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はじめに 近年 がんに対する治療の進歩によって 多くの患者さんが がん を克服することができるようになっています しかし がん治療の内容によっては 造精機能 ( 精子をつくる機能のことです ) が低下し 妊娠しにくくなったり 妊娠できなくなることがあります また 手術の内容によっては術後に性交障害を

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目次 Ⅰこんな症状に注意 1 婦人科がんとは2 子宮がんという用語2 がん(悪性腫瘍)とは4 卵巣がんと子宮体がんは閉経前後から発症が増える5 卵巣がんは症状が出たときには進行していることが多い8 子宮体がんでは不正性器出血に要注1 意0 検診は乳がんと子宮頸がんが主な対1 象3 子宮頸がんは予防可能1 に4 子宮体がん検診の問題点15 卵巣がんの検査は医師と事前に相談が必要18 目次

viⅡどのような病気で どのような人がなりやすいのか 21 卵巣の構2 造2 卵巣腫瘍とその種2 類2 発生部位によって分2 類5 チョコレート嚢胞(卵巣の子宮内膜症)とは29 子宮体がんのタイプ31 子宮体がんの組織型33 がん細胞の分化度34 女性ホルモンと子宮内膜との関係35 コラム子宮内膜増殖症 子宮内膜異型増殖症36 エストロゲンの分泌異常がリスクに38 閉経後もエストロゲンは脂肪組織で産生される39 卵巣がんのリスクファクター41 子宮体がんのリスクファクター44Ⅲ卵巣がん 子宮体がんの検査と診断 47 検査は目的により三段4 階8

vii 目次まずは問診と内診49 体に負担の少ない経腟超音波検査51 精密検査を要するかどうかをチェックする子宮内膜細胞診52 子宮体がんの確定診断をする第二次検査55 第三次検査で診療方針をふまえた診断を58 卵巣がんの進行期61 子宮体がんの進行期64Ⅳ自分にあった治療法を選ぶ 69 インフォームドコンセントによる治療70 卵巣がんの治療法手術療法と抗がん剤による化学療法が中7 心1 卵巣がんでは 開腹手術 迅速診断 治療方針の選定と続7 く2 子宮 大網を含む広範囲な摘出手術が基7 本5 進行期別卵巣がんの手術方7 法6 全身を対象にした化学療法79 副作用のない抗がん剤は少ない81

viii 卵巣がんの手術後はTCあるいはTPなどの化学療法83 卵巣がんの種類と化学療法84 卵巣がんのⅣ期では術前の化学療法も選択肢の一つ86 お腹の中に直接抗がん剤を入れる腹腔内化学療法86 子宮体がんの治療法放射線治療はあくまでも補助的な治療8 法8 黄体ホルモン療法は効果を見つつ経過を観8 察9 子宮体部に限局する類内膜腺がんでは 単純子宮全摘出を実9 施1 G1以外のⅠ期の子宮体がんでは後腹膜リンパ節郭清9 を3 頸部に及ぶⅡ期では 準広汎子宮全摘出か広汎子宮全摘出9 術4Ⅲ期は 大網切除を含む手術後に 化学療法9 を6Ⅳ期は 化学療法 放射線療法 局所手術な9 ど7 子宮体がんの化学療法98 三~四週間をサイクルとする抗がん剤投与100 感受性のある人に長期処方する黄体ホルモン療法101

ix 目次 Ⅴ手術後のケア 再発 転移 緩和療法など 103 手術後のトラブ1 ル04 再発をチェックするため1 に15 再発がんでは手術の他 あらゆる治療を試み1 る16 卵巣がんの再発時には初回とは抗がん剤を変え1 る17 子宮体がんでは骨盤内再発か遠隔転移かによって治療が分かれ1 る18 鎮痛剤 放射線や精神 生活ケアによる緩和療1 法20 セカンドオピニオンの実1 際22 あとが1 き25 索引カットおよび図版制作=飯箸薫カットおよび図版制作=飯箸薫

