水道台帳 GIS を用いた管網解析システムの実例 オリジナル設計 嶋貴徳 八巻秀輔高橋正之 1. はじめに IT 技術が発達した今 紙ベースを基本とする管理からコンピュータを利用する管理へ移行し 各自治体で地理情報システム ( 以下 GIS ) の導入が進んでいる 水道事業では 一般的に水道台帳管理システムと管網解析システムが必要とされ 先進的なシステムでは両システムを併せ持つ場合があるが 多くの場合はそれぞれ独立したシステムとして運用している 今回 水道台帳管理システムと管網解析システムが独立運用されている場合において データ連携を行う機能を追加することにより管網解析用管路データ ( 以下 管網モデル ) 作成の自動化や 解析結果の GIS 上での表示を可能としたので報告する 2. 水道台帳管理システムと管網解析システムの連携水道台帳管理システムは 地形図などの地図情報と水道施設に関わる情報をデータベースに格納し 施設の表示 更新および集計機能により施設管理を行う 一方 管網解析システムは解析的な処理により 現状管網の問題把握 シミュレーション機能による水圧過不足箇所発見 配水管路網の新設および布設替え業務支援を可能としている 機能の違いはあるものの両システムは地理空間データをモデル化し 水道事業に利活用する GIS であるといえる しかし モデル化対象とするデータには微妙な違いがある 例えば 水道台帳管理システムで扱うデータは 管網計算をするには複雑すぎるため 管網モデルと言われる単純化した管路データを作成し 管網解析システムで利用される 図 1 では 管網モデルを中間データベースとし 水道台帳管理システムと管網解析システムが それぞれデータの書込と読込を行うデータフロー図を表している また 管網モデルには 汎用性が高く 専用のデータベースアプリケーションを必要としないテキスト形式のデータベースを利用している 水道台帳管理システム 管網解析システム GIS 基本機能 書込 読込 管網解析モデル図表示 ( 表示 更新 集計等 ) 管網解析用データ作成 管網モデル 管網データ編集管網解析 評価 管網解析結果表示 読込 書込 解析比較 図 1. 水道台帳管理システムと管網解析システムの連携 1-29-
3. 管網モデルの作成手法 (1) 概要 水道台帳管理システムでは 送水管 配水管および給水管などの管路データの他に 弁 栓や給水装置などのさまざまなデータが地図情報と属性情報として蓄積され これらのデータを管網解析システムの基礎データとして利用することができる また 水道台帳管理システムで布設替え時や弁栓の追加などデータの更新を行うため データ更新後の新しい管路の状態で管網解析シミュレーションをすることが求められている しかし 水道台帳管理システムのデータベース化された詳細な情報を利用するとデータ量が膨大になり 管網計算による負荷を増大させる したがって 集約した管網モデルで管網解析処理を行うことが必要である ここでいう管網モデルとは 各管路は節点によって接続されているものと考えて節点と管路を単純化し それらの属性の集合と接続関係として捉えたものである 2) (2) トポロジーの構築地物はさまざまな属性を持ち そのうち 形や大きさ 位置等の空間的な情報は 空間属性 といい さらに 幾何属性 と 位相属性 の 2 つに分類される 幾何属性 は図形形状または位置のことであり 位相属性 は図形が弾性的かつ連続的に変形されても変わらない性質のことである 3) 管網解析システムでは図形間のトポロジー( 位相 ) が構築されていなければならない 水道台帳管理システムでトポロジーが構築されていない場合は ベクトルデータを表現する地図座標 (XY 座標 ) の他に 節点に対する接続管路情報や管路に対する始点 終点情報などを明確に定義する必要がある すなわち 管網モデルにおけるトポロジーの構築とは 節点と管路における接続関係を定義することである (3) データ項目水道台帳管理システム 管網表 1. データ項目一覧節点ファイル管路ファイル解析システムが入出力する管網項目名称内容単位形式項目名称内容単位形式 N SEQ 番号 - Integer N SEQ 番号 - Integer Keito 系統番号 - Integer Keito モデルのデータ項目を表 1に示系統番号 - Integer Ndisp 節点番号 - Integer Nd is p 管路番号 - Integer Ly レイヤI D - Integer Ly レイヤID - Integer す Id 図形 ID - Integer Id 図形 ID - Integer K 種類 - Integer Nf 始点 SEQ 番号 - Integer 管網モデルは各項目がカンマ YN 通水か閉鎖 - Integer Nt 終点 SEQ 番号 - Integer DistH 配水池水位 m Single K 種類 - Integer G 標高 m Single YN 通水か閉鎖 Integer 区切りされたテキストファイル Qyear 年間給水量 m3/y Single PipeKind 管種 - Integer Qrate 時間係数 - Single D 管径 mm Single 形式とし 節点と管路の 2 種類 Qmax 1 日最大給水量 m3/d Single SY_Nendo 竣工年度 Integer Q 計算水量 l/s Single L 距離 m Single H 水位 m Single C 流速 損失係数 - Single により構成される それぞれの Press 水圧 MPa Single H 増減圧水頭 m Single QQmargin 流量誤差 l/s Single QQ 流量 l/s Single ファイルには水道台帳管理シス Chlorine 残留塩素濃度 mg /l Single VV 流速 m/s Single