平成18年3月17日

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を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

長期/島本1

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

<1. 新手法のポイント > -2 -

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

1. 背景生殖細胞は 哺乳類の体を構成する細胞の中で 次世代へと受け継がれ 新たな個体をつくり出すことが可能な唯一の細胞です 生殖細胞系列の分化過程や 生殖細胞に特徴的なDNAのメチル化を含むエピゲノム情報 8 の再構成注メカニズムを解明することは 不妊の原因究明や世代を経たエピゲノム情報の伝達メカ

( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

れていない 遺伝子改変動物の作製が容易になるなどの面からキメラ形成できる多能性幹細胞 へのニーズは高く ヒトを含むげっ歯類以外の動物におけるナイーブ型多能性幹細胞の開発に 関して世界的に激しい競争が行われている 本共同研究チームは 着床後の多能性状態にある EpiSC を着床前胚に移植し 移植細胞が

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STAP現象の検証結果

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

資料 3-1 CREST 人工多能性幹細胞 (ips 細胞 ) 作製 制御等の医療基盤技術 平成 20 年度平成 21 年度平成 22 年度 10 件 7 件 6 件 進捗状況報告 9.28,2010 総括須田年生

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

STAP現象の検証の実施について

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

資料3-1_本多准教授提出資料

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 7 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 生殖細胞の誕生に必須な遺伝子 Prdm14 の発見 - Prdm14 の欠損は 精子 卵子がまったく形成しない成体に - 種の保存 をつかさどる生殖細胞には 幾世代にもわたり遺伝情報を理想な状態で維持し 個体を

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生物の発生 分化 再生 平成 12 年度採択研究代表者 小林悟 ( 岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター教授 ) 生殖細胞の形成機構の解明とその哺乳動物への応用 1. 研究実施の概要本研究は ショウジョウバエおよびマウスの生殖細胞に関わる分子の同定および機能解析を行い 無脊椎 脊椎動物に

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

研究成果報告書

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細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

論文の内容の要旨

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Powered by TCPDF ( Title 造血器腫瘍のリプログラミング治療 Sub Title Reprogramming of hematological malignancies Author 松木, 絵里 (Matsuki, Eri) Publisher P

体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

スライド 1

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

Microsoft Word CREST中山(確定版)

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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学位論文の要約

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

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報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

生物時計の安定性の秘密を解明

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手


統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

博第265号

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. 発表者 : 山田泰広 ( 東京大学医科学研究所システム疾患モテ ル研究センター先進病態モテ ル研究分野教授 ) 河村真吾 ( 研究当時 : 京都大学 ips 細胞研究所 / 岐阜大学

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

Establishment and Characterization of Cynomolgus Monkey ES Cell Lines

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

論文の内容の要旨

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

周期的に活性化する 色素幹細胞は毛包幹細胞と同様にバルジ サブバルジ領域に局在し 周期的に活性化して分化した色素細胞を毛母に供給し それにより毛が着色する しかし ゲノムストレスが加わるとこのシステムは破たんする 我々の研究室では 加齢に伴い色素幹細胞が枯渇すると白髪を発症すること また 5Gy の

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

この問題点の一つとして従来からの細胞培養法が挙げられます 長年行われている細胞培養法では 細胞培養フラスコやディッシュなどを使用していますが これらは実験者にとって操作しやすいものの 細胞自身に適したものでは決してありません それは 細胞が本来あるべき環境とは異なるからです 私たちの体において 細胞

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

報道関係者各位

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平成 29 年 9 月 5 日 情報提供 体細胞初期化因子の本来の生理機能を解明 ips 細胞の樹立メカニズムの解明による再生医療への応用に期待 本学動物生命科学研究センター浅見拓哉特任助教 依馬正次教授らの研究グループは JST 戦略的創造研究推進事業 ( さきがけ ) ips 細胞と生命機能 の一環として 体細胞初期化因子である Klf5 が マウス初期胚で ES 細胞の起源であるエピブラスト (= 多能性を有する細胞集団 ) の発生を制御していることを解明しました 本研究グループは Klf4 と類縁の遺伝子で体細胞初期化因子である Klf5 に着目し 初期胚のエピブラストの発生では Klf5 が重要な働きを担っていることを初めて明らかにしたものです この成果は 9 月 4 日 ( 月 ) 付けで 英国専門誌 Development 誌にオンライン掲載されました つきましては 本件について広く周知いたしたく報道方よろしくお願いいたします 山中 4 因子の 1 つである Klf4 に類似している Klf5 が ES 細胞の前段階であるエピブラストの発生に必要である 体細胞初期化因子 Klf5 の発生過程における生理機能は不明だった Klf5 を欠損した胚盤胞期胚では 多能性を有するエピブラストが消失している Klf5 欠損胚ではエピブラストを分化誘導する FGF4-ERK 経路が活性化している Klf5 は FGF4-ERK 経路を抑制することで エピブラストの発生を制御している 本研究により 初期化因子による ips 細胞樹立メカニズムの解明に繋がることが期待できる ( 送信枚数 : 本紙を含む 5 枚 ) 内容詳細に関するお問い合せ先 滋賀医科大学動物生命科学研究センター特任助教浅見拓哉 TEL: 077-548-2208 教授 tazami@belle.shiga-med.ac.jp 依馬正次 TEL: 077-548-2334 mema@belle.shiga-med.ac.jp プレスリリース発信元 滋賀医科大学企画 (IR 担当 ) 課 評価係 ( 担当 : 阪井 三添 ) TEL:077-548-2012 e-mail:hqkouhou@belle.shiga-med.ac.jp

