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目次 1. 事業の目的 2. 実施内容及び結果 3. 評価手法等の開発 製造工程合理化のための検討内容 4. まとめ 1. 事業の目的変形性膝関節症は 本邦においてレントゲン評価で 2,500 万人 有症状患者は 820 万人と推定され 要介護の原因の 10% となる等 健康寿命を改善させるために画期的な治療法開発が喫緊の課題となっている これまでに 研究代表者らは滑膜幹細胞移植の実用化に取り組み 平成 23 年より文部科学省 再生医療実現化ハイウェイ事業 の支援を受け 膝関節を切開することなく関節鏡を用いて滑膜幹細胞を移植する技術を開発し ウサギ ブタ軟骨欠損モデルにおいて 本手法の安全性 有効性を確認した また 平成 20 年に開始した自己滑膜間葉系幹細胞による軟骨再生の臨床研究で安全性と有効性を確認し 厚生労働省 再生医療実用化事業 として平成 25 年に開始した半月板損傷に対する細胞移植も平成 27 年 4 月に完遂した しかし 軟骨再生をめざした再生医療等製品の承認申請を目的として治験を実施するために必要な 再生医療等製品の効果を客観的に把握できる有効性の評価基盤は整備されていない 従来 細胞移植後の軟骨評価に用いられていた再鏡視検査は侵襲性があり 頻回の検査実施は難しい 一方 非侵襲検査である核磁気共鳴画像法 (MRI) においては 膝の関節軟骨 半月板に関して二次元画像では病態を把握することが難しいため 治療前後での変化を解析することが困難であり 患者さんに説明することも難しいなど 評価指標としての客観性に欠けている ( 図 1) 市販ソフトウェアを用いた三次元解析は作成に手間や時間がかかり 精度も不十分である 図 1. 膝 MRI2 次元画像 1

そこで 研究代表者らは 軟骨 半月板に対する再生医療等製品の開発の障壁となっている再鏡視に代わる MRI 画像を用いた有効性評価の手法を開発し 客観性 定量性等の要求を満たす MRI 三次元自動解析ソフトウェアを用いた関節軟骨評価基準の確立することを目的として本事業を実施する ( 図 2) 図 2. 膝 MRI3 次元画像 本事業では 東京医科歯科大学が富士フイルム株式会社と共同開発した軟骨 半月板 MRI 三次元自動解析アプリケーションの試作版を用いて 大学が独自の MRI 撮像技術を持った画像診断専門の医療機関である医療法人社団豊智会 ( 八重洲クリニックとする ) とともに 2つの課題 MRI 三次元解析による軟骨 半月板評価基準の作成 MRI 三次元解析に適した撮像プロトコルの作成 を達成する 項目 1 MRI 三次元解析による軟骨 半月板評価基準の作成 については 3テスラ MRI と膝関節専用コイルによって高い空間分解能と信号雑音比を有する撮像を行った約 500 枚の MRI 画像から関節鏡評価 クーススコア ( 痛み自覚評価 ) リスホルムスコア ( 機能評価 ) の揃った症例を選択し それらの三次元解析を行い 関節鏡評価と整合性のある軟骨 半月板評価基準を作成し 他の評価との相関性を検討する 項目 2 MRI 三次元解析に適した撮像プロトコルの作成 については 異なる撮像条件等によって撮像された MRI 画像を比較して評価した上で 三次元解析を行い 三次元解析の実施に不可欠な撮像要素を特定する また 八重洲クリニックでの MRI 撮像に関する映像資料を収集し 他施設 他機種を用いた場合でも高品質な MRI 撮像が可能となる手法を開発する 2