Comment 名称 備考 - String NfH 始点水位 m Single ValveK 弁 ID - Integer NtH 終点水位 m Single テムのレイヤ情報 図形 ID お X X - Single WI 動水勾配 Single Y Y - Single LH 損失水頭 m Single よび XY 座標を出力し 管路の ConPCnt 接続辺数 - Integer Comment 名称 備考 String ConP1N 接続辺 ID1 - Integer xycount 点数 - Integer 場合は始点 中間点および終点 ConP2N 接続辺 ID2 - Integer X Single ConP3N 接続辺 ID3 - Integer Y Single ConP4N 接続辺 ID4 - Integer X Single と XY 座標を繰返すことで管路 Y Single XY を表現する 2-30-
(4) データ作成手順 図 2 は 水道台帳管理システムに蓄積されて 水道台帳管理システムデータベース いるデータベースから 節点情報と管路情報を 抽出し 管網モデルを作成するフロー図である (a) 管網モデル対象区域の選定 ( 配水系統選定 ) (a) 管網モデル対象区域の選定 作成する管網モデルの対象区域を選定し 管網データ 管網データ GIS から 対象となる管路データを取得する 例えば ( 属性データ ) ( 図形データ ) 標高データ取得 配水系統が属性データとして管理されている 場合は 配水系統毎に管路データを抽出する (b) 節点の抽出 ことなどが考えられる (c) 水量データの付与 (b) 節点の抽出 節点の種類には弁栓 消火栓および配水池 (d) 標高データの付与 等がある また 区分点 ( 配水管の管種 口 管網解析用 データベース 径および施工年度が変化する場合に設ける接 (e) 管網モデル作成 続点 ) も給水ポイントとして節点に含める 配水管に接続する給水管の接続点は給水ポイントとなるが 管網モデルの作成において節 管網解析システム管網モデル図描画 点数を増やすことは解析処理には望ましくな 管網解析機能 いため 図 3 に示すように節点に付与する水 図 2. 管網モデル作成フロー 量データを配水管の区分点に振り分けて 配 水管と給水管の接続箇所は節点に含めないようにする (c) 水量データの付与 水量データは 水道台帳管理システム M M 給水管 1 給水管 2 側で給水装置を管理しており 給水メー [ 区分点 1] [ 区分点 2] [ 区分点 3] 配水管 タの年間有収水量が関連づけられてい給水メータの水量を配水管の区分点に振り分ける M : 給水メータ : 節点対象 る 図 3 では 水量データの付与方法を : 接続点 : 節点対象外配水管と給水管の接続点は節点対象外とする 簡単な管路図で表しており 給水メータ 図 3. 配水管と給水管の接続点について の水量を給水管と配水管の接続点から 区分点 ( 始点および終点 ) までの距離に応じて節点の水量として振り分ける 本来 水 は管路を流れているが 仮想的に節点から供給しているとし 各節点に 1 日最大給水量 と 時間最大給水量 を付与する 1 日最大給水量 ( m3 /d) = 年間有収水量 ( m3 /y) / 有収率 / 負荷率 / 365 時間最大給水量 ( l /s) = 1 日最大給水量 ( m3 /d) / 24 / 60 / 60 時間係数 1000 有収率 : 給水量と有収水量の比率負荷率 :1 日平均給水量と 1 日最大給水量の比率時間係数 : 配水管内を流れる水量の時間最大配水量と時間平均配水量の比率 これらは過年度データをもとに配水系統毎に設定する 3-31-
(d) 標高データの付与 図 4 は 節点座標値における標 高データの取得をイメージしたものである まず 数値標高モデ DEM ル ( Digital Elevation Model)( 以下 DEM ) デ-タである数値地図 50mメッシュ ( 標高 ) から水道台帳管理システムで必要な領域の標高データを内挿法で補間す GIS 各標高データる さらに取得した GIS 上の標高 :DEM :GIS : 節点データを同様の手法を用いて補間し 節点座標値における標高デ図 4. 標高データ取得イメージータとして付与する (e) 管網モデル作成管網モデルは 水道台帳管理システムデータと標高データを合成し 必要な処理を行うことで作成される 表 2 および表 3 に具体的なファイル内容を示す このような テキストファイルデータベースを水道台帳管理システムと管網解析システムが入出力を行い 各種管網解析シミュレーションを可能としている 表 2. 節点データ作成例 番号系統番号節点番号 レイヤ ID 図形 ID 種類通水配水池水位標高 年間給水量時間係数計算水量水圧流量誤差残留塩素濃度 1 30 300000001 7040 1163930001 3 1 2.874664 0.0000 1.623 0.0000 2 30 300000002 7040 1163930002 3 1 2.945068 0.0000 1.623 0.0000 3 40 300000001 7003 1163930003 1 1 2.959092 2.2136 1.779 0.0416 4 40 400000002 7003 1163930004 1 1 2.972766 0.1743 1.779 0.0033 5 40 400000003 7080 1163930005 1 1 150.6 3.871584 0.0000 1.779 0.0000 6 40 400000004 7040 1163930006 3 1 2.874664 0.0000 1.623 0.0000 7 40 400000005 7040 1163930007 3 1 2.945068 0.0000 1.623 0.0000 8 40 400000006 7003 1163930008 1 1 2.959092 2.2136 1.779 0.0416 9 40 400000007 7003 1163930009 1 1 2.921523 3.7514 1.779 0.0705 表 3. 