Q 38 被災時にインスリンがなくなったらどうすればよいでしょうか? ( 複数回答可 ) a 1 型糖尿病の人ではインスリン注射が必ず必要なので 中断しないようにする b 自分のインスリンがないときには ほかの人のインスリンを借りて打てばよい c 避難所の救護所に行けばインスリンが手に入るのでそれを打てばよい d インスリンがないときは 経口血糖降下薬をその分多めに服用する こたえ A 正解 a 解説 1 型糖尿病の場合新潟県中越地震の体験を話していると 地震などの大災害時にインスリンは手に入るのか 手に入らないときはどうしたらよいのか と よく質問されます まずはインスリン療法が必須の 1 型糖尿病の場合を考えてみましょう 1. 緊急連絡方法についての準備が必要 1 型糖尿病の人はインスリンが絶対に必要で その中断は生命にかかわります インスリンがなくなる前に早急に医療機関と連絡をとる方法を 普段から指導しておかなければなりません なお 2006 年に起きた新潟県中越地震では幸いにもケトアシドーシスの発生はありませんでした 1 型糖尿病患者さんは普段からインスリンを手元に持っていることが多いので 避難するときも持ち出すことができたようです しかし 避難所に行ったけれど他人の前でインスリンが打てず 高血糖となった人を緊急で往診したことがあります 病院側は 1 型糖尿病患者さんのリストを作り 何らかの方法で連絡をとる方法を考えておいたほうがよいでしょう 2. インスリンの代用方法インスリンなら何でもよいというわけにはいきませんから 自分のインスリンがない場合にほかの人のインスリンを借りて打つということはできません インスリン療法では その人の血糖パターンや生活スタイルに応じて適切なインスリン製剤を選択しているのです そして 現代ほど多様な種類のインスリンが使われている時代はありません そのため 救護所でインスリンを処方しようと思っても その人が普段使用しているインスリンが手に入らない場合があるでしょう そのときはどのインスリンなら代用できるのでしょうか 速効型 (R) と中間型 (N) あるい 198 糖尿病ケア 2010 秋季増刊
は超速効型 (Q) と持効型 (G あるいは D) があればなんとかできるはずです その人の一日インスリン使用総量を単純に 3 ~ 4 等分し その量を朝昼夕と就寝前に R-R-R-N か Q-Q-Q-G(D) などで打ちます 災害時は食事の内容や時間が日常生活とは異なりますので インスリンも食前ではなく どのくらい食べられたかを判断して食後にやや少なめに打ち 血糖をこまめに測定しながらインスリン量の調節をする必要があります どう対応すればよいか 日ごろから患者さんに伝えておくとよいでしょう 2 型糖尿病の場合一方 2 型糖尿病の人はインスリンの中断ですぐに危険な昏睡になるようなことはないのですが やはり血糖が上昇してしまうことが予想されます そのときは水分をできるだけ多くとってもらいます 脱水が高度になると高浸透圧高血糖症候群の危険も出てきます インスリンと経口血糖降下薬を併用している人では 内服薬を増やせばよいというものではありません 勝手な判断で治療の変更をせず なるべく早く避難所に巡回する医療スタッフに相談することです 相談された医療スタッフは患者さんの治療状況を確認し 主治医に連絡するか糖尿病専門医に相談するようにしてください 章2 災状況判断力じっくり養成ドリル50 引用 参考文献 1) 八幡和明. 震源地からのメッセージ : マグニチュード 6.8 を乗り越えて. 月刊糖尿病ライフさかえ.4(1-6),2005. 2) 八幡和明ほか. 大震災からの教訓 : 新潟中越沖地震を体験して. 月刊糖尿病ライフさかえ.45(12),2005,12-21. 3) 八幡和明ほか. 大災害 もしも のときに備える. 月刊糖尿病ライフさかえ.46(9),2006,12-17. 4) 八幡和明. 新潟県中越地震の教訓. 糖尿病ケア.5(3),88-93. 5) 八幡和明. 震災時のインスリン療法. 糖尿病ケア.4(12),57-60. 6) 八幡和明ほか. 震災時の糖尿病医療.Online DITNN.324,2005,3-6. ( 八幡和明 ) 害への備えを用意せよ!8 糖尿病ケア 2010 秋季増刊 199
Q 39 災害時に避難所で支給される食事の食べ方として正しいのは? ( 複数回答可 ) a 500kcal の目安を覚え その範囲でできるだけバランスよく食べる b 1 食 500kcal までなら おにぎりでも菓子パンでもラーメンでも 何でも食べてよい c 緊急時なので配給された食事はすべて食べる d お菓子やジュースなどは低血糖であれば食べてもよいが それ以外のときは食べない こたえ A 正解 a d 解説 食料の準備災害時に指示どおりの食事療法を守ることは簡単なことではありません 最初はいつ食事が手に入るのかさえわかりません 早めに救援物資が届く避難所もあれば 小さい避難所ではなかなか物資が届かないこともあります そんなときのために 非常持ち出し袋に緊急時の食料を少なくとも 2 日分は入れておくとよいでしょう そのほか飴やチョコレートなども入っていると 低血糖の予防にもなり便利です 配給食の食べ方最初に配給される食料はおにぎりとお茶 あるいはパンと牛乳でしょう カロリーが表示されている場合はその数値を参考にして 1 回に 500kcal を目安に食べるように指導してください おにぎり 2 個と牛乳 200mL でだいたい 500kcal になります あんパン 1 個 牛乳 200mL バナナ 1 本でもよいでしょう ( 図 1) パンはクリームパンやカステラパンなどの菓子パンが届くことが多いと思います これらはカロリーが高いので 普通に食べると血糖が上がることが予想されます そのほかの配給食としてインスタントラーメンもありますが カロリーが高く塩分も多いので注意が必要です 半分残す 汁は捨てる などの工夫をしてください ただ 避難所ではせっかく送ってもらった食品を捨てることに心理的抵抗があるかもしれません 新潟県中越地震では そのために全部食べて血圧が上がったり太ったりした人が多かったようです 勇気を持って残すことも必要なので 避難所の責任者に相談するとよいでしょう また 低血糖などの緊急時のためにお菓子やジュースなどを用意していることがありますが あくまでも非常用と考え普段は食べないように指導してください このために高血糖になることも多いようです 200 糖尿病ケア 2010 秋季増刊
