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○ユーロ

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< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

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[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

○ユーロ

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現代資本主義論

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サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

金融政策決定会合における主な意見

○ユーロ

Currency201207

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中国、財新サービス業PMIは4ヶ月ぶりの低水準に(Asia Weekly(3/4~3/8)) | 第一生命経済研究所 西濵徹

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スライド 1

株式市場 米国株 トランプ氏の政策への期待感後退で調整も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました 11 月 8 日 ( 現地 ) に行われた大統領選挙でトランプ氏が当選し 減税やインフラ投資の拡大などの同氏の政策に注目が集まりました 債券市場では金利が上

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PowerPoint プレゼンテーション

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長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

Microsoft Word ECB利下げ.doc

平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

経済・物価情勢の展望(2017年7月)

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

Economic Indicators   定例経済指標レポート

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中国、家計消費の伸びは歴史的低水準に | 第一生命経済研究所 西濵徹

平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

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PowerPoint プレゼンテーション

Economic Indicators   定例経済指標レポート

株式市場 米国株 国内の政策動向や海外の政治動向などに注目 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場はほぼ変わらずとなりました 月初には 2 月末のトランプ大統領の議会演説を好感して 株価は大幅上昇となりました しかし その後は 新政権の経済政策に対する期待が徐々に後退

スライド タイトルなし

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

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FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

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米国株 投資家心理が落ち着けば 上昇基調に回帰と想定 株式市場 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 長期金利の上昇を契機に急落米国株式市場は下落しました 月初に発表された1 月の雇用統計において 時間当たり賃金が市場予想を上回る伸び率となったことを受けて 長期金利が約 4 年ぶ

Economic Indicators   定例経済指標レポート

マーケット フォーカス経済 : 中国 2019/ 5/9 投資情報部シニアエコノミスト呂福明 4 月製造業 PMI は 2 ヵ月連続 50 を超えたが やや低下 4 月 30 日 中国政府が発表した4 月製造業購買担当者指数 (PMI) は前月比 0.4ポイントの 50.1となり 伸び率がやや鈍化し

低インフレ 乏しい利上げ観測労働市場に目を向けると 8 月の失業率は約 年ぶりの低水準となる5.3% に低下した 雇用者数も伸びており 一部では技術者不足の声も聞かれる RBAは今後数年 失業率は自然失業率とされる5.% を目指して低下が続くとの見方を示している ただ 賃金の上昇率は ~ 月期が前年

PowerPoint プレゼンテーション

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

中国におけるインフレの行方 中国経済は減速しているものの 過熱の解消にはまだ至っていない 年 9 月のリーマン ショックを受けて 中国は輸出が大幅に落ち込み 景気後退を余儀なくされたが 兆元に上る内需拡大策や 金利と預金準備率の大幅な引き下げをはじめとする拡張的財政 金融政策が実施されたことを受けて

1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

Microsoft PowerPoint - Pictet_Market_Flash_ (直近の下落).pptx

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

株式市場 米国株 国内外の政治動向に注目 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 好調な企業決算発表を受けて上昇米国株式市場は上昇しました 月前半までは2017 年 1-3 月期の決算発表内容が総じて好調であったことが株価を支えました 月半ばには コミー前 FBI( 連邦捜査局 )

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

株式市場 米国株 高値警戒感の高まりなどから上昇一服も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました トランプ政権で閣僚などの人事において一部で混乱が見られましたが トランプ大統領の発言などにより減税 金融規制緩和などへの期待が高まったことや 発表された米国企

生活衛生関係営業の景気動向等調査 平成17年7~9月期

Microsoft Word - N_ _2030年の各国GDP.doc

ピクテ・インカム・コレクション・ファンド(毎月分配型)

Outlook201806

経済学でわかる金融・証券市場の話③

MONEXグローバル個人投資家サーベイ

社団法人日本生産技能労務協会

株式市場 米国株 先行き不透明感強いがファンダメンタルズは良好 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は下落しました 堅調な経済指標の発表を受けて米国の年内利上げ観測が高まったことで 金利動向の影響を受けやすいディフェンシブセクターの一部が軟調に推移しました また 米

28 GCC UAE GCC (2) 大きく上昇した食料価格と住居費 GCC GCC GCC 図表 2 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価上昇率 (28 年 ) 図表 3 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価指数に占める食料品と住居費の割合

