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体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

マスコミへの訃報送信における注意事項

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

フィードバック ~ 様々な電子回路の性質 ~ 実験 (1) 目的実験 (1) では 非反転増幅器の増幅率や位相差が 回路を構成する抵抗値や入力信号の周波数によってどのように変わるのかを調べる 実験方法 図 1 のような自由振動回路を組み オペアンプの + 入力端子を接地したときの出力電圧 が 0 と

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

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Microsoft Word - oiwa_ doc

             論文の内容の要旨

ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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マスコミへの訃報送信における注意事項

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論文の内容の要旨

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

VLSI工学

PowerPoint プレゼンテーション

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

Microsoft Word - 01.doc

平成22年11月15日

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

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報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

03マイクロ波による光速の測定

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氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

DVIOUT

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生物時計の安定性の秘密を解明

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

 

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互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

物性物理学 I( 平山 ) 補足資料 No.6 ( 量子ポイントコンタクト ) 右図のように 2つ物質が非常に小さな接点を介して接触している状況を考えましょう 物質中の電子の平均自由行程に比べて 接点のサイズが非常に小さな場合 この接点を量子ポイントコンタクトと呼ぶことがあります この系で左右の2つ

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

プランクの公式と量子化

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

4. 発表内容 : 1 研究の背景と経緯 電子は一つ一つが スピン角運動量と軌道角運動量の二つの成分からなる小さな磁石 ( 磁 気モーメント ) としての性質をもちます 物質中に無数に含まれる磁気モーメントが秩序だって整列すると物質全体が磁石としての性質を帯び モーターやハードディスクなど様々な用途

発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

マスコミへの訃報送信における注意事項

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

マスコミへの訃報送信における注意事項

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【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

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WINS クラブ ニュース

An Automated Proof of Equivalence on Quantum Cryptographic Protocols

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Microsoft PowerPoint - 第2回半導体工学

第 4 週コンボリューションその 2, 正弦波による分解 教科書 p. 16~ 目標コンボリューションの演習. 正弦波による信号の分解の考え方の理解. 正弦波の複素表現を学ぶ. 演習問題 問 1. 以下の図にならって,1 と 2 の δ 関数を図示せよ δ (t) 2


表紙.indd

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

Microsoft PowerPoint - 6.PID制御.pptx

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

4. 発表内容研究の背景熱力学は物理学の基礎理論の一つであり その応用は熱機関や化学反応など多岐にわたっています 熱力学においてとりわけ重要なのは 第二法則です 熱力学第二法則とはエントロピー増大則に他ならず 断熱された系のエントロピーが減ることはない と表されます 熱力学第二法則は不可逆な変化に関

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

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スライド 1

RLC 共振回路 概要 RLC 回路は, ラジオや通信工学, 発信器などに広く使われる. この回路の目的は, 特定の周波数のときに大きな電流を得ることである. 使い方には, 周波数を設定し外へ発する, 外部からの周波数に合わせて同調する, がある. このように, 周波数を扱うことから, 交流を考える

Microsoft PowerPoint - パワエレH20第4回.ppt

分子マシンを架橋剤に使用することで 高分子ゲルの伸張性と靱性が飛躍的に向上 人工筋肉などのアクチュエータやソフトマシーン センサー 医療への応用も可能に 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) の竹岡敬和 ( たけおかゆ きかず ) 准教授の研究グループは 東京大学大学院新領域創

RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

2014 年電子情報通信学会総合大会ネットワークシステム B DNS ラウンドロビンと OpenFlow スイッチを用いた省電力法 Electric Power Reduc8on by DNS round- robin with OpenFlow switches 池田賢斗, 後藤滋樹

Microsoft PowerPoint - H22パワエレ第3回.ppt

Microsoft PowerPoint - 東大講義09-13.ppt [互換モード]

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

しかし これまでの研究では物質と光電場共に 1 次元的に取り扱っており 3 次元の自由度 を有する試料と 2 次元の偏光状態を有する光電場の相互作用を記述するには不十分でした < 研究内容 > 物性研の板谷研究室で開発した波長が 5 ミクロンの高強度中赤外レーザーを セレン化ガ リウム結晶に集光する

