2005年12月1日

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日本産科婦人科学会雑誌第68巻第8号

体外受精についての同意書 ( 保管用 ) 卵管性 男性 免疫性 原因不明不妊のため 体外受精を施行します 体外受精の具体的な治療法については マニュアルをご参照ください 当施設での体外受精の妊娠率については別刷りの表をご参照ください 1) 現時点では体外受精により出生した児とそれ以外の児との先天異常

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AID 4 6 AID ; 4 : ; 4 : ; 44 : ; 45 : ; 46 :

1990 preimplantation genetic diagnosis: PGD ( )

診療のガイドライン産科編2014(A4)/fujgs2014‐114(大扉)

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出生前遺伝カウンセリングに関する提言の解説(最終版)

目次 はじめに p.3 1. 着床前診断とは p.3 2. 着床前診断でできること p.3 3. 日本の現状 p.4 4. 着床前診断の対象となる方 p.5 5. 着床前診断の実際 p.6 6. 診断結果を聞くこととその後の経過 p 着床前診断をうけない場合 p.12 着床前診断に慎重な

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平成 27 年 11 月 日本卵子学会認定生殖補助医療胚培養士更新凍結者 ( 凍結期間 2 年未満 ) 各位 一般社団法人日本卵子学会理事長栁田薫認定委員長寺田幸弘 平成 28 年度生殖補助医療胚培養士資格認定制度資格更新審査のお知らせ 謹啓貴殿におかれましては 益々ご健勝にて実務に精進されているこ

日本卵子学会認定生殖補助医療胚培養士各位 一般更新 胚培養士用 平成 28 年 11 月 一般社団法人日本卵子学会生殖補助医療胚培養士認定委員会委員長寺田幸弘副委員長木村直子 平成 29 年度生殖補助医療胚培養士資格認定制度資格更新審査のお知らせ 謹啓貴殿におかれましては 益々ご健勝にて胚培養士業務

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

特定不妊治療費助成制度 の利用の手引き ( 申請案内 ) 平成 23 年 8 月 1 日から特定不妊治療に対する助成制度を創設しました 富田林市では 不妊治療の経済的負担の軽減を図るため 大阪府及びその他の都道府県 指定都市 中核市 ( 以下 大阪府等 という ) が実施する 特定不妊治療費助成制度

振込口座 : ゆうちょ銀行〇一九 ( ゼロイチキュウ ) 店当座 加入者名 : 一般社団法人日本卵子学会 審査方法 : 書類審査 審査発表 : 平成 30 年 5 月 26 日 ( 土 ) 第 59 回日本卵子学会学術集会にて審査発表と認定証授与を行います また ホームページ上および

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系統看護学講座 クイックリファレンス 2012年 母性看護学

胚(受精卵)移植をお受けの方へ

配偶子凍結終了時 妊孕能温存施設より直接 妊孕能温存支援施設 ( がん治療施設 ) へ連絡がん治療担当医の先生へ妊孕能温存施設より妊孕能温存治療の終了報告 治療内容をご連絡します 次回がん治療の為の患者受診日が未定の場合は受診日を御指示下さい 原疾患治療期間中 妊孕能温存施設より患者の方々へ連絡 定

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2 注釈 1 精液検査とは? 射精した精液中の精子の数や運動性 形などを調べる検査で これらの結果を 精液所見 といい 治療方針が決められることが多い 精液検査の標準値として左図のWHOラボマニュアルに準拠している場合が多い 注釈 2 フーナーテストとは? 代表的な精子 - 子宮頸管粘液適合試験であ

第4回大会 予稿集

第8回生殖補助医療胚培養士資格認定制度

長崎市告示第   号

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リプロダクション部門について

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着床前遺伝子診断に関する刑事法的一考察 林 弘正 Ⅰ. 序言 Ⅱ. 着床前遺伝子診断の現況と問題点 Ⅲ. 着床前遺伝子診断に関する日本産科婦人科学会の立場 Ⅲ - ⅰ. 着床前診断 に関する見解 ( 平成 10 年 6 月 27 日 ) から 着床前診断 に関する見解の改定について ( 平成 22

凍結胚の融解と胚移植の説明書 平成 27 年 8 月改定版 治療の必要性 / 適応について受精卵 ( 胚 ) の凍結は 体外受精または顕微授精において 以下のような場合に行なわれる治療です 新鮮胚移植後に 妊娠につながる可能性のある受精卵 ( いわゆる余剰胚 ) が残っていた場合 採卵数が多い 血中