Invesco Premia Plus Fund

株式市場 米国株 上値が重く神経質な展開 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は下落しました FOMC( 米国連邦公開市場委員会 ) における利上げの有無 大統領選挙の動向 ドイツの大手銀行の資本不足懸念などに一喜一憂する展開となりました 月半ばにかけて 利上げ観測や原油

(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

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SERIまんすりー2月号 今月のみどころ

リンギ安進むマレーシア~原油安による経済への影響~

月例経済報告

当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

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月例経済報告

平成23年11月1日

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平成28年度公金管理運用計画

ファンダの鬼・柳澤 浩と小杉 篤諭の「ファンダメンタルズの学び方、活かし方セミナー!」

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2018 年は激動の年 年初来 トルコ株式指数はトルコリラベースで最大で約 24% 下落し トルコリラは日本円に対して最大で約 45% 下落しました トルコ株式 * の推移 ( トルコリラベース ) /12 18/03 18/06 18

2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

株式市場 米国株 景気 企業業績は依然として堅調 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 貿易摩擦への懸念から下落米国株式市場は下落しました トランプ米大統領が鉄鋼やアルミニウムの輸入を制限する方針を表明したことから 世界的な貿易摩擦への懸念が高まり下落して始まりました その後 貿

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

米国を巡る国際マネーフローの動向

定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

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資料1

ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

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別紙2

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【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化

第45回中期経済予測 要旨

「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入

Transcription:

Asia Trends 1/5 マクロ経済分析レポート タイ経済事情 : 物価上昇リスクへの予防的対応で利上げ実施 ~ 政情不安は燻るが 景気拡大や食料品価格上昇などで物価上昇懸念高まる ~ 発表日 :2010 年 7 月 15 日 ( 木 ) 第一生命経済研究所経済調査部担当副主任エコノミスト西濵徹 (03-5221-4522) ( 要旨 ) タイ銀行は 14 日に開催した定例会合で政策金利を25bp 引き上げ1.50% とした 同国の利上げは約 2 年ぶりで 世界金融危機後に利上げを行うのはASEAN 内で3 番目となる 6 月の消費者物価は前年比 +3.3% と目標を上回るが コア物価は同 +1.1% と落ち着いている しかし これまでの金融緩和や海外資金の流入で資金供給量が拡大して過剰流動性が懸念される中 国内では金融政策の正常化を求める声が高まっていた 今後も緩やかな利上げが続くと予想される 政情不安は景気の重石になると懸念されたが 早期収拾で足元では落ち着きを取り戻している アジア向け輸出の拡大が景気を大きく牽引し 投資拡大や雇用改善で内 外需ともに回復に向かっている しかし 政情不安はGDPの1 割弱を占める観光関連産業に悪影響を与えており 4-6 月期の経済成長率を幾分下押しする可能性がある 先行きの同国経済においては 在庫率の低さやアジア経済の拡大で直接投資などが景気を下支えしよう 対外信用力についても十分な健全性を備えている しかし 今年は雨季の雨量が例年に比べて非常に少ないため コメの作柄が懸念される 同国は世界最大のコメ輸出国であり アジアのコメ市況の上昇を通じて各国の物価を押し上げる可能性がある 当然 同国においても悪影響が懸念され 金融政策は難しい舵取りが求められる 政情不安による景気悪化懸念で株式相場は一時調整したが 短期間での収束により値を戻している 中国の景気減速懸念や利上げはマイナス要因になろうが 好調な企業業績が株価を支えよう 一方 外国人投資家のリスク回避局面ではバーツ売りが進んだが 追加の利上げ観測やファンダメンタルズの強さを背景にバーツ高圧力が掛かり易い状況が続くであろう 物価上昇率は目標を上回り 過剰流動性も燻る中 アジア周辺国に追随して利上げに動く 14 日 タイ銀行は定例の金融政策決定会合で政策金利を 25bp 引き上げて 1.50% とした ( 図 1) 同国の利上げは世界金融危機直前の 2008 年 8 月以来約 2 年ぶりであり 金融危機後にASEAN 諸国で利上げを行うのはベトナム マレーシアに次いで3 番目となる 6 月の消費者物価は前年同月比 +3.3% と徐々に上昇しており ( 図 2) 当局の定めるインフレ目標(0.5~3.0%) を上回っているが コア物価については同 +1.1% に留まるなど 必ずしも内需拡大によるディマンドプル型の物価上昇には至っていない しかし 国際商品市況の上昇で食料品やエネルギー価格は前年比で二桁 % 近くに達するなど コストプッシュ型の物価上昇圧力が高まっている さらに今年は雨季の雨量が少ないため コメの不作が懸念されており 物価上昇が一段と進む可能性が出ている また 当局は世界金融危機後一貫して金融緩和を続け 海外資金の回帰も進んでいることから ( 図 3) 年明け以降資金供給量の拡大ペースが加速している ( 図 4) 結果 過剰流動性に対する警戒感が強まっており 物価上昇を加速することが懸念されてきた 先月の会合では 政情不安やユーロ問題などのリスク要因が解消した場合の利上げを示唆していたが 政治情勢の緊張が小康状態を取り戻したことも利上げに踏み切る要因となった 当局のタリサ総裁は9 月末に任期満了であり 政府は今月初め次期総裁としてタイ銀行協会会長で業界第 3 位のカシコーン銀行頭取であるプラサーン氏を選出する方針を明らかにした 同氏は年末までに金融引き締

