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Transcription:

横浜市環境科学研究所所報第 3 号 211 潮位変動による貧酸素水塊の挙動への影響 二宮勝幸 ( 横浜市環境科学研究所 ) 佐藤寛行 ( 環境保全部環境管理課監視センター ) Effect of tidal current on movement of hypoxia in the west side of Tokyo Bay Katsuyuki Ninomiya(Yokohama Environmental Science Research Institute) Hiroyuki Satou(Yokohama City Environmental Observation Center) キーワード : 東京湾 低酸素水塊 挙動 潮位 水温 要旨横浜市沿岸 2 地点における観測ブイによる8 の水質連続観測データと東京湾西岸の公共用水域水質測定計画 9 地点における 18 年間の毎の下層データを用いて 潮位と水質の関係について考察した 連続観測データから 南西風がm /sを超えて連吹する期間に低水温 高塩分 低溶存酸素の水塊が上下層で観測された この理由として 強風によって深層の貧酸素水塊が湧昇してきたことが挙げられる また 下層では潮位変動に対応して満潮時に貧酸素水塊そして干潮時に溶存酸素の豊富な水塊が観測される場合と そのような現象が観測されない場合があった この理由として 躍層を境に上下の水塊が潮位変動に対応して移動し また その境に位置する水深が地点によって異なることなどが影響していると考えられた 一方 水質測定計画の下層データから 水深の浅い水域では夏季に比較的高濃度の燐酸態リンを含有する貧酸素水塊が観測されるが 水深の深い水域では比較的清浄な外洋水の流入の影響があることが示唆された 1. はじめに東京湾では 夏季を中心に底層の溶存酸素濃度 () が低下し貧酸素水塊が形成され 1 2) また 経年的にも溶存酸素は低下傾向を示していることから 3) 生物の生息への悪影響が懸念される 4 ) 貧酸素水塊は 成層の強化による上下層間の溶存酸素の移動の低下や下層に沈降する植物プランクトン遺骸および底質中有機物等の微生物分解による溶存酸素の消費などによって形成される 一方 貧酸素水塊は海流などの影響によって移動することなどが指摘されている 6 7) このような貧酸素水塊の移動の状況を長期の連続観測によって詳細に解析することは生物生息への影響を把握する上で重要であると考えられる ここでは 横浜市沿岸 2 地点における測定局の連続水質データを用いて 潮位変動と気象変化による貧酸素水塊の挙動への影響を検討した また 東京湾西岸における公共用水域水質測定計画の毎の下層水質データを用いて D Oの変動要因等について考察した 測定項目 : 水温 (: ) 塩化物イオン(CL:g /l 以降は塩化物という) 溶存酸素(D O:mg/l) なお 大黒は鶴見川河口に近接しているため 淡水の影響を強く受けている 2. 使用データ 2-1 測定局の連続観測データ観測地点 : 根岸沖および大黒の2 地点 ( 図 1) 期間 :1997 年 8 1 日 ~23 日測定間隔 :1 測定水深 : 根岸沖 ( 上層 : 海面下 1m 下層: 海面下 13m) 大黒( 上層 : 海面下 1m 下層: 海面下 8m) 図 1 測定地点 ( 水深 :m) 23

2-2 公共用水域水質測定計画の毎データ 8) 期間 :198 年 4 ~1998 年 3 の毎 1 回のデータ地点 : 東京湾西岸の9 地点 ( 図 1) 図中には括弧内に水深 (m) を示した 測定水深 : 下層 ( 海底上 1mの位置 ) 測定項目 : 水温 塩分 リン酸態リン(PO 4 -P) 2-3 その他のデータ 2-3-1 東京湾晴海の潮位データ 9) 2-3-2 横浜地方気象台の気象データ 1) 3. 結果と考察 3-1 水質観測ブイによる連続水質データの解析 3-1-1 気象 潮位と水質の経時変化の概要図 2に8 1 日から 23 日までの気象と水質の経時変化を示した まず 気象についてみると 降雨は 日と 14 日にともに約 mm 23 日に約 4mmあり それに伴い日照は 日および 14 日から 16 日にかけて短かくなった 気温は日照が短い日に日間変動幅が小さくなる傾向を 図 2 気象と水質の経時変化 (1997 年 8 1 日 ~23 日 ) 24