る一方で 子宮がん全体は減少気味ですが これは子宮頸がん健診の普及や 婦人科健診の重要性を広める活動などによるものです HPVワクチンの普及とともに さらに減少していくと考えられます やはり卵巣がんがゆるやかではありますが 年々増加傾向にあるのがわかります なお 二〇〇七年の罹患者数は 卵巣がんは 約八六〇 人 子宮体がんは 約九一〇〇人 二〇一一年現在の死亡者数は 卵巣がんで約四七〇〇人 子宮がんは 約六〇〇〇人となっています 卵巣がんは症状が出たときには進行していることが多い 卵巣にできる腫瘍のうち八五%は良性ですが のこりが悪性(がん)です 卵巣がんは 卵巣の表面の細胞にできる上皮性がんが九〇%を占め 次に卵子を作る細胞にできる胚細胞性がんが多くなります その他 卵子のまわりの細胞から発生する性せい索さく間質性腫瘍や胃がん 大腸がん 乳がんなどから卵巣に転移した転移性卵巣がんもあります 卵巣がんは 初期にはほとんど症状がなく 医師が検診や他の病気の診察などで たまたま発見したというケースがほとんどです 以下のような症状は かなり進行してから出ることが多く図 7 卵巣がんと子宮がんの死亡率の推移 1970 1975 1980 1985 1995 2000 2001 2003 2005 2007 2009 2011 14 12 10 8 6 4 2 0 10

Ⅰ こんな症状に注意なります 症状の中で 卵巣がんだけに固有で それとすぐ判断できるものはあまりありません 三腹部の膨満感進行して卵巣がんの塊が大きくなると お腹がはったり 腫れたり しこりや痛みを感じます 今までのスカートやズボンなどが入らなくなったりしますが 自分では太ったと錯覚する人もいます なかには腹水(お腹の中に水)が溜まったせいで20 kgも体重が増えたのに 肥満と思い放置していた人もいます また膀ぼう胱こうや腸が圧迫されて 排はいに尿ょう困難 頻ひん尿にょう 便秘などが起きます ほかに吐き気や嘔吐 食欲減退などの症状も出ます 三腹水 胸水腹膜に転移すると 播は種しゅ転てん移い(作物の種子を播いたような状態で転移すること)となって点状に広がります 腹水は播種転移で多くなり 腹部が膨満します また横おう隔かく膜まくや胸きょう腔くう内に転移すると 胸水が溜まります 図 8 卵巣がんの症状

10 卵巣がんが破裂すると 下腹痛が見られます また茎けい捻ねん転てんといい 腫瘍や卵巣の茎部がねじれ 鬱うっ血けつや出血 激痛 嘔吐などを伴うこともあります ただし 茎捻転は卵巣がんより 良性の卵巣腫瘍に多く起きます いずれにせよ 下腹部に痛みがあったら 早急に専門医に診てもらう必要があります 子宮体がんでは不正性器出血に要注意 子宮体がんは 主として子宮体部の子宮内膜上皮(いちばん内腔側)にできます 子宮体がんの初期症状としては 不正性器出血やおりものの変化 不規則な月経などがあります しかし これらの症状は婦人科系の他の病気である可能性も少なくありません 子宮体がんか否かは 専門病院で医師が検査しないと確定できません したがって子宮体がんを早期発見するためには 四〇歳過ぎたら定期的に検査を受けることと 以下の症状が出たときには ただちに専門医に診てもらうのが重要です 三不正性器出血子宮体がんで 初期でもっとも多い症状は不正性器出血で 生理ではない時に性器から不規則な出血があることです 閉経後の人は 性器から出血があるときは子宮体がんを疑う必要があります とくに少量で 長く続くときは要注意です また 出血が続かない 微量で点状の出血だからといって また生

11 Ⅰ こんな症状に注意理があったのかしら と考えがちですが 量に関係なく不正性器出血が起きたら婦人科を受診しましょう また 性交時の出血も発見のきっかけとなることもあります ただし不正性器出血は 子宮頸がんをはじめ 卵巣機能出血(ホルモン異常) 頸管ポリープ 腟部びらん 腟炎 頸管炎 子宮筋腫など 多くの婦人科の病気で起きます 閉経前の人は 生理不順 量が多すぎるとき 色や匂いが異なるときも子宮体がんが原因の場合があるため 軽視できません これらの症状が出たら 検査を受けて確認するか 専門医に診てもらうのが最善です 三おりものの変化子宮体がんが 内膜上皮から内部の筋肉組織などに浸潤を始めると 不正性器出血のほか おりものが多くなり 膿や血が混じったり 性交時の出血などが起きます また医師が診察すると 子宮の体積図 9 子宮体がんの症状

