外国人技能実習生制度における人権問題 弁護士加藤桂子
内容 1 我が国における外国人労働者の現状 2 外国人技能実習制度の概要 3 外国人技能実習制度の人権上の問題点 4 裁判事例 5 外国人技能実習生等の人権保障にむけて
我が国における外国人労働者の現状 1 在留外国人数 238 万 2822 人 (2016 年末, 前年比 6.7% 増加 ) * 法務省入国管理局 平成 28 年末現在における在留外国人数について http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00065.html 2 外国人雇用状況届出状況〇 2016 年 10 月末 :108 万 3769 人 ( 前年比 175,873 人 19.4% 増加 ) 〇 2017 年 10 月末 :127 万 8670 人 ( 前年比 194,901 人 18.0% 増加 ) * 厚生労働省 外国人雇用状況 の届出状況 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000192073.html
在留外国人の構成比 ( 在留資格別 H28 末 ) 在留資格 人数 永住者 727,111 特別永住者 338,950 留学 277,331 技能実習 228,588 定住者 168,830 技術 人文知識 国 際業務 161,124 家族滞在 149,303 日本人の配偶者等 139,327 特定活動 47,039 技能 39,756 その他 105,463 法務省 平成 28 年末 確定値公表資料 在留外国人労働者の過去の推移 外国人労働者数 男性 女性 対前年増減比 平成 25 年 717,504 369,461 348,043 5.1 平成 26 年 787,627 409,250 378,377 9.8 平成 27 年 907,896 479,670 428,226 15.3 平成 28 年 1,083,769 574,656 509,113 19.4 平成 29 年 1,278,670 677,702 600,968 18.0 厚生労働省 外国人雇用状況 の届出状況表一覧
技能実習制度の概要 発展途上国への技術移転による国際貢献を目的として創設 (228,588 人が在留 (H28 末 )) 受入方法による区別 企業単独型 ( 企業が外国の現地法人等から労働者を技能養成のために受け入れる ) 団体監理型 ( 事業協同組合 商工会議所等の受入れ団体が外国の送出し機関と協定を結んで傘下の中小企業に受け入れる ) 受入れの数は団体監理型が圧倒的多数を占めている (2016 年は 96.4%, 法務省 平成 28 年末 確定値公表資料 ) 資料 1: 現行の技能実習制度の仕組み 厚生労働省 HP より
技能実習制度の歴史 1989( 平成 2) 年の入管法改正により在留資格 研修 が創設 1993( 平成 5) 年に技能実習の制度 ( 在留資格は 特定活動 ) が創設 1997( 平成 9) 年には 技能実習の滞在期間が 2 年とされる ( 研修 での滞在期間と併せて最長 3 年間に ) 旧制度最終年度である 2009 年度の外国人研修生 技能実習生の人数は約 20 万人に 入管法改正により在留資格 技能実習 が創設 2010( 平成 22) 年 7 月以降は 技能実習制度に一本化 2016( 平成 28) 年 11 月 18 日, 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律が成立,2017 年 ( 平成 29) 年 11 月 1 日施行 技能実習期間が 5 年に拡張
資料 1 の 団体監理型 の部分を拡大したもの
外国人技能実習制度の人権上の問題点 1. 構造上の問題点 目的と実態の乖離 安価かつ産業に不可欠な労働力の供給源として利用されている実態 実習生自身も 出稼ぎのために利用 労働者であるのに 転職の自由 がない 実習先の雇用主から支配され 実習生もそれを我慢するという状況が起こりやすい 送出し機関 監理団体の 中間搾取 保証金 違約金 実習生管理費 人身取引 ( 労働搾取 セクシャルハラスメントなど )