示した 風速がm/sを超えた日は4~ 日と8~1 日の2 回あった 潮汐については 当初は大潮であったが 12 日前後を中心に小潮となり その後再度大潮となった 次に 根岸沖の水質については 水温は上下層ともにほぼ同じ長周期の変動パターンを示したが 1 日あるいは半日の短周期変動は上層よりも下層のほうが変動幅は大きい傾向がみられた 塩化物は上層に比べて下層で短周期の変動幅がやや大きく その傾向は特に 17 日以降で顕著であった は 水温などと同様に上層に比べて 下層で短周期変動の幅が大きかった また 下層の は水温とほぼ同位相の変動を 塩化物とは逆位相の変動を示した 下層 は3mg/Lを下回ることはなかった なお 濃度によって貧酸素水塊か低酸素水塊かを定義する場合があるが 6) ここでは貧酸素水塊に統一した 最後に 大黒の水質は根岸沖の水質に比べて変動幅が大きく また 変動幅は下層より上層のほうが大きかった これは大黒が鶴見川の河川水による影響を受けやすい水域であることが一因になっていると考えられた 図 3 気象の 24 移動平均と水質の 移動平均

3-1-2 気象の 24 移動平均および潮位と水質の 移動平均 気象と潮位の変化による水質の長周期変動への影響を 調べるため 図 3 に 8 1 日から 23 日までの気象の 24 移動平均と潮位と水質の 移動平均を示した 水質についてみると 水温は 日と 9~1 日に根岸 沖 大黒の上下層ともに低下し 同時に塩化物は上昇した 両期間で共通することは 風速がm/sを超え 南西風が卓越していたことである 東京湾の西岸では南偏風が強吹した時期にほぼ対応して 低温 低 高塩分の底層水が観測されることから 南偏風は湧昇現象 11 12) の発生に深く関わっていることが指摘されている そのため 潮位は少し上昇したと推察される また 両期間のが根岸沖の下層と大黒の上下層で低下したが これは底層の貧酸素水塊が湧昇したことを裏付けるものである なお 根岸沖の上層で同じ現象が明確に認められなかった理由のひとつとして 根岸沖の水深は大黒のそれよりも深いため 上層まで外洋水の影響が及ばなかったことが考えられた 一方 小潮に相当する 13 日前後も根岸沖と大黒の下層は低水温 高塩分 低 を示した しかし それらの上層では 同様な傾向が見られなかった 海流などの影響により底層水が移動してきたためと考えられるが その原因はわからなかった 7) 17 日以降は 大潮となり また 天候の比較的安定した日が続いた 3-1-3 17 日 ~21 日における潮位と水質の時系列 (a) 相互潮位変動と水質変動との関連を詳細に調べるため 天候の比較的安定した 17 日から 21 日までの 日間における潮位に対する水質の相互について検討した ( 図 4) 根岸沖と大黒の上下層のうち 潮位と水質の変動が密接に関連しているのは根岸沖の下層であった 根岸沖下層では 潮位に対して塩化物は同位相 水温とは約 6 遅れであり いずれもは 以上を示した 夏季の東京湾では 中層部に 1m 前後の貧酸素水塊が認められることから 7) その水塊が潮位変動に対応して移動を繰り返していることなどが考えられた 12 13) 大黒の下層については 塩化物は潮位と同位相であるが は小さく また 水温とは4 遅れでも小さかった このように 下層における潮位変動と水質変動の関係は根岸沖と大黒とで異なった 東京湾内における低酸素水塊の動きは 水塊独自による部分 ( 水塊の消長 ) と海域全体の動きによる部分 ( 海流 ) とが複合した形での経時変化とみられると指摘されている 7) また 夏季の東京湾では 湾外からの外洋水の流入に伴い 底層の貧酸素水塊が中層に上昇し その後の外洋水の流出に伴って 再び底層に戻る過程が観測されている 6) さらに 夏季にが水温 塩分躍層を境に減少することがしばしば観測されるが 躍層以深でが低くなる理由は易分解性有機物が生分解を受けながら沈降して酸素が消費されるためと考えられている 14) したがって 根岸沖と大黒の夏季の下層における潮位変動と水質変動の関係の違いは両地点における水深や地形および底質の汚染状況等が異なるためと推察された (b) 塩化物に対する水温との関係潮位変動は水質変動に影響を及ぼし 塩化物の変動とよく対応してことから 17 日から 21 日までの 日間における塩化物と水温およびの関係について検討した ( 図 ) 根岸沖と大黒の上層における塩化物と水温および (a) 根岸沖上層 (c) 大黒上層 CL CL 相互 -22-2-18-16-14-12-1-8 -6-4 -2 2 4 6 8 1 12 14 16 18 2 22 相互 -22-2-18-16-14-12-1-8 -6-4 -2 2 4 6 8 1 12 14 16 18 2 22 - - (b) 根岸沖下層 (d) 大黒下層 CL CL 相互 -22-2-18-16-14-12-1-8 -6-4 -2 2 4 6 8 1 12 14 16 18 2 22 相互 -22-2-18-16-14-12-1-8 -6-4 -2 2 4 6 8 1 12 14 16 18 2 22 - - 図 4 潮位に対する水質の相互 26