12 が大きくなっていることもあります 三不規則な月経閉経前の女性では 月経が長引いたり 月経量が増加したりする場合があります 子宮筋腫や子宮筋層内の内膜症でもこの症状は起こります 三貧血 痛み 尿路障害 直腸障害など子宮体がんは どちらかといえば転移しにくいとされますが 進行すると各所に転移するものも出てきます 骨盤リンパ節や傍ぼう大だい動どう脈みゃくリンパ節に転移し 上方へ進展し 最終的には頸部の鎖さこ骨つじ上ょうリンパ節に達します 腰痛や下肢のしびれ 腹満感などを自覚することがあります 近隣器官の腟 膀胱 直腸 卵巣などへの転移は 以下のような症状を引き起こします 貧血が続き 子宮に溜まった膿や血を排出する際に腹痛などが起きます また尿の流れが滞り腎臓に尿が充満する水すい腎じん症しょう 膀胱と腟の間に穴があく膀ぼう胱こう腟ちつ瘻ろう 直腸との間に穴があく直腸腟瘻などの合併症が起こることもあります ときには腹腔や消化器を包む腹膜に 点状に転移(播種転移)することもあります さらに進行すると 肺や肝臓 脳 骨へも転移します こうなると それぞれの転移先で痛みや機能障害などを起こします

13 Ⅰ こんな症状に注意 検診は乳がんと子宮頸がんが主な対象 前記のような症状が出たときや 閉経前後の年齢(五〇五歳)になり 婦人科がんに罹患しているかどうかを確認したいときは どうしたらいいのでしょうか 一般的には 以下の三つの方法があります これらの検査を総称して 第一次検診ないしスクリーニングといいます 三地方自治体の検診制度これは老人保健法に基づき 各自治体が費用を負担して 指定の施設や検診車で実施されています 受け方や費用は 自治体によって異なりますので 窓口に問い合わせてください 無料から二〇〇〇円くらいが多いようです 多くの自治体では 乳がんおよび 子宮がん 検診という名称で 婦人科がんの検診を実施しています 子宮がん検診では 実際はまず子宮頸がんを対象として 問診 視診 内診および擦さっ過か細さい胞ぼう診しんを行います 擦過細胞診とは がんが発生しやすい子宮頸部の内膜細胞を綿棒などで擦り採り 顕微鏡でがん細胞の有無を判定するものです 一方 子宮体がんは 老人保健法の健康診査マニュアルにより 子宮がん(頸がん)検診の受診者のうち 医師がリスクが高いと判断した人にだけ専門機関を紹介し そこで検診を受けられます 卵巣がんについては検診対象にはならないため 自治体検診では受けられません

14 三職場 職域での健康診断健診は検診とちがい 労働基準法によるもので 職場 職域を単位に健常な女性を対象として委託施設で行われます そのため原則的には婦人科がんは健診に含まれません ただし 最近は婦人科健診などのオプションを別に設け 卵巣がん以外の生殖器がんの検査を行う職場 職域も増えています 三専門病院での検査これは自分で病院を探し 申し込む方法です その際は産婦人科医院の他 大学病院をはじめとする総合病院の産婦人科や腫瘍科 あるいは婦人科がんの専門病院などがあります この場合 検診や健診より少し費用がかかりますが どんな婦人科がんでも検査を受けられます なお 子宮体がんと卵巣がんの検査を受けられる専門病院はネットなどで確認できます 日本婦人科腫瘍学会(www.jsgo.gr.jp )では 腫瘍専門医のいる施設を公表しています 日本産科婦人科学会(www.jsgo.or.jp )でも 専門医 指導施設を公表しています 子宮頸がんは予防可能に 最近 乳がんについては 関係学会や国 患者会などのアピールにより 自治体を中心にした検診が励行され 早期発見 治療の体制が整ってきたのは一歩前進です ただし 婦人科がんではその受診率は二割以下です 受診率は五割を超えると 早期の発見 治療が広がり 死亡率が