管路データ作成例 番号系統管路番号 レイヤ ID 図形 ID 始点 終点 種類通水管種管径竣工年度流速係数点数 X Y 1 30 300000001 7800 1163930001 300000015 300000012 0 1 60 200 1974 100 2 13587.65-110956.1 2 30 300000002 7800 1163930002 300000049 300000065 0 1 60 100 1987 100 12 13586.97-110958.2 3 30 300000003 7800 1163930002 300000086 300000097 0 1 60 150 1987 100 4 13585.65-110962.8 4 40 400000001 7800 1163930002 400000851 400000843 0 1 50 200 1974 100 3 13578.14-110961.6 5 40 400000002 7800 1163930004 400000184 400000824 0 1 50 200 1978 100 3 13551.68-110952.1 6 40 400000004 7800 1163930005 400000055 300000012 0 1 50 200 1974 100 4 13587.65-110956.1 7 40 400000005 7800 1163930006 400000061 300000100 0 1 50 100 1967 100 6 13586.97-110958.2 8 40 400000006 7800 1163930007 400000096 300000157 0 1 50 150 1984 100 9 13585.65-110962.8 9 40 400000007 7800 1163930008 400000086 300000107 0 1 50 150 1986 100 8 13585.65-110962.8 (5) 適用可能性水道台帳管理システムや管網解析システムは 多くの企業から販売され 大規模な自治体においては 両システムを導入 運用しているが 中小自治体では水道台帳管理システムしか導入していないケースが多い このような 水道台帳管理システムのみ運用している中小自治体がパッケージ型の管網解析システムを導入する際に この管網モデルの作成手法が適用できると考えている 4-32-
4. A 市における管網モデル作成事例 管網モデルの作成にあたっては 水道台帳管理システムで整備された空間属性が 3 2 トポロジーの構築 で説明した節点と管路の接続関係の定義が正しいかを注意する必要が あった 図 5 6 は 正常データと異常データの解析結果の管路流向を比較したものであり 流向 は矢印で表現している 図 6 では流向がない管路が見られるが これは図 7 で示すように システムで接続されているように見える水道管路でも データ上では接続関係が構築され ていないためである このような異常データで作成された管網モデルで解析した場合 処 理は正常に行われないため 適切なデータ修正を施さなければならない 図 6 異常データの管路流向 図 5 正常データの管路流向 A AとBの 接続関係が 構築されて B いない 図 7 水道台帳管理システムの管路接続不整合データ例 5 33
今回 A 市の水道台帳管理システムから管網モデルを作成したが 以下のような水道台帳管理システムの異常データが発見された 接続関係が定義されていない節点 管路がある 節点の種類を特定できない 節点 管路の属性情報( 配水系統 管種 口径等 ) の不備がある このような異常データを目視で発見するのは非常に困難なため データチェック機能を拡張し 地理空間情報データベースと属性情報データベースから異常データを抽出し データを更新 修正することで正確な管網モデルを作成することができた 図 7 で表した水道台帳管理システム上の管路データの不整合の一例を含め 今回の主な異常データの要因のほとんどが人的ミスによるものである 水道施設の登録 更新やデータチェックなどの機能を充実させるとともに ユーザーインターフェースを重視し 使いやすく正確にデータの更新業務ができるシステムを構築しなければならないことを再認識した 5. おわりに今回 水道台帳管理システムと管網解析システムの相互運用性のあるシステム構築に関してデータの連携 管網モデルの作成および管網解析システムの報告をした 今後の課題としては 自治体または地域特有の条件が設定された配水管網への対応などがあげられる 水道台帳管理システムや管網解析システムは 主に自治体職員が日常業務で使用するシステムであるが ユーザーである水道事業者職員は 45 歳以上の職員が半分以上を占め 若年者の割合が年々低下している そのため 経験や勘に頼った施設管理をシステムにより正確かつ簡単に行えるようにしたいという需要が潜在的に存在していると思われ ユーザーの要望に応え得る柔軟なシステムとする必要がある これは現代のシステム開発のトレンドであり ユーザーの満足の得るシステム開発の最大の課題であるといえる [ 参考文献 ] 1) 水道施設設計指針 2000 年版 ( 社団法人日本水道協会 ) 2) 水道管路情報管理マニュアル [ 応用編 ] ( 財団法人水道管路技術センター ) 3) GIS のためのモデリング入門 ( 有川政俊 太田守重 ) 6-34-