サービスは使い難い との声を受け ) 戦略市場創造プラン における新たに講ずべき具体的施策として 事業者の垣根を越えた認証手続きの簡素化 が盛り込まれる 平成 2

Press Release 2018 年 6 月 29 日 楽天リサーチ株式会社 現金以外を利用する理由は ポイントが貯まるから がトップ 出かける際に所持する現金の平均金額は 5 年前より 1,151 円低い結果に - キャッシュレス決済に関する調査 - URL:

イノベーション活動に対する山梨県内企業の意識調査

回答者のうち 68% がこの一年間にクラウドソーシングを利用したと回答しており クラウドソーシングがかなり普及していることがわかる ( 表 2) また 利用したと回答した人(34 人 ) のうち 59%(20 人 ) が前年に比べて発注件数を増やすとともに 利用したことのない人 (11 人 ) のう

(4) 会員が住信 SBI ネット銀行に振替出金手続きを行い 会員が指定する銀行口座に着金するまでの期間会員が振替手続きを完了した後即時 (5) 会員からの国内金融機関への振込出金依頼に従い当社が振込手続きを行い 会員が指定する銀行口座に着金するまでの期間当社で出金依頼書受領後 7 営業日以内 4.

総合行政ネットワーク-9.indd

NICnet80

( 以下 カードなど ) を普段何枚 ( モバイル決済の場合は何種類 ) 使っているかたずねた ( それぞれの決済手段の定義は別表を参照 ) 各決済手段について 1 枚以上使用している人と全く使用していない人の割合は 岐阜県 愛知県 全国でそれぞれ表のようになった クレジットカードを使用している人の

2020 年に向けた社会全体の ICT 化推進に関する懇談会 の開催について 1 平成 26 年より 総務大臣の懇談会として 2020 年に向けた社会全体の ICT 化推進に関する懇談会 を開催 アクションプランに基づき 2020 年以降のレガシーを視野に入れつつ ICT 化に向けた施策を進めてきた

都市サービスの高度化アクションプラン 年には 4000 万人と想定される訪日外国人の方が 入国時から滞在 宿泊 買い物 観光 出国まで ストレスなく快適に過ごすことが可能となる ICT 基盤を整備することが重要 また東京大会以降の日本のレガシーとして実現を目指す 1 枚あれば電車 バス

<4D F736F F D2095DB8CAF97BF93FC8BE08AAE9153B7ACAFBCADDABD2E646F63>

キャッシュレス 消費者還元事業 ( ポイント還元事業 ) の概要

3 特許保有数 図表 Ⅰ-3 調査対象者の特許保有数 Ⅱ. 分析結果 1. 減免制度 (1) 減免制度の利用状況本調査研究のヒアリング対象の中小企業が利用している法律別の減免制度の利用状況を 図表 Ⅱ-1 に示す 企業数は延べ数でカウントしている 図表 Ⅱ-1 減免制度の利用状況 この結果から 産業

PowerPoint プレゼンテーション

性別 女性 48% 男性 52% 男性 女性 年齢 29 歳 5% 30 歳以上 16% 20 歳未満 21 歳 1% 1% 22 歳 7% 23 歳 10% 20 歳未満 21 歳 22 歳 23 歳 28 歳 8% 24 歳 14% 24 歳 25 歳 26 歳 27 歳 27 歳 12% 26

調査概要 キャッシュレス決済に関するアンケート調査調査概要 調査期間 2018 年 6 月 4 日 ( 月 )~6 月 5 日 ( 火 ) 調査方法 調査対象 Webアンケート 20 歳以上のインターネット利用者 スクリーニング調査 一般消費者 本調査 過去 1 年間にインターネットを用いてオンライ

