Vasculitis, purpura and other vascular diseases 章血管炎 紫斑 その他の脈管疾患 血管炎はその炎症の主座となる動 静脈径, およびその皮膚における深度より数種類に大別されている ( 図.2 参照 ). 皮膚の血管炎では臨床的に紫斑や潰瘍を形成することが多く, 紫斑の出現によって重篤な全身性の血管炎の早期発見にもつながる場合があるため, 皮膚科医の果たす役割は重要である. 紫斑は, 真皮ないし皮下組織への出血により, 外見上赤紫色の皮膚変化をきたしたものの総称で, その出血の大きさから点状出血 (petechia; 直径 2 mm 程度まで ), 斑状出血 (ecchymosis; 直径 10 mm 以上 ) などと呼ばれる. 紫斑を生じる原因としては,1 血管の異常 ( 血管炎, ないし外的刺激による損傷 ),2 血流の異常 ( 高ガンマグロブリン血症など. 全身性疾患に伴うことが多い ),3 血小板の減少や機能異常によるもの,4 凝固因子の異常によるもの, などがあげられるが, 原因不明のものも少なくない. 本章ではこれらの病態を呈する疾患と, 動静脈やリンパ管の循環障害による疾患について解説する. 血管炎 vasculitis A. 小血管の血管炎 vasculitis in small vessels は 1. 皮膚白血球破 さい砕 性血管炎 cutaneous leukocytoclastic angiitis;cla 類義語 : 皮膚小血管性血管炎 (cutaneous small vessel vasculitis; CSVV), cutaneous leukocytoclastic vasculitis, 白血球破砕性えし血管炎 (leukocytoclastic vasculitis), 壊死性血管炎 (necrotizing vasculitis), 皮膚アレルギー性血管炎 (cutaneous allergic vasculitis), 過敏性血管炎 (hypersensitivity vasculitis) 好中球の皮膚小血管周囲への細胞浸潤を特徴とし, 症状が皮膚に限局するもの. 血管炎の生じる深さによって, 紅斑や紫斑, 丘疹, 水疱, 潰瘍などさまざまな臨床像を呈する ( 図.1). 定義皮膚白血球破砕性血管炎は, 真皮の小血管 ( 毛細血管および細動静脈 ) に血管炎が生じたもの ( 図.2) であり, 全身の血管炎症状はなく皮膚に限局しているものをさす. ただし, 特徴的な症状を呈する蕁麻疹様血管炎など ( 後述 ) は含めない. 163 図. 皮膚白血球破砕性血管炎 (cutaneous leukocytoclastic angiitis)
164 章血管炎 紫斑 その他の脈管疾患 表皮 A-2 B-3 真皮 A-1 B-2 A-1: 皮膚白血球破砕性血管炎 A-2:IgA 血管炎 B-1: 結節性多発動脈炎 B-2: 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 B-3: 多発血管炎性肉芽腫症 皮下組織 B-1 図.2 炎症の主座となる血管の深さと血管炎の種類 症状とくに両側下肢において, 紫斑, 蕁麻疹や多形紅斑に類似した紅斑性病変, 丘疹, 結節, 膿疱, 水疱, びらん, 潰瘍などがそうよう生じる ( 図.1). 瘙痒や疼痛を伴うことが多いが, 自覚症状に乏しいこともある. 発熱 腹痛 関節痛など全身症状を伴う場合は, 全身性血管炎の可能性を考慮する. 病因細菌やウイルス, 薬剤などの抗原と抗体との反応した免疫複合体が, 細動静脈の血管壁に沈着することで血管炎を生じる (Ⅲ 型アレルギー反応 ). 外来抗原としては, ペニシリン系などの抗菌薬, 各種化学物質, レンサ球菌, ウイルスなどがある. 他の膠原病や悪性腫瘍に伴う抗原も原因となりうる. 病理所見真皮のとくに上層 中層において血管炎を認める. 血管周囲に好中球の浸潤を認め, 白血球由来の核破片 核塵 (nuclear dust) を伴うことが多い. また, 血管が破壊された結果, 血管壁や血管内腔に好酸性物質が沈着する フィブリノイド変性 (fibrinoid degeneration). また, 血管外への赤血球漏出や血管内皮の腫大像もみる ( 図.3). この病理所見を白血球破砕 図.12 皮膚白血球破砕性血管炎 (cutaneous leukocytoclastic angiitis) 皮膚小血管に生じる血管炎
血管炎 / A. 小血管の血管炎 165 性血管炎 (leukocytoclastic vasculitis) という. 検査所見 赤沈亢進, 白血球増多, 高ガンマグロブリン血症などがみら れる. 診断 皮膚生検所見による. 病理組織学的に本症と同じ所見をとる 基礎疾患は多いので, その鑑別が重要となる. 治療 予後薬剤, 感染による場合は原因を除去する. 下肢病変に対しては足の挙上や保温安静を行う. 皮膚病変に対してはステロイド外用,NSAIDs 内服や DDS が有効である. 症状が強い場合はステロイド内服も考慮する. 