2/5 めを進める必要性を指摘していたことから 早晩利上げが行われる可能性が高まっていた さらに 政情不安が比較的短期間で収束し ユーロ問題による直接的影響も限定的であるため 政府内でも早期の金融政策の正常化を求める声が上がっていた 当局の声明文では 足元の物価上昇は落ち着いているが 来年にかけて景気拡大による物価上昇圧力が高まるとの見方を示しており フォワード ルッキングな対応であるとしている 図 1 政策金利の推移図 2 消費者物価の推移 ( 前年比 ) 図 3 海外証券投資流出入額の推移 図 4 マネーサプライ (M3) の推移 内 外需の拡大で製造業中心に生産拡大続く一方 政情不安の激化が観光産業などに悪影響 同国では 約 3 年半に亘って続いてきた政治闘争が景気の重石となってきた 今年 3 月にはタクシン派反政府団体 (UDD) が首都バンコク中心部を不法占拠する事態となり 4 月に政府軍が強行突入した結果 多数の犠牲者が出る最悪の事態を招いた その後 政府はバンコクをはじめ 24 県に対して非常事態宣言を発令して強硬姿勢を採ったことでデモは勢いを失っており 国民生活は表面上平穏を取り戻しつつある アピシット首相は国内融和に向けて5 項目からなる 国民和解案 を発表しているが 来年初めにも示される行動計画は同国政治の不透明感を払拭する大きな試金石になろう ただし UDDは解散総選挙を求めており 政府は一時 11 月の実施を提案したが デモの早期収束により済し崩しの状態が続いている 国内融和に向けて 幅広い議論と真の民主主義の定着が試されている 同国経済は輸出のGDP 比が約 6 割と輸出依存度が高く 中国向け輸出をはじめ ( 図 5) アジア向け輸出の拡大を牽引役に景気回復を果たしてきた 実質輸出は昨年 5 月を底に拡大を続けており 足元では金融危機前の水準を取り戻しつつある ( 図 6) 結果 製造業を中心に雇用環境は大きく改善し( 図 7) 大規模景気対策による公共投資の拡大も雇用改善を促している 結果 個人消費は昨年春を底に急速に回復しており 足元では過去最高水準まで拡大している ( 図 8) こうした内 外需の回復を背景に製造業生産高は大幅に拡大している 一時は 50% 台に落ち込んだ設備稼働率も政情不安が深刻化する直前には 75% まで向上し ( 図 9) 企業の設備投資意欲も大きく向上するなど( 図 10) 投資拡大を促す好循環が生まれている 一方 年明け直後 70% 近くまで回復していたホテル稼働率は 政情不安の深刻化で観光客数が激減したことから5 月には 35% まで低下するなど ( 図 11) GDPの約 1 割を生みだす観光関連産業への悪影響は厳しい