これらの結果を踏まえ 項目 3 治験準備 として これまで行った再生医療の症例をあらためて検証 する 検証した評価基準は PMDA の薬事戦略相談を活用して作成する治験プロトコルの内容に反映す る 2. 実施内容及び結果項目 1 MRI 三次元解析による軟骨 半月板評価基準の作成 では 3テスラ MRI と膝関節専用コイルによって高い空間分解能と信号雑音比を有する撮像を行った MRI 画像から関節鏡評価や臨床評価の揃った症例の三次元解析を行い 軟骨 半月板評価基準を作成した ( 達成したマイルストーン ) a. 膝軟骨 半月板 MRI 評価基準検討委員会の定期的開催および MRI 三次元解析による軟骨 半月板評価基準の作成膝軟骨 半月板再生医療における 既存の経時的 定量的な組織構造を評価する技術基盤はない そこで 膝関節の MRI 軟骨再生医療 膝関節臨床の専門家を日本全国から招き また 5 大 MRI の世界 5 大メーカーであるフィリップス 東芝 日立 GE シーメンスの方々から構成する 膝軟骨 半月板 MRI 評価基準検討委員会 の第一回会合を平成 28 年 2 月 17 日に開催した さらに各分科会を含めてH28 年に 5 回開催し 各 MRI メーカーの膝データを収集して 各 MRI メーカーで使用可能な膝軟骨 半月板 3 次元化解析用の撮像プロトコルを決定し 各 MRI データに対応する仕様にした b. MRIデータの収集および解析世界 5 大メーカーの MRI 装置で撮影したデータを回収し 解析を行った フィリップスは 219 例 TOSHIBA が 23 例 GE22 例 HITACHI 20 例 SIEMENS が 20 例と 当初に設定した各社 20 例以上のデータを回収することができた c. ピッグモデルを用いた評価手法の検証軟骨の厚さの validation を行うため 新鮮凍結ブタ膝を用いて骨軟骨柱をくり抜いて骨軟骨欠損を作成し MRI 撮影を行った 撮像された 2D MRI から三次元構築を行い 厚さマッピングを 0.5mm 1.0mm 1.5mm で設定して示される軟骨と くり抜いた軟骨の厚さを測定し 妥当性を確認した また マイクロミニピッグを用いて内側半月板後節に作成した損傷が 三次元構築した MRI の放射状断面において高輝度で示されることを確認し 組織学的にサフラニン O 染色やピクロシリウスレッド染色などを対比させることで 高輝度領域がコラーゲン配列の乱れであることを証明した これにより臨床でよく遭遇する半月板変性や損傷が高輝度領域として捉えられている根拠を明らかにした また 半月板損傷モデルに滑膜幹細胞移植を行うことで コラーゲン配列の乱れが改善していることを示すことができ 治験で半月板損傷に対して行う細胞移植の有効性の機序の一つを明らかにした 項目 2 MRI 三次元解析に適した撮像プロトコルの作成 については 異なる撮像条件等によって撮像された MRI 画像を比較して評価した上で 三次元解析を行い 三次元解析の実施に不可欠な撮像要素を特定する また 八重洲クリニックでの MRI 撮像に関する映像資料を収集し 他施設 他機種を用いた場合でも高品質な MRI 撮像が可能となる手法を開発する 研究開発項目 2: MRI 三次元解析に適した膝軟骨 半月板撮像プロトコルの作成 ( 達成したマイルストーン ) 3

a. 再委託事業 撮像要素の抽出 b. 再委託事業 撮像プロトコルの確立 c. 再委託事業 他メーカー MRI による撮像の標準化まず フィリップス (219 例 ) で撮影したプロトン強調像および軟骨強調像から三次元構築を行い 抽出された撮像要素より最適な三次元画像が得られる撮像プロトコルを確立した 引き続き TOSHIBA(23 例 ) GE(22 例 ) HITACHI(20 例 ) SIEMENS(20 例 ) の撮像において最適となる条件を設定し 世界 5 大メーカーの MRI 機種で撮影すれば 一定の解析結果を表示できるようになった ( 図 3) 図 3. 各社ごとの膝 MR 撮影プロトコルが確定 項目 3 治験準備 として 自家滑膜幹細胞の半月板損傷を対象とする医師主導治験 を遂行するに当たり 本研究課題で達成した評価基準を組み入れた治験実施計画書を作成した ( 達成したマイルストーン ) a. 治験届の提出治験を遂行するに当たり PMDA との再生医療等製品戦略相談に関する対面助言 ( 平成 28 年 10 月 21 日実施 ) 滑膜幹細胞の安全性に関する対面助言 ( 平成 28 年 10 月 3 日実施 ) 滑膜幹細胞の品質に関する対面助言 ( 平成 28 年 10 月 3 日実施 ) を経て 2017 年 3 月 27 日に 自家滑膜幹細胞の半月板損傷を対象とする医師主導治験 の治験届を提出した 治験実施計画書に記載する評価項目において MRI による半月板の三次元定量評価を副次評価項目として設定しており 半月板の体積 高さ 幅の 3 項目を評価することにした また 探索的評価項目として MRI による半月板 軟骨変性評価を設定し 半月板内の高輝度領域の定量化 軟骨面積率の定量化 軟骨の厚さの定量化 軟骨の質的評価を行うことにした これらの評価項目は PMDA と対面助言を行う中でも特に指摘されることはなく 評価項目として本研 4

