共働きは 収入源の分散化や世帯所得の増加をもたらすことから 基本的には消費に対する自由度を高めるものと予想される つまり 配偶者収入も含めて 収入が消費に結びつきやすくなる可能性があるということだ しかし 実際には 共働き世帯が増加しているにも拘わらず 家計は消費に対して慎重になっているようだ 世帯

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29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

別紙2

第 3 節食料消費の動向と食育の推進 表 食料消費支出の対前年実質増減率の推移 平成 17 (2005) 年 18 (2006) 19 (2007) 20 (2008) 21 (2009) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012) 食料

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

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各位

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

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(3) 消費支出は実質 5.3% の増加消費支出は1か月平均 3 万 1,276 円で前年に比べ名目 6.7% の増加 実質 5.3% の増加となった ( 統計表第 1 表 ) 最近の動きを実質でみると 平成 2 年は 16.2% の増加となった 25 年は 7.% の減少 26 年は 3.7% の

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みずほインサイト 日本経済 17 年 3 月 4 日 共働き世帯の増加と消費への影響老後不安を背景に 配偶者収入の増加分は貯蓄へ 経済調査部主任エコノミスト大野晴香 3-3591-143 haruka.ono@mizuho-ri.co.jp 共働き世帯の増加は 世帯所得の増加を通じて個人消費の拡大をもたらすことが期待されるが 個人消費は力強さに欠ける状況が続いている 4 代は最近 配偶者収入の増加がとくに顕著となっている ただし 新たに働き始めた配偶者の収入は消費に結びつかず 大部分が貯蓄に回っている模様 収入を貯蓄に回す要因の一つに老後不安がある 配偶者収入の増加を消費につなげるには 成長力向上により財政健全化の負担を払拭し 社会保障制度の信頼を高めることが必要 1. 共働き世帯数の増加は 1 年以降加速近年 共働き世帯の増加が続いている 年から16 年にかけて専業主婦世帯は35 万世帯減少したが 共働き世帯は 6 万世帯 ( 年間 13 万世帯 ) 増加した ( 図表 1) とくに1 年以降の伸びは年間 4 万世帯 (1~16 年平均 ) と リーマンショック前の年間 9 万世帯 (~7 年平均 ) から加速している こうした共働き世帯の増加により 配偶者収入が世帯収入に及ぼす影響力は高まっているようだ 家計調査で世帯当たり ( 二人以上の勤労者世帯ベース ) の実収入をみると とくに1 年以降 配偶者収入が押し上げに寄与していることが分かる ( 図表 ) ( 万世帯 ) 1, 1,1 1, 図表 1 共働き世帯数の推移 共働き世帯 ( 前年比 %). 1.. 図表 実収入の寄与度分解 9 8 7 6 専業主婦世帯 3 6 9 13 16 ( 年 ) ( 注 )11 年は震災により全国の結果が出ていないため 図表に含んでいない ( 資料 ) 総務省 労働力調査 より みずほ総合研究所作成 1.. 3. 4. その他配偶者収入世帯主収入実収入 1 3 5 7 9 11 13 15 ( 注 ) みずほ総合研究所による実質値を用いて計算 ( 年 ) 1

共働きは 収入源の分散化や世帯所得の増加をもたらすことから 基本的には消費に対する自由度を高めるものと予想される つまり 配偶者収入も含めて 収入が消費に結びつきやすくなる可能性があるということだ しかし 実際には 共働き世帯が増加しているにも拘わらず 家計は消費に対して慎重になっているようだ 世帯の消費支出の伸びをみると 7 年までは 実収入の伸びを上回る年が多くみられたものの 1 年以降は 実収入の伸びを下回って推移することが多くなっている とくにここ 年は 消費支出の伸びと実収入の伸びの乖離が目立つ ( 図表 3) 共働き世帯の増加が なぜ個人消費に結びついていないのだろうか. 消費に結びつきにくい配偶者の収入 ( 前年比 %) 3.. 1.. 1.. 3. 4. 図表 3 実収入と消費支出 実収入 消費支出 1 3 5 7 9 11 13 15 ( 注 ) みずほ総合研究所による実質値を用いて計算 ( 年 ) 先ず 共働き世帯の増加に伴う配偶者収入の増加が実際にどの程度消費に影響を与えているかをみるため 配偶者収入と消費支出の水準を追ってみよう (1)1 年以降乖離する配偶者収入と消費支出のトレンド図表 4は 一世帯あたりの配偶者収入と世帯主収入 消費支出 ( いずれも二人以上の勤労者世帯ベース ) の推移を示したものである 配偶者収入は 1 年頃より伸び率を高め 16 年にかけて年率 +1.5% 程度のペースで増加している 一方 消費支出は 年率 1% 程度と 世帯主収入の減少に沿うように減少トレンドを辿っている このことから 近年増加基調で推移している配偶者収入の増加が 世帯の消費に必ずしも結びついていない様子がうかがえる () 金融危機をきっかけに途切れた配偶者収入から消費へのパス次に 配偶者収入の増加が消費に与える影響を数字で確認するため 配偶者収入が1% 増加した場合 消費支出がどの程度変化するかを示す弾力性をみてみよう 弾力性の算出にあたっては 配偶者収入の他に 消費に影響を及ぼすと考えられる世帯主収入 直接税 社会保険料を説明変数に加えて推計を行った また 消費が比較的堅調であった~7 年と 個人消費が振るわない1~16 年に分けて それぞれの期間の月次データを用いて弾力性を算出し 比較することとした 1 先ず ~7 年の結果をみると 弾力性は.9となった 具体的に金額で示すと 配偶者収入が1% 増加 (7 年 : 約 5 円 ) した場合 消費が約 3 円増えるということだ ざっと配偶者収入の6 割弱が消費に回っている計算となる 次に 1~16 年についてみると.6という結果であった しかし 同期間については 統計