2. 技能実習制度の実態 受入れ職種の限定 技能実習 2 号移行対象職種 :77 職種 139 作業 資料 2: 技能実習 2 号以降対象職種 厚労省 HPより 地方の3K 産業の人手不足に対応 最低賃金レベルの賃金水準 国別受入れの推移( 中国の減少が意味するもの )
問題事例 平成 30 年 2 月法務省入国管理局 平成 29 年の 不正行為 について 不正行為 の類型別の件数は299 件, 内, 悪質な人権侵害行為等 148 件 暴行 脅迫 監禁 : 4 件 旅券 在留カードの取上げ: 2 件 賃金の不払: 139 件 人権を著しく侵害する行為: 3 件
問題事例 暴行 脅迫 監禁 技能実習生からの相談を受けていた支援者からの情報提供を端緒に, 建設業を営む自習実施機関の従業員が, 技能実習生に対して, 日本語を理解しない 等を理由に叩く, 殴る, 蹴るなどの暴行を日常的に行っていたことが判明した 人権を著しく侵害する行為 労働局からの通報を端緒に, 食品加工業を営む実習実施機関が, タイムカードの打刻を忘れることに対し,1 回当たり 1,000 円の罰金を技能実習生に課しており, 総額で 10 万円以上の罰金を不当に控除していたことが判明した 賃金の不払い 技能実習生からの相談を端緒に, 栖鳳行を営む実習実施機関が, 技能実習生 6 名に対し, 約 2 年 1 月間にわたり, 最低賃金を下回る基本給を支払っていたほか, 時間外労働に対する賃金を時給 300 円などに設定していたことが判明し, 不払いの総額は 6 名合わせて 2,100 万円に達した
問題事例 厚生労働省平成 29 年 8 月 9 日 外国人技能実習生の実習実施機関に対する監督指導 送検等の状況 ( 平成 28 年 ) 労働基準関係法令違反が認められた実習実施機関は 監督指導を実施した 5,672 事業場 ( 実習実施機関 ) のうち 4,004 事業場 (70.6%) 主な違反内容は 労働時間 (23.8%) 使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準 (19.3%) 割増賃金の支払 (13.6%) の順に多かった 重大 悪質な労働基準関係法令違反により送検したのは 40 件
問題事例 約 2 年間にわたり 技能実習生 5 名に対し 国民年金積立 などの虚偽の名目で違法に控除したり 時間外 休日労働に対して時間単価で 500 円程度の支払とするなどにより 所定の賃金及び割増賃金 総額約 1,200 万円が支払われていない また 1 か月最長 120 時間程度の違法な時間外労働も行わせていた 事業場に所属するすべての技能実習生 4 名の賃金について 月額 6 万円程度しか支払われておらず また 時間外 休日労働に対しても時間単価が 400 円程度となっており 最低賃金額に満たない賃金及び割増賃金 総額約 500 万円が支払われていなかった 監理団体の代表者が賃金不払について関与していた 産業廃棄物の処理工場内で 労働者が 作業中の重機に轢かれ 下半身に重傷を負う労働災害が発生した 捜査の結果 この工場の工場長が 法令に定められた資格を有していない技能実習生に 重機の運転を行わせていたことが発覚した
問題事例 ~ 強制帰国 妊娠が発覚した中国人女性実習生に対し 受入れ協同組合らが強制帰国未遂した ( 結果 女性は流産した ) ことを違法と判断した裁判例としてフルタフーズ 食品循環協同組合事件 富山地裁判決 ( 平 25.7.17) が存する
問題事例 ~ 過労死 1992 年から2014 年までの間,365 名の研修生 技能実習生が死亡 内約 28% に当たる101 名の死因が 脳 心臓疾患 この傾向は, 現在も同様 技能実習生のほとんどは 20 歳代 (2016 年度は約 75%) 同世代の日本人の 脳 心臓疾患 死の割合は 5% 以下 JITCO 2014 年度外国人研修生 技能実習生の死亡者数
問題事例 ~ 人権侵害 中国人農業技能実習生に関する人権救済申立事件 ( 勧告 ) ( 日弁連 ) https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/complaint/year/2014/1 41201.html 川上村のレタス栽培に従事していた農業実習生の事案 長時間かつ休日の少ない厳しい労働環境 狭く不衛生な寄宿舎が多いといった厳しい生活環境 中国の送出し機関が 私生活や交友関係に及ぶ規則とその違反に対する制裁金を定め 規則の遵守を監督する監督者を置く 保証金徴収や保証人との間の違約金契約による威嚇の下で労働を強いて 預貯金の自由な処分の可能性を奪う 技能実習生が逃亡や権利主張を事実上できないようにしていた