融解 ( 解凍 ) 後の前核期または分割期卵を 1 日以上培養したにも関わらず分割が進まないときは その受精卵を胚移植で きないときがあります 凍結保存技術料金 月数に応じた保存料金が発生し経済的負担が増加します 方法 受精卵 ( 卵子 ) の凍結保存法 ( 超急速ガラス化保存法 ) Minimum

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胎児計測と胎児発育曲線について : 妊娠中の超音波検査には大きく分けて 5 種類の検査があります 1. 妊娠初期の超音波検査 : 妊娠初期に ( 異所性妊娠や流産ではない ) 正常な妊娠であることを診断し 分娩予定日を決定するための検査です 2. 胎児計測 : 妊娠中期から後期に胎児の発育が正常であ

出生前診断を検討している妊婦さんへ

注射すると 1 個だけでなく複数の卵胞が大きくなり 10 日くらいで直径 18 mm前後となります この時期に 卵子の成熟と排卵を促す HCG と呼ばれるもう一つのホルモンを注射します 採卵の直前である HCG 投与後 34 時間から 36 時間ころに卵胞を穿刺し 卵子を採取します これを採卵といい

晶形成することなく固化 ( ガラス化 ) します この方法は 前核期胚などの早期胚 の凍結に対して高い生存率が多数報告されています また 次に示します vitrification 法に比べて 低濃度の凍結保護剤で済むという利点があります 2) Vitrification( ガラス化保存 ) 法 細胞

臨床研究に関する研修会1

日本産科婦人科学会雑誌第66巻第8号

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

系統看護学講座 クイックリファレンス 2013年7月作成

別紙様式第1

する 研究実施施設の環境 ( プライバシーの保護状態 ) について記載する < 実施方法 > どのような手順で研究を実施するのかを具体的に記載する アンケート等を用いる場合は 事前にそれらに要する時間を測定し 調査による患者への負担の度合いがわかるように記載する 調査手順で担当が複数名いる場合には

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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2 反復着床不全への新検査法 : 検査について子宮内膜の変化と着床の準備子宮内膜は 卵巣から分泌されるステロイドホルモンの作用によって 増殖期 分泌期 月経のサイクル ( 月経周期 ) を繰り返しています 増殖期には 卵胞から分泌されるエストロゲンの作用により内膜は次第に厚くなり 分泌期には排卵後の

平成14年度研究報告

生殖遺伝学に関する患者 用カウンセリングガイド 教育内容の提供 :

実験計画書

その最初の日と最後の日を記入して下さい なお 他の施設で上記人工授精を施行し妊娠した方で 自施設で超音波断層法を用いて 妊娠週日を算出した場合は (1) の方法に準じて懐胎時期を推定して下さい (3)(1) にも (2) にも当てはまらない場合 1 会員各自が適切と考えられる方法を用いて各自の裁量の

説明文書 母体血中 cell-free DNA を用いた非侵襲的出生前遺伝学的検査の臨床研究 1. はじめにこの説明文書は 母体血中 cell-free DNA を用いた非侵襲的出生前遺伝学的検査の臨床研究 について内容を説明したものです この研究に参加するかどうかをお決めいただく際に 遺伝カウンセ

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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2 4 診断推論講座 各論 腹痛 1 腹痛の主な原因 表 1 症例 70 2 numeric rating scale NRS mmHg X 2 重篤な血管性疾患 表

資料2_ヒト幹同等性

(3) 倫理学 法律学の専門家等 本法人に所属しない人文 社会科学の有識者若干名 (4) 一般の立場から意見を述べることができる者若干名 (5) 分子生物学 細胞生物学 遺伝学 臨床薬理学 病理学等の専門家若しくは遺伝子治療等臨床研究の対象となる疾患に係る臨床医として 日本医科大学長が推薦した者若干

12_モニタリングの実施に関する手順書 

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ただし 対象となることを希望されないご連絡が 2016 年 5 月 31 日以降にな った場合には 研究に使用される可能性があることをご了承ください 研究期間 研究を行う期間は医学部長承認日より 2019 年 3 月 31 日までです 研究に用いる試料 情報の項目群馬大学医学部附属病院産科婦人科で行

Session 1 「Single embryo transfer《

妊よう性とは 妊よう性とは 妊娠する力 のことを意味します がん治療の影響によって妊よう性が失われたり 低下することがあります 妊よう性を残す方法として 生殖補助医療を用いた妊よう性温存方法があります 目次 はじめにがん治療と妊よう性温存治療抗がん剤治療に伴う卵巣機能低下について妊娠の可能性を残す方