2.IgA 血管炎 IgA vasculitis 同義語 :Henoch-S ヘノッホシェーンライン chönlein 紫斑 (Henoch-Schönlein purpura; HSP), アナフィラクトイド紫斑 (anaphylactoid purpura) 図.13 皮膚白血球破砕性血管炎 (cutaneous leukocytoclastic angiitis) palpable IgA 免疫複合体が真皮上層の血管壁に沈着して発症する. 一種のⅢ 型アレルギー. 浸潤を触れる点状出血 (palpable purpura) が下肢に多発する. 関節痛, 腹痛, 腎炎などの全身症状を伴うことがある. 治療は安静が中心. 成人では腎不全への進行に注意. 定義両側の下腿中心に浸潤を触れる紫斑が多発し, 関節痛や消化管症状, 腎炎を呈する. 病理組織学的には白血球破砕性血管炎 ( 前項参照 ) であるが, そのなかでも血管壁への IgA 沈着を認めるものをいう. 症状小児に好発するが, 成人例もみられる. 頭痛, 咽頭痛, 感冒 palpable purpura, nonpalpable purpura 図.3 皮膚白血球破砕性血管炎の病理組織像
166 章血管炎 紫斑 その他の脈管疾患 様症状が先行する. 両側の下腿や足背を中心に, ときには大腿 上肢 腹部にまで, 直径数 10 mm 以内の浸潤を触れる (palpable) 紫斑が播種状に生じる ( 図.4). 水疱や潰瘍, 新旧の皮疹が混在することもある. ときに軽度の圧痛がみられる. また, 足, 膝, 手, 肘などの関節痛, 疝痛様 びまん性の腹痛や下血などの消化管症状, 糸球体腎炎を認めうる. 病因小児では上気道感染後に発症する例が多く, レンサ球菌との関連性が指摘されている. 薬剤 ( ペニシリン, アスピリン ), 食物 ( 牛乳, 卵 ) も抗原として知られる. これらの抗原が体内の抗体 (IgA 型が主体 ) と結合し, その免疫複合体が血管壁に沈着, 免疫反応が惹起されて血管炎や紫斑をきたす. 病理所見真皮上層の血管壁にフィブリノイド変性を伴う白血球破砕性血管炎の像がみられる. 蛍光抗体直接法では, 血管壁周囲に IgA の沈着を認める ( 図.5). 検査所見レンサ球菌感染による場合は,ASO および ASK 値が上昇する. ときに血液凝固第 因子の低下がみられる. 腎病変は予後との関連が深いため, 血尿や蛋白尿を認めた場合は注意を要する. 鑑別診断若年で上記の特徴を備えた紫斑をみた場合は, 本症の可能性も考えて他症状の有無について問診し, 各種検査や必要に応じて皮膚生検を施行する. 血小板減少性紫斑病, 結節性多発動脈炎, 抗糸球体基底膜腎炎, ウイルス感染症 (papular purpuric gloves and socks syndrome),sle などを鑑別する. とくに成人例では顕微鏡的多発血管炎との鑑別が重要である. 図.41 IgA 血管炎 (IgA vasculitis) palpable purpura 治療安静を第一とし, 血管強化薬, 止血薬を用いる. 軽度の腹痛には NSAIDs が有効である. 症状が強い場合はステロイド内服も考慮する. 血液凝固第 因子製剤の投与が効果を示すこともある. 予後基本的に皮疹の予後は良好で, 多くは数週間のうちに消退するが, 再発することも少なくない. ときに重篤な他臓器合併症
血管炎 / A. 小血管の血管炎 167 ( 紫斑病性腎炎, 腸出血, 腸重積, 腸管穿孔, 脳出血 ) をみる. 成人例では腎不全に至るリスクが高く, 注意を要する. 3. 蕁麻疹様血管炎 urticarial vasculitis 24 時間以上持続する蕁麻疹様皮疹をみた場合は本症を疑う. 蕁麻疹様あるいは多形紅斑様の皮疹を繰り返し, 紫斑や色素沈着を伴う ( 図.6). 病理組織学的には真皮上層に白血球破砕性血管炎の像を認める. 本症は特発性のものと, 基礎疾患 ( とくに SLE) を有するものがある. 多くは低補体血症を伴い 低補体血症性蕁麻疹様血管炎 (hypocomplementemic urticarial vasculitis), 関節痛や腹痛, 腎症などの他臓器症状を呈する場合もある. 図.42 IgA 血管炎 (IgA vasculitis) 4. 持久性隆起性紅斑 erythema elevatum diutinum;eed 中年以降の男女に好発し, 肘や膝などの関節伸側に対称性に出現する. 最初は軽度隆起した赤紫色の局面であるが, 次第に線維化をきたしケロイド状となる. まれに水疱や潰瘍を形成することもある ( 図.7). 関節炎を伴うこともある. 病理組織学的に白血球破砕性血管炎がみられる. 自覚症状はほとんどなく慢性に経過する. 血液疾患 ( とくに単クローン性 IgA 血症 ) などを合併することがある. 治療は DDS が有効である. 図.5 IgA 血管炎の蛍光抗体直接法 IgA にく 5. 顔面肉 げ芽 腫 granuloma faciale 顔面に境界明瞭な紅褐色の局面や小結節を呈する ( 図.8). 日光曝露が関与するとされるが原因不明である. 病理組織学的に肉芽腫はみられず, 白血球破砕性血管炎の像を呈する. 色素レーザー療法, ステロイド局所注射や DDS などが行われるが治療抵抗性である. 図.6 蕁麻疹様血管炎 (urticarial vasculitis) 図.8 顔面肉芽腫 (granuloma faciale)