<4D F736F F F696E74202D F C F E816A C835B83938E9197BF976C8EAE28382E323890E096BE89EF E B93C782DD8EE682E890EA97705D>

= SaaS型総合決済サービス = 「PGマルチペイメントサービス」のご案内

<4D F736F F F696E74202D C5817A8E9197BF332D8B9F8B8B91A B8CDD8AB B83685D>

PPT090_提案書テンプレート

新規文書1

5 適合性の原則等に照らした判断等 金融商品やサービスの提供にかかる妥当性の判断のため 6 与信事業に際して個人情報を加盟する個人信用情報機関に提供する場合等 適切な業務の遂行に必要な範囲で第三者に提供するため 7 他の事業者等から個人情報の処理の全部または一部について委託された場合等において 委託

おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金

個人情報保護法の3年ごと見直しに向けて

金融特別レポート

特別勘定運用レポートをご覧いただくにあたって 当資料をご覧いただく際にご留意いただきたい事項 当資料はご契約者さま等に対し 三井住友海上プライマリー生命のえがお ひろがる 積立金自動移転特約付通貨選択一般勘定移行型変額終身保険 の特別勘定および特別勘定が主たる投資対象とする投資信託の運用状況を開示す

することを可能とするとともに 投資対象についても 株式以外の有価証券を対象に加えることとする ただし 指標連動型 ETF( 現物拠出 現物交換型 ETF 及び 金銭拠出 現物交換型 ETFのうち指標に連動するもの ) について 満たすべき要件を設けることとする 具体的には 1 現物拠出型 ETFにつ

Microsoft PowerPoint アンケート調査

キャッシュレス 消費者還元事業 ( ポイント還元事業 ) の概要 令和元年 5 月 九州経済産業局

第3回「生活者1万人アンケート調査(金融編)」を実施

沖縄でのバス自動運転実証実験の実施について

1 はじめに

山口銀行:お楽しみコンテンツ>アジアニュース>2018>釜山支店>モバイル決済サービス戦国時代 ~前編~

PowerPoint プレゼンテーション

au WALLETクレジットカード特約

1. 調査の目的 物価モニター調査の概要 原油価格や為替レートなどの動向が生活関連物資等の価格に及ぼす影響 物価動向についての意識等を正確 迅速に把握し 消費者等へタイムリーな情報提供を行う ( 参考 )URL:

カード決済サービスが 中小企業の経営を変える

2014 中期経営計画総括 (2012 年度 ~2014 年度 )

1. 口座管理機関 ( 証券会社 ) の意見概要 A 案 ( 部会資料 23: 配当金参考案ベース ) と B 案 ( 部会資料 23: 共通番号参考案ベース ) のいずれが望ましいか 口座管理機 関 ( 証券会社 ) で構成される日証協の WG で意見照会したところ 次頁のとおり各観点において様々

性別 女性 48% 男性 52% 男性 女性 年齢 29 歳 5% 30 歳以上 16% 20 歳未満 21 歳 1% 1% 22 歳 7% 23 歳 10% 20 歳未満 21 歳 22 歳 23 歳 24 歳 28 歳 8% 24 歳 14% 25 歳 26 歳 27 歳 27 歳 12% 26

災害等発生時に勘定店以外の日本銀行本支店で現金支払を受けるスキームの導入について

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

1) 3 層構造による進捗管理の仕組みを理解しているか 持続可能な開発に向けた意欲目標としての 17 のゴール より具体的な行動目標としての 169 のターゲット 達成度を計測する評価するインディケーターに基づく進捗管理 2) 目標の設定と管理 優先的に取り組む目標( マテリアリティ ) の設定のプ

Microsoft Word Aプレスリリース案_METI修正_.doc

本日のテーマ

Microsoft Word - 01_LS研IT白書原稿_2012年度_統合版__ _v1 2.doc

PowerPoint プレゼンテーション

中小法人の地方法人二税の eltax の利用率 70% 以上という目標達成に向けて 下記の eltax の使い勝手改善等の取組を進めるとともに 地方団体の協力を得つつ 利用勧奨や広報 周知等 eltax の普及に向けた取組を一層進める また 中小法人の地方法人二税の eltax の利用率の推移等を踏

その他の所定の事項を正確に入力してください この場合における預金の払戻しについては 通帳および払戻請求書の提出は必要ありません 5.( 自動機利用手数料等 ) (1) 支払機または振込機を使用して預金の払戻しをする場合には 当行および提携先所定の支払機 振込機の利用に関する手数料 ( 以下 支払機利