国際的批判 人身取引に関する国連特別報告者 Ms. Joy Ngozi Ezeilo の 2010 年 5 月 12 日報告 多くの研修生 実習生が, 送出し機関に多額の保証金を支払い, それは研修や実習の期間が終了 しなければ払い戻されない また, しばしば, 自宅を担保として追加することを求められている こうし て, 研修生 実習生は追い込まれ, 過酷な条件のもと生活をしながら働きつづけ, 奴隷や強制労働に 似た慣行を強いられる このような侵害は, 政府が 2007 年に, パスポートの没収, 強制貯金, そして 送出し国での保証金の徴収を禁止する指針を発表した後も引き続き発生している 移住者の人権に関する国連特別報告者 Mr. Jorge Bustamante の 2010 年 3 月プレスリリース 研修 技能実習制度は, 往々にして, 研修生 技能実習生の心身の健康, 身体的尊厳, 表現 移 動の自由などの権利侵害となるような条件の下, 搾取的で安価な労働力を供給し, 奴隷的状態に まで発展している場合さえある このような制度を廃止し, 雇用制度に変更すべきである アメリカ国務省の人身取引報告書 (~2017 年 ) 技能実習制度が人身取引に該当すると報告している
日本弁護士連合会の意見書 会長声明 法務副大臣 今後の外国人の受入れ等に関するプロジェクト 今後の外国人の受入れについて ( 中間ま とめ ) に対する意見書 (2006 年 7 月 20 日 ) 外国人技能実習制度の早急な廃止を求める意見書 (2013 年 6 月 20 日 ) 外国人の非熟練労働者受入れにおいて 外国人技能実習制度を利用することに反対する会長声明 (2014 年 4 月 3 日 ) 技能実習制度の見直しの方向性に関する検討結果 ( 報告 ) に対する会長声明 (2014 年 6 月 18 日 ) 技能実習制度の見直しに関する有識者懇談会報告書に対する意見書 (2015 年 2 月 27 日 ) 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案 に対する会長声明 (2015 年 4 月 24 日 ) 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律 の成立に関する会長声明 (2016 年 11 月 24 日 ) 技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する基本方針 ( 案 ) に対する意見 (2017 年 1 月 12 日 ) 新たな 外国人材の受入れ 制度の創設に関する会長声明 (2018 年 5 月 15 日 )
裁判事例 熊本地判平成 22 年 1 月 29 日 判時 2083 号 43 頁 ( プラスパアパレル協同組合ほか ) 逃亡防止目的でパスポートの取りあげを行っていた事案 富山地判平成 25 年 7 月 17 日 労旬 1806 号 62 頁 ( フルタフーズ 食品循環協同組合事件 ) 強制帰国が法的には解雇に該当するのみならず 不法行為として慰謝料の対象となることを認めた裁判例 東京地判平成 23 年 12 月 6 日 判タ 1375 号 113 頁 ( デーバー加工サービス事件 ) 日本人よりも多額の寮費を給料から控除されていた事案等々多数
司法による救済を受けることの困難 1. 言葉の壁 2. 法知識の欠如 3. 保証金等の問題 4. 費用の問題 5. 在留資格の問題
外国人実習生等の人権保障に向けて 外国人労働者受入れ制度の整備 労働者として正面から認める受け入れる制度の構築 中間搾取と, 保証金等に拘束される制度の廃止多文化共生社会の構築 技能実習生を, 労働者 ( 生活者 ) として受け入れることができる社会の構築 労働力だけの存在として外国人を利用することは許されません! 企業による監視 企業によるサプライチェーン全体の監視個人の差別意識の改革 外国人労働者に対する偏見の解消