+ 量子操作と量子測定がひらく量子情報処理 一般物理分野 (A5 サブコース ) 村尾美緒

Microsoft PowerPoint - LectureB1handout.ppt [互換モード]

素粒子物理学2 素粒子物理学序論B 2010年度講義第4回

Microsoft Word - manuscript_kiire_summary.docx

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架橋点が自由に動ける架橋剤を開発〜従来利用されてきた多くの高分子ゲルに柔軟な力学物性をもたらすことが可能に〜

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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第 5 章復調回路 古橋武 5.1 組み立て 5.2 理論 ダイオードの特性と復調波形 バイアス回路と復調波形 復調回路 (II) 5.3 倍電圧検波回路 倍電圧検波回路 (I) バイアス回路付き倍電圧検波回路 本稿の Web ページ ht

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

具合が大きくなり 一般相対性理論 3 に基づく重力の記述が破綻するためである この問題を解決する新しいアプローチとして 1997 年米国プリンストン大のマルダセナ教授は ブラックホールの中心を含めて正しく重力を記述する理論を提唱した この理論によれば ちょうどホログラムが立体図形の情報を平面上に記録

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

Transcription:

電子波の位相変化は人工原子の内部構造を反映することを世界で初めて実証 20 年来の電子の散乱位相に関する問題に決着 1. 発表者 : 樽茶清悟 ( 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授 / 理化学研究所創発物性科学研究センター量子情報エレクトロニクス部門部門長 ) 山本倫久 ( 東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター特任准教授 / 理化学研究所創発物性科学研究センター量子電子デバイス研究ユニットユニットリーダー ) 高田真太郎 ( 産業技術総合研究所物理計測標準研究部門量子電気標準研究グループ研究員 ) 2. 発表のポイント : 多くの電子を含む人工原子 ( 注 1) によって散乱された電子波 ( 注 2) の位相のずれが人工原子内部の電子軌道の形に依存した振る舞いを示すことを実証しました 独自に開発 改良した二経路干渉計 ( 注 3) を用いて精密かつ信頼性の高い位相測定を行うことによって検証実験を実現しました 高精度な位相測定による新たな物理現象の解明および電子波の位相制御を用いた量子ビットなどの量子情報デバイスなどへの応用が期待されます 3. 発表概要 : 電子波が原子によって散乱される際に生じる位相のずれは 物理学の最も基本的な問題のひとつです 位相のずれに原子内の電子軌道の形が反映されることが理論的に指摘された一方 1997 年に Nature に掲載された論文では 電子を 10 個以上内包する人工原子による散乱で生じる位相のずれが 電子数を1 変化させる毎に元に戻るという 軌道に依存しない普遍的な振る舞いが報告されました その起源を巡って多くの研究が行われましたが 未解決のまま現在に至っていました 東京大学大学院工学系研究科の樽茶教授 ( 理化学研究所創発物性科学研究センター量子情報エレクトロニクス部門部門長 ) 山本特任准教授( 理化学研究所創発物性科学研究センター量子電子デバイス研究ユニットユニットリーダー ) と産業技術総合研究所物理計測標準研究部門の高田研究員らは仏ネール研究所のボイヤレ博士らと共同で 電子波の位相のずれを精密かつ信頼性高く測定できる独自の二経路干渉計を用いて 多電子の人工原子でも位相のずれが軌道の形を反映することを世界で初めて明らかにしました その研究結果は 2017 年 6 月 7 日に Physical Review B に掲載されました (https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/physrevb.95.241301) 本研究では更にデータを追加して 現実的な実験系で正しい測定を行えば普遍的な位相変化は観測され得ないことを示し 20 年来の電子の散乱位相の問題に決着をつけました 開発した位相測定技術は 人工原子の内部構造を探る方法として有用であり 散乱問題が関わる様々な物理現象の解明や 電子波の位相を情報のリソースとする量子情報デバイスにも利用できます