01 LINE について コーポレートミッション国内の生活インフラとなったLINE LINE ユーザー属性

[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

5 この施策に係る事務事業 ( 重要度 貢献度順 ) 番号 事務事業名 魅力個店づくり整備促進事業 歳出決算額 ( 千円 ) 施策への関連性 目的に対する指標 年度目標値 年度実績値 推移 区内の既存個店や出店希望 22 者が行う 魅力的な店舗づ 809 くりを支援することで 魅 力個店の集積を図る

< 個人情報の取り扱いに関する重要事項 > お客様の情報の取り扱いについて下記事項をご確認のうえお申し込みください なお 個 人情報の取り扱いに関する内容の全文は カード送付時に会員規約 ( 第 2 章 ) としてあら ためてお届けします 1. 個人情報の収集 保有 利用株式会社親和銀行 ( 以下

(資料4)運用機関とのコミュニケーションの取り方や情報開示の方法等(案).pdf

経営の健全化のための計画の履行状況に関する報告書

関経連_事業報告書CS4.indd

適用時期 5. 本実務対応報告は 公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する ただし 平成 28 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には 当該事業年度に本実務対応報告を適用することができる 議決 6. 本実務対応報告は 第 338 回企業会計

Microsoft Word - 報告書.doc

研究開発投資にかかる政府目標 安倍政権が 新 3 本の矢 の 1 つとして掲げた 2020 年頃の名目 GDP600 兆円達成 の目標や 日本再興戦略 2016( 閣議決定 ) 等に基づく 今後 5 年間での民間企業の研究開発投資の対 GDP 比 3% 目標の達成には 民間企業の研究開発投資を年平均

4-2 地域の課題人口の減少により 町内では老朽化した空き家 空き店舗が随所に見られるようになっており 平成 28 年 3 月に町内を調査したところ 空き家 空き店舗と思われる建物が 159 軒存在していることが判明した 特に 商店街 公共機関 医療機関等が近接する利便性の高い中心市街地における空き

<4D F736F F F696E74202D202895CA8E86816A89638BC694E996A78AC7979D8EC091D492B28DB88A E >

データ流通 活用に関する取組状況等 ο 官民データ活用推進基本法 ( 平成 28 年 12 月公布 施行 ) や データ流通環境整備検討会 AI IoT 時代におけるデータ活用 WG 中間とりまとめ ( 平成 29 年 3 月 ) 等を受け 総務省 / 経済産業省の 情報銀行の認定に係る指針 Ver

新旧比較表

家計調査の改善に関するタスクフォース

地方消費者行政強化作戦 への対応どこに住んでいても質の高い相談 救済を受けられる地域体制を整備し 消費者の安全 安心を確保するため 平成 29 年度までに 地方消費者行政強化作戦 の完全達成を目指す < 政策目標 1> 相談体制の空白地域の解消 全ての市町村に消費生活相談窓口が設置されており 目標を

Transcription:

ニッセイ基礎研究所 研究員の眼 2018-10-16 中小の小売店におけるキャッシュレス化のポイント 金融研究部主任研究員福本勇樹 (03)3512-1848 fukumoto@nli-research.co.jp 政府によるキャッシュレス化推進の経緯政府によるキャッシュレス化推進の施策は 2014 年に閣議決定された 日本再興戦略 ( 改訂 ) において キャッシュレス決済の普及による利便性 効率性の向上が掲げられたことから始まる 当初の方策では 海外発行クレジットカード等での現金引出しが可能な ATM の普及 外国人観光客が訪れる商業施設 宿泊施設及び観光スポットにおいてクレジットカード等決済端末の導入促進 などが謳われており 主に東京オリンピック パラリンピックの開催 地方創生やインバウンド ( 訪日外国人旅行 ) 需要への対応が中心だったと考えられる つまり キャッシュレス化の進んでいる海外から来た外国人観光客が 地方も含めて日本において観光する際に 不便なくキャッシュレス決済を行えることを主眼に 外国人観光客による国内消費を喚起することを主目的として キャッシュレス決済のインフラを日本国内において整えていく意味合いが強かった しかし 2017 年 6 月に閣議決定された 未来投資戦略 2017 以降は キャッシュレス決済の安全性 利便性の向上 事務手続の効率化 や ビッグデータ活用による販売機会の拡大 が課題であるとされている つまり 外国人観光客によるものだけではなく ビッグデータの有効利用による消費活性化策も含めて 日本国内における民間消費におけるキャッシュレス化についても重要視されるようになっている 日本国内におけるキャッシュレス化について具体的な数値目標 (KPI) が初めて設定されたのもこの時期にあたる 民間消費支出に占めるクレジットカード デビットカード 電子マネーによる決済額の割合を キャッシュレス決済比率 と定義し 10 年間 (2027 年 6 月まで ) で倍増させ 世界標準の 4 割とすることを目指すとした 2018 年 4 月に経済産業省より公表された キャッシュレス ビジョン では 大阪 関西万博 (2025 年 ) に向けて キャッシュレス決済比率 4 割の達成目標を 2 年早め 2025 年としている さらに 将来的にキャッシュレス決済比率 80% を目指して環境整備を進めるとある 2018 年 8 月には 経済産業省にて キャッシュレス推進協議会 が立ち上がり QR コード決済の標準化 など 7 つのプロジェクトを掲げている いわゆるキャッシュレス決済と言われるクレジットカード デビットカードや電子マネーだけではなく QR コード等を用いたモバイル決済を活用したキャッシュレス社会の実現につ 1

いても議論が始められたところである 2018 年 10 月に 安倍総理が消費増税を表明したが 中小の小売店などでキャッシュレス決済した際に 消費者に 2% 分をポイント還元する案や 小売店でキャッシュレス決済を導入する際の負担軽減についても検討するとの報道がある 図表日本のキャッシュレス化に関するこれまでの経緯 2014 年 6 月 : 日本再興戦略 ( 改訂 )2014 の閣議決定東京オリンピック パラリンピックを踏まえて 外国人観光客の増加を見据えたクレジットカード等によるキャッシュレス化への対応策を検討 2014 年 12 月 : キャッシュレス化に向けた方策 の公表 ( 経済産業省 ) 海外発行クレジットカード等での現金引出しが可能な ATM の普及 地方商店街や観光地等でのクレジットカード等決済端末の導入促進 公的納付金の電子納付の一層の普及 を方策として公表 2015 年 6 月 : 日本再興戦略 ( 改訂 )2015 の閣議決定 キャッシュレス化に向けた方策 に基づいた推進が掲げられる 2016 年 3 月 : 明日の日本を支える観光ビジョン を策定 海外発行カード対応 ATM の設置目標の大幅な前倒し 外国人観光客が訪れる商業施設 宿泊施設及び観光スポットにおいて 100% のクレジットカード決済対応 100% の決済端末の IC 対応 の実現 を方策として公表 2016 年 6 月 : 日本再興戦略 2016 の閣議決定 キャッシュレス化に向けた方策 明日の日本を支える観光ビジョン の推進に加えて ビッグデータの利活用も方策として追加 2017 年 5 月 : FinTech ビジョンについて の取りまとめ ( 経済産業省 ) 政策指標として キャッシュレス決済比率を民間消費支出に占めるクレジットカード デビットカード 電子マネーによる決済額として設定 2017 年 6 月 : 未来投資戦略 2017 の閣議決定キャッシュレス決済比率の数値目標 ( 今後 10 年間で倍増 (40%)) 消費データ利活用のためのクレジットカードデータに係る API 連携の推進等の決定 2018 年 4 月 : キャッシュレス ビジョン の策定 ( 経済産業省 ) 大阪 関西万博に向けて キャッシュレス決済比率 40% の数値目標の 2 年前倒し (2025 年まで ) し 将来的には 世界最高水準の 80% を目指すなど 各種方策について策定 2018 年 7 月 : 産学官からなる キャッシュレス推進協議会 の設立 ( 経済産業省 ) 経済産業省を中心としたキャッシュレス社会の実現に向けた取組み母体の設立 2018 年 10 月 : 消費増税の表明消費者による中小の小売店でのキャッシュレス決済にポイント 2% 還元策などを検討 ( 各種資料より 著者にて作成 ) 2