検査項目情報 von Willebrand 因子 ( フォン ウィルレブランド因子 ) Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital 一次サンプル採取マニュアル 血液学的検査 >> 2B. 凝固 線溶関連検査

手順書03

臨床研究の概要および研究計画

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

沖縄県における若年がん患者に対する妊孕性温存療法の現状 琉球大学医学部附属病院産婦人科 銘苅桂子 下地裕子 大石杉子 安里こずえ 平敷千晶 青木陽一

顕微授精に関する承諾書

第 7 条対策委員会の構成および運営については 細則に定める 第 3 章他の組織との連携 第 8 条認定制度の運営に当たっては 必要に応じて 日本腎臓学会 日本透析医学会 日本医療 薬学会 日本病院薬剤師会 日本薬剤師会等と協議し 連携をはかることとする 第 4 章腎臓病薬物療法専門薬剤師 認定薬剤

検討課題の整理 1 第 1 回合同会議での意見及びその後委員から提出された意見を 第 1 回合同会議の 検討の進め方 ( 下記参照 ) に沿って分類 第 1 回合同会議資料 合同会議における検討の進め方 の抜粋 合同会議においては 以下の順で検討を進める (1) ゲノム指針と医学系指針との条文の整合

はじめに このサポートブックは 出生前診断に関する情報を提供することで 妊婦さんやパートナー ご家族 今後妊娠を考えている方の不安や疑問を軽減することを目的に作成しました 出生前診断を受けた場合 胎児に異常が見つかることがあります その際 妊娠中から赤ちゃんの病気が分かったから 心の準備ができて良か

実施前検査の結果により 治療が中止になることがあります 卵巣刺激法性周期が正常であれば 自然周期では通常 1~2 個の卵子が排卵します しかし 当院で体外受精 胚移植をお受けいただく治療周期には 複数の卵子が得られるよう薬 ( 排卵誘発剤 ) を使い卵巣刺激を行ないます 体外受精の治療をご希望される

研究課題名 臨床研究実施計画書 研究責任者 : 独立行政法人地域医療推進機構群馬中央病院 群馬県前橋市紅雲町 1 丁目 7 番 13 号 Tel: ( 内線 )Fax: 臨床研究期間 : 年月 ~ 年月 作成日 : 年月日 ( 第 版

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第 第 3 章第 第 第 3 第 4 第 5 第 4 章第 第 第 3 第 5 章第 第 第 3 第 4 インフォームド コンセントヒト受精胚の取扱い作成の制限取扱期間胎内への移植等の禁止他の機関への移送研究終了時の廃棄研究の体制研究機関提供機関研究機関と提供機関が同一である場合における当該機関の長

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

料 情報の提供に関する記録 を作成する方法 ( 作成する時期 記録の媒体 作成する研究者等の氏名 別に作成する書類による代用の有無等 ) 及び保管する方法 ( 場所 第 12 の1⑴の解説 5に規定する提供元の機関における義務 8 個人情報等の取扱い ( 匿名化する場合にはその方法等を含む ) 9

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上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

医療関係者 Version 2.0 RET 遺伝学的検査の実施について Ⅰ.RET 遺伝学的検査の対象 甲状腺髄様癌に対する RET 遺伝学的検査 平成 28 年 4 月より甲状腺髄様癌に対する RET 遺伝学的検査が保険収載された 診療報酬点数表によると 保険適用による RET 遺伝学的検査は 遺

別紙 体外受精胚移植 (IVF-ET) の流れ をご参照ください. まず, 実際に IVF-ET を行う前の周期までに, 治療の説明をお聞きいただき, 術前検査として心電図と血液検査 ( 血液型, 感染症, 血液凝固機能等 ) を行います. 後に採卵という手術が必要になりますので, それが安全に行え

第71回日本産科婦人科学会学術講演会 専攻医教育プログラム3 不育症 習慣流産とは 生殖 内分泌 不育症 2回以上の流産や死産の既往がある場合 妊娠22週以降 の胎内死亡や死産歴も包括 生化学妊娠は含めないが 今後の検討課題 不育症の診断と治療 異所性妊娠や絨毛性疾患は除外 神戸大学大学院医学研究科

て それ以後は中止してください [ ショート法 ]short 法 月経 周期の1~ 3 日目 から点鼻薬 ( スプレキュア ) を開始する方法で 卵巣機能が低下 ( 卵胞発育不十分 35 歳 ~) の場合にこの方法で行うことがあります スプレー開 始の翌日か翌々日に卵巣刺激の注射 ( hmg 製剤