3 (a) 根岸沖上層 y = -.34x + 29.91 R = -.37 3 (c) 大黒上層 y = -.24x + 27.89 R = -.32 水温 ( ) (mg/l) 2 1 1 水温 ( ) (mg/l) 2 1 1 y =.44x -.8 R 2 = -.16 16 17 18 19 2 21 (b) 根岸沖下層 3 y = -1.89x + 7.3 R =-.9 y =.46x - 2. R =.34 1 16 17 18 19 2 (d) 大黒下層 3 y = -.96x + 38.8 R =-.74 水温 ( ) (mg/l) 2 1 1 水温 ( ) (mg/l) 2 1 1 y = -1x + 14.66 R = -3 16 17 18 19 2 21 y = x + 3. R =-.28 1 16 17 18 19 2 図 塩化物と水温および の関係 のは絶対値として.4 以下で小さかった 一方 下層における塩化物と水温のは根岸沖で-.9 大黒で-.74 であり ともに負の高い相関を示した しかし 下層における塩化物とのは根岸沖で -3 であるのに対して 大黒では-.28 と小さかった この違いは 先述したように両地点における水深や地形等が影響しているためと考えられた このように 地点による潮位変動に伴う貧酸素水塊の影響程度の違いは 塩化物に対する水質の関係を調べることによって予測できると考えられた 3-2 公共用水域水質測定計画の水質データの解析水質測定計画地点 ( 図 1) の水質データを用いて 3-1-3(b) と同様の解析を行った ただし 水質測定計画では塩化物を測定していないので その代わりに塩分を用いた 図 6(a) (b) および (c) に別の塩分と水温 および PO 4 -Pのを示した ただし 解析対象地点は河口域のSt.1を除く8 地点とし 水深が m 以下の地点 ( 左図 :St.2 6 8) と m 以上の地点 ( 右図 :St. 3 4 7 9) に分けた 別に区分したのは 成層構造の発達程度や潮位変動の強弱が季節ごと ( 別 ) に異なり その違いがに反映されると考えたからである また PO 4 -Pを加えた理由は 成層構造の発達にともない底質からPO 4 -Pが溶出してくるので 6 1) 潮位変動によって水温やと同様な挙動を示すと推察されたからである 3-2-1 水温とのまず 水深が m 以下についてみると ( 図 6(a-1)) St.2とSt.における塩分と水温のは夏季に- 前後の負値 冬季に小さな正値をとる傾向を示した この夏季の負値は自動観測ブイの結果と一致したことから この2 地点は 低水温 高塩分 低 の水塊の影響を受けやすいと考えられた 一方 冬季にが正値を示したのは 夏季とは逆に上層水温よりも外洋水由来の下層水温ほうが高いためと考えられた 2) St.6と St.8については 塩分と水温のはほぼ年間を通して負値を示した この原因はわからないが 潮位変動による水温への影響が前 2 地点とは異なることを示唆している 次に 水深が m 以上の地点では ( 図 6(a-2)) St. 7と St.9における塩分と水温のは St.2と St. の場合と同様に 夏季に負値 冬季に正値をとる傾向を示した St.3も8 9 を除けば 同様の傾向を示した しかし St.4はそれら3 地点とは異なり 一定の傾向を示さなかった St.9 St.7 St.3は湾口から続いている海底渓谷の線上にあるが St.4はそれから少し外れて沿岸に近い ( 図 1) したがって 地形や潮位変動に伴う海水の流れの違いなどが影響して St.4は他の3 地点とは異なる結果になったと推察された 3-2-2 との水深の浅い地点の塩分との ( 図 6(b-1)) は 水温の場合とほぼ同様に St.2と St.は夏季に- 27