( 別紙 1) 内容詳細 体細胞初期化因子の本来の生理機能を解明 (8 月 X 日付 Development 誌に掲載 ) 研究の背景 線維芽細胞などの体細胞は 山中 4 因子注 1) と呼ばれる Oct3/4 Sox2 Klf4 c-myc により多 能性幹細胞注 2) へ初期化されます 初期化能力を持つ因子は他に Nanog Esrrb などがありま すが 多くの初期化因子は発生初期に多能性細胞の集団 (= エピブラスト注 3) ) の発生に 重要な役割を果たすことが報告されています ( 図 1) しかし Klf4 は皮膚のバリア形成に寄 与するもののエピブラストの発生に重要ではないことが分かっていました 本研究グルー プの先行研究において Klf4 の類似遺伝子 Klf5 遺伝子注 4) に着目してノックアウトマウスを 作製したところ Klf5 が初期胚発生過程および内部細胞塊からの ES 細胞の樹立過程に重要 な働きをしていることを報告しています しかし Klf5 の初期発生における機能や分子機 構は良く分かっていませんでした マウス初期胚発生では着床までに 3 つの細胞系譜の分化が行われます 最初の分化は 8 細 胞期から 16 細胞期にかけて行われ 将来胎児へ発生する細胞集団である内部細胞塊と 胎 盤組織へ分化する栄養外胚葉が分化します 内部細胞塊は着床前の後期胚盤胞期までに ES 細胞の起源で多能性を有するエピブラストと 将来卵黄嚢へ分化する原始内胚葉へそれ ぞれ分化します この内部細胞塊からのエピブラストと原始内胚葉の分化には線維芽細胞 増殖因子 (FGF4) 注 5) が重要な機能を果たしていることが知られています 今回 Klf5 の初期発 生における機能や分子機構は調べたところ Klf5 が FGF4 を制御することにより エピブラ ストの発生を制御するという本来の生理機能を明らかにすることができました 研究成果 初期胚発生過程における Klf5 の機能を明らかにするため Klf5 遺伝子を働かなくさせたノックアウト (KO) マウスを作製し 着床までの発生段階毎にエピブラストと原始内胚葉のそれぞれのマーカーである Nanog と Gata6 の発現を免疫染色により解析しました その結果 胚盤胞期 Klf5 KO 胚では Nanog 陽性細胞が殆ど消失しており 内部細胞塊の殆どが Gata6 陽性細胞 すなわち原始内胚葉系列の細胞に置き換わっていることが分かりました これらの結果から Klf5 がエピブラストの発生を制御する重要な因子であることが分かりました ( 図 2) Klf5 がどの様なメカニズムでエピブラストと原始内胚葉の分化バランスを調節しているのかを明らかにするため Klf5 KO 胚の遺伝子発現を網羅的に解析しました その結果 初期胚盤胞期 Klf5 KO 胚では FGF4 と呼ばれる分泌性シグナル因子の発現が増加しており ERK と呼ばれる細胞内シグナル伝達経路が活性化していることを見出しました また 単一細胞レベルでの遺伝子発現解析を行った結果 本来は 将来エピブラストになるごく一部の細胞で発現する FGF4 陽性細胞が Klf5 KO 胚では増加していることが分かりました この FGF4 によって活性化される ERK シグナルは エピブラストだけでなくマウス ES 細胞を分化誘導することが知られています Klf5 KO 胚において FGF-ERK 経路を FGF 受容体阻害剤および MEK 阻害剤により遮断した結果 Klf5 KO 胚の内部細胞塊に Nanog 陽性のエピブラスト細胞が出現しました ( 図 3) このことは Klf5 KO 胚では FGF4 の発現上昇に