究課題で達成した評価基準を組み入れることを達成することができた ( 図 4) 治験届を提出した後に PMDA よりいただいた照会事項に対してもすべて対応し 7 月以降での治験実施を予定している 図 4.MRI3 次元解析の治験での活用 3. 評価手法等の開発 製造工程合理化のための検討内容膝軟骨 半月板再生医療における 既存の経時的 定量的な組織構造を評価する技術基盤はない 従来 細胞移植後の軟骨評価に用いられていた再鏡視検査は侵襲性があり 頻回の検査実施は難しい 一方 非侵襲検査である核磁気共鳴画像法 (MRI) においては 膝の関節軟骨 半月板に関して二次元画像では病態を把握することが難しいため 治療前後での変化を解析することが困難であり 患者さんに説明することも難しいなど 評価指標としての客観性に欠けている 市販ソフトウェアを用いた三次元解析は作成に手間や時間がかかり 精度も不十分である そこで われわれは 軟骨 半月板に対する再生医療等製品の開発の障壁となっている再鏡視に代わる MRI 画像を用いた有効性評価の手法を開発し 客観性 定量性等の要求を満たす MRI 三次元自動解析ソフトウェアを用いた関節軟骨評価基準の確立することを目的として本事業を実施した 本手法の開発により 軟骨損傷や再生医療の評価が一目で分かるようになり ( 図 5) また客観的に定量化することが可能となった ( 図 6) また 半月板に関しても体積などを客観的に評価できるようになった ( 図 7) これらのことにより 再生医療の有効性を客観的に示す評価法が確立されたが 軟骨損傷の自然経過や再生医療が該当しない外科的な介入においても使用できる普遍的な評価法となったと考える 5

図 5.2 次元画像と 3 次元画像の対比 図 6.MRI3D 解析による軟骨の定量化 6

図 7. MRI 半月板体積測定の validation 4. まとめわれわれは 3テスラ MRI で撮像を行った MRI 画像から三次元解析を全自動で行うことを目指し 病態が複雑で全自動化できない場合も 容易に修正が可能なソフトウェアを開発し MRI 三次元解析による軟骨 半月板評価基準の作成 を達成した また 異なる撮像条件等によって撮像された MRI 画像を比較して評価した上で 三次元解析の実施に不可欠な撮像要素を特定し MRI 三次元解析に適した撮像プロトコルの作成 を達成した これにより MRIのシェア 90% 以上を占める世界 5 大メーカーで撮像した MRI により 三次元解析が可能になった また 治験準備 として 自家滑膜幹細胞の半月板損傷を対象とする医師主導治験 の治験届を平成 28 年度の 3 月に提出することができた また 本治験において MRI3 次元解析で評価される半月板の体積 高さ 幅を副次評価項目に 探索的評価項目として MRI による半月板 軟骨変性評価を含めることができた また 将来的には 軟骨や半月板に対する再生医療等製品として 新たな製品が研究開発されると予想されるが 私たちが PMDA と行ってきた一連のやり取りは それらの前例になると考えられ 私たちが開発した MRI3 次元解析は 客観的かつ確立された評価項目として有効性評価指標になる 7