状況判断 力じ っ くり 2 章養成ド災リル50 食事の過剰摂取に注意 避難所生活が長期になると 救援物資が潤沢に配給されるようになり 給食のサ ービスも始まります 動かないのに食べものは豊富なのでついつい食べてしまい 摂取エネルギーが過剰になり肥満と血糖値の悪化を招きます 長引く避難所生活で 10 ~ 20kg も体重が増加した人も見受けられています 体重や血圧の測定など自分 で注意していくことが肝要です 血糖自己測定を行っている人では 血糖値が高く なってきているなら早めに医療スタッフに相談するよう指導してください * * * * * 避難所に医療スタッフとして巡回する人は糖尿病の指導ができることを被災者に告げて 食事や運動の仕方など日常の管理などに力を発揮してください 引用 参考文献 1) 八幡和明. 糖尿病患者さんのための災害マニュアル. 東京, ジョンソン エンド ジョンソン,2007,8. 2) 八幡和明. 震源地からのメッセージ : マグニチュード 6.8 を乗り越えて. 月刊糖尿病ライフさかえ.45(1-6),2005. 害への備えを用意せよ!8 3) 八幡和明ほか. 大震災からの教訓 : 新潟中越沖地震を体験して. 月刊糖尿病ライフさかえ.45(12),2005,12-21. 4) 八幡和明ほか. 大災害 もしも のときに備える. 月刊糖尿病ライフさかえ.46(9),2006,12-17. 5) 八幡和明. 新潟県中越地震の教訓. 糖尿病ケア.5(3),88-93. 6) 八幡和明. 震災時のインスリン療法. 糖尿病ケア.4(12),57-60. 7) 八幡和明ほか. 震災時の糖尿病医療.DITN.324,2005,3-6. ( 八幡和明 ) 糖尿病ケア 2010 秋季増刊 201
Q 40 避難所でのセルフケアで注意すべきことは?( 複数回答可 ) a 夜間トイレに行くと大変なので水分を減らす b 運動不足にならないように体操などを心がける c 風邪をひかないようにうがい 手洗いなどを励行する d ストレスが溜まらないように気分転換を図る こたえ A 正解 b c d 解説 大災害時は避難所生活が長くなることが予想されます 非日常の生活が続くとさまざまな障害が蓄積してきます そんなときに自分の体を守るためのセルフケアについて 糖尿病患者さんへ指導しておきましょう 水分摂取避難所や車の中に避難していると夜間にトイレに行くことがたいへん不都合なため ついつい水分摂取を控えるようになってしまいます 水分が不足すると脱水症状が強くなって血管の中で血栓ができ その静脈血栓が肺に詰まって エコノミークラス症候群 ( 静脈血栓塞栓症 ) を起こすことがあるといわれています とくに狭い車内で暖房をつけっぱなしにして動かずにいた人に多かったようです そのほか脳梗塞や心筋梗塞の危険もありますので 水分はしっかりとるよう心がけてもらいましょう セルフチェック次は自分でできるセルフチェックです 体重 血圧 体温などを毎日測定します 自分で血糖を測る器械もありますが 自分で測れない人は医療スタッフに相談するように伝えましょう 異常があればその原因を考えて早めに対処することが大切です そして 今までの治療が中断していないか注意してもらいます 感染症 血糖コントロール悪化の予防避難所は人が多く 換気も不十分で風邪やインフルエンザなどの感染症が広がる心配があります そこで うがいと手洗い マスク着用などで予防します また 避難所や車の中に長くいると運動不足になり そのため血糖コントロールも悪化してきます ラジオ体操 テレビ体操 足の屈伸 散歩など軽い運動をすることが大切です 避難所ではプライバシーがなくストレスが溜まりやすくなります 散歩 体操な 202 糖尿病ケア 2010 秋季増刊
どで気分転換を図り それでもまだ気分が晴れず元気が出ないときは医療スタッフに相談するようにしましょう さらに まだ一般の人にはなじみが薄いことから インスリン注射や血糖測定をしていると覗き込まれる場合もありたいへん気になります 避難所の責任者に相談し できればプライバシースペースを確保してもらいます 引用 参考文献 1) 八幡和明. 震源地からのメッセージ : マグニチュード 6.8 を乗り越えて. 月刊糖尿病ライフさかえ.4(1-6),2005. 2) 八幡和明ほか. 大震災からの教訓 : 新潟中越沖地震を体験して. 月刊糖尿病ライフさかえ.45(12),2005,12-21. 3) 八幡和明ほか. 大災害 もしも のときに備える. 月刊糖尿病ライフさかえ.46(9),2006,12-17. 4) 八幡和明. 新潟県中越地震の教訓. 糖尿病ケア.5(3),88-93. 5) 八幡和明. 震災時のインスリン療法. 糖尿病ケア.4(12),57-60. 6) 八幡和明ほか. 震災時の糖尿病医療.Online DITNN.324,2005,3-6. 章2 災状況判断力じっくり養成ドリル50 ( 八幡和明 ) 害への備えを用意せよ!8 糖尿病ケア 2010 秋季増刊 203