的に有意とはならなかった すなわち 配偶者収入の増加と消費との関連性はそもそも薄いということだ 仮に 統計的に優位であったとしても 金額に換算した場合 配偶者収入の増加分の約 3 割しか消費に回っていないことになり 先述の~7 年 ( 約 6 割 ) と比べて 影響が小さいことに変わりはない ~7 年と比べて1~16 年は 有意性 弾力性の双方の面からみて 配偶者収入が消費に与える影響が薄れていることは間違いなさそうだ なお 二人以上の勤労者世帯ベースで見た配偶者収入の増加は 一人当たり配偶者収入の増加 ( 価格要因 ) ではなく 働く配偶者数の増加 ( 数量要因 ) によってもたらされている 3 そのため 上記結果は 新たに働き始めた配偶者の収入が消費に与える影響を主に示していると考えられる つまり 1 年以降 新たに働き始めた配偶者の収入は 消費を押し上げる効果が弱いということだ 近年の共働き世帯の増加に伴う配偶者収入の増加は 消費の押し上げに貢献せず 大部分が貯蓄に回っていることを示唆している (3) とりわけ 4 代で強い貯蓄志向年齢別にみると 近年とくに目立って配偶者収入を増加させているのが4 代である 4 代の配偶者収入 ( 二人以上の勤労者世帯ベース ) は 1 年頃まで横ばいないしは漸減傾向が続いていたものの その後 一貫して増加基調を辿っている ( 図表 5) 1 年から16 年にかけての配偶者収入の伸びは 年間約 千円 (1~16 年平均 ) と 他の世代と比べて最も高くなっている 一方 消費支出をみると 世帯主収入とともに減少トレンドが続いている 1~16 年にかけて配偶者収入は年率 +% 程度のペースで増加している一方 消費支出は年率約 1% と減少トレンドを辿っている 全世代平均でみると 配偶者収入は年率 +1.5% 程度 消費支出は年率 1% 程度となっており 4 代は全世代平均よりも 配偶者収入と消費支出のトレンドの差が拡大しているようだ 4 代の配偶者収入は急速に増加しているが 消費の押し上げには貢献しておらず 貯蓄に回っている可能性が高いとみられる 図表 4 二人以上世帯の配偶者収入と消費支出 (1 年 =1) 1 11 1 9 8 7 6 消費支出世帯主収入配偶者収入 /3 3/3 6/3 9/3 1/3 15/3 ( 注 ) 実質化及び季節調整はみずほ総合研究所による ( 年 / 期 ) 13 1 11 1 9 8 7 図表 5 4 代の配偶者収入と消費支出 (1 年 =1) 6 消費支出 世帯主収入 配偶者収入 /3 3/3 6/3 9/3 1/3 15/3 ( 年 / 期 ) ( 注 ) 実質化及び季節調整はみずほ総合研究所による 3