より FGF-ERK 経路が活性化しており Nanog 陽性エピブラスト細胞の消失を引き起こし ていることを示すものです これらの結果から Klf5 が FGF4 の発現を制御することにより エピブラストの発生を保証していることが明らかになりました 今後の展開 今回の研究で明らかにした 初期胚発生における Klf5 による FGF4 と FGF-ERK 経路の制御は 体細胞の初期化や多能性幹細胞の維持における Klf 転写因子群の機能解明に繋がる可能性があります 特に FGF-ERK 経路の活性化は多能性幹細胞の分化を誘導しますが 研究グループでは Klf5 をノックアウトしたマウス ES 細胞では FGF-ERK 経路が顕著に活性化されていることも見出しています このことは 初期胚発生だけでなく多能性幹細胞の維持においても Klf5 が FGF-ERK 経路の活性を制御することにより未分化な状態の維持に働いていることを示すものです さらに 体細胞の初期化による ips 細胞の樹立過程においても FGF-ERK 経路の活性を調節することにより樹立効率が改善されることも知られていることから 今後体細胞の初期化過程で Klf5 の働きを調節することによる効率的な初期化方法の開発や Klf 転写因子群による初期化メカニズムの解明に繋がることが期待されます 図 1. 初期化因子の試験管内と生体内における機能 Klf5 は Klf4 の類似遺伝子であり 体細胞を初期化する能力を持つ これまでに Oct3/4 Sox2 Nanog の多能性細胞集団 (=エピブラスト) の発生における役割は報告されてきたが Klf5 については不明だった

図 2. Klf5 はマウスの胚発生においてエピブラストの発生を保証している 初期胚盤胞期では全ての細胞で Nanog と Gata6 を同時に発現しているが 後期胚盤胞期 までの間にエピブラストは Nanog を 原始内胚葉は Gata6 を選択的に発現する 図 3. 野生型胚と Klf5 ノックアウト胚における Nanog 遺伝子の発現 Nanog は京都大学 ips 細胞研究所山中伸弥教授らが同定した 多能性幹細胞で発現する遺伝子で 初期化因子である マウス胚ではエピブラストに発現している Klf5 ノックアウト胚では Nanog の発現は野生型胚と比較して著しく減弱しているが FGF 受容体の阻害剤を加えた培養液中で発生させる事により Nanog の発現が回復する このことは Klf5 ノックアウト胚では FGF による細胞内シグナルが活性化していることを示している

論文タイトル Klf5 maintains the balance of primitive endoderm to epiblast specification during mouse embryonic development by suppression of Fgf4 タイトル和訳 Klf5 はマウス初期胚発生において Fgf4 の抑制により原始内胚葉とエピブラストの分化バ ランスを維持する 著者名 Takuya Azami, Tsuyoshi Waku, Ken Matsumoto, Hyojung Jeon, Masafumi Muratani, Akihiro Kawashima, Junn Yanagisawa, Ichiro Manabe, Ryozo Nagai, Tilo Kunath, Tomonori Nakamura, Kazuki Kurimoto, Mitinori Saitou, Satoru Takahashi, and Masatsugu Ema, 用語解説 注 1). 山中 4 因子 : 京都大学山中伸弥教授らが体細胞を初期化し ES 細胞と同等の多能性をもつ ips 細胞を樹立する際に用いた Oct3/4, Sox2, Klf4, c-myc の 4 つの遺伝子 特に Klf4 は Klf5 と同じ Klf ファミリー遺伝子の一つであるが 体細胞の初期化や多能性幹細胞における機能は良く分かっていない 注 2). 多能性幹細胞 : 身体を構成する全ての細胞 組織に分化する能力 ( 多能性 ) を有する幹細胞 代表的な多能性幹細胞である胚性幹 (Embryonic Stem; ES) 細胞はマウス胚盤胞期胚の多能性細胞であるエピブラストに由来する 山中 4 因子に代表される初期化因子を用いて体細胞の初期化により樹立される ips 細胞は ES 細胞と同等の多能性を有しており 再生医療や創薬分野での研究が精力的に進められている 注 3). エピブラスト : ES 細胞の起源であり 内部細胞塊から分化した多能性を持つ細胞 注 4). Klf5: Klf5 は ショウジョウバエの体節形成に働く Krüppel 遺伝子に相同性を持つ遺伝子群である Krüppel-like factor(klf) ファミリーの一つ ヒトおよびマウスでは 17 遺伝子群が同定されており 共通して C 末端側に DNA 結合ドメインであるジンクフィンガーを持つ転写因子として機能する 注 5). FGF4: 線維芽細胞増殖因子 (Fibroblast growth factor; FGF) の一つであり FGF 受容体に結合して細胞に分化 増殖のシグナルを伝えるシグナル伝達物質として機能する