(a-1) 水温 St.2 (a-2) 水温 St.3 St. St.4 St.6 St.7 - - St.8 St.9 (b-1) St.2 (b-2) St.3 St. St.4 St.6 St.7 - - St.8 St.9 (c-1) PO4-P St.2 (c-2) PO4-P St.3 St. St.4 St.6 St.7 - - St.8 St.9 図 6 測定計画地点の下層における塩分と水温 および PO 4 -P の別 以下の負値を示すが St.6と St.8はそのような傾向はみられなかった したがって 前 2 地点は夏季に低水温 低 高塩分の水塊による影響を受けやすい水域であるが 後 2 地点はそのような水塊の影響を受けにくい水域であると推察された 一方 水深の深い地点の塩分との ( 図 6 (b-2)) は夏季に 前後の正値を示した その傾向は 特に沖合域の3 地点 (St.3 St.7 St.9) で顕著であった これら3 地点では夏季に高 の外洋水が流入しているためと考えられた 2) 3-2-3 PO 4 -Pとの水深の浅い地点では ( 図 6(c-1)) 塩分とPO 4 -Pのは夏季に 前後の正値を示した 成層構造の発達した夏季に底質などから溶出したPO 4 -Pが高塩分の底層水に多く含まれているためと考えられた 1) なお St.6とSt.8では 先述したように塩分とのは明確に負値を示さないが 塩分とPO 4 -Pのは.3 前後の正値を示した この理由として プランクトン遺骸等が沈降して躍層以下の深度に到達すれば その分解過程で充分に酸素を消費しなくてもPO 4 -Pはある程度生成されているためと考えられた 一方 水深の深い地点では ( 図 6(c-2)) 浅い地点のような傾向は認められなかった 前項で述べたように これらの地点では比較的清浄な外洋水が流入していることが示唆される このように 夏季には躍層以深の貧酸素水塊と比較的清浄な外洋水が深度や地形の違いなどに対応 して水域毎にまた時期により異なる影響を与えていると考えられた 4. まとめ東京湾西岸域における8 の上下層の連続観測データと公共用水域水質測定計画の 18 年間の毎の下層データを用いて 潮位と水質との関係を解析した 連続観測の水質データから 1) 南西風がm/sを超えて連吹すると 根岸沖と大黒では低水温 高塩分 低 の底層水が上下層で観測された ただし 風による影響の無い時でも 両地点の下層で底層水が観測される場合があった 2) 根岸沖の下層では潮位変動に対応して低水温 高塩分 低 の水塊の移動が繰り返されていたが そのような現象は大黒では明確にみられなかった この理由として 水深や地形等の違いが影響していると考えられた 3) 根岸沖の下層における潮位と水質の相互から 潮位と塩化物は同位相 潮位と水温およびはともに逆位相で変動することが明らかとなった 一方 水質測定計画の下層水質データから 4) 塩分と水質の別を調べた結果 水深の浅い地点では夏季における塩分と水温およびのは負値 PO4-P のは正値を示した これは 成層構造の発達した夏季に躍層より下に存在する低水温 高塩分 低 高 PO4-P の水塊が流入していることを示唆している ) 水深の深いほとんどの地点で 夏季に塩分と水温の 28

は負値を示したが のは正値 PO4-P のはほぼゼロであった それらの水域では 比較的清浄な外洋水が流入していると考えられた 参考文献 1) 二宮勝幸 柏木宣久 安藤晴夫 :: 東京湾における COD と の空間濃度分布の季節別特徴 水環境学会誌 19 741~748 (1996). 2) 二宮勝幸 水尾寛巳 柏木宣久 安藤晴夫 小倉久子 飯村晃 岡敬一 吉田謙一 飯島恵 : 温暖化と東京湾の水環境 - 水温と水質との関係 横浜市環境科学研究所報 33 8-67(29). 3) 安藤晴夫 柏木宣久 二宮勝幸 小倉久子 川井利雄 :198 年度以降の東京湾の水質汚濁状況の変遷について 東京都環境科学研究所年報 141-1(2). 4) 横浜市環境科学研究所 : 横浜の川と海の生物 ( 第 11 報 海域編 ) 38-42(27). ) 矢沢敬三 池田文雄 : 東京湾における低酸素水の分布および, シャコと溶存酸素量との関係 神水試研報 第 9 号 9-1(1988). 6) 柳哲雄 : 総説貧酸素水塊の生成 維持 変動 消滅機構と化学 生物的影響 海の研究 13 (), 41-46 (24). 7) 小林良則 : 溶存酸素量の鉛直分布から見た東京湾沿 岸域における低酸素水塊の動き 神奈川県水産試験場研究年報 1 1-(1994). 8) 神奈川県 : 神奈川県水質調査年表 (198 年度 -1997 年度 ). 9) 気象業務支援センター : 潮汐観測 毎時潮位 1997 年. 1) 気象庁 : 気象統計情報 過去の気象データ検索 1997 年. 11) 森川雅行 村上和男 : 成層期から対流期へ移行する東京湾の流動特性 第 32 回海岸工学講演会論文集 762-766(198). 12) 岩田静夫 清水顕太郎 柿野純 田辺伸 仲村文夫 古畑和哉 : 東京湾柴沖と船橋沖における水温 塩分 D Oの短期変化の関係 神水研報第 1 号 1-19(1996). 13) 岩田静夫 池田文雄 清水詞道 小泉喜嗣 松山優治 : 東京湾川崎沖底層での溶存酸素量の連続測定結果について 神水試研報 第 14 号 61-64(1993). 14) 野村英明 石戸義人 石丸隆 村野正昭 : 富栄養型内湾の東京湾における従属栄養性細菌密度の時空間分布 海の研究 16() 349-36(27). 1) 二宮勝幸 柏木宣久 安藤晴夫 小倉久子 :: 東京湾における溶存性無機態窒素およびリンの空間濃度分布の季節別特徴 水環境学会誌 2 47-467(1997). 29