医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

北里大学病院モニタリング 監査 調査の受け入れ標準業務手順 ( 製造販売後臨床試験 ) 第 1 条 ( 目的 ) 本手順書は 北里大学病院において製造販売後臨床試験 ( 以下 試験とする ) 依頼者 ( 試験依頼者が業務を委託した者を含む 以下同じ ) が実施する直接閲覧を伴うモニタリング ( 以下

移植治療による効果と危険性について説明し 書面にて移植の同意を得なければならない 意識のない患者においては代諾者の同意を得るものとする 6 レシピエントが未成年者の場合には 親権者からインフォームド コンセントを得る ただし 可能なかぎり未成年者のレシピエント本人にも分かりやすい説明を行い 可能であ

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Transcription:

着床前診断に関する見解 について 着床前診断は 平成 10 年 10 月に見解を発表して以来 申請された症例ごとに実施施設における倫理委員会および本会の審査小委員会で審議し 臨床研究としての実施の可否を決定してまいりました このたび染色体転座に起因する習慣流産に対して着床前診断の審査基準を明確にいたしましたので 平成 10 年 10 月見解 について考え方を追加いたします 平成 18 年 2 月 社団法人日本産科婦人科学会理事長武谷雄二倫理委員長吉村泰典 習慣流産に対する着床前診断についての考え方 ( 解説 ) 習慣流産夫婦の 7~8% に染色体構造異常がみられ 4.5% が均衡型転座保因者である 2 回以上の流産既往後に均衡型相互転座保因者と診断された夫婦のうち 夫が保因者の場合は次回妊娠で流産する率は 61.1%( 生児獲得率は 38.9%) 妻が保因者である場合の流産率は 72.4%( 生児獲得率は 27.6%) であり 夫婦の少なくとも一方が保因者である場合の流産率は 68.1% になるとする報告がある 一方 2 回以上の流産既往のある非転座保因者についてはその流産率は 28.3% と報告されている (Sugiura-Ogasawara et al. 2004) これらの結果は 習慣流産に占める染色体転座保因者の率は決して高くないものの 流産既往のある染色体転座保因者は非転座保因者に比して高い率で流産を反復することを示している 一方 染色体転座に起因する習慣流産症例に対する着床前診断実施後の生児獲得率 68.0%(ESHRE PGD Consortium の長期調査 ) は 染色体転座に起因する習慣流産症例における自然妊娠での累積生児獲得率 68.1%(Sugiura-Ogasawara et al.) と現時点ではほぼ同率である しかしながら このような流産の反復による身体的 精神的苦痛の回避を強く望む心情や 着床前診断を流産を回避する手段の選択肢の一つとして利用したいと願う心情は十分に理解しうる 1

近年 着床前診断技術は急速に進歩しており 全世界で 4,000 周期以上が実施され 診断技術の向上に伴って その科学的なデータが蓄積されるようになってきている また 現在 本会の着床前診断に関する小委員会における審査制度も十分に機能している さらに臨床遺伝専門医などによる着床前診断を希望するクライエントに対する遺伝カウンセリング体制も充実してきている これらの諸状況を総合的に検討した結果 染色体転座に起因する習慣流産 ( 反復流産を含む ) の着床前診断の審査基準を明確にする必要があると結論した 要件 1. 審査対象染色体転座に起因する習慣流産 ( 反復流産を含む ) を着床前診断の審査の対象とする 2. 実施医療機関の資格要件染色体転座に起因する習慣流産に対する着床前診断は臨床研究と位置づけられ これを実施する医療機関は 現在の重篤な遺伝性疾患を適応とする場合と同じ資格要件を備える必要がある 本法を実施するにあたって 実施者は 1) 染色体転座保因者の正確な細胞遺伝学的診断ができる知識と技術を有する者 2) 体外受精の診療に習熟した医師 3) 体外受精における検査室での手技に習熟した者 4) 間期細胞核 FISH 法 (fluorescence in-situ hybridization) を実施することのできる知識と技術 ( プローブの選択を含む ) を有する者 5) 単一細胞による CGH Micro-array 技術を有する者 であることを要し さらに情報管理者の関与が必須である 本法の実施責任者は実施分担者を組織し 精度管理の責任を負う 本法の実施責任者は生殖医学や不育症医療に関する高度の知識 技術を習得した医師であり かつ遺伝性疾患や染色体異常に対して深い知識と出生前診断の豊かな経験を有することを必要とする 3. 遺伝カウンセリング着床前診断の実施には 排卵誘発 採卵 胚移植 黄体機能支持など母体への負担を強いる治療 技術を駆使する必要があり それらに伴う合併症や副作用 (OHSS 麻酔の合併症 臓器 血管の損傷など) も存在する また割球採取の胚への影響 技術的問題などに伴う正診率 ( 診断精度 ) 倫理に関する問題 2