なお 本研究成果は 2017 年 11 月 22 日 ( 英国時間 ) に英国科学雑誌 Nature Communications (Nature Publishing Group) に掲載されました 4. 発表内容 : 電子は物質を構成する最小単位の一つであり 粒子としての性質と波としての性質を併せ持っています 電子の波としての性質は 干渉実験によって捉えることができます 電子が散乱体によってどのように散乱されるかは量子力学の基本的な問題であり これを利用すると散乱体の内部構造を調べることができます 例えば 電子が人工原子を通って散乱された際に生じる位相のずれは 人工原子内部の軌道の形に依存してその振る舞いを変えることが理論的に予測されていました 近年 半導体技術の進歩によって 電子の量子干渉計 ( 注 4) や 電子を1 個単位で閉じ込めることができる人工原子を自在に設計 作成できるようになりました このため 実際に電子が人工原子を通って散乱された際の位相の変化を測定する実験が試行されるようになりました しかし 1997 年と 2005 年に電子を 10 個以上含んでいる人工原子について行われた実験では 理論的な予測とは異なり 人工原子の内部の状態には依存しない 普遍的な位相の振る舞いが現れることが報告されました その後 この理由を説明するため 多くの理論的考察がなされてきましたが 十分な説明は得られませんでした これは 電子の位相を精確に測定することが技術的に困難であったためです 本研究グループは これまでの研究で 独自の二経路干渉計を開発し 電子波の位相のずれを精密かつ信頼性高く測定できることを示していました また 人工原子内の電子とそれに接続された電極中の電子との間の相互作用が強く現れている状態において 電子波に生じる位相のずれがどのように振る舞うかを明らかにするなど その二経路干渉計の有用性を実証してきました 本研究では 新たに架橋構造を取り入れて制御性を高めた二経路干渉計を開発し その片方の経路に人工原子を組み込みました ( 図 1) そして 人工原子内の電子数を 1 個単位で変化させながら 入射した電子波の位相変化を観測しました ( 図 2) 電子波は 人工原子内の電子数が 1 個変化する際に現れる透過振幅のピークをまたぐ度に位相がπだけ変化します そして 本実験では隣り合う2つの透過振幅のピークの間で 位相にπの跳びが現れて位相が元に戻る場合 ( 図 2(a) の黒矢印を参照 ) と 位相が滑らかに積み上がる場合 ( 図 2(a) の赤矢印 ( 太矢印 ) を参照 ) の2つの異なる振る舞いが観測されました 本研究グループが調べた人工原子は数十 (2017 年 6 月 7 日に Physical Review B に掲載された研究 ) から数百個 ( 本発表論文の研究 ) の電子を含んだものであり 1997 年と 2005 年に行われた実験の結果から推定すると πの跳びが現れる振る舞い ( 図 2(a) の黒矢印 ) のみが普遍的に観測されることが期待されます しかし 本研究では2つの異なる振る舞いが観測され 先行実験の結果とは一致していません さらに 人工原子の対称性を変化させるなど詳細な実験を行うことにより 人工原子によって散乱された電子波の位相のずれが 当初の理論予測通りに内部の電子軌道の形に依存することを明らかにしました 本成果は 先行実験よりも広い条件範囲で信頼性の高い位相測定を行うことによって得られたもので 20 年来の課題であった 理論と実験結果との不一致という問題に決着をつけるものです これにより 人工原子によって散乱される電子波の位相の振る舞いの理解が進展するとともに 位相測定が人工原子の内部構造を探る方法として有用であることが示されました

本研究で培った位相の精密測定技術により 今後 散乱位相を通した様々な物理現象の解明が期待されます また この技術を電子波の位相の精密な制御に応用することにより 将来的には量子情報デバイスへの発展が期待されます 本研究は 仏国立科学研究センターネール研究所 (Institut Néel) のクリストファー ボイヤレ博士の研究チーム 独ルール大学ボーフム校 (Ruhr-Universität Bochum) のアンドレアス ヴィック教授の研究チームとの共同研究で行われました また 科学研究費補助金基盤研究 S(No. 26220710) 基盤研究 A(No. 26247050) JST さきがけ (No. JPMJPR132D) JST CREST (No. JPMJCR1675) などの支援を受けて行われました 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Nature Communications : (2017 年 11 月 22 日 ) 論文タイトル :Non-universal transmission phase behaviour of a large quantum dot 著者 :H. Edlbauer, S. Takada, G. Roussely, M. Yamamoto, S. Tarucha, A. Ludwig, A. D. Wieck, T. Meunier and C. Bäuerle *, ( these authors contributed equally to the work) DOI 番号 :10.1038/s41467-017-01685-z アブストラクト URL: https://www.nature.com/articles/s41467-017-01685-z 6. 問い合わせ先 : 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授樽茶清悟 ( タルチャセイゴ ) 東京大学大学院工学系研究科付属量子相エレクトロニクス研究センター特任准教授山本倫久 ( ヤマモトミチヒサ ) 産業技術総合研究所物理計測標準研究部門量子電気標準研究グループ研究員高田真太郎 ( タカダシンタロウ )