3.4 代を中心に老後不安が収入の増加を貯蓄に回す要因に収入の増加を貯蓄に回す要因の一つには 社会保障制度への不安心理が影響しているとみられる 家計の金融行動に関する世論調査(16 年 ) によれば 老後が心配である と回答した世帯は8 割超と高水準が続いている また 金融資産の保有目的を 老後の生活資金 と回答した世帯は7.5% と 1 年 (63.6%) から高まっている これらは 社会保障制度への不安が広がっていることを示す結果といえよう 年代別でみると 老後が心配である と回答した世帯のうち 非常に心配である と回答した世帯の割合は4 代が最も高くなっている ( 図表 6) なお 遡ってみると とくに11 年は前年から+5.% Ptとなっており 4 代はこの頃 急速に老後に対する不安を高めたようだ また 金融資産の保有目的を 老後の生活資金 と回答した世帯について1 年と比較すると すべての年代で割合が高まっているが とくに4 代の上昇が目立った ( 図表 7) とりわけ1 年は 前年から+5.3%Pt(1~16 年 +4.7%Pt) と大きく上昇している 4 代の不安がとくに高まっている理由の一つには 賃金の伸びが 過去の同世代と比べて相対的に低下していることが挙げられる 6 年と16 年の賃金カーブを比較してみると 4 代前半を中心に賃金の減少が目立つ ( 図表 8) 一般的に 賃金上昇率は3 代後半までが高く 4 代以降は鈍化していくが 現在の4 代は 賃金上昇時期である3 代がリーマンショックを端とした景気後退期と重なったため 賃金の上昇を十分に享受できなかった可能性がある このため 4 代を中心とした世代は 他の世代と比べて割り負け感が強いとみられる その上 11 年の震災は 住宅ローン返済負担の大きい4 代に 天災による資産の毀損リスクを強く認識させた可能性がある 社会保障制度に不安がある中で 賃金も思うように伸びず さらに天災による資産毀損リスクを強く認識したとすれば 老後の生活資金のために金融資産を保有しようとする世帯が増えても不思議ではない こうした中 実際に老後の生活資金を貯めるため 共働きをする世帯が増加したのだとすれば 1 年以降 4 代の配偶者収入が増加しているにも拘わらず消費が増えないことも納得できる 日本の雇用環境をみると 成果主義の導入や年功序列制度の廃止等を背景に 従来型の賃金カーブは崩れる方向に向かいつつある こうした中 将来不安を払拭して収入の増加を消費に結びつけるためには 社会保障制度の信頼感を高め より強固なものとしていくことが重要だ そしてより根本的には 財政健全化に伴う負担を払拭するだけの成長力向上を実現する必要があろう 成長力の向上を伴ってこそ 初めて社会保障制度の持続性も担保される その点において やはり第 3の矢である成長戦略を着実に推進することが何よりも求められているといえよう 4

図表 6 老後が非常に心配である 55 45 4 35 と回答した割合 図表 7 金融資産の保有目的が 老後の生活資金 14 1 1 8 6 4 1~16 年にかけての上昇率 3 代 3 代 4 代 代 6 代 7 以上 代 3 代 4 代 代 6 代 7 以上 ( 資料 ) 金融広報中央委員会 家計の金融行動に関する世論調査 より みずほ総合研究所作成 ( 資料 ) 金融広報中央委員会 家計の金融行動に関する世論調査 より みずほ総合研究所作成 ( 千円 ) 4 図表 8 賃金カーブの変化 6 年 4 3 3 11 年 16 年 15 1 5 1 1 6 年から11 年にかけての変化率 ( 右軸 ) 11 年から16 年にかけての変化率 ( 右軸 ) -4 歳 5-9 歳 3-34 歳 35-39 歳 4-44 歳 45-49 歳 -54 歳 55-59 歳 6-64 歳 5 1 15 ( 注 )1. みずほ総合研究所による実質値. 正社員 正職員の男性の所定内給与額が対象 ( 資料 ) 厚生労働省 賃金構造基本統計調査 より みずほ総合研究所作成 ( 参考文献 ) 松浦大将 (16) なぜ賃上げは本格化に至らないのか ( みずほ総合研究所 みずほリサーチ 16 年 4 月号 ) 1 具体的な推計式は 下記の通りである logconst=c+β1 loghhit+β logpit+β3 logsit+β4 logtaxt (Cons: 世帯の消費支出 HHI: 世帯主収入 PI: 配偶者収入 SI: 社会保険料 TAX: 直接税 ) 配偶者収入の弾力性について 結果の当てはまりのよさを確認するため t 値 p 値をみると ~7 年は t 値が.3 p 値が.5 となった一方 1~16 年については t 値が.9 p 値が.37 となった 1~16 年は ~7 年と比べて有意性が低下していることが分かる つまり 7 年までは 配偶者収入の増加は消費の押し上げに影響力を持っていたが 1 年以降は 配偶者収入の増加が消費に与える影響が薄れている可能性が高いということが分かる 3 二人以上の勤労者世帯の配偶者収入は増加している一方 共働き世帯に限った配偶者収入は漸減傾向を辿っている このことから 二人以上の勤労者世帯の配偶者収入の増加は 配偶者一人当たりの収入の増加ではなく 働く配偶者の増加によってもたらされていると推測される 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります 5