事業者サイドにおけるキャッシュレス化のメリットと課題キャッシュレス化のメリット 1 として 消費者サイドから見ると 現金を金融機関の窓口や ATM から引き出す手間やコストがなくなること 盗難や紛失に対応する保険や補償の付いた決済手段であれば不正使用や紛失のリスクも減らせることが挙げられる また 現金決済では物やサービスの購入は消費者が移動できる範囲に限られるが キャッシュレス決済を用いると その選択肢は消費者自身が移動可能な距離の範囲に限定されず インターネットなどでアクセスできる範囲にまで拡大することができる 事業者サイドから見た場合 消費者の購買履歴データを分析することでマーケティングを高度化できること 現金取扱にかかる人件費の効率化と人手不足対策 従業員による現金紛失や盗難等のトラブルの解消 インバウンド需要を取り込めることなどが メリットとして挙げられる 例えば 東京において試験的に現金決済お断りのレストランが出店したことが話題になったが レジ締めにかかる時間がこれまで 30 分 ~1 時間程度だったのが数分にまで短縮されたと言われている この場合 30 分 ~1 時間に相当する人件費が削減されるというメリットが直接的に受けられることになる 特に大手の流通 小売業者では 無人レジなどの業務効率化によって 人件費削減だけではなく人手不足対策も目的とした実験店舗に関する話題が増えている 社会的な観点では キャッシュレス化を通じて流通データや購買履歴データを電子的に管理できるようになれば 現金決済では捕捉されなかった取引が透明化され 税収入の増加や税務処理の事務効率化が期待できる 併せて 脱税やマネーロンダリングへの効果的な対策にもなる キャッシュレス化することで様々なメリットを享受できることが期待されているのだが 特に中小の小売店においてキャッシュレス化を阻む理由としてしばしば指摘されているのが キャッシュレス決済にはコストがかかる という問題である 例えば 一般的なクレジットカード決済のインフラを導入する場合 決済端末費用として 10 万円程度 決済手数料として 2~8% のコストがかかり カード会社からの入金に 15 日 ~30 日を要する キャッシュレス決済手段も多種多様化しており キャッシュレス決済の従業員教育にも時間がかかる その一方で 現金決済であればこれらのコストは必要なく コンバージョンサイクル ( 仕入れから販売に伴う現金回収までにかかる日数 ) も短期化して資金効率が高まるというメリットがある それゆえ 大手の流通 小売業者とは異なり 現金の取扱いにかかる人件費をビッグデータ分析によるマーケティングの高度化の費用に充てるよりも キャッシュレス決済の導入にかかる端末費用や決済手数料を負担せずに 人件費をかけて現金決済で対応することで資金効率を高めた方が 中小の小売店にとってメリットが大きかったものと考えられる 特に 薄利多売のビジネスや生鮮食品を取り扱うような飲食店の場合 現金決済で対応するインセンティブが極めて高い 中小の小売店におけるキャッシュレス化に向けた施策 海外と比較して日本のキャッシュレス化が進展していない主な理由として 事業者サイドに十分に 1 キャッシュレス化のメリットに関する議論ついては 日本のキャッシュレス化について考える ( ニッセイ基礎研究所 2018 年 7 月 10 日 ) なども参照されたい 3