15 Ⅰ こんな症状に注意低下することが実証されています この点アメリカでは一八歳以上で八六%の女性が過去三年以内に一回以上の婦人科検診を受けています 日本での受診率が低いのは 羞恥心や痛みへの畏れもあるようです とはいっても 今日では婦人科医は 女性が過半数を占めるようになっています とくに子宮頸がんは若年者でも発症しますので 性交渉があるなら二〇歳代以前からチェックしておくと 早期発見され 死亡率は明らかに減少します また 予防ワクチンも二〇〇九年一二月より医療機関で接種することができるようになりました もし 全員の女子がワクチンを接種したとすると 七〇%の頸がんが予防可能で 頸がんの減少につながることになります 多くの先進国では公的接種となっていますが 日本では ワクチンによる持続疼痛等の副作用により 有効性とリスクを理解した上で 受けるようになっています 子宮体がん検診の問題点 子宮頸がんの検診は 二〇歳以上の全女性が対象になっています ところが 子宮体がんについては 健康診査マニュアルにより 子宮頸がんの受診者のうち それと疑われる症状がある人と 医師が子宮体がんのリスクが高いと判定した人にのみ 検診が追加実施されます 子宮体がんのリスクの高い人は 最近六か月以内に不正出血があり 次のいずれかにあてはまる人です 1五〇歳以上 2閉経以降 3妊娠経験がなく生理が不規則のいずれかです

16 子宮体がんでも 一年に一回 あるいは二年に一回でも 定期的に検査を行うと 死亡率が下がることは 国際的にも認められています にもかかわらず 子宮体がんの検診が子宮頸がんほど積極的に実施されないのには理由があります その一つは 子宮頸がんと比べて 罹患者が四〇歳代過ぎに多くなり 自治体の予算がつきにくいからです もう一つは 検査の方法と精度に限界があり 多人数を相手に一回で判定する一次検診には適していないからです 子宮体がんの検診では 問診 視診 触診および子宮頸部の擦過細胞診の結果が出ているので 新たに子宮体部の内膜細胞診を追加するのが標準です 子宮体部内膜細胞診では 頸部細胞診と同様に専用器具で 子宮体部の細胞を擦り採る方法とチューブ様器具で吸い採る方法があります いずれも出産経験のある人では 専用器具が子宮の奥まで入りやすいため 比較的容易に細胞が採れます ところが 出産経験のない人 とくに性交渉のない人は 器具が腟から子宮を通りにくく 痛みや出血を伴うこともあります 麻酔をすれば痛みませんが 一次検診でそこまで対処できないという限界があります また一次検診としては 検査の精度が高くないのも問題です 採取した細胞は形態を顕微鏡で評価し 陰性 擬陽性 陽性の三つの段階に判定します このとき採った細胞が たとえ陰性で表 1 子宮内膜細胞診の判定陰性正常.5% 程度にがんが検出される擬陽性炎症性の変化や内膜増殖症などの異型細胞, がんが疑われる異型細胞が認められる. 10% 程度にがんが検出される陽性がんの存在が考えられる. 80% 程度にがんが検出される

17 Ⅰ こんな症状に注意あっても 安心できません(表1) 採取は子宮体内膜全体ではなく一部に限定されます したがって 採取部にがん細胞があれば チェックは容易です しかし 実際はがんの部分に器具が当たらず 細胞を採取できないこともあります 採取箇所以外にがん細胞があると 後に成長して症状がでてきて 実はがんだったと分かる可能性もあるのです 検査精度を上げるのには 細胞の採取部分を広げるか 採取回数を増やす方法もありますが 一次検診としては現実的ではありません そうなると後で紹介する 超音波検査やPET/CTなどを併用することになります 超音波検査は比較的簡便で 子宮内膜の厚さを計測できます 閉経期の人は内膜層が薄く 2mm以下ですが 5mm以上の人は内膜増殖症やがんである可能性が高く スクリーニングの対象者となります しかし これも集団検診で採用するのは 難しい面があります こうした要因や経費 手間も含め 子宮体がんの一次検診は必要度の高い人に絞られるのが実情です しかし 四〇歳過ぎたら 一度は子宮体がんの検査を受けておきたいところです とくに前述のリスク以外に 月経不順 多嚢胞性卵巣症候群 未婚 肥満 タモキシフェンという乳がんの薬を処方されている人などは 早めの検査が推奨されます 自治体検診を受けず 自分で検査を希望される人は多少費用がかかりますが 子宮体がんの検査を常時実施している専門機関で受けてください