3/5 さらに 今年は雨季に入った5 月以降も降雨量が極めて少なく 政府は農家に対して稲の作付けを遅らせるよう指示しているような状況にあり GDPの約 1 割を生み出す農業部門も厳しい環境となっている 1-3 月期の経済成長率は前年比 +12.0% 前期比年率では+16.0% と潜在成長率を大きく上回る景気拡大を遂げているが ( 図 12) 4-6 月期は政治的混乱などの影響が懸念される 図 5 中国 香港向け輸出額の推移図 6 実質輸出の推移 図 7 雇用環境の推移 図 8 民間消費動向の推移 図 9 製造業生産高と設備稼働率の推移 図 10 民間投資動向の推移 図 11 観光客数とホテル稼働率の推移図 12 実質 GDP 成長率の推移 ( 前年比 ) 海外からの直接投資も背景に 先行きも生産拡大が見込まれる 一方 農業生産の動向がリスク要因 先行きの同国経済について 製造業を中心に急速な生産拡大が続いてきたが 年後半に掛けては若干の調整

4/5 が予想される ただし 足元の在庫率は依然として低水準で推移しており ( 図 13) 引き続きアジア向け輸出の拡大が期待されることから 景気の腰折れは免れるであろう 同国は 東洋のデトロイト を標榜して長年に亘り自動車産業の育成に取り組んできたが ASEAN 諸国の中では裾野産業の発展が進んでおり ASEAN 内での立地条件の良さや政府の投資奨励策なども相俟って 海外からの直接投資の拡大ガ続いており ( 図 14) 民間投資を牽引してきた 実際 政情不安が激化やマプタプット問題にも拘らず 今年前半の直接投資申請額は昨年から倍増しており 今後も投資と輸出の押し上げで同国景気は牽引されよう そして投資拡大による雇用改善で個人消費の押し上げも期待され 景気の本格回復をもたらそう 輸出拡大に伴う経常収支の黒字基調で対外信用力の向上も進んでいる ( 図 15) さらに 昨年後半以降の海外資金の回帰もあって 外貨準備高は着実に増加しており 6 月末時点で 1468 億ドルに達している ( 図 16) 一方 大規模景気対策による歳出拡大で財政赤字が拡大しており 昨年以降公的債務は急速に増加したが 4 月時点の公的債務残高はGDP 比 45% と新興国の平均水準に留まっている また 対外債務は民間部門の短期資金を中心に拡大し 4 月末時点で 754 億ドルまで増加しているが ( 図 17) 国際金融市場で短期的な動揺があった場合でも十分に吸収可能な水準にあると判断される 先行きの不安材料として 特に雨季の少雨に伴う悪影響を指摘しておきたい 同国は世界最大のコメ輸出国であり その収穫状況や輸出動向はアジアのコメ市況や食料品価格に大きな影響を及ぼす 同国でも家計消費に占める食料品のウェイトは3 割以上に上るため 急激な価格上昇があれば 個人消費を大きく下押しする懸念がある 金融当局は物価上昇圧力の高まりを理由に利上げを実施したが 今後は国際商品市況や食料品価格の上昇によってコストプッシュ型の物価上昇が高まる可能性があり 政策対応は難しさが増すであろう 図 13 在庫率の推移図 14 直接投資流入額の推移 図 15 経常収支の推移 図 16 外貨準備高の推移

5/5 図 17 対外債務残高の推移 ( 出所 )CEIC より第一生命経済研究所作成 政情不安懸念の後退で株価は戻す 力強いファンダメンタルズが評価される可能性も 4 月の政情不安の激化が嫌気され 株式相場は急速に調整する場面はあったが 短期間で収束して比較的落ち着いた状態が続いているため 底堅い景気が再評価されて値を戻している ( 図 18) 今後も主要輸出先である中国の景気減速懸念や 追加利上げの可能性が株価を抑える要因となろうが 好調な企業業績が株価を支えよう 一方 通貨バーツは政情不安が注視された局面においても 堅調な景気を背景にバーツ高圧力が掛かってきたが 外国人投資家のリスク回避局面で他の新興国通貨同様にバーツも売られた ( 図 19) しかし 今回の利上げによって内外金利差が拡大しており 今後も緩やかな利上げが続くと予想されているため バーツ高圧力が高まると考えられる 一方で投資家のリスク回避姿勢に伴い長期金利は下落基調が続いてきたが リスクマインドの改善や利上げ圧力により足元では徐々に上昇している ( 図 20) 図 18 株式相場の推移 (SET 指数 ) 図 19 為替相場の推移 ( 対米ドル ユーロ ) 図 20 長期金利の推移 (10 年債利回り ) ( 出所 )CEIC より第一生命経済研究所作成 以上