キャッシュレス決済のインフラが整っていないためだと政府は考えているようである その対策として キャッシュレス決済を導入する事業者に補助金を供与し 中小の小売店には決済額に応じた時限的な税制優遇などを検討しているとの報道もある 決済サービス事業者もキャッシュレス決済のコスト削減に繋がるような解決策を提供し始めている 特に QR コードを用いたモバイル決済は これまでボトルネックだったキャッシュレス決済のコストの逓減策として期待が寄せられている QR コード決済では端末の導入費用が他のキャッシュレス決済手段と比べて安価になるが それに加えて 決済サービス事業者の中には決済手数料を数年間 0% で提供することで決済ビジネスの拡大を企図しているところも出てきている 金融機関においても加盟店向けのサービスの充実化が見られる すでにいくつかの金融機関においてスマホ決済アプリや地域通貨のサービスを展開しているが 今後も 端末の導入費用無償での提供や資金繰り負担の大幅な軽減を企図したサービスの開始を予定しているところがある 決済手段間の競争が高まることで このようなキャッシュレス決済のコストを逓減し 資金効率も高まるような加盟店向けサービスが広く普及していけば 中小の小売店においても人件費削減や人手不足対策を意図したキャッシュレス化を進めるインセンティブが高まることになり 今まで以上に顧客対応に時間を充てることもできる さらに クレジットカード等にかかる支払手数料に対しても低下圧力がかかるかもしれない 訪日外国人の消費喚起策としてのキャッシュレス決済対応キャッシュレス決済を導入することで収益拡大を狙うのであれば 訪日外国人の消費喚起が中心になるだろう 各種アンケートを見ると 訪日外国人の多くが 海外発行クレジットカード対応の ATM から現金を下ろす 日本円に両替するなど 現金を入手するまでにかかる手間を不便に感じているようである また 訪日外国人の 54% がクレジットカードを利用しており 訪日外国人の約 7 割が クレジットカード等が利用できる場所が今より多かったらもっと消費した と回答している よって キャッシュレス決済のインフラを導入してない流通 小売業者はインバウンド需要に伴う収益機会を逃している可能性が高い 特に中国においては 都市部ではスマホを用いた QR コード決済の普及率が 100% 近くになっている 中国の都市部では現金をほとんど使用されないため 他国からの観光客と比較して現金使用に対する抵抗意識が強いようである 中国人観光客の多い商業地や観光地を中心に 中国人向けのスマホアプリ用の決済端末を導入する店舗が増えており 実際に収益増に繋がった事例も出てきているようである 日本においてキャッシュレス化は進展するか人件費削減や人手不足の解消といったメリットを直接的に享受できる金融機関や大手の流通 小売業者を中心にキャッシュレス化を進展させていくものと予想している 政府によるポイント 2% 還元策は 中小の小売店だけではなく 大手流通 小売業者を巻き込んだ消費税還元セールも含めたポイント還元競争に発展する可能性もある ただし 各事業者にとって長期的にメリットのある形で制度設計されなければ 一時的な導入に終わってしまい 特に中小の小売店は最終的に現金決済へ回帰し 4

てしまう恐れも十分にありうる 一方で 消費者サイドは 各種アンケートを見ると キャッシュレス決済を利用する理由として キャッシュレス決済の利便性も重視はされているものの ポイント還元策を第一の理由として挙げるケースが多い よって 政府によるポイント 2% 還元策は消費者にとってキャッシュレス決済に移行するインセンティブを大きく高めると考えられる しかしながら 特に高齢者については 一般的にクレジットカードの審査に通りにくい モバイル決済には IT リテラシーが求められるなど ハードルが高い側面もある 日本が高齢化社会にあることを考慮すると 解決策として日本のキャッシュレス化にはデビットカード アプリや電子マネーのような 前払い式 の決済手段の普及が求められるが 現金決済への対応についても一定程度必要な環境が継続するのではないか この点については キャッシュレス決済の普及に伴って 金融機関は預金者に対してデビットカードやモバイル決済への移行を進めて銀行 ATM の削減に舵を切る可能性が高いが その代替として 大手流通系の銀行やキャッシュアウトサービス 2 などがその役割を補完していくことが期待される 2 2017 年 4 月の銀行法施行規則の改正に伴う規制緩和により デビットカードを活用して小売店のレジ等で現金の受取が可 能となった ( お願い ) 本誌記載のデータは各種の情報源から入手 加工したものであり その正確性と安全性を保証するものではありません また 本誌は情報提供が目的であり 記載の意見や予測は いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません 5