さらに経済的負担などの問題があり これらに関する十分な説明をクライエント夫婦に行った上で同意を得る必要がある そのためには本法の実施責任者による説明の他に 臨床遺伝学に精通した者 ( 臨床遺伝専門医等 ) による児の予後などを含めた遺伝カウンセリングが実施される必要がある その中で 染色体転座に起因する習慣流産症例に対する着床前診断実施後の生児獲得率は現在のところ (ESHRE PGD Consortium の長期調査 :68.0%) 染色体転座に起因する習慣流産症例における自然妊娠での累積生児獲得率 (Sugiura-Ogasawara et al. :68.1%) とほぼ同率であり 染色体転座に起因する習慣流産に対する着床前診断の優位性は確立していないこと 親の均衡型染色体構造異常に由来する染色体異常以外の原因による流産が起こる可能性なども含め 本法の意義や限界についても言及しておく必要がある 4. 検査法出生前診断において不均衡型染色体構造異常を同定する際には十分量の細胞を得るべく培養を行い 分裂中期核板を作成し 複数の細胞を解析するのが一般的であるが 4~8 細胞期の受精卵から得られる 1~2 細胞 ( 割球 ) のみを材料とする着床前診断では 間期細胞核を用いた FISH 法により 目的とする染色体の量的変化の有無を解析することになる その際に使用されるプローブは 染色体転座保因者の転座の内容によって選択される 間期細胞核を用いた FISH 法の診断精度には限界があり プローブによっても精度が異なるため 本法を実施する際には 事前に当該転座保因者において不均衡型染色体構造異常の検出が可能かどうか予備実験を含め十分検討しておく必要がある 最近 単一細胞の全ゲノムを数 μl まで増幅し CGH Micro-array 法を行うことにより 全ての染色体情報が得られるようになった (Wells D et al. Nucleic Acids Res. 1999) この方法を用いれば転座に関連した均衡型 不均衡型の診断に留まらず 均衡型保因者で問題となる inter-chromosomal effect に由来するトリソミーの診断も可能であり FISH では検出できない精度の高い染色体情報も得ることができる ただし 一個の細胞の全ゲノムを満遍なく増幅するには高度の技術を要するので 前もって最適の増幅法を習熟しておく必要がある 5. 申請手続き 3

現在の着床前診断は臨床研究の段階にあり 重篤な遺伝性疾患を適応とする場合は 現段階では症例ごとに 本学会の倫理委員会の下に設けられた審査小委員会で審査している 染色体転座に起因する習慣流産を適応とする着床前診断は 手技などに関して現在の重篤な遺伝性疾患を適応とする場合と同じであることを考慮すれば これまでと同様の手続きや審査法を適用すべきである ただし これまでの実績やクライエントへの配慮から 手続きの簡略化や審査の迅速化を図る必要がある 申請書類には 1 症例の概要 ( 妊娠歴 流産歴 分娩歴 夫婦および流産児の染色体分析結果 不育症関連の諸検査成績 その他 ) 2 施設内倫理審査委員会における審議内容および審議結果 3インフォームド コンセントの内容 ( 説明者 説明書類 同意書 その他 ) 4 施設および実施者の資格要件に関する書類 ( 生殖医療に関する実績 遺伝性疾患 染色体異常 出生前診断に関する実績 その他 ) 5 遺伝カウンセリング体制 内容および担当者の実績 ( 資格 経験等 ) を含める 本学会は 着床前診断に関する本学会の見解や資格要件 手続きなどを定期的 (3~5 年ごと ) に見直し 技術的進歩や社会的ニーズを適切に反映したものにする必要がある 6. 審査小委員会本学会は 現在の着床前診断の申請例に対するものと同様の審査小委員会を設置し 症例ごとに対応する 参考文献 1. Sugiura-Ogasawara M, Ozaki Y, Sato T, Suzumori N and Suzumori K Poor prognosis of recurrent abortions with either maternal or paternal reciprocal translations. Fertil Steril 81,367-373, 2004. 2. ESHRE PGD Consortium Steering Committee (2001) ESHRE Preimplantation Genetic Diagnosis Consortium; data collection III. Hum Reprod 17,233-246, 2002. 3. Wells D, Sherlock JK, Handyside AH and Delhanty JDA Detailed chromosomal and molecular genetic analysis of single cells by whole genome 4

amplification and comparative genomic hybridization. Nucleic Acids Res 27,1214-1218, 1999. 5