7. 用語解説 : ( 注 1) 人工原子電子を閉じ込める ナノメートルサイズの微小な空間 量子力学で記述される離散的な電子状態を持ち 原子との類似性から人工原子と呼ばれる 半導体中ではゲート電圧を用いて電気的に形成することが可能であり 電子数を 1 個単位で制御できる ( 注 2) 電子波電子は物質を構成する最小単位の1つであり 粒子のような性質と波のような性質を併せ持っている 電子波は 電子の波のような性質に着目しているときに用いられる表現 ( 注 3) 二経路干渉計ふたつの経路だけの寄与によって波の干渉が起こるようなシステム 電子系の場合には 電子が干渉計から出た後再び干渉計に戻るような経路があると 二経路干渉ではなくなってしまう 低磁場下で動作する固体中で集積可能な二経路干渉計は 当研究グループによって 2012 年に発表された (Nature Nanotechnology 7, 247-251 (2012)) 本研究でも同様の二経路干渉計が使用された ( 注 4) 量子干渉計量子は 粒子のような性質と波のような性質を持つ物理現象の最小単位であり 本研究で扱う電子も量子の一つである 量子干渉計は 量子が波としての性質として持つ位相によって引き起こされる干渉現象を観測するための系で 注 3の二経路干渉計も量子干渉計の一種である 8. 添付資料 : 図 1: 本研究で用いた二経路干渉計の模式図 ( メインの図 ) とマッハツェンダー干渉計 ( 右上の図 ) 二経路干渉計の中には人工原子 (QD) が埋め込まれていて まわりの電極に与えるゲート電圧によってその対称性や内部の電子数などの状態を制御することができる この干渉計の動作原理は

右上の図に示す光に対する同様の干渉計 ( マッハツェンダー干渉計と呼ばれる ) と共通している 左上の電極から注入された電子波は 電子波に対する半透鏡によって二つの経路に分かれ 中央のリング構造に入射する リング構造では 電子波はそれぞれの経路長や人工原子の状態に依存した位相の変化を受ける その後 再び半透鏡を通り 右下の二つの電極に電流として出力される 実験では 中央のリング構造における左右の経路の位相差に応じて出力電流 I I が逆位相で振動する様子から 人工原子を通過する電子が獲得する位相を測定した 電子数 (+ N 個 ) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 透過振幅 ( a.u.) 位相 ( π) 人工原子への印加電圧 ( mv) 図 2: 多くの電子を含む人工原子によって散乱された電子波に生じる位相のずれの測定結果下の図 (b) は電子の干渉から得られた 人工原子を通って散乱される電子波の透過振幅であり 周期的なピークが現れている この透過振幅のピークは人工原子内の電子数が1 個変わるときに現れるものである 左から右にピークをまたぐ際に電子数が 1 個だけ増加しており ピークの間で電子数は一定となっている この図では電子数が N( 数百個) 個から N +14 個の間で位相の測定が行われている 上の図 (a) は下の図 (b) で表される電子数の変化に対応した電子波に生じる位相のずれを示しており ピークをまたぎ 電子数が1 個だけ変化するときに π だけ変化している また 隣り合うピークの間では 位相がπだけ跳んで元に戻る ((a) 内の黒矢印を参照 ) もしくはそのような跳びが現れずに滑らかに積み上がる((a) 内の赤矢印 ( 太矢印 ) を参照 ) という2つの異なる振る舞いが現れている この2つの異なる振る舞いが観測されたことは 位相のずれが人工原子内部の電子軌道の形に依存していることを示唆しており 多くの電子を含む人工原子の位相の振る舞いが普遍的ではないことを表している